<憑依>憑依の乱①~歪み~

戦国時代ー。

とある武将が”憑依”の力を手に入れたー。

その力を使い、欲望の限りを尽くした男と、
それを阻止しようとした男の物語ー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー俺たちは、佐伯(さえき)様のために働くんだー!」

「ーーーへへー絶対に負けないからな!恭二郎(きょうじろう)!」

戦国時代ー
とある場所で生まれた二人はー、
小さい頃から、”大きくなったら”
この地方を統治する大名・佐伯 勝之進(さえき かつのしん)に
仕えることー、
そして、”誰もが笑って暮らせる世”を二人で作り上げるのだと、
そんな夢を語っていたー。

「ーーふたりとも、あまり無茶はしないでねー…」
そんな二人と”幼馴染”として育った、近所の食事処の娘・雪(ゆき)は、
いつも二人のことを心配していたー。

”恭二郎”は、ひたすら真っすぐな性格ー。
ただ、あまりにも真っすぐすぎて危ういところがあるー。

もう一人の、辰丸(たつまる)は、
実力はあるものの、少し不真面目な一面もあり、
いつか、それが災いしないかどうか、
雪はいつも心配していたー

ひたすら真っすぐな恭二郎と、
少し不真面目な辰丸ー、
そして、心配性の雪ー。

三人はやがて大人になり、
恭二郎と辰丸は、小さい頃から”夢”として語っていた
佐伯家に仕えるようになったー。

二人とも小さい頃からの修行の成果を存分に発揮ー、
佐伯 勝之進からも信頼を勝ち得ていたー。

「ー恭二郎ー。辰丸ー。
 お前たちの活躍は目覚ましいものがあるー。
 これからも、頼むぞー」

今日も、盗賊の討伐のために出陣した二人を労う
佐伯 勝之進ー。

「はっー。これからも殿のために尽くしますー」
恭二郎は嬉しそうにそう言葉を口にすると、
辰丸と共に、そのまま”殿”のいる部屋から
出て、廊下を歩いていたー。

「ーーこれからは俺たちが、殿を支えていくんだー」
恭二郎は、目を輝かせながらそう言葉を口にするー。

「へへーそうだなー。
 恭二郎ー。これからも、俺たち二人で頑張って行こうぜー」
相変わらず少しいい加減なところのある辰丸が
そんな言葉を口にすると、
恭二郎も静かに頷いたー。

がーー
”憧れの世界”は、小さい頃から真っすぐな恭二郎が
思い描いていた世界とは、少し違っていたー。

そこは、恭二郎が思うような輝かしい世界ではなかったのだー。

”殿”である、
佐伯 勝之進は確かに、”仁君”ではあるー。

しかし、その部下には汚職に塗れた人間もいるし、
佐伯 勝之進自身も、
”全てが理想通り”ということではなく、
時には君主として、非情な判断を下したり、
やむを得ず”何かを捨てて、何かを得る”という判断をすることもあったー。

が、小さい頃からひたすら真っすぐな恭二郎は、
幼馴染の”雪”が不安を抱いていた通りー、
理想と現実の違いで苦しみ始めていたー。

そしてーー

「ーー恭二郎ー。どうしてそのようなことをしたー?」

恭二郎はー、”戦”で、事前の作戦通りの動きを取らずに、
味方に壊滅的な被害を出す原因を作ってしまっていたー。

恭二郎は、戦場となる場所の近くにある
”村”を助けようとして、
独断で行動を取った挙句、味方の作戦が敵に露呈する原因を作り、
結果的に部隊を壊滅させてしまったのだー。

別方面から進軍していた辰丸の活躍により、
相手にも大打撃を与えることには成功し、
結果的に戦は”痛み分け”の状態で終わったものの、
恭二郎は、”殿”である佐伯 勝之進から叱責を受けていたー。

「ー私には、どうしてもあの村を犠牲にすることはできませんでしたー」
恭二郎がそう言い放つと、
佐伯 勝之進はため息を吐き出したー。

「恭二郎ー。あの村の者は、事前に避難させたと
 言っていただろうー。
 避難を拒んだ者に関しては、どうすることもできぬー。」

佐伯 勝之進はそこまで言葉を口にすると、
「ー全てを救おうとすれば、全てを失うー。それがこの世の真理よー。
 だからこそ、儂はその時”一番犠牲が少なくて済む”道を
 選択して、歩んできたー。」
と、そう続けるー。

が、真っすぐすぎる恭二郎はその言葉に納得できなかったー。

「ーでも、だからってー…私はー」
恭二郎は震えるー。

「ー恭二郎よー。村からの避難を拒む者たちを
 どうするつもりだったのだー?

