☆こちらは「試し読み」コーナーデス
本コーナー以外の憑依空間内の作品は、憑依空間内で”必ず”完結します
<試し読み>と明記していない作品で、(試し読みコーナー以外では絶対にやりません)
「続きはFANBOXで」は絶対にやらないのでご安心ください!
「試し読み」は↓を全てご納得の上でお読みください☆!
(料金が掛かったりすることはないので、安心してください~!)
※こちらの小説はFANBOXご案内用の「試し読み」です。
(試し読みが欲しいというご要望にお応えして、試し読みをご用意しました)
pixivFANBOXで連載している入れ替わり長編「幻想の日常」の
第5話までを公開していきます!
※「試し読み」では、最後まで完結しません。ご注意下さい
(完結済み全23話)
・試し読みコーナーでも、事前に<試し読み>と明記、どこまで読めるかを
明記した上で掲載しています。途中までであることをご納得の上でお読みください!
※1話あたりの長さは通常のと私の作品と同じで、
FANBOXでは1話ごとに公開していますが、
試し読み版では①~⑤を全部まとめてあります。
第1話「平穏」
人間は、生まれてくる身体を選ぶことは、できないー
家、服、食べるもの、仕事…
それらは、選ぶこともできるし、
いざとなったら”別のものにする”こともできるー。
でも、身体を選ぶことはできない。
生まれたら、生まれたその身体とは一生の付き合いだ。
どんなに自分の身体がイヤだったとしてもー
逆に、好きだったとしても、
”他人の身体”を経験することはできない。
でもー
まさか、
自分がそんな経験をすることになるとは思わなかったー
”他人の身体”で生きていくことになるー
そんな、幻想の日常を過ごすことになるとは思わなかったー。
そして、その先に、地獄が待っているとはー
・・・・・・・・・・・・
★主な登場人物★
橋口 真司
大学生。彼女と入れ替わってしまう。
川上 愛梨
真司の彼女。真司と入れ替わってしまう。
馬淵 香澄
中条 東吾
天童 麗
風間 龍平
大学の同級生たち。
・・・・・・・・・・・・・
「--来週の土曜日だけど、待ち合わせ場所はどうする?」
大学の敷地内を歩きながら
男子大学生の橋口 真司(はしぐち しんじ)が呟くー。
「駅の北口とかでいいんじゃないかな~」
清楚な雰囲気の女子大生・川上 愛梨(かわかみ あいり)が、
笑いながら返事をするー
二人は、1年前に付き合い始めた仲良しカップルだー
真司は、なんでも無難にこなすことができるタイプの男子で
イケメン風な容姿の持ち主。
愛梨のことをとても大事にしており、優しい性格をしているものの
何故だか、家族仲は悪いらしく、今は一人暮らしをしていて
連絡もあまりとっていないー。
愛梨は、大人しい優しいタイプの女子大生で、
とある行事で真司と親しくなり、次第に一緒に過ごす時間が
多くなり、去年の秋ごろから、付き合いを始めたー
愛梨は実家暮らしで、弟とも、とても仲良しだ。
「あ、愛梨~!」
二人が歩いていると、遠くから
スタイルの良い女子大生が近づいてきたー
馬淵 香澄(まぶち かすみ)-
愛梨の幼馴染であり、愛梨の親友でもある女子大生だー。
「ま~たイチャイチャしてたの?」
香澄がからかうようにして言う。
「ち、、違うよ!」
照れ臭そうに反論する愛梨ー。
そんな二人の様子を微笑ましそうに見つめると、
真司は、香澄に気を遣わせないように、と、
「じゃあ俺は先に行ってるよ」と愛梨に声を
かけて、そのまま立ち去ったー。
「いいな~!橋口くんみたいなイケメンで優しい彼氏!」
笑いながら言う香澄。
「--し、真司はあげないからね!?」
愛梨が顔を赤らめながら言うと、
「大丈夫大丈夫~!人の彼氏を取ったりしないよ~!」と
香澄が答えたー。
「-------」
真司は、一人大学内を歩きながら思うー
ごく普通のいつも通りの日常ー。
彼女もいて、友達もいて、
バイトも順調でー
何の不自由もない人生ー。
勉強もー
スポーツも、
そつなく無難にこなし、
壁にぶつかることなく、
ここまでの人生を過ごしてきたー
満たされているー
でも、満たされていないー
なんとなくー
日々が、退屈だー。
そんな風に思いながら、真司は毎日を過ごしていたー。
そんな”日常”は、この日が最後になるとも、知らずにー。
「---おやおや…校則違反だな。
どうする?」
「--?」
真司が立ち止るー
大学の裏側の人があまり来ない場所から
声が聞こえてきたー。
真司が、声の下方向を見ると、
今年入学したばかりの男子大学生に絡む
風間 龍平(かざま りゅうへい)の姿があったー
「風間か…」
真司はため息をついたー。
龍平はー
インテリ系の大学生で、成績優秀ー
しかし、頭の悪い人間や、素行不良の人間を
徹底的に見下していてー
そういった人間たちから、”ゆすり”のようなことをしている。
「--煙草…
大学内では喫煙は禁止されている」
龍平が、眼鏡をいじりながら、
震える後輩を見つめるー。
「まぁ、僕も鬼ではない。
どうする?」
龍平が、手を出しながら
喫煙していた後輩に何かを催促しているー
”金”を催促しているのだー。
ヒトの弱みに付け込み、金を巻き上げるー
それが、龍平のやり方だー。
「--おい、やめとけ」
真司が龍平の行為を見かねて、声をかけるー。
すると、龍平は、取り上げた煙草を持ちながら
真司の方を見た。
「--あぁ、君か…」
龍平は面倒臭そうに言うー。
「-また、カツアゲしているのか?」
真司があきれながら言うと、龍平は笑う。
「カツアゲ?冗談はよしてくれ。
大学内で煙草を吸うようなクズに
僕は”正義”を行使しているのさ。」
震えながら喫煙していた後輩が
「す、すみませんでした…」と頭を下げているー。
「--確かに、この子は未成年だろうし、
校則違反だけどさ、
お前が金をとるのはおかしいだろ?」
真司が龍平の方を見つめながら言うと、
龍平は、笑みを浮かべたー
「ーー僕の方が、このクズより、
有意義に金を使えるー。
このクズは、どうせこんな金持ってても
煙草を買ったりすることぐらいしかできないさ。
でも、僕は違う。
この福沢諭吉一人を、10人の福沢諭吉に
変えることができる」
龍平が1万円札をひらひらさせながら笑うー
「これからの時代は、自分で稼ぐ時代さー」
龍平は、ネットを駆使して、色々な方法で
稼いでいるという噂だー。
語り終えて、バカにしたように笑うと、
喫煙していた後輩の方を見て呟いたー
「--金、出すか。
大学から、消えるか。
どっちがいい?」
龍平が、後輩を脅すー。
見かねて真司が龍平の腕をつかむー
「何をする!?」
龍平が、真司の方を見るー
「--やめとけって言ってるんだ」
真司が、威圧するような口調で龍平を睨むと、
龍平は、冷や汗をかきだすー。
真司は、スポーツ万能で、
身体能力も高いー。
”強いものには弱く”
”弱いものには強く”な、龍平は、すぐにびびってしまうー。
「--く、、、…わ、、わかった…わかったよ」
龍平は、悔しそうにそう呟くと、
後輩から取り上げた煙草の吸い柄を捨てて、
不満そうに立ち去っていくー。
「---大丈夫か?」
真司が、たばこの吸い殻を拾いながら後輩の男子に声をかけると、
「あ…はい…ありがとうございます」
と、後輩は頭を下げたー。
「--ま、風間みたいなやつは、アレだけど、
煙草は、やめておけよ」
真司はそれだけ言って、吸い殻を返すと、
そのまま立ち去っていくー
別に、人助けがしたいわけじゃないー。
”俺は
あいつらとは違う”
ただ、それだけだー。
・・・・・・・・・・
「---あ、今日は、用事があるから!ごめんね!」
真司の彼女・愛梨が、
親友の香澄に向かって、そう呟きながら
足早に大学から立ち去っていくー
愛梨にはーーー
”誰にも言えない秘密”があったー
それはーー
「おかえりなさいませ~!ご主人さま~!」
メイド服を着ながら、
おじさんを迎える愛梨ー。
大学では絶対に出さないような
媚を売るような声で、利用客の心を
わしづかみにしているー
愛梨はーー
メイドカフェでバイトをしていたー。
休憩中ー
彼氏の真司から届いたLINEを見ながら
”まさか、わたしがメイドになってるなんて
思わないだろうなぁ~”と呟くー
別にメイドになりたかったわけじゃないー
男に飢えてるわけでもないー
ただー
愛梨はーーー
「-ーー愛梨ちゃん、今日もお疲れ」
国枝店長が、愛梨の横にやってきて、ほほ笑むー。
「あ、、はい、、」
愛梨が返事をすると、
国枝店長が、笑いながら愛梨の後ろに立ったー。
「いやぁ、疲れてるだろう?
