<皮>日常に溶け込む皮①~浸透~

その世界では他人の身体を”皮”にして
他人の身体を利用するー、という行為が
当たり前のように行われていたー。

当たり前のように”皮”が日常に浸透している世界の物語ー…。

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2XXX年ー

世界では食糧問題が深刻な状態と化していたー。
そんな状況を前に、世界は食料の問題を解決するために
”止むを得ず”ある技術を開発ー、
それを実用化させたー。

それは”人を皮にする”技術だったー。
人間を着ぐるみのようにペラペラの状態にしてしまうという
恐ろしい技術で、
しかも、そのペラペラの状態になった人間を
”着ぐるみ”のように着ることで、
その身体を乗っ取ることができるー、という
そんな、恐ろしい技術だ。

その技術を実用化、運用することで、
食料問題に対する”延命策”の一つとしていたー。

犯罪者や、病気によって”もう助からない”人間、
そして、自ら自死を望む人間などー、
そういった人間を”皮”にすることによって
”労働人口”になり得ない人間の消費する食料を
削減するー
それが、”人を皮にする技術”の目的だったー。

犯罪者を皮にしてしまうことによって
食料の消費を抑えることだけではなく、
留置場などの維持費、警備費などの削減、
また、再犯の防止だったり、
犯罪者に対する”抑止”にも一役買っていたー。

一定以上の”罪”を犯した人間は
”無条件で皮にする”ことによって
犯罪率も大幅に減ったー。

罪を犯す人間からすれば、それは死刑と同じことで、
もちろん、それでも罪を犯す人間はいたものの、
かなりその数が減ったのも事実だった。

”病気で助かる見込みのない人間”を皮にする対応も、
医療費の削減、病院のベッドの確保、
患者の家族の費用負担などの削減に一役買った。
この世界では少子高齢化が大幅に進んでいて、
また食料問題も深刻化していることから
”どの道助からない人間”をいつまでも生かしておく余裕は
もうなくなってしまっているのだー。

加えて、自ら”人生を終わりにしたい”と望む人間に対して
”自分から皮になることができる”施設、
”終活センター”が各地に設置されていて、
終活センターで”皮”になることで、
楽に人生を終えることも可能になっていたー。

もちろん、これらは人道的・倫理的に考えれば
どれもとんでもないことではあったー。
感情を全て殺して、合理的に考えれば
一定以上の罪を犯した人間や、病気でもう絶対に助からない人間を”間引く”のは
理には適っているのかもしれない。

けれど、人間には感情があるし、
”間引かれる”当事者からすれば猛反対するのは間違いのないことで、
導入当初は世界規模で反対の声が広がったー。

が、それでも数十年かけてその制度は世界各国で導入されて、
さらには”皮にした人間を着ることができる制度”も導入ー、
容姿の悩みや、なりたい自分になることができない人々へと
救済処置として展開し、
それによって自信をつけたり、精神的に安定する人々を増やし、
労働力の拡大につなげると共に、
”皮”を購入するための料金を各国は財源に充てることで、
この危機的状況を何とか乗り切ろうとしていたー。

それでも、ジワジワと食料問題は深刻化しているし、
”人を皮にする”技術に未だに反対する人間も多くいて、
その”溝”は取り返しのつかないところまで膨らんでいるー。

そんなー”皮”が当たり前に存在する世界ー。

その世界で、今日も”人気者の女子大生”として生きている
宮坂 野々花(みやさか ののか)は、
楽しそうに大学でのひと時を過ごしていたー。

「ーあ~、野々花はいいなぁ~」
野々花の親友・夏帆(かほ)がため息を吐き出しながら言う。

「ーえ~…何が~?」
苦笑いしながら言う野々花。

すると夏帆は、野々花の顔を見ながら
「この可愛い顔に、綺麗な声、抜群なスタイルーーー
 羨ましい以外にないでしょ」と、そんな言葉を口にする。

「えぇ…? 夏帆ちゃんだって十分可愛いと思うけどー」
野々花が戸惑いながらそう返すと、
夏帆は「あ~~~!そういうセリフって恵まれてる側から言われるといやなやつ~!」と
笑いながらツッコミを入れる。