 そのまま、戦わずに、奥寺(おくでら)の軍勢を
 我々の領地の奥に招き入れれば良かったのか?」

ー”奥寺”とは現在対立している別の大名で、
佐伯 勝之進の領土を幾度も脅かしている存在だー。

「だが、考えてみろ。
 そうなれば、より苦しむ民たちが増えてしまうー。

 儂はこの地を統べる者として、
 民を守らねばならぬー」

佐伯 勝之進は、そう言葉を口にするー。
彼は決して”己の目的のために犠牲を厭わない”タイプではないー。

がー、”全ての人間を救うことができる”とは思っていないー。
それをしようとすれば、この世界では生き抜けないことを理解しているー。

しかし、恭二郎はやはり、それを理解できなかったー。

「ーーーー私にはー、どうしても理解できませぬー」
恭二郎は悔しそうにそう呟くと、
そのまま立ち去って行くー。

「ーおい!恭二郎!」
近くにいた古参の武士・源三(げんぞう)がそう叫ぶも、
佐伯 勝之進は「良いー。頭を冷やす時間も必要であろう」と、
静かにそう言葉を口にしたー。

それからー、
恭二郎は”転落”し始めたー。

生まれ育った地に戻り、酒に溺れるようになったー

「ーこの世の中は、腐っているー!
 佐伯様も、しょせんは己の野心ばかりだ!

 全ての人間を救わずして、どうすると言うのだー!」

恭二郎はそう叫びながら、
幼馴染の”雪”の、父親が営む食事処で酒を飲み干していたー。

「ーーーもう、そのぐらいにしておいてー」
”雪”が心配そうに声をかけるも、
恭二郎は「うるさい!私の何が間違っているというのだ!」と、
そう叫ぶー。

「ーー…」
”雪”は、悲しそうな表情を浮かべながら恭二郎から離れるー。

そんな中ー、
共に”殿のために戦いたい”と恭二郎と共に願っていた
辰丸は、順調に戦果を挙げ、どんどん出世していたー。

「ーーーへへー久しぶりだなー
 元気だったかー」

今日は久しぶりに暇を見て、
”雪”がいる店に足を運んでいた辰丸は、
小さい頃と変わらぬ様子で、最近の出来事を口にするー。

がー、”雪”と話している最中に
「恭二郎のやつは、ここにいると思ってたんだがー
 いないのか?」と、ふと、辰丸はそう言葉を口にしたー。

出世しても、立場に差がついても、
辰丸は恭二郎のことを気にかけていたー。

がー…
恭二郎は既に”ここ”にはいなかったー。

「ーそれがーー」
”雪”は心底悲しそうに、
ここで飲んだくれた挙句に、半月ほど前から
山奥にいる”仙人”とやらにのめり込んで、
その仙人のところにいるのだと言うー。

「ーー仙人ー…
 そいつは何者だー?」
辰丸が不安そうに尋ねると、
「ーわたしにも分かりませんー」と、”雪”は困惑の表情を浮かべたー。

「ー恭二郎ー…」
辰丸は、恭二郎の身を案じながらも、
それ以上は何もすることは出来ず、
「また来るよー」と、そう言葉を口にして、
立ち去って行ったー。

がーーー

「ーーーー凄いー
 この力があればー、私はーー
 天下を思い通りにすることもできるかもしれぬー…!」

山奥で、仙人を名乗る人物に心酔して、
その仙人の元で”修行”を続けていた恭二郎は
ある力を手に入れてしまったー。

それがー
”憑依”の力だったー。

「ーーーははっ…ははははっ!
 この世界は腐っているー!
 腐っている世界を正すにはー
 私のような正しい人間が、一度世を作り直さねばならぬのだ!
 ははははっ!」

恭二郎はそう叫ぶと、”憑依”の力を手に、
山から下りて、そのまま佐伯 勝之進のいる城へと向かうのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー恭二郎ー」
佐伯 勝之進の城内で、恭二郎の姿を目にした辰丸は
驚いた様子を浮かべたー。