俺がマッサージしてあげるよー」
肩を揉みだす店長ー。
やがてー
店長の手が、愛梨の背後から
愛梨の胸をもみ出すー
愛梨は、目をつぶって歯を食いしばりながら”耐えたー”
「そんな顔するなって。
ほら、また、いつものように喘いでごらん?」
国枝店長が歪んだ笑みを浮かべながら言うー。
こんなところで、バイトしたくないー
でもーーー
これはーー
”みんなのため”
だからーーー
・・・・・・・・・・・・・
メイドカフェのバイトを終えて帰宅した愛梨ー
「姉さん!おかえり!」
弟の裕太(ゆうた)が愛梨を出迎える。
「ただいま!」
いつも通り、優しい笑みを浮かべる愛梨ー。
今日は給料日ー
愛梨は、バイトの給料を、母親の圭子(けいこ)に
手渡すー。
「いつも、ごめんね」
圭子が申し訳なさそうにほほ笑む。
「ううん。わたしもできるだけ、力になりたいから」
愛梨が笑うー。
愛梨の家庭は幸せだったー
けれどーーー
「----」
仏壇を見つめながら、愛梨は寂しそうに微笑んでから、
自分の部屋へと戻ったー。
自分の部屋に入った愛梨は、
ぶるぶると震えだすー。
”愛梨ちゃんの耳の味…おいしいよねぇ”
店長のことを思い出すー。
怖いー
気持ち悪いー
いやだーーー
でも…
でも…
”わたしは、逃げることはできないー”
「---……」
家族にもー
家族の真司にもー
相談することができずー
愛梨は、お金を稼ぐため、
メイドカフェでのバイトを続けているー
苦痛に、耐えながらーーー
・・・・・・・・・・
翌日ー
浅沼(あさぬま)教授の講義を終えてー
真司は、食堂で昼食を食べていたー
親友の中条 東吾(なかじょう とうご)と、
友人の天童 麗(てんどう うらら)も一緒だ。
「--最近さぁ、愛梨、元気ない気がするんだけど、
喧嘩でもしたのか?」
愛梨・真司と共通の友人である東吾が言う。
「元気がない?
いや、別に喧嘩とかはしてないけど…」
真司が言うと、東吾は「ま、それならいいけどな」と呟くー。
東吾はクールな性格で、
ちょっと無口な部分もあるが、
いざというときに頼れる、仲間想いの男子大学生だ。
真司と愛梨、共通の友人でもあって、
二人とも、東吾のことを信頼しているー。
確かに、少し元気がない気はするー。
そんな風に真司が思っていると、
麗が口を開くー
「--何か悩みでもあるんじゃないの?」
とー。
「そうかなぁ…?」
真司はそう言いながらも、
だんだんと愛梨のことが心配になってきたー
「--わたしが代わりに聞いてあげよっか?」
麗がほほ笑むー。
「いや、いい。
天童さんに貸しを作ると後が大変だからな」
真司は笑いながら、そう呟いたー。
麗は一見親切だが、ちょっと腹黒な一面があるー
貸しをつくると、後で何を言われるか分からないー
「--ふふ、そ。」
麗は、そう呟くとにこにこしながら、昼食のパフェを口にしたー
・・・・・・・・・・・・・
夕方ー
大学の階段を下りていると、
愛梨の姿が目に入った真司は、
愛梨に声をかけたー
「あ、愛梨!」
「真司!今日もお疲れ~!」
笑う愛梨ー。
「---愛梨も、もう帰りか?」
真司が言うと、
愛梨は少し表情を曇らせて「うん…」と答えるー。
そんな反応を見て
”最近元気がない”と心配になった真司は口を開くー。
「なぁ、愛梨…
何か悩みでもあるのか?」
真司の言葉に、
愛梨は「え??な、ないよ!元気だよ~!」と
手を振りながら笑うー。
「---ほんとに?」
真司が、もう一度尋ねるー
「げ、元気だってば~!
悩みなんてな~んにもないよ!」
愛梨がわざとらしく笑うー
「--…何か悩んでるならーー俺が」
「--元気だってば!」
愛梨が叫んだー
「---…愛梨…?」
普段、声を荒げることのない愛梨の反応に、
真司は驚くー。
愛梨はすぐに「ご、ごめん…わたし、行くから」と
足早に立ち去ろうとするー。
「--お、、おい!愛梨!」
真司が叫ぶー
愛梨の様子が変だー
そう思いながら、愛梨を追いかけて
愛梨の手を掴んだ
その時だったー
「--お?」
「---え???」
愛梨がバランスを崩すー
それに真司が引っ張られるーーー
ふたりはーーー
そのまま階段から転落してしまったー
そして、それが、
”幻想の日常”の始まりー、
真司が愛梨にー
愛梨が真司に入れ替わって過ごすことになる、
不思議な日々の始まりだったー。
②へ続く
第2話「チェンジ」
入れ替わりー。
そんなことが起きるのは、
漫画や、アニメや、ゲームの世界だけだと思ってたー。
それなのに、
まさか、自分がそうなってしまうなんてー。
そしてー
他人の身体と入れ替わる、ということが
何を招くのかー
この時は、まだ理解できていなかったー。
・・・・・・・・・・
★主な登場人物★
橋口 真司
大学生。彼女と入れ替わってしまう。
川上 愛梨
真司の彼女。真司と入れ替わってしまう。
馬淵 香澄
中条 東吾
天童 麗
風間 龍平
大学の同級生たち。
・・・・・・・・・・・・・
大学構内の一角で、
どよめきが起きていたー。
真司と、愛梨が階段から転落してしまったのだー。
「---お~い!生きてるか~?」
「大丈夫??」
周囲の学生たちが二人に声をかけるー。
「う……」
真司が頭を押さえながら起き上がるー
「いててててて…」
愛梨も呟きながら起き上がるー。
「---……え」
「----ん?」
真司と愛梨がお互いの顔を見合わせるー。
二人は、ぽかんと口を開けているー。
まだ、意識がはっきりしていないのだろうかー。
「ええええええええええ!?!?!?」
真司が叫ぶー。
「---え…??え…?」
愛梨の方が自分の手を見つめたり、
不思議そうに髪を触ったりしているー
「--だ、、大丈夫…?」
集まった学生の中にいた、二人の共通の友人でもある麗が
心配そうに声をかけるー
「--あ、、て、、天童さん!わ、、わたし」
真司が何かを口にしようとしたその時だったー
「むぐぅぅ!?!?」
愛梨が、真司の口をとっさに塞いだー
そしてー
「--だ、大丈夫大丈夫!心配かけて、悪い、、じゃない
ごめんね!おほほほほほ!」
愛梨が、真司の口をふさぎながら笑う。
「--ほ、本当に?
一応、保健室に行ったら?」
麗が心配そうに言うと、
「だ、、だぁいじょうぶだぁいじょうぶ!
わ、、わたし、元気だもん!げんきげんき~!」
と、愛梨がにこにこしながら言う。
なんだか、口調がぎこちないー
麗がさらに口を開こうとすると、
愛梨が周囲を見渡しながら
「み、皆さんお騒がせしました~!
し、失礼しまぁ~す!」
と、笑いながら、真司を引きずるようにして
その場から立ち去るのだったー
「-----?」
麗が、愛梨の変な様子に、戸惑うような表情を浮かべるー
「---どうしたのかね?」
そこに、浅沼教授が通りかかるー。
「--あ、なんか、階段から男女が転落しちゃって」
他の学生が、浅沼教授に伝えるー。
「転落ーーー」
浅沼教授は、そう呟くと、愛梨たちが立ち去った方向を見つめたー。
・・・・・・・・・・・・・
「ちょ、、ちょ、、ちょっと!!!」
真司が叫ぶ。
「--何するのよ!!!」
真司が大声で叫んだー
周囲の通行人たちが真司たちの方を見る。
「お、、おい!やめろ!
お、、俺をオネエにしないでくれ!」
愛梨が呟くー
周囲が今度は愛梨の方を見るー
「--っっ…と、とにかく、、お、、俺の家で話そう」
愛梨は男言葉でそう言うと、
慌てて真司と共に、家に向かうのだったー
真司のアパートにやってきた二人ー。
「ど、、どういうことなの…」
真司がか弱い表情を浮かべるー
「わ、、わかんねぇよ」
愛梨が可愛い声で首を振りながら
壁際に寄りかかって腕を組むー。
「--ちょ!そんなポーズしないで!