確かにー、客観的に見て夏帆も”十分可愛い”のは事実ー。
ただ、それ以上に野々花が可愛く、綺麗なのも事実で、
夏帆が羨ましがるのも無理はなかったー。

「ーーあははー…ごめんごめんー
 そんなつもりじゃなかったんだけどー」
野々花がそう言うと、
「でも、杉並(すぎなみ)さんの方がもっと可愛いでしょ?」と、
大学内の美貌を競うとあるイベントで優勝した”杉並 絵里(すぎなみ えり)”という子の
名前を出す野々花ー。

すると、夏帆は「ううんー」と首を横に振ると、
「あの子、”皮人間”だからー」と、険しい表情で呟くー。

「ーん~…あ~~~…そっかー」
野々花は少しだけ苦笑いをするー。

夏帆の言う”皮人間”とは、
他人の皮を購入ー、あるいは何らかの手段で入手して
それを着ている人間のことを示す言葉だー。

つまり、自分の身体ではなく、
他人の身体で日常生活を送っている人間のことを示すー。

”皮人間”は本来の呼び方ではないものの、
この世界には”人を皮にする”云々を良く思っていない人間がまだ根強く存在していて、
そう言った人たちが”他人を皮にしてきている人”のことを
差別的な意味を込めて呼ぶときに使われる呼び方が
”皮人間”だー。

野々花の親友・夏帆は”人を皮にする技術”のことも、
”皮にされた人間を乗っ取っている人”のことも良く思っていないタイプの人間で
”皮人間”と言う言葉をよく使っているー。

「ーで、でも、ちゃんと真面目にやってるみたいだし、
 いいんじゃないー?」
野々花がそんな夏帆に対してそう言うと、
夏帆は「え~?皮人間を庇うの~?」と笑いながら、
「他の人の身体を乗っ取って過ごしてるとかありえなくない?
 話しかけられても、お前誰だよって感じ」と、嫌悪感を丸出しにするー。

「ーーあ、あははー」
野々花は苦笑いするー。

がーー…
その野々花自身も、夏帆の言う”皮人間”なのだー。

野々花の”中身”は、山原 茂助(やまはら もすけ)という男で、
野々花と”同い年”の男子だー。
皮を着る時には、自分の年齢とかけ離れた皮を着ることはできないルールになっていて、
茂助も”同い年の子”であった野々花の皮を着て、生活しているー。

着ている状態であれば”皮”も同じように老化していくものの
”着ている側”と”着られている側”の歳の差が激しすぎると、
副反応が起きてしまい、急激な老化が起きたり、
逆に年齢が退行し始めたりおかしなことが起き始めるために
着る側・着られる側の年齢差は前後3つ以内と法律で決められていたー

茂助は容姿に恵まれななかった男子で、
小さい頃からずっといじめを受けて来たー。
それを見かねた両親が、貯金を全て使い、
中学入学前のタイミングで、茂助に対して”野々花”の皮を購入したー。

野々花は余命宣告を受けた後に”皮”にされた子で、
その見た目が非常に可愛らしかったために、
高額で売られていた皮だー。
それを、容姿が原因でいじめを受けている息子のために両親は購入ー、
茂助は以降、野々花として生きて来たー。

”野々花”という美貌を手に入れたことで、
茂助は自分にも自信をつけて、
学校でもいじめを受け無くなり、
今では”人気者の女子大生”という、
そんなポジションまで手にするほどの人間になっていたー。

ただ、野々花になった茂助と、両親は
世間では”皮”に対して偏見を持つ人間が多いことも理解していたー。

そのため、野々花本人も両親も
”皮”のことはできる限り隠していて、
野々花の親友である夏帆も野々花が”皮人間”であることは知らなかったー。

野々花も”皮人間”であることを知らずに
”皮人間”の悪口を言い続ける夏帆。

「ま、まぁまぁ、夏帆ちゃんー
 あまり人の悪口は言わない方がいいよ?」
野々花が穏やかな口調で、諭すように言うと、
夏帆は「野々花は優しいなぁ~…皮人間に配慮する必要なんてないでしょ」と、
少し納得が行かない様子で笑うー。

最も、夏帆が特別差別的な感情を持っているわけではないし、
夏帆の性格が悪い、と言うわけではない。
むしろ夏帆は普段は面倒見の良い性格で、
困っている人は放っておけないタイプ。

