”人を皮にする力”が当たり前のように存在し、
社会のシステムにそれが組み込まれている世界ー。
そんな世界で生きる者たちの物語ー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「宮坂さんだよねー?見れば分かるからー」
同じ大学に通う絵里のそんな言葉に、
野々花は表情を歪めながら
この先の”答え”を考えるー。
大学で一番の美貌を持つとも言われている絵里は
野々花と同じ”皮人間”だ。
絵里は、”皮を着ている”=”他人の身体を乗っ取っている”ということを
隠すことなく、それを堂々と明かしているー。
誰にも悟られないようにしている”野々花”…
野々花を着ている茂助とは真逆の存在だ。
「ー…別に隠すことないでしょ?
皮を着てるなら、着てるでもいいと思うしー」
絵里がそう言うと、
野々花は冷や汗をかきながら
「い、いえ、本当に何のことだかー」と、
そう言葉を返すー。
あくまでも、”わたしは宮坂 野々花ではありません”の
スタンスを貫き通そうとする野々花。
野々花を着ている茂助は”皮人間”であることを
これまで必死に隠しながら生きて来たー。
そもそも小さい頃に容姿に悩み、いじめを受けて来た茂助にとっては
”また”ああいう思いをしたくない、という
そういう気持ちがとても強かったー。
”誰にも見られないようにするため”に、
野々花はわざわざ”隣の県”のメンテナンスセンターを利用していて、
2週間に1回、それなりの距離を往復しているー。
もちろん、近所のメンテナンスセンターでも
秘密は守ってくれるし、人目につかないように
気を付けることで、バレるリスクは減らすことができるものの
こうして、今のように鉢合わせしてしまう可能性も0ではないー。
だからこそ、野々花はこうして
”隣の県のメンテナンスセンター”までいつも通っていたのだー。
それなのにー…
野々花は、同じ大学に通う絵里をどうにかして
誤魔化さないと、と、必死に頭の中で
対処法を考えていくー。
”とにかく、人違いだってことで押し通さなくちゃ”
野々花はそんな風に思うと、口を開くー。
「ーーち、違いますからー」
とー。
これ以上、色々と話をしているとボロが出かねないー。
そう思いつつ、野々花は
それだけ言って立ち去ろうとすると、
「ーーあ、宮坂さんー!」と
メンテナンス職員の一人がちょうど、声を掛けて来てしまったー。
野々花は「えっ!?あっー」と、
顔見知りの職員の方を見つめながら、
絵里の方を振り向くと、
”宮坂さん”と呼ばれた野々花を見て、絵里はニヤニヤと笑っていたー。
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「ーーー別に、隠すことないじゃない?」
絵里がそう言葉を口にすると、
野々花は「でもー」と、ため息を吐き出しながら、
「ー中には”皮人間”って呼んできて嫌がるような人もいるから」と、
そう言葉を口にする。
「それはそうだけどー…でも、隠して生きるのって辛くない?」
絵里の言葉に、野々花は”それも確かにあるけど”と、した上で、
”でも、皮人間だと知られてみんなから辛く当たられる方がわたしは嫌かな”と、
そう説明する。
誰にも知られたくないからこそ、隣の県のメンテナンスセンターまで
来ていたことや、
親友の夏帆は”皮人間”を強く嫌っているために、
絶対に言わないでほしい、ということを伝える。
「ーふふー、言わない言わない」
絵里はそこまで言うと、
「ーわたし、小さい頃はこの辺りに住んでて、このメンテナンスセンターに
ずっとお世話になってたから、だから一人暮らしを始めた今も
ここまでわざわざ来てるの」と、
遠く離れたメンテナンスセンターを利用している理由を説明したー。
「ーーでも、宮坂さんが”わたしと同じ”なんて思わなかったなぁ~…」
絵里はそれだけ言うと、
「あ、わたしは”笠松 穂香(かさまつ ほのか)”ー」と、
”中の人”の名前を口にするー。
「ーまぁ、覚える必要もないけどねー
大学では杉並 絵里でいいしー」
絵里がそう言うと、野々花は苦笑いしながら
「あははー…わたしはー、”山原 茂助”ー」と、中の人ー…
自分自身の名前を口にして自己紹介をするー。
がーーー
「ーーー山原 茂助ー?」
絵里はそう言葉を口にすると、露骨に表情を歪めたー。
しかし、野々花にそれを悟られる前にすぐに笑顔を浮かべると、
「ーー中身の名前を知ると、なんだか変な気分だね」と、