恥ずかしいよ~!」
真司が呟くー
「--…」
そう言われた愛梨は、壁から背中を話して、
とりあえず近くのソファーに座る。
「--これってさ…」
真司が呟く。
「--わたしたち、入れ替わっちゃったってこと…?」
真司の言葉に、
愛梨は頷いたー
「--信じられないけど…そうみたいだな」
とー。
二人はーー
階段から転落した際に
”入れ替わって”しまったー
愛梨は、真司の身体にー
真司は、愛梨の身体にー
「---なんで…?」
真司(愛梨)が戸惑いながら言う。
「分かんねぇよ…
前にそういう映画みたことあるけど、
まさか実際にこんなことになるなんて…」
愛梨(真司)はそう言いながら、
ソファーで足を組むーー
「ちょ!見えてる!ダメ!」
真司(愛梨)が言うと、
愛梨(真司)が顔を少し赤らめて
「えぇ!?!?っ、色々不便だなぁ」と足を組むのを止めるー。
「---え、、え~っと…ど、どうすればいいの?」
真司(愛梨)は戸惑いっぱなし…。
愛梨になってしまった真司も、冷静を装ってはいるが、
焦っているー
現実で入れ替わりが起きるなんてー、
夢にも思わなかった。
「--って、、そういえばさっき!なんで口塞いだの!?」
真司(愛梨)が思い出したかのように言うー。
「--はぁ、だってさ、考えてみろよ。
あそこで、”私たち、入れ替わっちゃった”なんて
言ったらどうなると思う?
絶対、俺たち、おかしな奴認定だぜ?」
愛梨(真司)が自虐的に笑いながら言う。
真司(愛梨)は、”なんか、男言葉喋るわたしってかっこいい”などと
変なことを考えながら、呟くー
「た、、たしかに…急に入れ替わったなんて言っても…
みんな、信じてくれないよね」
「--ああ」
愛梨(真司)は頷く。
あそこで騒いだら、
大変なことになるー。
そう思ったからこそ、愛梨になった真司は、
真司になった愛梨の口を塞いで、
ここまで連れてきたのだ。
「--…わたしたち、元に戻れるのかな?」
真司(愛梨)が不安そうに言う。
「---…試してみるか」
愛梨(真司)が立ち上がった。
「え?」
愛梨(真司)が笑うー
「--何個か、人が入れ替わっちゃう映画とかアニメとか
見たことあるからさ、とりあえず、それで見た方法
試してみようぜ」
愛梨(真司)の言葉に、
真司(愛梨)は「う、、うん…」と、頷いたー。
・・・・・・・・・・・
「-よし!まずはとりあえずぶつかってみよう!
愛梨はそっち側から、
俺はこっち側から走って、部屋の真ん中でぶつかろう!」
「--い、、痛そうだなぁ…」
真司(愛梨)が苦笑いするー
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ~?」
愛梨(真司)の言葉に、
真司(愛梨)がしぶしぶ頷くー
そしてー
二人とも部屋の隅から相手に向かって走り始めるー
「って、あれー」
愛梨(真司)が唖然とするー
真司の方が走るのが早かったためー
”真司が手加減をし”
”愛梨が全力で走る”ことで、同じぐらいの速さに
なると計算していたのだがー
「---って、、愛梨の身体、、、あんまり走れ…」
「--ふぇぇぇ~!?は、、足、、はやいぃぃぃぃ!?」
自分の身体と違う走りっぷりに戸惑いながらー
二人は想像以上の速度で、正面衝突したー
「いってぇえええええええ!」
愛梨(真司)が頭を押さえるー
「いたたたたたた…」
真司(愛梨)も頭を押さえるー
二人が相手を見るー
「戻ってねぇ!」
「戻ってない!」
・・・・・・・・・・・・・・・
「---キスをして入れ替わり…って
漫画が前にあったんだ」
気を取り直した愛梨(真司)が言う。
腕を組みながらいつもより低い声で話す”自分”を見て
真司になっている愛梨は
”や、、やっぱわたし、なんかかっこいい”と呟くー
目をキラキラ輝かせる真司(愛梨)
「ちょ、、ちょ、聞いてるか!?」
愛梨(真司)が苦笑いしながら言う。
「うん!聞いてる!」
乙女っぽくなった真司(愛梨)が目を輝かせながら言う。
「と、、とにかく、キス…キスしよう…!」
愛梨(真司)が言うー。
密着するふたりー
キスをする体制になるー
しかしー
「ん、、、ちょ、、ちょっと待ってくれー」
愛梨(真司)が声を上げる。
「え…え?自分からキスで入れ替わりって言いだしたのに??」
真司(愛梨)が戸惑う。
「い、、いや、ほら、、なんか男とっ…ってか、
自分とキスするみたいで気持ち悪いぃな…って」
愛梨(真司)がそう呟くー
身体が愛梨ー
だから、相手は自分の身体ー
まるで、自分とキスするみたいで、
気持ち悪いー。
「--い~から!元に戻るためでしょ!」
真司(愛梨)はそう言うと、無理やり自分の身体にキスをしたー
「むぐっ!?おええええええええ!!」
叫ぶ愛梨(真司)-
しかしーー
キスをしても、元には戻らなかったー。
・・・・・・・・・・・
手をつないで、願ってみるー。
赤い糸を用意して、指に撒いてみるー
一緒にベットで少し寝てみるー。
何をしてもーー
結果は同じだったー
「おいおいおいおいおい…」
愛梨(真司)が首を振るー
「もう、、、戻れないじゃん…」
真司(愛梨)が呟くー
♪~
「-あ」
愛梨(真司)が、愛梨の鞄の方を見るー
愛梨のスマホが鳴ったのだー。
「---あ、ご、ごめんね」
真司(愛梨)がスマホを確認すると、
そこにはー
バイト先のメイドカフェ・国枝店長からの
LINEが届いていたー
”今日、21時から入れるかな?”
「---」
真司(愛梨)はギクッとするー。
もしもーー
もしも、このまま入れ替わったままだとーー
メイドカフェでバイトしてることがばれるーーー???
”今日は用事があるので、申し訳ありません”と
返事を入れる真司(愛梨)
すぐに、既読がついて返事が来る。
”ふ~ん、残念だね。
彼氏とイチャイチャかな?
調子に乗るなよビッチ女
君の胸を一番良く知ってるのは、誰か
よく考えてごらん。
君の胸は君だけのものじゃない。
俺のものでもあるんだよ。
わかるかい?
次は良い返事を期待しているよ”
「---」
真司(愛梨)は表情を歪めるー
国枝店長は思い通りにならないと
すぐにこういうことを言い出すー。
「どうした?」
愛梨(真司)が言う。
「---あ、ううん、何も」
真司(愛梨)は慌ててスマホを片付けたー
時間を見るー
20時ー。
「---………とりあえず…どうするか?」
愛梨(真司)の言葉に、真司(愛梨)は戸惑うー。
二人が一人暮らしなら、このまま二人で過ごすこともできたー
だが、愛梨はいつもちゃんと家に帰っているし、
家族が心配するー。
「--わ、、わたし、お母さんの調子が悪いから
家事とかいつもやってるんだよね…
時間的にそろそろ限界…」
真司(愛梨)の困り果てた顔…。
「---…じゃあ……帰るしかないか…」
愛梨(真司)が呟くー
「え…」
真司(愛梨)が戸惑うー。
「--だ、、だって…俺の身体で愛梨の家に
帰るわけにはいかないだろ?」
顔を赤くしながら言う愛梨(真司)
「え、、、え、、でも?
え、、、」
真司(愛梨)はパニック気味だー。
「--とりあえず、元に戻れる方法が
分かるまで、お互いとして過ごすしかない…
入れ替わったなんて言っても信じてもらえないだろうし
みんなにも心配かけちゃうからな…」
愛梨(真司)が言うと、
真司(愛梨)も、不安そうにうなずいたー
情報交換をする二人ー
お互い、反対の立場で生活するのに最低限必要なことを伝えあい、
そして、注意点を伝え合う。
スマホは、中身のほうのスマホをそれぞれ持つことにした。
色々プライバシーもあるだろうし、電話にさえ出なければ
なんとか誤魔化せるー。
「---…じゃ」
愛梨(真司)が、自分の部屋から出て行こうとするー
「あ、、あ!え、、えっと、弟の裕太、
結構我儘だけど、しかったりしないでよ!」
真司(愛梨)が言う。
「はは、分かってるよ!愛梨っぽく振舞うから」
愛梨(真司)が苦笑いするー
「あ、、あと!さっきみたいな座り方はダメ!
