彼はー、”階段から転がり落ちた相手と入れ替わる”
そんな能力を持っていたー。
その力を使うために、
階段で入れ替わりたい相手にタックルを
仕掛けていく男ー。
これは、迷惑男の入れ替わり物語…!
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彼の名は山里 伸樹(やまざと のぶき)ー。
彼には、”階段から転がり落ちた相手と入れ替わる能力”があったー。
どうして、そんな能力を得ることができたのかー。
それは、8年前ー。
彼がまだ男子高校生だった時代に遡るー。
8年前、男子高校生だった彼は
”吾輩の名は”という、江戸時代を舞台とした入れ替わり映画を見て、
入れ替わりの虜になった。
数々の入れ替わり作品を制覇し、
アニメ、映画、漫画、小説はもちろん、
ゲームや舞台まで、あらゆる入れ替わりを網羅したのだ。
大学では”入れ替わり系サークル”を立ち上げるほどに
入れ替わりに夢中になり、
いつしか彼は”この世に存在する全ての入れ替わり”を
読み、見て、楽しみ尽くした。
筋金入りの入れキチと言ってもいい。
が、全てを制覇した彼は、数週間の間、虚無感に襲われてしまった。
”新たな入れ替わり”を楽しもうとしても、
もう彼の知らない入れ替わりはこの世に存在しないのだから、
無理もない。
そして、彼は禁断の境地にたどり着いてしまったー。
”俺も実際に入れ替わりを経験してみたい”
とー。
大学を卒業した彼は就職もせずに、
山に籠り、自給自足の生活を始めたー。
”入れ替わり能力”を習得するための厳しい修行を一人続ける伸樹。
入れ替わるイメージを頭の中に浮かべて、
そのイメージを具現化するー。
入れ替わっていないのに、入れ替わったと思い込めるレベルにまで
そのイメージ力を高めていき、
さらには、相手の身体に自分の精神を飛ばすイメージ、
それを可能にするための精神力ー、
あらゆるものを鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛え続けたー。
あまりにも過酷な山籠もり生活を
5年間も続けた彼は、
すっかり仙人のような風貌になっていたものの、
それでも彼は気にせずに修行を続けていたー。
そんなある日、山道の階段になっている部分を歩いている最中に、
彼は”クマ”に襲われてしまったー
「ーー!!!!」
クマに必死に抵抗しようとする伸樹ー。
しかし、大した武器も持っていなかった伸樹は、
クマの力に追い詰められて死を確保する。
がー、その時だった。
伸樹が足を滑らせて、クマも一緒に階段から転落するー。
階段を転がり落ちながら、
彼は人生の”走馬灯”のようなものを見た。
入れ替わりー
入れ替わりーー
入れ替わりーーーー
走馬灯の光景まで入れ替わりのことばっかりだった伸樹は
思わず、クマと共に階段を転がり落ちながら笑うー。
階段から転がり落ちた後にクマに食われて死ぬ。
5年間の修行の果てにたどり着いた結末は”これ”なのだと
思わず自分で少し笑ってしまうと、
覚悟をして目を閉じた。
あの世ならば、入れ替わりの魔法が使えるかもしれないー
そんなことを思いながら。
がー…
いつまで経っても”死んだ”ような感じはせずに、
微妙な痛みが足のあたりに走っているだけの状態が続くー。
「ーーー?」
伸樹は首を傾げるー
クマに食われて、痛みを感じないほどに感覚が薄れているー…
そんな可能性ももちろなるけれど、
そうではない気がしたし、実際にそうではなかったー。
「ーーーー!!!」
伸樹が困惑しながら目を開くと、
そこには驚きの光景が広がっていたー。
”伸樹自身”が、自分に噛みついているのだー。
”…???な、なんだこれー…?”