そう言葉を口にしたー。
野々花は、絵里に”皮人間”であることを気付かれてしまったことに
少し戸惑いながらも、
”気付かれたのが、杉並さんでよかったー”と、
そんな風に思いつつ、安堵の息を吐き出すのだったー。
しかしー…
その数日後ー。
「ーー夏帆ちゃんおはよ~!」
いつものように、野々花が親友の夏帆に声を掛けると
「ーー…っ!」と、夏帆が野々花に対して露骨な”敵意”を向けて来たー。
「か…夏帆ちゃんー?」
野々花が困惑した表情を浮かべると、
夏帆は「近寄らないで!皮人間!」と、嫌悪感を露わにしながらそう叫んだー。
「ーえっ…わ、わたしはー」
野々花が慌てて、何か言葉を口にしようとするも、
夏帆は「今すぐわたしの前から消えて!」と、
声を荒げるー。
「そ、そんなー……わ、わたしは夏帆ちゃんのことー」
野々花は強くショックを受けながら
言葉を振り絞るー。
けれども”人の皮を着ている”人間を、徹底的に嫌っている夏帆は
「あんたなんか友達じゃない。2度とわたしに話しかけないで」と、
それだけ言葉を口にして、立ち去ってしまったー。
野々花はショックを受けて呆然と立ち尽くすー。
すると、そこに別の友達がやってきて
「野々花ー?大丈夫?」と、心配そうに言葉を口にするー。
野々花は大学内で”人気者”のポジションにいるー。
友達は夏帆だけではないし、男女問わず仲の良い人は多いー。
が、その中でも”夏帆”は野々花にとって一番の友達でもあったために
”皮人間”だと気付かれて、ある意味予想通りのリアクションを
取られてしまったことは、とても大きなショックであるのも
確かだったー。
「ーーそっかー…夏帆ちゃん、”皮”を着てる人のこと
嫌ってるもんねー」
野々花の友人の一人・蘭(らん)がそう言葉を口にする。
蘭自身も、皮は着ていないー、
つまり、”自分の身体”で生きている人間であるものの、
彼女は特に”皮”に対しては偏見を持っていないー。
「ーでもまぁ、気を落とさないでー
わたしにとって、野々花は野々花だから」
蘭のそんな言葉に、野々花は「ありがとう」と、少し気持ちを
楽にしながらそう答えると、
「そういえばー…何でみんなわたしのことー…?」と、
野々花が”皮人間”であるという話が広まっている理由を聞くー。
すると、蘭は「あぁ、それはねー…」と
少し気まずそうにしながら、
「杉並さんがみんなに言いふらしててーと、そう呟くー。
大学内で野々花と同じく”人気者”の絵里が、
野々花が”皮人間”であるということをばらしたというのだー。
”「ーふふー、言わない言わない」”
メンテナンスセンターで顔を合わせた時の絵里を思い出すー。
絵里は確かに”言わない”と言っていたー。
それなのに、どうしてー?
そう思いつつ、野々花は絵里を探し出して声を掛けると、
絵里は言ったー。
「ーだって、宮坂さんー、中身”男”なんでしょ?」
絵里が軽蔑する眼差しで言ったー。
絵里の”中身”は、同性ー…つまり、中身も女だー。
が、野々花の中身は、異性ー
中身と使っている皮の性別が違うー。
「ー男なのに、女として振る舞ってるなんてー
どういうつもり?」
絵里はそう言葉を口にするー。
絵里は先日、メンテナンスセンターで野々花と鉢合わせした際に、
最初は”皮仲間が見つかった”と、喜んでいたものの、
中身の名前を聞いて、一気にその気持ちが失せたー
それは何故かー。
彼女は、”異性の皮”を着ることにはとても否定的な考えを持っていたからー。
絵里の”中の人”である”笠松 穂香”は、
女であれば女の皮を、男であれば男の皮を着るべきだと、
そんな風に考えていて、
”逆の性別の皮”を着るー…つまり、異性の身体を乗っ取っている人間のことを
女⇒男であっても、男⇒女であっても、偏見を持っていたー。
「ーーわたしは、あなたとは仲良くできない。さよなら」
絵里はそれだけ言葉を口にすると、
そのまま立ち去っていくー。
一人残された野々花は表情を歪めるー。
”またー”
”また、あの時みたいにー”
野々花の皮を乗っ取る前のように”いじめられていた”過去を思い出すー。
けれどー…
「ーーわたしはーー…」
野々花は、立ち去っていく絵里を呼び止めると、
そう言葉を発したー。
「ーーわたしは、”中身”のことを知るといやな思いをする人がいるって
分かってたから、”皮人間”であることを隠してたの!」
とー。
「ーーー」
絵里は立ち止まるー。
「ー杉並さんだって、わたしの中身が男だからきっと、不快な思いをしたんだよね?