あと、、あと、、」
真司(愛梨)の注文を最後まで聞いた
愛梨(真司)は頷くー。
「大丈夫。わかったよ。
変なこともしないし、
愛梨の家族ともなんとかうまくやるよ。」
”あ、、でも、明日も大学あるから
お互い、お風呂は入ろうな”と
笑いながら言うと、愛梨(真司)は立ち去って行ったー
真司(愛梨)は、
一人暮らしの部屋で一人呟くー
「なんか…さみしいなぁ…」
真司(愛梨)はそう呟きながら
真司の部屋の中を物珍しそうに見つめたー
・・・・・・・・・
「----ふぅ」
深呼吸する愛梨(真司)
愛梨として振舞うのは、難しいー
そして、恥ずかしいー
でも、やらなくてはいけないー
「た、、た、、ただいまぁ~」
愛梨(真司)が元気よく作り笑いを浮かべて家に入るー
「おかえり~!姉さん、遅かったね!」
弟の裕太が笑うー。
「あ~、ちょっと色々あってさ、
大変だったんだぜ」
「----」
「----」
裕太と愛梨(真司)が見つめ合うー
「はっ!」
愛梨(真司)が、とっさに身体をくねくねさせながら言う。
「ちょ、、ちょっとぉ~色々あって~~
大変だったのよぉ~!うふふふふふ~~~」
「-----」
裕太が、苦笑いしながら愛梨(真司)の方を見つめているー
「あぁ…なるほど~」
裕太が笑いながら立ち去っていくー
「--な、、なるほど!?
おい、待て!何を想像してる!?」
愛梨(真司)が叫ぶー
「---ーー」
裕太が、唖然とした表情で愛梨(真司)の方を振り返るー
「---!!」
愛梨(真司)は震えながら
唇に手を当てて、可愛らしく呟いたー
「な、、、何を想像してるのかなぁ~~~~♡♡」
「---なんか、今日の姉さん、変なの」
裕太が笑いながら立ち去っていくー
だめだーーー
全然愛梨になれてねぇぞ…!
そう思った愛梨(真司)は、
”奥の手”に走ったー
「--と、とりあえず、部屋にダッシュ!!!」
愛梨(真司)は、そう叫んで部屋に駆け込むと、
部屋の中で頭を抱えたー。
髪もー
胸もーー
脚もーーー
俺を誘惑してくるっっっ!!!
愛梨(真司)が、深呼吸をするー
落ち着けー
落ち着けーー
入れ替わった状態で、Hなことをするなんて
彼氏としてやってはいけないことだーー
「---ふぅぅぅ」
愛梨(真司)はなんとか深呼吸をして
気持ちを落ち着かせるー
自分は、そんなエッチな人間ではないつもりだったがー
いざ、愛梨の身体になってみると
色々こうーー、考えてしまうー
だがーー
「ダメだダメだ。ちゃんと。ちゃんと我慢しないとな」
お風呂とか、生活に最低限必要なこと以外は
何もしないー
愛梨(真司)はそう決めて、もう一度深く深呼吸したー
・・・・・・・・
「ふ~~~~」
真司(愛梨)がソファーで呟くーー
「これが、、賢者タイムなんだぁ…
なんだか、ふしぎ!」
真司(愛梨)は、煩悩と戦う真司のことなど知らずー、
男としての感覚を確かめて、満足そうに笑っていたー
二人はー
まだ”深く”考えていないー
そう
”明日になれば”
元に戻れるだろうー。
そのぐらいにしか、考えていないー。
これから”亀裂”が入ることも知らずにー
③へ続く
第3話「綻び」
「わたしたち、ずっと友達だよねー!」
「うん!」
愛梨と香澄は、仲良しだった。
小学生の頃からずっと、一緒だった。
愛梨は、比較的控えめな性格で、
香澄は、元気で活発な性格ー。
正反対ともいえる二人ー。
けれど、そんな二人は
固い絆で結ばれていて、
お互いにお互いを”親友”と呼び合うほどの間柄だったー。
「--橋口くんと付き合い始めたの!?
おめでと~!」
愛梨が真司と付き合い始めた時も、
香澄は心からの笑顔で祝福してくれたー。
永遠の親友ー。
愛梨にとって、香澄はそんな存在だったし、
香澄にとっても、愛梨はかけがえのない存在だったー。
大学を卒業した後も、
二人の絆は、続いていくに違いないー。
・・・・・・・・・・
★主な登場人物★
橋口 真司
大学生。彼女と入れ替わってしまう。
川上 愛梨
真司の彼女。真司と入れ替わってしまう。
馬淵 香澄
中条 東吾
天童 麗
風間 龍平
大学の同級生たち。
・・・・・・・・・・・・・
「----!!」
真司(愛梨)が目を覚ますー
「え…?」
見慣れない部屋に一瞬戸惑った真司(愛梨)
「----あ!」
少ししてから、思い出すー
「そうだ…真司と入れ替わって、今…真司になってるんだった」
真司(愛梨)はそう呟きながら立ち上がるー。
「寝れば元通りになってるかもって
思ったけど…そのまんまかぁ…」
ため息をつく真司(愛梨)-。
てっきり、一晩寝れば元に戻ってるんじゃない?
なんて、思ってたが、そんなことはなかった。
朝起きても、真司の身体のままー。
「ん~~~…なんか、、眠い」
真司になっている愛梨は違和感を覚えるー。
いつも、寝起きはいいほうで、すぐに起きれるのだが
なんだか、今日は眠いー
「あ~…もしかして、真司の身体だから、
寝起きも真司モードなのかなぁ…」
真司(愛梨)は一人呟くー。
寝起き一つでも、他人の身体になるだけで
こんな風に違うんだ…、と
ちょっと不思議な気持ちになりながら
ふと、真司の机を見つめるー
「そういえば…」
真司の机の隅に置かれている写真を見つめる真司(愛梨)。
綺麗な女の人と一緒に、高校時代の真司が写っているー
「ん~~~…元カノかなぁ…」
真司(愛梨)がモヤモヤしながら呟いていると
インターホンが鳴ったー
やってきたのはー
愛梨(真司)だったー
・・・・・・・・・・・・・
「一晩明けてもこのままなんてなぁ~」
ズボン姿でソファーに座る愛梨(真司)
長い黒髪を、邪魔そうに何度も何度も
はねのけているー。
真司からすれば、愛梨の髪は
気になるのかもしれないー。
「---どうしよう…」
真司(愛梨)が言うと、
愛梨(真司)は答えるー
「どうしようって…大学…とりあえず行くしかないよな…
あんまり休むのもあれだし」
愛梨(真司)がそう呟くと、
「う、、、うん…」と真司(愛梨)が呟くー
お互いの情報を交換する二人ー
大学生活を送るために必要なことを
色々と伝えていくー。
彼氏彼女の関係だから、相手のことは
よく知っているほうだが、それでも
相手として振舞うには、色々な情報を交換する必要がある。
「--ところで…
なにそのおばさんみたいなメイク…」
真司(愛梨)があきれ顔で言う。
「え…」
愛梨(真司)が鏡を見るー
メイクが濃すぎて、厚化粧になっているー。
「--厚化粧すぎ~!
そんなんじゃ、大学に行かせられないよ~!」
真司(愛梨)が叫ぶー
「だ、、だって仕方ないだろ!
化粧なんてしたことないし!」
愛梨(真司)が言うー
そして、真司(愛梨)の顔を見ながら叫ぶー
「あ、愛梨こそ!ひ、ひげそってくれよ!