そう思っていると、自分の身体が伸樹の身体ではなくー、
”クマ”の身体になっていることに、伸樹は気づいたー。
”ク…く、く、クマ…!?!?」
自分がクマになっているー。
そんな驚きを前に声を上げると、
「ガゥッ!」と、
クマの口からそんな声が出たー。
”あ、そ、そうか、今の俺はクマだから、人間の言葉を喋ることができないのかー”
そんなことを思いつつ、戸惑いの表情をしばらく浮かべていたものの、
”いや、待てよ!?”と、心の中でそう呟くと、
ようやく伸樹は”自分がクマと入れ替わった”という、
今起きている現実を理解して
”うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!ついに、ついに、入れ替わったぜ!”と、
5年間にも及ぶ修行の成果を喜び、
自分に噛みついている伸樹(クマ)を軽く蹴り飛ばしてどかすと、
その場で万歳をしたり、ガッツポーズをしたりを繰り返し始めたー。
山の中で一人、人間のように喜んでいるクマの姿は、
普通ではあり得ない異様な光景だったー。
伸樹(クマ)は状況を理解することができていないのか、
それでも、クマ(伸樹)の方に向かってくるー。
”おいおい、俺の身体じゃどうにもならねぇだろー”
そんなことを思いつつも、
”ま、入れ替わったおかげで助かったぜ”と、
そう考えてから、
”さっきは階段から転がり落ちたんだよなー…”と、
頭の中で、入れ替わった時に起きたことを
思い浮かべるー。
”ーーーよし、もう一度やってみるかー”
そう思いつつ、クマ(伸樹)は、伸樹(クマ)を
階段の上の方におびき寄せるー。
人間の身体になっても、知能は所詮クマのようで、
「ガゥゥゥゥ!」などと言いながら追いかけて来る
伸樹(クマ)ー。
”へへへへー身体が人間なら、クマも怖くないぜ”
そう思いつつ、クマ(伸樹)は、一瞬躊躇しながらも、
自分自身の鋭い爪で、クマ自身の身体を傷つけていくー。
”いてててててー”
さらに足をわざと痛めつけると、
ガウガウ言いながら近づいて来た自分と共に、
もう一度階段から転落したー。
そしてーーー
「ーーーー!!!!」
階段から転がり落ち終えた伸樹は身体を起き上がらせると
自分が、自分の身体に戻っていることを確認して、喜びの表情を浮かべるー。
「へ…へへ…すげぇ…!!すげぇ…!!!
俺は、俺は、本当に入れ替わる能力を手に入れたんだ!」
そう叫びつつ、伸樹はハッとしてクマの方を見ると、
身体を元に戻す直前に、クマになった伸樹が”わざと”自分の身体を
傷つけておいたおかげか、苦しそうにして、倒れ込んでいた。
「へへへへへー…まさか身体が入れ替わるなんて思ってなかっただろうな」
伸樹は満足そうにそれだけ言葉を口にすると、
「ーー俺はついに入れ替わり能力を手に入れたぞ!!!!」と、
嬉しそうにそう叫んだー。
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”階段から転がり落ちた相手と入れ替わる能力”ー。
それが、伸樹が身に着けた入れ替わり能力だったー。
”本当は相手とぶつかっただけで入れ替わったり、
相手を見つめただけで入れ替わったりできた方が
よかったけど、でもまぁ、仕方ないよなー”
伸樹はそう思いつつ、
公園の大きな階段の方を見つめていたー。
”階段から転がり落ちた相手と入れ替わる能力”を手に入れた伸樹は
その力を使って、入れ替わりを定期的に楽しんでいたー。
入れ替わって、入れ替わって、入れ替わってー、
己自身で”入れ替わりのストーリー”を作り上げるー。
そのために、入れ替わりを繰り返していた。
”今日は、あの子でいいかー”
下校中の真面目そうな雰囲気の女子高生が階段をゆっくりと登り始めたのが見えたー。
伸樹はすぐに、サッと姿を隠すと階段の上の方へと回り込んで”慌てている様子”で
階段を降り始めるー。
「やばい、やばい、やばい、遅刻するー」
そんな言葉を口にしながら、階段を駆け下りる伸樹ー。
もちろん”遅刻しそうな予定”など何もない。
彼はほぼニートな状態で、遅刻も何もないのだー。
それでも”遅刻する”と口にしながら
”慌てているフリ”をする伸樹ー。
そしてー
わざと、階段を登っている真面目そうな雰囲気の女子高生に
ぶつかってみせるー。
それも、”意図的につぶかった”と思われてしまうような
嫌なぶつかり方ではなく、
”本当に急いでいて、たまたまぶつかってしまった”と、
そう思われるようなぶつかり方だー。
彼はー、階段から転がり落ちた相手と入れ替わる能力を手にしたあと、
”いかに自然な雰囲気を装って入れ替わることができるか”を
自分なりに必死に研究した。
そしてその結果、身に着けたのだ。
”わざとじゃなくて、たまたまぶつかっちゃったんです!ごめんなさい!”と
