”人はいつしか老いる”ー
それを受け入れられなかった彼は、
大事な人を”皮”にして、
今の姿を永遠に、そのまま保管しておこうと画策するー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー昔は可愛かったのになぁ~…」
男子大学生の五十嶋 亮太(いさじま りょうた)は、
そんな言葉を口にしながら、テレビを見つめていたー。
その視線の先にはー、
人気女優・柏崎 美穂(かしわざき みほ)の姿ー。
が、亮太はそんな美穂の姿を見つめながら
「ー最近、ちょっとおばさんっぽくなってきちゃったよなー」と、
残念そうにそう言葉を口にしたー。
しかし、そんな言葉を聞いていた亮太の彼女、
堀川 紅葉(ほりかわ もみじ)は苦笑いしながら
「え~十分綺麗だと思うけど~?」と、そう言葉を口にすると同時に、
「っていうか、人間はいつか必ず老いるんだし、
そんなこと言っちゃダメでしょ?亮太だっていつかはおじいさんになるんだし」と、
そう言葉を付け加えるー。
その言葉を聞いた亮太は
少しだけ残念そうに笑うと、彼女である紅葉のほうを見つめる。
「な、なにー?どうかしたー?」
急に顔をじっと見つめられて、少し戸惑ったような表情を
浮かべる紅葉ー。
そんな紅葉に対して、亮太は尋ねるー。
「ーーー紅葉も、いつかはおばさんにー?」
とー。
「ーーそ、それはまぁー…
まだ先の話だけど、わたしだって不老不死じゃないしー」
困惑したような笑顔を浮かべる紅葉ー。
「そっかぁ…」
心底残念そうな表情を浮かべる亮太ー
「ちょ、ちょっと!そんな顔しないでよー?
それに、まだわたしたち大学生だし、
そんなこと考えるのは先の話でしょ!?」
亮太が心底残念そうにしているのを見て
紅葉は少し戸惑いながらそう言葉を返すと、
亮太は紅葉に背を向けてから呟くー。
「容姿のピークはちょうど今ぐらいだよ。
これから落ちるばかりさ」
とー。
「~~~~~~」
紅葉は困惑した表情を浮かべるー。
亮太は普段は優しいー
”モノ”をとても大事にするし、
”いつまでも今の姿のままで使ってあげたいんだー”と、
自分の私物のこともとても大事にしているー。
がーー
時折、”不安”になるような言動をすることもあるー。
今の言動もそうだー。
亮太は部屋の隅にある”昆虫標本”を見つめると、
「俺、”そのまま”の姿でいて欲しいんだよねー」と、
そう言葉を口にするー。
「この標本もさ、俺が小さい頃に飼っていた子たちなんだけどー、
そのままずっと飼ってたらいつかは弱って、
いつかは死んじゃうだろ?
そのまま死んだら、身体は腐っていくだけー。
だから、親に頼んで標本にしてもらったんだー
いつまでも輝いてる姿を見るためにー」
亮太はそれだけ言葉を口にすると、
昆虫標本の入った容器を嬉しそうに手にしてみせるー。
標本が亮太の部屋にあるのは知っていたー。
ただ、そんな理由だったとは知らなかったー。
「ーー亮太ー」
紅葉は少しだけ困惑しながら言うと、
亮太は少しだけ笑うー。
「ー俺、紅葉にも今のままでいて欲しいなぁー
紅葉がおばあさんになるとか、考えられないし、
想像したくない」
そんな言葉を口にする亮太のことを
少しだけ怖いと思いつつも、
紅葉は言うー。
「ーじ、じゃあー、わたしがおばあちゃんになったらー
亮太は、わたしのこと嫌いになるってことー?」
とー。
そんな言葉に、亮太は少しだけ考えるような仕草をしてみせると、
「今のままでいて欲しいけどー、そうなったら、そうなった時に
なってみないと分からないなぁ」と、そんな言葉を
口にするのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
がーー
そんな彼が、”出会って”しまったー。
彼が出会うべきではなかった”モノ”とー。
それがーー
”人を皮にする注射器”だったー。
”人間の老化を止める方法”ー
紅葉との会話をきっかけにそんなことを調べ始めた亮太ー。