そのまんまじゃ、ちょっときついし!」
「-ええ~?ひげそり使い方わかんないよ~!」
真司(愛梨)が叫ぶー。
二人は苦笑いしながら、
ひげそりと、化粧ー
それぞれを、相手に教えながら
なんとかいつも通りの雰囲気を作り出したー。
・・・・・・・・・・
大学に到着した二人ー
「なるべく、二人で一緒にいれるときは
一緒にいような」
「うん…」
授業の関係上から、どうしても
別々に行動しなければいけない場面以外は、
二人で行動しよう、と話しながら大学に
やってきた二人ー。
「--そういえばさ…元に戻る方法、色々スマホで
調べてみたんだけどさ」
愛梨(真司)がスマホをいじりながら、画面を見せる。
画面にはー
”入れ替わり 元に戻る方法”と表示された検索結果ー
「-ぜ~んぜん出てこないよ。
あいつの名は、とか
転入生、とか
世界を駆けるよだか、とかさー。
映画とかそんなんばっかり」
苦笑いしながら愛梨(真司)が言うー
「やっぱそうだよね」
真司(愛梨)が困った表情で呟くー
現実で入れ替わりなんて聞いたことがない。
だから、検索しても当然、
入れ替わりを題材としたお話の情報しか出てこない。
愛梨も、あいつの名は、という作品のことは知っていたー。
「--…」
暗い表情で歩く二人。
一時的に彼女の身体や彼氏の身体になるのは
別にいいのだが
”ずっと”となると、ちょっと色々問題があるー。
「あ…」
真司(愛梨)が話題を変えようと口を開く。
「そういえば、真司の机の上に
綺麗な人と一緒の写真があったけど
あれって元カノさん~?」
真司(愛梨)が苦笑いしながら聞く。
真司は、あまり過去を話そうとしないー。
だから、愛梨も、大学に入る前の真司のことは
あまり知らなかったー。
「---あれは…」
愛梨(真司)の表情が曇るー。
「あれは…俺の姉さんだよ。
俺が家を出る前に、出て行って、それっきり」
愛梨(真司)の表情は曇ったままー。
真司(愛梨)はそれを見て
気まずい雰囲気になる。
”聞いちゃいけないことだったかな…”などと思いながら
沈黙する真司(愛梨)-。
その時だったー
「-ーあ、愛梨~!橋口くん~!」
聞き覚えのある声が聞こえてきて、
二人は振り返るー
愛梨の幼馴染の香澄だ。
「--おはよ~!」
香澄が笑うー。
「あ、おはよ~」
真司(愛梨)が笑いながら手を振るー
「おはよ」
愛梨(真司)が、真司モードであいさつをするー。
「---…ん?」
香澄が首をかしげるー
「ってか、なんで、二人とも相手のスマホ持ってるの?」
笑う香澄ー
愛梨は真司のスマホ、
真司は愛梨のスマホを持っているー
「---え、、あ、、あぁ、なんでもないよ~~!」
苦笑いしながらスマホを交換する真司(愛梨)。
「---…」
じーっと、愛梨(真司)と真司(愛梨)を見つめる香澄。
「なんか、今日、二人、変じゃない?」
笑う香澄ー
「そ、そんなことないよ~!」
愛梨(真司)が、愛梨っぽいふるまいをしながら
笑ってごまかすー
さっそく怪しまれているー。
こんなんで、二人うまくやっていけるのだろうかー。
いっそのこと、入れ替わってしまったことを
みんなに伝えたほうが早いんじゃないかー。
不安を感じながら、二人は
入れ替わったまま大学生活を始めるのだったー
・・・・・・・・・・・・・
大学の授業の関係で真司と愛梨が別行動をすることになったー。
お昼ー
真司(愛梨)は、香澄と出くわして
香澄と共に歩いていたー
小さいころからずっと一緒の香澄と
”真司”として接することになってしまうなんてー。
つい”香澄~”って気軽に呼んでしまいそうになる。
日常的な雑談を真司(愛梨)にする香澄ー
香澄は、真司の中身が愛梨だと知らずに
ペラペラと色々なことをしゃべっているー。
”誰に対してもおしゃべりだもんね…香澄は”
などと思いながら、愛梨は、”真司”を装って
香澄の話を適当に聞いているー。
「--でもさぁ」
香澄が笑いながら口を開く。
「橋口くん、よくあんなのと付き合ってるよねぇ~?」
ーー!?
その言葉に、真司(愛梨)が立ち止るー。
「え?」
真司(愛梨)が不思議そうな顔をしていると
香澄が笑うー
「前も言ったけどさ~
愛梨なんかやめて、わたしと付き合おうよ!」
香澄が言うー
「--え…か、、かす…み?」
真司(愛梨)は信じられないという表情で
思わず下の名前を呼んでしまうー。
「-ーーぜ~ったい、愛梨と一緒にいるより
楽しい思い、い~っぱいできると思うよ!
ね、愛梨なんかやめて、わたしと付き合お?」
香澄の言葉が、
真司になっている愛梨の心にグサリと刺さるー。
「わたしたち、ずっと友達だよねー!」
「--橋口くんと付き合い始めたの!?
おめでと~!」
香澄の笑顔を思い出すー
え…?香澄…?
愛梨の心が揺さぶられるー
ずっと、一緒の香澄が、こんなこと言うなんて…
「え、、、わ、、わた、、、いえ、、、
あ、、愛梨と、、、かす、、馬淵さんは
し、親友だよね?」
真司(愛梨)は動揺しながらそう呟くー
「え~? ふふふ
まぁね~
たまたま小さいころから一緒だってだけ!」
香澄が笑うー
「あ、、愛梨のこと…嫌い…なのか…?」
震えながら言う真司(愛梨)
香澄は悪びれる様子もなく答えたー
「だってさ~愛梨、ウザくない?
自分はいい子です!みたいな感じがにじみ出てるしさ~
見ててむかつくんだよね~」
香澄は、
目の前にいる真司の中身が、愛梨だなんて、
夢にも思っていないー
「---橋口くんだって、
言ってたじゃないー
”困る”ってー」
「---え…」
真司(愛梨)は、表情を曇らせるー
「こ、、、こま…る…?」
真司から、そんなことは一度も聞いたことがないー
香澄が自分のことをこんな風に思ってるなんて
知らなかったー。
それに、香澄の口ぶりから、香澄が、愛梨のことを
悪く言うのはこれが初めてじゃなさそうだー。
なのにー
真司からこんなこと、一度もーー
一度も聞いたことがないーーー
「--あ、長々とごめんね!橋口くん!
またね~!」
香澄が、笑いながら立ち去っていくー
真司(愛梨)の足が震えるー
「だってさ~愛梨、ウザくない?」
そんな言葉ー
聞きたくなかったー
入れ替わることがなければー
香澄のそんな気持ち、永遠に知らないままだったかもしれないー
でもーーー
知ってしまったーー…
愛梨の心が曇るー。
香澄に、
そんな風に思われていたなんて…
・・・・・・・・・・・・・
愛梨(真司)は、
スカートの違和感に耐えながら
なんとか、1日を終えるー
「さて…と」
愛梨(真司)が、そう呟きながら
愛梨との待ち合わせ場所に向かおうとするー
「---やぁ、川上さん」
ーー!?
愛梨(真司)が振り返ると、
そこには、風間龍平がいたー。
入れ替わる直前に、
真司は、喫煙していた後輩から
龍平が金を取ろうとしている場面を目撃して、
それを止めているー
「---ちょっと、見せたいものがあるんだ」
龍平は、ニヤニヤしながら、自分のスマホを愛梨(真司)に見せたー
「--え…」
愛梨(真司)の表情が、歪むー
龍平が笑うー
「--このメイド…川上さん…だよな?」
とー。
龍平が見せてきた写真にはーー
メイドカフェで、男と手をつなぐ愛梨の姿があったー
「----!?!?!?!?!?」
愛梨(真司)は驚きで声もでないー
愛梨がメイドカフェでバイトしてるなんて話、
聞いたことがないー
でもーー
龍平が見せてきた写真に写っているメイドはー
間違いなく、愛梨ー!
「--メイドカフェで男とイチャイチャしてるなんて、
彼氏に知られたくないだろ?」
龍平は笑いながら呟くー。
愛梨は、男好きではないー
むしろ、苦手なほうだー
だが、”とある事情”で
メイドカフェでバイトをしているー
そのことを、愛梨は真司に隠していたー
いいや、家族にも隠しているー
「--どうする?」
龍平が笑うー
愛梨の弱みを握って金を巻き上げようとする龍平ー
だが、そんな龍平の言葉が聞こえないぐらいに、
”彼女がメイドカフェで働いている”ということに
愛梨(真司)は衝撃を受けていたーー
④へ続く
第4話「身体」
「---どんな時でも…前向きに…生きていきなさい…」
苦しそうに呟く男。
病院ー。
男は、病魔に冒されて、最後の時を迎えようとしていたー
「お父さん……」
当時、小学6年生の愛梨が悲しそうに呟くー。
憧れだった父が、
大好きだった父が、
弱り切っているー。
顔色は青白くー
目も虚ろな目ー。
純粋で、まだ幼かった愛梨は、
”深い心の傷”をこの時に負ったー。
「---ぐはぁっ!」
父の明信(あきのぶ)が、苦しそうに咳をして、吐血するー
愛梨は、震えながらその様子を見つめるー。
がくがくと、震えが止まらないー。
「愛梨……!人に迷惑をかけちゃ、だめだぞ…」
優しく、苦しそうに呟く父ー。
愛梨と、弟の裕太、母の圭子は、悲しそうに
その様子を見つめるー
父は、死んだー。
家族を残してー
”どんな時でも前向きに生きていきなさい”
”人に迷惑をかけるな”
その言葉は、
愛梨の中でまるで”呪い”のように、生き続けているー
そう、今もー。
・・・・・・・・・・
★主な登場人物★
橋口 真司
大学生。彼女と入れ替わってしまう。
川上 愛梨
真司の彼女。真司と入れ替わってしまう。
馬淵 香澄
中条 東吾
天童 麗
風間 龍平
大学の同級生たち。
・・・・・・・・・・・・・
”愛梨が、メイドカフェでバイトー?”