そういう風に見える自然なぶつかり方を演出する方法をー
「あっ!?」
「ー!?」
”わざと”階段を登っている最中の女子高生と
”自然な形”でぶつかった伸樹は、そのままその女子高生と転がり落ちるー。
階段を転がりながら、その痛みに耐えつつ、
彼は内心で思わず苦笑するー。
入れ替わるためとはいえ、自分の能力は、毎回こんな風に
痛みに耐えなくちゃいけない。
階段から転がり落ちるシチュエーションは王道とは言え、
我ながら難儀な能力でもある、と、そんな風にも思う。
「ーーーー!!!」
階段から転がり落ち終えた伸樹は、
すぐに身体を起こすと、自分がセーラー服を着ていることを確認して、
可愛らしい声で「よっしゃ!」と、小さくガッツポーズする。
が、当然、いきなりガッツポーズなどをしていたら
”わざと”であることに気付かれてしまう。
あくまでもガッツポーズは小さく、こっそりとしながら
「ーこ、これは、一体…、ど、どうなってー…?」と、
入れ替わった相手の女子高生の身体でそう言葉を口にするー。
”お、思ったよりも可愛い声だなーへへ”
女子高生と入れ替わった伸樹は、そんなことを内心で思いながら
ニヤニヤと笑みを浮かべると、
伸樹になった相手の方に近付いていくー。
”自分の身体”に近付くときには、もうニヤニヤするのはやめて
すっかり真顔になっていた女子高生になった伸樹は、
「あ、あ、あの…だ、大丈夫ですかー?す、すみません」と、
そんな声を掛けるー。
あくまでも、”わざとじゃなくて、事故で入れ替わってしまった”
そう演出するために、”急に身体が入れ替わってしまって困惑しています”と、でも
言いたげな雰囲気を演出していくー
「え…あ、はいー…え!?ーわ、わたしがー…」
伸樹になってしまった女子高生は、そんな言葉を口にすると同時に、
心底困惑したような表情を浮かべているはずー。
それもそのはずー、
普通は入れ替わるなんて思わないだろうし、
目の前に”自分がいる”となったら、
何が起きているのか分からずに、混乱してしまうのも
無理もない話だ。
「な、なんか、声がちゃんと出ないー…?」
伸樹になった女子高生は、自分の口から普段の自分の声ではなく、
”男”の声が出ていることに混乱してか、
そんな言葉を口にしているー。
その様子を見た女子高生になった伸樹は
「お、落ち着いて下さいー、ぼ、僕にもよく分からないんですけど、
ーー…ぼ、僕とあなたの身体が入れ替わってしまったみたいでー」
と、可愛い声で”善良な男性”を演じながら、そう言葉を口にするー。
伸樹は、一人称も使い分けていて、
普段は”俺”であるものの、こうして入れ替わる時には”僕”と言っているー。
少しでも”悪意のない男”を演出するために、
彼自身が気を付けていることの一つだ。
「い、い、入れ替わっ……?え…」
伸樹になった女子高生が混乱の表情を浮かべる。
そんな様子を見て女子高生になった伸樹は
「ま、まずは落ち着きましょう」と、そう言葉を口にすると、
そのまま”今の状況”を整理し始めたー。
もちろん、伸樹にとっては”必要のない”作業ではあるー。
ただー、”いい人”を演じるために、
これも彼の入れ替わりライフには重要なことの一つだったー…。
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「ーーー……わ、わたしたち、これからどうすればー…?」
伸樹と入れ替わった相手は、
近くの高校に通っている、今岡 梨菜(いまおか りな)ー。
伸樹になった梨菜が、不安そうにそう言葉を口にすると、
梨菜(伸樹)はニヤニヤしないように気を付けながら
「ーー…どうすれば…いいんでしょう…?」と、そう言葉を口にする。
やがて、”入れ替わったことを周囲に伝えても、お互いおかしくなったと
思われるだけ”と、そういう方向に話を持って行き、
お互いのフリをして生活することに決めるー。
「ぼ、僕ー…変なことは絶対しないので、安心して下さい」
梨菜(伸樹)はこれまでの会話で梨菜をある程度信頼させることに
成功してそんな言葉を口にするー。
そして、仕事は個人でやっているから、気にしなくていいとだけ
梨菜に伝えて、
そのまま、二人はお互いの家に帰ることになったー。
梨菜になった伸樹は、邪悪な笑みを浮かべながら
「さ~て、今回も入れ替わりライフを楽しませてもらうぜー」と、
嬉しそうにそう囁くのだったー。
②へ続く
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階段から落ちることで入れ替わることができる能力を
会得した男の物語デス~!!
毎回階段から落ちるのは大変そうですネ~笑
続きはまた明日デス~!!

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