その中で、亮太が見つけてしまったのが、
人を皮にする注射器だー。
この注射器を使って相手を”皮”にすることによって、
それを着て、その身体を乗っ取ることができるほか、
皮になった時点で、”昆虫標本”のように、
肉体の老化が止まり、今の姿を永遠に保つことができるー、
ということを知ったー。
思わず笑みを浮かべる亮太ー
「これがあればー…みんな、”美しいまま”保存しておけるんだー」
亮太はそんな狂気に囚われてしまうー。
狂気と正気は紙一重ー。
しかし、通常は”それを実現する力”はなく、
さらには”法律”の縛りによって
狂気は自制されるー。
狂気を抱えている人間も、多くはその狂気を内側に秘めたまま
生涯を終える。
がー、”それを実現できる力”を手に入れてしまったらー、
人は狂う。
全員ではない。
けれど、確実に”狂気を実現する力を手に入れてしまったとき”
狂う人間はこの世にいくらでもいるー。
亮太も、その一人ー。
亮太が”人を皮にする力”と、出会っていないままであれば
恐らく、亮太は”人間が老いていくのに耐えられない”とは言いつつも、
自分が年を取るにつれてそれを受け入れて、
そのまま普通の人生を送ったのだろうー。
けれど、亮太は出会ってしまったー。
”人を皮にする力”
とー。
その力と出会ってしまった故に、
亮太は道を踏み外してしまったー。
「ーー亮太ー話って何?」
彼女の紅葉が、亮太に呼び出されてやって来るー。
「ーあ、紅葉!」
亮太は嬉しそうに振り返ると、
「ー聞いてくれよ!紅葉のその”美貌”、ずっと保つ方法を見つけたんだー」
と、そう言葉を口にするー
「えっ…?」
紅葉は戸惑うー。
「ま、またそういう話ー…?」
正直、紅葉はそういう話はしたくなかったー。
この前も嫌だったし、
最近では、亮太のそういう感じが続くのであれば
別れることも頭の中で考えようかと、
そんな風に思い始めていたぐらいだー。
「ーーいやいや、凄いんだよー
紅葉だけじゃなくてさー、他のみんなも!
綺麗な人はずっと綺麗なままでいられるー。
紅葉の次は、真桜(まお)にも教えてあげようと思って」
亮太がそう言葉を口にしながら目を輝かせるー。
”真桜”とは亮太の妹のことだー。
「ーー亮太ー…わたしは別に、
永遠に今の姿のままでいたいなんて思わないしー
普通に年を取って、普通に人生を送ることができればー
それでいいと思うのー」
紅葉がそんな言葉を口にするー。
しかし、亮太にはそれは受け入れられなかったー。
「ー紅葉は、おばあさんにーいや、ババアになりたいのか!?」
と、そう叫ぶ亮太ー。
紅葉はたまらず「ど、どうしてそんなこと言うの!?」と、
反論すると、亮太は”注射器”を取り出したー。
「ちょっと、何それ!?」
亮太が無言で取り出した注射器の方に視線を向けながら、
心底困惑したような表情を浮かべる紅葉ー。
亮太は少しだけ笑うと、
「これがあればー」と、そう言葉を口にしてから
紅葉のほうを見つめるー。
その”目”は
力を手に入れたせいだろうかー。
今までの亮太以上に狂気に染まった目をしていたー。
「ーーこれがあれば、紅葉は永遠に今のままの
美しい姿でいられるんだー」
亮太はそう言葉を口にすると、「何なのそれ!?来ないで!」と、
そう声を上げる紅葉に向かって”人を皮にする注射器”を打ち込んだー。
「ーーーぁ…」
紅葉は自分の身体から急速に力が抜けていくのを感じて、
心の中で危機感を覚えるー。
しかし、立っていることができなくなり、
その場に膝をつくと、ガクガクと身体を震わせながら
亮太のほうを見たー。
「ー俺は今の紅葉が好きだー
失いたくない」
亮太は、笑顔でそう言い放つー
紅葉は声を振り絞るようにして
「亮太ー」と、言葉を発するも、
それ以上はどうすることもできずに、
そのまま意識を失い”皮”になってしまったー。
皮になった紅葉を手に、満足そうな笑みを浮かべる亮太ー。
「ーすごいーこれで、紅葉はおばあちゃんにならなくて済むんだー。
醜い存在にならなくて済むんだー…!