”ただし、皮人間は除く”という子ではあるものの、
そういう風に思っている人間はこの世界にはたくさんいて、
大体、半分ぐらいの人が皮人間に悪い感情を抱いているー

「ーー野々花も皮人間に優しくし過ぎない方がいいよー?
 アイツらに野々花も身体を乗っ取られちゃうかもしれないからね」
夏帆はそう言うと、「あ、わたし、そろそろ行かなくちゃ」と、
苦笑いしながら次の授業に向かう準備をし始めるー。

「ーうん!じゃあ、またあとでー」
野々花は、そんな夏帆に手を振ると、
立ち去っていく夏帆の後ろ姿を見つめながら
少しだけ申し訳なさそうに呟くー。

「ーわたしも”皮人間”なんて言えないよねー」
とー。

野々花を着ている”茂助”は、もう”野々花”として
何年も生きているために、
身体だけではなく、心もすっかりと女子っぽくなったー。

野々花の皮を着た当初は
本当にこんな状態でずっと生活できるのかなー?だとか、
”女”として振る舞うことはできるのかなー?だとか、
色々な不安も感じていた。

けれど、そういったことは”時”が解決してくれたー。

茂助自身が”絶対に俺は女になりたくない!俺は男なんだ!”という
考えの持ち主であればそうはいかなかったかもしれないけれど、
特にそういう拘りもなかったために、
野々花の皮を着て生活していたら、自然と”女”になることができたー。

そんな感じだ。

大学での1日を終えて、野々花は”ある施設”へと向かうー。

それは、”メンテナンスセンター”ー。
着ている皮をメンテナンスする専門の施設だ。

野々花はここに来る時はいつも眼鏡をかけて、
ポニーテールに髪型を変えてやってきているー。

気にしない人間もいるけれど、
野々花は”皮人間”だと思われて周囲の見る目が変わってしまうことを
恐れているー。

”皮”を着ていない人間の中にも、もちろん全然気にしない人も
たくさんいるけれど、夏帆のような子もたくさんいるー。
だからこそ、気付かれないようにしていたのだー。

「ーー特に、”皮”の状態に問題はありませんね」
メンテナンスセンターの職員が、茂助の着ている”野々花”の皮の
状態を確認し終えて、そう言葉を口にすると、
野々花は「ありがとうございます」と、そう言葉を口にするー。

「それでは、”皮”の点滴をしますが、
 今日はどうされますか?」
職員がそう言葉を口にするー。

”皮の点滴”とは、
乗っ取っている皮の状態を維持するための栄養素を送り込む作業だ。

皮にされた人間は通常の人間とは異なる状態になり、
たとえ、病気で余命宣告されていた状態の人間であっても、
その身体を乗っ取った人間は、病気の影響などは受けずに
その人の身体を利用することができる。

ただ、”生き物”であるために、そのままでは腐ってしまうー。
そうならないようにするために、”皮”を着ている人間は
定期的な点滴を受ける必要があったー。

「ー着たままで大丈夫です」
野々花はそう呟くー。

”点滴”は、皮を脱いで預けて行うこともできるし、
着たまま行うこともできる。
ただ、着たままだと30分ほどその場に留まる必要があったり、
少しチクッとしたりするために、
人によって”乗っ取っている身体”を一度脱いだり、着たまま受けたり、
判断は異なるー。

野々花を着ている茂助は”元の自分”を見たくないのと、
2週間に1回だから、と、特に30分待つことは苦にしていないこともあって
いつも皮を着たまま点滴を受けていたー。

メンテナンスを終えた野々花は
息を吐き出して、そのまま外に向かおうとするー。

がーー
その時だったー。

「ーーー宮坂さんー?」
そんな声がするー。

思わず、振り向いてしまった野々花は、
大学で”もっとかわいい”として、野々花が親友の夏帆との会話で
名前を挙げた”皮人間”ー、杉並 絵里を見てハッとしたー。

「ーー…い、いえ、人違いだと思いますー」
皮人間であることを隠している野々花は咄嗟にそう言葉を口にする。

が、絵里は「待って」と、そう言葉を口にすると、
「ー宮坂さんだよね?見れば分かるからー」と、そんな言葉を続けるのだったー。

②へ続く

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コメント

”皮”が当たり前のように存在する世界のお話デス~!

でも、この世界ならではの辛いところも
色々ありそうですネ~!

続きはまた明日デス!!

続けて②をみる!

「日常に溶け込む皮」目次

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皮<日常に溶け込む皮>

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