「ーー心配したぞーようやく復活かー。
 雪も心配してたぞー」
辰丸がそう言いながら笑うと、恭二郎は、
笑みを浮かべながら立ち止まったー

「あぁ、ようやくだー」
とー。

「ーー…恭二郎?」
不気味な笑みを浮かべながら立ち尽くす恭二郎を前に、
辰丸は不安を覚えながらその名前を呼ぶー。

すると、恭二郎は言ったー。

「この世界は腐っているー
 だから、私がこの世界を変えるのだー」

とー。

「ーー…!?どういうことだー?」
辰丸がそう言い返すと、
恭二郎は笑いながら辰丸のほうを見つめるー。

「ー”誰もが笑って暮らせる世”ー
 辰丸、小さい頃からの我々の夢ー
 忘れたわけではないだろ?」

恭二郎のその言葉に、
辰丸は「へへー。もちろん、覚えてるさー」と、
小さい頃のように笑いながらそう言葉を口にするー。

すると、恭二郎は満足した様子で頷くと、
「”その時”が来たんだー」と、そう言葉を口にして立ち去って行くー。

「ーーーー恭二郎ー」
辰丸は不安そうに恭二郎の後ろ姿を見つめると、
そのままゆっくりと歩き始めたー。

そしてーーー

その”数日後”
”それ”は起きたー。

「ーーお前…!自分が何をしているのか分かってるのか!」
辰丸が刀を手にそう叫ぶー。

その目の前にいたのはー
辰丸と恭二郎の幼馴染の町娘・雪だったー。

「ーー”雪”は私を拒絶したんだ!
 私の夢を否定したんだ!
 だからー…こうしてやったんだよ!」

目の前にいる”雪”の様子がおかしいー。

怒りの形相を浮かべながら声を荒げているー。

そんな様子を前に、
辰丸は言うー。

「ー”雪”を解放しろー
 今ならまだ間に合うー

 ーー恭二郎!」

とー。

「ークククー
 もう遅いー
 雪はー、コイツは私を裏切ったんだ!
 だから、こうして身体を奪ってやったんだ!」

雪は笑いながらそう叫ぶー。

恭二郎はーー
幼馴染の”雪”に憑依しー、
その身体を奪ってしまったのだー。

「ーーはははっ!
 私を否定した雪もこの通り、私のものだ!
 辰丸!これで分かっただろ?
 私の力があれば、天下を取れると!」

憑依された雪が辰丸に向かって
嬉しそうにそう叫ぶー。

しかし、辰丸はそんな”雪”の姿を見て
不満そうな表情を浮かべると、
「ーーーー…雪を悲しませてー
 何が誰もが笑って暮らせる世だー」と
拳を握りしめるー。

「ー”佐伯様”も手にかけてーー
 自分のしていることが本当に分かっているのか!」
辰丸が怒りに震えながら言うと、
「ーーーはははっ!辰丸!見ろよ!
 ”雪”だって嬉しそうに笑ってる!」
と、笑いながら、雪の身体でそう叫ぶー。

「ーお前がその身体で勝手に笑っているだけだろうが!」
辰丸がそう叫び返すと、
雪はニヤニヤしながら、
「ーー辰丸ーーお前がなんと言おうと、私は天下を取るぞー
 この腐った世を”雪”と共に正すのだー」
と、そう言葉を口にするー。

「ーふざけるなー」
辰丸がそう返すと、刀を握りしめたまま、
憑依された雪を睨みつけるー。

「ー辰丸ー…もう一度だけ言う。
 ”私と共に”新たな世を作ろうではないかー
 小さい頃に語った夢を、実現しようではないかー」
雪が邪悪な笑みを浮かべながら
手を差し伸べて来るー。

”雪”の姿でそう言われると、
変な気持ちになるー。

が、辰丸はその手を払いのけると、
「俺は、お前を止めるー」と、
そう宣言するー。

「ー怪しげな力に魅入られて、乱心したお前を
 俺が止めるー」
辰丸のその言葉に、雪に憑依している恭二郎は表情を歪めるー。

「ー辰丸ー。お前なら私の理想を理解できると思っていたのにー」
心底残念そうにそう呟くと、雪は「まぁいい」と、
それだけ言葉を口にして、
その場から立ち去ろうとするー。

「ー待て!恭二郎!
 雪の身体、返してもらうぞ!」
辰丸がそう叫びながら刀を、憑依されている雪に向けるー。

が、雪はニヤッと笑うと、
「ー雪ごと私を斬るつもりかー?」と、
そう言葉を口にするー。

「ぐ…」
辰丸は刀を手にしたまま、その手を震わせるー。

「ークククーお前には何もできないー
 そうだろ?辰丸ー」
憑依された雪はそう言うと、「私は天下を取るー。邪魔だけはするなよ」と、
そう言葉を口にして、そのまま立ち去って行くー。

「ーー恭二郎ー」
一人残された辰丸は、呆然とその様子を見つめることしかできなかったー

②へ続く

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コメント

憑依の力を手に入れて暴走…!
①の後半に至るまでの描写は、②で詳しく出て来るので、
それも楽しんでくださいネ~!

今日もありがとうございました~~!

続けて②をみる!

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