だから、わたしのこと、こうやって大学中にバラしたんでしょ?
ー…杉並さんもそうだし、他の人もそうだし、
わたしは誰にも嫌な思いをさせたくないから、
”他人の身体を使って生きている”ってことはみんなに隠してたの!」
野々花がそう叫ぶと、絵里は少しだけ考えるような表情を浮かべる。
「ー知らなきゃ、誰も傷つかないー、傷つけない」
野々花がさらにそう言葉を口にすると、
絵里は表情を曇らせながら野々花の方を見つめつつー、
言葉を続けたー。
「ーーーー……そういう考え方もあるかもねー。
でも、もう遅いからー」
絵里は、少しだけ野々花に理解を示したのか
それだけ言葉を口にすると立ち去っていくー。
そんな絵里の後ろ姿を見つめながら野々花は
”もう、わたしはいじめられていた頃のわたしとは違うー”と、
この状況を乗り越えることを決意して、ゆっくりと歩き出したー。
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結局ー、”皮を着ている人間”であることが
明るみに出ても、野々花の立場が大きく壊れることはなかったー。
相変わらず、大学内では”人気者”のままー。
蘭をはじめ、友達のほとんどは今までと変わらず接してくれているー。
かつて、野々花の”中身”であった茂助は”いじめ”を受けていた。
けれど、両親が”野々花”の皮を買ってくれて
美貌を手に入れて、その状態で生活し、
その間にすっかりと自分に自信をつけたー。
もし、当時の気持ちのままなら、
絵里に対しても何も言い返すことが出来ず、
一人で自信を失って、みんなの前から遠ざかって
孤立していたかもしれない。
でも、今は違うー。
結局ー、野々花の願うような
”誰にも嫌な思いをさせない”ということは叶わなかったー。
親友の夏帆や、他にも数名、”皮人間”に偏見を持つ人間は
一定数いて、そういった子のほとんどは野々花の前から去ってしまった。
親友の”夏帆”はかつて妹がいて、
5年以上前ー、その妹が病気で倒れて
助からない状況になり、”制度”によって皮にされてしまったー。
この世界では、重罪を犯した者・病気でもう助かる見込みがない者・自ら望んだ者は
”皮”にされるー。
本人や家族が嫌がったとしても、食糧問題に揺れるこの世界では
例外はない。
夏帆は泣きながら、妹が皮にされるのを必死で拒んだー。
けど、妹は皮にされ、見知らぬ男にその身体を使われているー。
それが、夏帆の”皮人間”を憎む理由ー。
皮人間を受け入れられない理由ー。
”わたしは、あなたとは仲良くできないー。ごめん。”
夏帆は、後日、野々花にそう言葉を口にした。
野々花も「うん、わかったー。ごめんねー」と、
夏帆の過去を理解した上で、そう言葉を返して、
二人の友情は終わったー。
「ーーーー」
野々花は、親友だった夏帆との別れを悲しそうに思い出しながらも、
空を見上げるー。
”人を皮にする技術”のおかげで、
茂助はいじめられていた人生から、人気者としての人生を歩み、
精神的にも大きく立ち直ることができたー。
けど、自分のように、この力に救われた人間もいれば、
夏帆のようにこの力のせいで苦しんだ人たちもいるー。
みんなが幸せになるのは難しいー。
本当に、難しいー。
でもー…
野々花はせめて、この譲り受けた身体を大切に
この先も生きて行こうと改めて決意するのだったー。
おわり
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コメント
人を皮にする力が当たり前のように存在している世界での
お話でした~!★
(この世界で)人の皮を着て生きる場合は
隠していた方が、安心…な気がしますネ~!!
お読み下さり、ありがとうございました~!★!
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