へへーへへへへへ」
亮太はそう言葉を口にすると、そのまま紅葉の皮を事前に
持ってきていた鞄の中に詰め込んで立ち去っていくー。
やがて、帰宅すると亮太は
嬉しそうに”紅葉”の皮を身に着けるー。
すると、皮を身に着け終わった直後から
身体の感覚が変わりー、
”亮太の身体”の感覚から、”紅葉の身体”の感覚へと変わっていくー。
今までに体験したことがないような不思議なその感覚に
一瞬戸惑いながらも、紅葉の皮を着て、
紅葉の身体を乗っ取った亮太は思わず笑みを浮かべるー
「すごいー…これから先ーー…」
そこまで言葉を口にしかけて、
”自分の声”ではなく、”紅葉の声”で
言葉が発されている状態に気付いて、
思わず亮太はドキッとするー。
紅葉の皮を着たことで、
紅葉の身体になっている以上、当然と言えば当然では
あったものの、改めて
自分が、”自分の声”ではなく、”紅葉の声”で
喋ることができるなんて、と、言葉を途中で
止めるほどのドキドキを味わうー。
「ーへ…へへー
紅葉ーこれで、紅葉はこの先もずっと、ずっとー
綺麗なままでいられるんだー」
紅葉の姿を鏡で見つめながら
ニヤニヤと笑みを浮かべるー。
鏡に映る紅葉が”亮太の意思”で表情を
変えてニヤニヤしていることにドキドキしながらも
少しだけ”好きな人の身体を奪ってしまった”ということに
罪悪感もわずかに覚えるー。
しかし、すぐに首を横に振ると、
「これは、紅葉のためでもあるんだ」と、そう言葉を口にするー。
「こんなに綺麗なのに、このままにしておいたら
紅葉は年老いて、だんだんと衰えていくんだー
大切な人がそんな風になっていくのは、俺には耐えられないー。」
紅葉の身体でそう言葉を口にする亮太ー。
そうー、
”大切”だからこそ、そのままで保管しておきたいー。
だからこそ、小さい頃、亮太は大切な昆虫たちを
”標本”にしたのだー。
大好きだからこそ、ずっとそのままの姿でいて欲しいと、
そう願ったからー。
「ーー嬉しい♡」
紅葉の身体で、勝手に「わたしを標本にしてくれてありがとうー
これでわたし、醜い老婆にならなくて済むー ふふ」と、
紅葉のような雰囲気で言葉を口にさせると、
「ー紅葉はずっとずっと、綺麗なままだよー」と、
今度は亮太自身の言葉を、紅葉の口で発して
笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーそういえば、堀川さん、最近はどうしちゃったんだろうー?」
紅葉の親友の麻紀(まき)が不安そうにそう言葉を口にするー。
亮太によって”皮”にされてしまった紅葉は
大学に来ることは出来ないー。
そのため、紅葉の周囲の人間たちは
”どうしちゃったのかな?”と心配し始めていたー
「ーーははー、紅葉は体調が悪いって言ってたよー」
亮太はそう誤魔化すも、ずっと”体調が悪い”で
誤魔化すことはできないー。
後先考えずに紅葉を皮にしてしまったものの
そういえば、こういう問題も起きるのかと、
困惑した表情を浮かべるー。
「ーーー…」
どうするべきかー、そんな風に思っているうちに
周囲は”何かあったのかなー?”と、そんな心配まで
し始めてしまったー。
さすがに”まずい”と思った亮太は対策を考え始めるー。
そしてーーー
「ーそうだー俺が紅葉として大学に行けばいいんだー」
亮太は、そんな考えにたどり着いたー。
その翌日ー
亮太は”紅葉の皮”を着て、紅葉として大学に足を運んだー。
それまで、紅葉の皮を着るのは”家の中”だけだったものの
初めて紅葉として外に外出したー。
紅葉として外を歩くことにドキドキしながらも、
そのまま大学にやってくると、
心配していた紅葉の親友・麻紀に対しても
「ちょっと高熱が続いて…心配かけちゃってごめんね」と、
そう言葉を口にしたー。
紅葉が姿を現した今度で安堵の表情を浮かべる周囲ー。
がー、”紅葉”として大学に来れば”亮太”として大学に来ることはできないー。
”ー何か、考えないとなー”
亮太は、心の中でそう呟くと、
”これも、紅葉を永遠に今の姿でいさせてあげるための試練なんだー”と、
どこか自分に都合の良い考えを頭の中で巡らせるのだったー。
②へ続く
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人を皮にすることで、
その相手を”今のまま”の姿でいさせようとする男の物語デス~!!
なんだか大変なことになりそうですネ~…!
続きはまた明日デス!!

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