愛梨(真司)は戸惑いを隠せなかった。
そんなこと、愛梨から聞いたことは一度もない。
愛梨はどちらかと言うと、大人しく、
メイドカフェで働くようなタイプではない。
それが、どうしてー。
動揺していた愛梨(真司)は、必死に頭の中で考える。
そして、答えにたどり着いたー
”愛梨が、メイドカフェでバイトをしていて、
それを俺に黙っている…ということは、
何か事情があるんだろうな…”
とー。
真司は、愛梨のことを信じている。
マイナス方面で考えることはせず、
すぐに愛梨に何か事情があるのだろうと、
頭の中で納得するー。
「---それで?」
愛梨(真司)が冷静に答えると、
愛梨がメイドカフェで働く写真を見せつけてきた
風間 龍平は笑みを浮かべた。
「--くく、冷静を装っても無駄だぜ。
みんなに、隠してるんだろ?」
龍平が笑いながらスマホをしまう。
そして「川上さんの、ほんの少しの気持ちがあれば、
誰にも言わない。安心しなよ」と、笑みを浮かべるー
龍平は、”弱みに付け込んで、人から金を巻き上げる”-。
だが、成績優秀で、教授たちの前では良い顔ばかりしているため、
その本性を知るものは少ない。
また、龍平は”相手の弱み”-
それも、人に大っぴらに言えないようなことをネタに
ゆすってくるため、
”被害者”もなかなか声をあげることができないのだー。
「--……僕はさ、この大学の風紀を
守りたいんだ。分かるかい?
別に、脅してるわけじゃない。」
龍平がそう言うと、
「脅しじゃないか」と
愛梨(真司)は、龍平を睨んだー
大人しい愛梨が鋭い目で龍平を睨んでいるー
「--おぉ、怖い怖い、君がそんな目で人を睨むなんて」
龍平が笑うー。
「いいのかな?メイドカフェでバイトしてること、
君の彼氏にーー」
バッ!
ー!?!?
愛梨(真司)が、龍平の手を掴んだー。
龍平は、”口”と”頭”だけの小物だー。
強いものには決して手を出さないし、
すぐに大人しくなるタイプー。
愛梨(真司)が龍平の腕を力強く掴んで呟く。
「--そんなことして、恥ずかしくないの?」
とー。
その時だったー
「--!?!?!?」
愛梨の腕が振り払われて、龍平が逆に愛梨を壁際に押し付けて
壁ドンするような体制で愛梨(真司)を睨んだー
(えっ…)
愛梨(真司)は驚くー
龍平に、そんな腕力はないはずーーー
「---調子に乗るなよ」
龍平が薄ら笑みを浮かべながら言うー。
「--ーま、金がないってなら、別にそれでもいいよ。
代わりにさ…」
龍平がニヤリと邪悪な笑みを浮かべるー
「--僕と、付き合えよ」
笑う龍平ー。
「---だ、、誰が!お前なんかと!」
愛梨(真司)は、自分が愛梨になっていることも忘れて
可愛い声で叫ぶー
そして、龍平を押しのけようとするー。
だが、龍平は愛梨の手をはたくと、
愛梨(真司)を睨んだ。
(な、、なんで…!?こいつにこんな腕力、ないはず!)
愛梨(真司)が戸惑うー
(はっーーー!)
愛梨(真司)はようやく気付いたー
”俺が、愛梨の身体だからーーーー”
愕然とする真司ー。
自分の身体なら、龍平を追い払うことなど、簡単だー。
だが、今は愛梨の身体ー
愛梨の身体では、龍平を追い払うことが、できないーーー…
「----いいねぇ」
龍平が笑う。
そしてー
龍平が愛梨(真司)にキスをしようとするー
「ふ、、ふざけるな!おい!やめろ!」
愛梨(真司)が声を荒げて必死に暴れるー
けれどー
龍平は愛梨(真司)を”力”で押さえつけるー。
「いいじゃないか。クク…減るものじゃないだろ?」
龍平が、愛梨に口を近づけるー
「やめろ!ふざけんな!テメェ!!!
ぶっ殺すぞ!!!」
愛梨(真司)がその可愛らしい声に必死に
迫力をつけて叫ぶー
だがーーー
愛梨の身体ではー
(うぅぅぅぅ…男とキスなんて……)
「やめろ…!やめてくれぇぇぇ!」
愛梨(真司)が大声で叫ぶー
「おい!!!」
ーー!?
「--はっ!」
龍平が振り返ると、そこには、
愛梨と真司の共通の友人・東吾の姿があったー。
「---何してんだお前?」
東吾が、龍平の腕を掴んで龍平を睨む。
「あ、い、、いや…べ、、別に」
龍平は途端に弱気になって、東吾の方を見つめるー。
「--……さっさと消えろ」
東吾が言うと、龍平は「は、、はひっ!」と
慌ててそのまま走り去っていったー。
東吾が、愛梨の方を見つめてため息をつくー。
「…大丈夫か?」
東吾の言葉に、愛梨(真司)は「あ、、あぁ…」と頷くー。
「---風間に何か言われたのか?」
東吾が不思議そうに言う。
愛梨(真司)は一瞬、メイドカフェのことを言おうとしたが、
”理由は分からないけど、愛梨は隠そうとしてたんだよな…”と
内心で考え直して、メイドカフェのことは伝えなかったー。
「---…まぁ…無事でよかった」
東吾が、へなへな座り込んでいた愛梨(真司)に手を差し伸べるー
「、、ありがとう」
愛梨(真司)が東吾の手を掴むー
ドキッー
「--!」
東吾の手が、大きく、力強く感じたー
いつも、自分の身体でいるときは、
そんな風に感じたことは、ないのにー。
「---どうした?」
東吾が不思議そうに愛梨(真司)の顔を見つめる。
愛梨(真司)は無意識のうちに顔を赤くしていたー
「な、、な、、なんでもね、、、いや、ないよ!」
愛梨(真司)はそれだけ言うと、
足早に東吾から顔を逸らして立ち去るー
ドキドキドキドキー
(おいおい、なんだよこりゃあ…)
真司は戸惑う。
愛梨の身体が明らかにドキドキしているー
確かに東吾はイケメンだがー
これは、愛梨の身体が反応しているのかー?
真司と東吾は親友だ。
いつも触れたりすることも当然あるし、
今まで一度も東吾にドキドキしたりしたことはない。
でも、今は何故かー。
「女って…こんなすぐにドキドキするのか…?」
愛梨(真司)は、思わぬ身体の反応に戸惑いながら
真司(愛梨)との待ち合わせ場所に向かったー
・・・・・・・
「お待たせ」
愛梨(真司)が待ち合わせの場所にやってくると
真司(愛梨)は既に、元気ない様子で待ち構えていた。
「大丈夫か?」
愛梨(真司)が不安そうに聞くと、
「う、うん」と
真司(愛梨)は答えた。
「とりあえず、俺の家に行くか」
愛梨(真司)の言葉に、
真司(愛梨)は「うん」と頷く。
真司の家に到着すると、
愛梨(真司)は「はー、やっと、気を抜ける~」と
つぶやきながらソファーに寄りかかったー。
まるで男のような仕草をしながら
愛梨(真司)は真司(愛梨)の方を見つめるー
”メイドカフェのことは、聞かないほうが良さそうだな”
真司は、そう判断したー
愛梨が言ってこないということは、何か事情があるー。
愛梨がメイドカフェで働いているということは、何か事情があるー。
真司にだって、語りたくない過去のひとつやふたつはあるー。
愛梨(真司)はそう思いながら、自分の机の上に飾ってある
写真を見つめるー。
そこにはー
真司と姉の詩織(しおり)の姿が写っているー。
”姉さんは、今、どうしているんだろう”
愛梨(真司)はそんな風に思うー。
”あの地獄”で自分を守ってくれたのは
姉さんだけだったー。
その姉さんは、今ーー
「---あのさ…」
真司(愛梨)が口を開くー
愛梨は、親友・香澄に言われた言葉が気になっていたー。
「だってさ~愛梨、ウザくない?
自分はいい子です!みたいな感じがにじみ出てるしさ~
見ててむかつくんだよね~」
「---橋口くんだって、
言ってたじゃないー
”困る”ってー」
親友のはずの香澄の容赦ない言葉ー
愛梨は、深く傷ついたー。
そして、
真司が”困る”と言っていたという事実が、
愛梨の心をさらに深く傷つけた。
「--わたしのこと……嫌い?」
真司(愛梨)が不安そうに言う。
愛梨(真司)は、その言葉に、苦笑いした。
「どうしたんだよ、急に」
愛梨(真司)が、真司(愛梨)を抱き寄せるー。
「--俺は、愛梨のこと、本当に大切にしてるし、
付き合い始めたころも、今も、本当に大好きだから」
愛梨(真司)の言葉にー
真司(愛梨)の不安が消えていくー
そうだよねー。
真司はいつも、わたしのことを大切にしてくれているー
大丈夫だよねー。
真司(愛梨)は「変なこと聞いてごめんね」とほほ笑む。
愛梨(真司)は頭をかきながら
「は~、やっぱり、ほほ笑む俺ってきもいなぁ~」と
苦笑いしながらそう呟いたー
真司(愛梨)も、その言葉に笑いながら
「わたしだって、なんだか頼りになるわたしを見るのは
きもちわるいよ~」と、冗談を口にするのだったー。
二人は、再びそれぞれの家で過ごすことになるー。
真司(愛梨)は、
スマホを手にしながら不安そうな表情を浮かべるー。
メイドカフェの店長・国枝店長からのLINEを見つめるー
”揉みたいな~”
卑猥な言葉が、たくさん表示されているー。
「----」
スマホを握りしめる真司(愛梨)。
真司に知られるわけにはいかないー
真司を傷つけてしまうからー
「愛梨……!人に迷惑をかけちゃ、だめだぞ…」
真司にメイドカフェのことを知られたら、真司に
迷惑をかけてしまうー。
自分の”浅はかな考え”が、こんな事態を招いているー
父と約束したー
”人に迷惑をかけちゃだめ”だってー。
だから、メイドカフェの件は、自分で解決しないといけないー。
真司に、知られる前にー。
・・・・・・・・・・・・
「ただいま~」
愛梨として帰宅する真司。
弟の裕太と雑談をすると、
愛梨(真司)は部屋に戻っていくー。
動きやすいジーンズ姿に着替えると、
愛梨(真司)は髪を結んで、そのまま
スマホをいじりはじめるー
「髪…邪魔だけど愛梨のだからな~
切るわけにはいかないし」
そんなことを呟きながら愛梨(真司)は
スマホで一生懸命”元に戻る方法”を検索するー。
自分は、”あいつら”とは違う-
愛梨のことは、何があっても守ってあげたいー。
「-----はぁぁ…」
だが、答えは見つからない。
愛梨(真司)はため息をついて、頭を抱えたー
元に戻ることは、できるのだろうかー。
・・・・・・・・・・・・
翌日も、元に戻れないままー。
「--どうすれば戻れるんだろう…」
不安そうな真司(愛梨)-。
「--色々調べてみてるけど、なかなか…」
愛梨(真司)が呟くー。
「--階段から落ちてみれば戻れたりしてー」
最初、入れ替わったのは
愛梨と真司が階段から転がり落ちたときだー。
もちろん、愛梨(真司)もそれは考えたー。
でもー。
階段から転がり落ちるのは危険だー。
できれば、そうしたくないし、
戻れる保証もないー
「--危ないからなぁ…」
愛梨(真司)が、頭をかくー。
「--と、いうか、なんかボーイッシュだね」
苦笑いする真司(愛梨)。
「ん??あ~、スカート動きにくくてさ」
ショートパンツに黒タイツ姿の愛梨(真司)が
苦笑いするー。
「ま、まぁ…いいんだけど」
真司(愛梨)も苦笑いするー。
入れ替わって数日が経過しても、未だにこの状況には
慣れないー。
ふとしたことで、違和感を感じてしまうー。
「今日も、頑張ろうね」
真司(愛梨)がほほ笑むー。
”どんな時でも、前向きにー”
父親から言われた言葉を、愛梨はとても大事にしていたー
入れ替わってしまった、こんな状況だけれどー
ここでクヨクヨしていても仕方がない。
「なんか、楽しそうだなぁ、愛梨は」
愛梨(真司)が苦笑いすると、
真司(愛梨)は「え~?そうかなぁ」と笑いながら
立ち去って行ったー。
「よし、俺も頑張るか!」
愛梨(真司)が立ち上がるー。
とりあえず、大学生活は普通に過ごしていないといけないー。
愛梨(真司)は立ち上がると、
大学の構内に向かって、歩き出したー
「------愛梨?」
共通の友人・東吾が偶然その会話を聞いていたー。
「なんか、楽しそうだなぁ、愛梨は」
”愛梨”が”真司”にそう言っていたー
「よし、俺も頑張るか!」
”愛梨”が、自分のことを俺と言っていたー
「----」
東吾は、少しだけ戸惑いのような表情を浮かべると、
そのまま大学構内に向かって歩き出したー
⑤へ続く
第5話「発覚」
「--ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
暴力は続くー。
酒によった父の激しい暴力ー
小さいころー
彼は”無力”だったー。
父は、家庭内で暴力を振るったー。
来る日も、来る日もー。
母は、見て見ぬふりをして、
父が仕事中には、別の男を連れ込んでは
男遊びを繰り返していたー
育児になど、まるで興味がないー
昼も、夜も父に隠れて男遊びを繰り返す母ー
”こんなやつらのようになってたまるか”
そんな”地獄”のような環境で、
彼はそう思ったー
そして、彼は
勉強も、スポーツも、家事も、
なんでもそつなくこなせるようにー
”誰にも頼らなくて済むように”
何でも知識を身に着けたー
「--だいじょうぶ?」
姉の詩織だけがー、
彼を父の暴力や、母の嫌がらせから
守ってくれたー
姉の詩織も、父から同じように
暴力を受けていたのにー
「---んあっ♡ あっ♡ やめてぇ…やめてぇ…」
高校生になると、
姉の詩織は、父から性的な暴力を受けるようになったー
大好きな姉の喘ぎ声を聞かされる日々ー
弟の真司は、耳を塞いだ。
そしてー
そんな姉の詩織は、真司よりも早く、家出したー。
「--ごめんねー」
詩織は、真司を含むすべての家族から連絡を絶ったー
真司は思ったー
”姉さんにまで、見捨てられたー”
とー。
・・・・・・・・・・
★主な登場人物★
橋口 真司
大学生。彼女と入れ替わってしまう。
川上 愛梨
真司の彼女。真司と入れ替わってしまう。
馬淵 香澄
同級生。愛梨の幼馴染で親友。
中条 東吾
同級生。真司・愛梨の共通の友人。
天童 麗
同級生。頼りになるお姉さん風の女性。
風間 龍平
同級生。嫌味なインテリ学生で、裏で悪さをしている
・・・・・・・・・・・・・
「---ふぅ…」
大学に行く準備をする愛梨(真司)
愛梨と入れ替わってから
数日間が経過したー
でもー。
真司は一度も愛梨の身体でエッチなことはしていないー
着替えながら愛梨の下着姿が目に入るー
愛梨(真司)はそれでも首を振りながら
欲を抑え込んで、そのまま何もせずに着替えるー
着替えー
お風呂ー
そういう場面で裸を見たりはする。
でも、何もしないー
「---んあっ♡ あっ♡ やめてぇ…やめてぇ…」
姉の詩織が、父から性的暴行を
受けていた時の光景が、脳裏に焼き付いているー
だからー。
だからこそ、真司は、愛梨の身体を絶対に
自分の欲のためには、いじったりしないー
そう、固く心に誓っていたー。
「--愛梨は、、俺の身体で
色々してそうだけどな…」
愛梨(真司)がふっ、と笑う。
愛梨は、好奇心の強い子だ。
真司の身体になったら、
こっそり色々試しているに違いないー
「さて…今日も行きますか」
愛梨(真司)は髪を結んで、
ショートパンツにタイツ姿で大学に向かうー
”スカートは、どうにもなれねぇ…”
愛梨(真司)はそう思いながら、
”まぁ、これが一番妥当だろうな”と
黒タイツに包まれた足を見つめるー
ちょっと落ち着かない部分もあるが、
それでもスカートがふわふわして
気になるよりかは、全然いい。
大学に到着した愛梨(真司)は
真司(愛梨)と、連絡を取りながら
情報交換を行うー。
そして、今日も大学生活をスタートさせるのだったー
・・・・・・・・・・・・・
昼食の時間ー
愛梨(真司)は、偶然
愛梨と真司の共通の友人・東吾と、
同級生の麗と鉢合わせして、
一緒に昼食を食べることになった。
「こ、、この前は、ありがとう」
愛梨(真司)は、素が出てしまわないように
慎重に言葉を選びながら東吾にお礼を言う。
この前、”メイドカフェのバイトの写真”をネタに
龍平が脅してきたときに、東吾は助けてくれている。
「--いや、いいさ」
東吾が笑いながら言う。
東吾は、クールな感じだが、とても頼りになるやつだ。
「---え?なになに?何かあったの?」
麗が言うと、
東吾が「愛梨、風間のやつにからまれててさ」と
麗の方を見ながら説明したー
風間龍平には、あまり良い噂はない。
麗も「あ~、風間くんね」と呟きながら頷いた。
「---それにしても、
川上さんが、ラーメンなんて珍しくない?」
麗が愛梨(真司)を見つめながら言う。
「え!?あ、、、」
愛梨(真司)は、”そういえば、愛梨はラーメンなんて食べねーな”と
頭の中で慌てて考える。
「え、ほら!た、たまにはおいしいかなって!」
愛梨(真司)が言うと、
東吾が笑いながら「でも食べ方、真司のやつにそっくりだな」と呟くー
続けて麗が「スープまで全部飲んでるし」とからかう。
「--え、、こ、、これは、、その…!」
愛梨(真司)が慌てていると、
麗が時計を見つめた。
「あ、わたし、そろそろ行かなくちゃ!じゃあね」
麗がそれだけ言うと、
昼食を返却口に持っていき、そのまま立ち去っていくー
「----」
東吾が愛梨(真司)の方を見つめる。
「--なぁ、真司」
「--ん?」
愛梨(真司)がとっさに返事をしてしまったー。
「---……」
「---あ」
愛梨(真司)が青ざめる。
「---はは、ボロを出した」
東吾が笑う。
「え、、いや、、ちがっ…」
愛梨(真司)が慌てていると、
東吾は周囲を見渡して「場所を変えるか」と
呟いたー
・・・・・・・・・
「--で、真司なんだろ?」
場所を変えると、東吾は口を開いた。
「-----あ、、あ、愛梨だよ」
愛梨(真司)がわざとらしい可愛らしい手ぶりを
加えながら言う。
「---…やってて恥ずかしくないのか?」
東吾が苦笑いしながら言う。
「あ、、あ、、あ、、愛梨だもん!」
愛梨(真司)が顔を真っ赤にしながら言うと、
「ふ~ん…」と、東吾が呟くー
偶然、真司(愛梨)の姿が目に入るー
ちょうど、用事を終えて移動している最中のようだー。
東吾は、真司(愛梨)に向かって叫んだ。
「お~~~い!愛梨~~~!」
「---え?」
真司の姿をした愛梨が振り返る。
”バカ…!”
愛梨(東吾)はやれやれと言う様子で首を振った。
彼氏彼女揃って、
同じミスをしてしまった。
「決まりだな」
東吾が笑う。
観念した愛梨(真司)は、”そうだよ…入れ替わっちゃったんだよ”と
女っぽいふるまいを止めて答えた。
・・・・・・
愛梨(真司)と真司(愛梨)が今までの
事情を説明するー
「-----…」
東吾が難しい表情をしているー
「--やっぱ、信じれないよな」
愛梨(真司)が腕を組みながら壁によりかかった状態で言う。
「---いやー」
東吾は顔を上げて二人を見つめた。
「信じるよ。
最近変だと思ってたし…
いつもお前らと一緒にいることが多いし、
見てればなんとなくわかるさ」
東吾が優しく笑うー
ドキッ
その顔を見て愛梨(真司)がなぜか
ドキドキしてしまうー
”っおいおい、なんだよこの気持ちは”
愛梨(真司)が戸惑っていると
横にいた真司(愛梨)が「だいじょうぶ…?」と
不思議そうに聞いてきた。
やっぱり、愛梨の身体だからだろうかー。
何故か東吾にドキドキしてしまうー
「それで、どうするんだ?これから」
東吾の言葉に、
愛梨(真司)が口を開くー。
「とりあえず、お互いのフリをしながら
元に戻る方法を探す感じかな」
愛梨(真司)が言うー。
色々考えたが、
やはり、入れ替わったことを大っぴらにするのは
難しいー
信じてくれる人のほうが、普通に考えて少ないだろうし、
頭のおかしなやつだとか、
トラブルに発展する可能性もあるー
”隠すか”
”言うか”
難しい選択だが、
真司と愛梨は”隠したほうがいい”と判断したー
「そっか」
東吾はそう呟く。
確かに、東吾のようにすぐに信じる人は少ないだろうー
「でも、馬淵さんとか、天童さんには教えてもいいんじゃないか?」
愛梨の親友・馬淵香澄ー
真司や愛梨と親しい、天童麗ー
あの二人ならー
「ーーー馬淵さんはーーー」
愛梨(真司)が口を開くー
香澄は愛梨の親友で幼馴染だが
愛梨のことを内心嫌っているー
入れ替わる前、真司は”愛梨なんかと付き合っていて”と
香澄に何度か言われているー
そのことを、真司は愛梨に黙っているー
愛梨を傷つけたくないからだー
「----」
真司(愛梨)も口を閉ざすー
真司の身体になったあと、愛梨は知ってしまったー
香澄が自分を嫌っていることをー。
「---天童さんもなぁ…
ちょっと腹黒だし」
愛梨(真司)が言うと、東吾は「まぁ、無理にとは言わないけどさ」と
その話を打ち切ったー
「ま…
俺で良ければ相談に乗るからさ…
真司も、愛梨も無理すんなよ」
東吾の言葉に、
真司(愛梨)も、愛梨(真司)も「ありがとう」と頭を下げる。
東吾が去り際に笑うー
「ところでーーー
入れ替わったってことは、色々、シたのか?」
東吾の言葉に、
愛梨(真司)が顔を赤らめるー
「バ…!し、、しねぇよ!愛梨の身体で勝手に
エッチなことなんてするわけないだろ!」
愛梨(真司)が真っ赤になっているー
嘘ではないー
何もしていないー
「--はは、お前はそういうやつだったな」
東吾がそう言いながら真司(愛梨)の方を見る。
「--あ」
「---ん?」
愛梨(真司)と、東吾が
真司(愛梨)のアソコがズボンの上からでも
分かるぐらいに大きくなっているのに気づくー
「---え、、あ!?!?!?え、、
ちょ!?!?こ、、これ、なんで大きくなるの!?!?」
真司(愛梨)が慌てて、それを手で抑え込もうとして
「いたたたたたた!」と悲鳴を上げているー
”エッチなことしてるな”
東吾は、真司の身体で愛梨が色々シてると判断して
苦笑いしながら立ち去っていくー。
「---…こ、、これ、どうすればいいのぉ…?」
真司(愛梨)がズボンの上から
大きくなったそれを抑えながら言う。
「はは…それは~…ん~~~?
どうすればって言われても
感覚的な問題だし、言葉にするのは難しいなぁ~」
愛梨(真司)は笑いながら、その様子を見つめたー
なんとなく、新鮮だー。
まさか、大好きな人の身体になって
過ごすことになるなんてー。
まるで、夢のような”幻想”が
日常になるなんてー。
愛梨(真司)はそんな風に思いながら
時計を見つめたー
「あ、そろそろ次の授業だ」
愛梨(真司)が言う。
真司(愛梨)が「あ、うん」と笑うー。
身体は違ってもー
俺は、愛梨のことを必ず幸せにしてみせるー
自分は”あいつら”とは違うー
両親とは、違うー。
大事な人を、幸せにするー
絶対にー。
・・・・・・・・・・
自宅ー
真司(愛梨)がスマホを握りながら震えていたー
”愛梨ちゃん…
次の土曜日こそ、ちゃんと来てくれるよね?”
バイト先のメイドカフェー
国枝店長からのLINE-
真司(愛梨)は震えるー。
真司に、メイドカフェでバイトしているなんて教えられないー
店長に揉まれて喘いでいるなんて、絶対にーーーー
でもーー
”この身体”じゃーーー
”土曜日は”あいりたんごっこ”しようか。
この前、休まれちゃったから
愛梨ミンが足りなくてさぁ~”
国枝店長から卑猥なLINEが送られてくるー
「---どうしよう…どうしよう…」
真司(愛梨)は目に涙を溜めながら呟くー
軽い気持ちだったー
好奇心と、お金ー
そんな理由だったー。
父が死んでしまった川上家は
経済的に苦しいー。
少しでも母の圭子を、弟の裕太を楽させようと
”少しでも時給の高いバイト”を選んだー
それが、メイドカフェー。
こんなことになるなんて思わなかったー。
ただ、愛梨は、家族のためにお金を稼ぎたかったー。
そんな、浅はかな自分を呪うー。
”もし土曜日も休むなら、
愛梨ちゃんの家に迎えに行くからなぁ~?”
国枝店長からのLINE-
”愛梨の家に迎えに来るー”
そしたらー
家族にも、愛梨の身体になっている真司にも
メイドカフェのバイトがばれてしまうー
震える真司(愛梨)-
どうしようー
どうしようーーー
カレンダーは”水曜日”を示しているー
もう、時間がない。
それまでに元に戻ることができなければーー
”じゃあ、待ってるよ、あいりたん”
LINEの連絡は、そこで終ったー。
”あいりたんごっこ”
国枝店長の”罰ゲーム”の中でも
最も過酷な罰ゲームだ。
国枝店長は
遅刻・欠勤・ミスに厳しいー
ミスをしたメイドたちには、容赦ない
”ペナルティ”を課すー。
その一つが”あいりたんごっこ”だー。
真司(愛梨)は、どうしよう…と頭を抱えるー
逃げ道がないー
巨人のような国枝店長が、迫って来る夢を見てしまいそうなぐらいに
国枝店長に恐怖を感じるー
真司にばれたらーー
家族にばれたらーーー
「うぅぅぅ…」
真司(愛梨)は、顔をぐしゃぐしゃにしながら
一人、部屋で泣き出してしまったー
⑥へ続く
・・・・・・・・・・・・
コメント
FANBOX長編の第2作目として書いたのが
この入れ替わり長編でした!
他3作が私の中で満足いくように書けたのに対して
この作品は少しだけ心残りがあるので、
長編第5弾(それもここで第5話まで試し読みできるようにします~!)
は、もう一度入れ替わりに挑戦してみようと思っています☆!
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