<入れ替わり>一番憎いこの身体③~憎しみの果てに~(完)

違反まみれの運転で、
妻の命を奪った女ー。

妻の命を奪われた夫は、
偶然その女と入れ替わってしまい、
”一番憎いこの身体”を破滅させようとするー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ちょうど良いビルを見つけた
梨音(昌平)は、そのビルの中へと入っていくー

「ーー…」
ビルの階段をのぼりながら、
梨音(昌平)は、妻の絵美のことを思い出すー。

”名前、何にしよっか~?”

絵美が、あの女に殺される前日ー。
これから生まれて来る赤ちゃんの名前を
楽しそうに考えていたー。

昌平も、そんな絵美と一緒に、
”自分たちの子供”の名前を考えたー。

結局、あの日、名前は決まらなかったー

けれどー
あんなに嬉しそうにしていた妻・絵美の顔を
忘れることができないー。

そしてー、
その妻の命をー
これから生まれて来る新しい命を
一瞬にして奪い取り、開き直るあの女のことを
昌平は許すことはできなかったー

「待って!待ってよ!!」
階段を上る梨音(昌平)の背後から
昌平(梨音)の声が聞こえてくるー

「ーあ、あたし、まだやらないといけないことがあるの!!
 お母さん、病気で寝たきりだし、
 あたしがいないと、お母さんはー!」

昌平(梨音)が泣き叫びながら、そう叫ぶー。

「そっかー」
梨音(昌平)はそれだけ言うと、
「ー絵美にもー…俺の妻にもやりたいこと、あっただろうなぁ」
と、笑うー。

そして、そのまま再び屋上を目指し始めるー

「ーーちょっと!! やめてってば!!」
昌平(梨音)がそのあとを追うー。

しかしー
そうこうしているうちに、ビルの屋上にたどり着いた
梨音(昌平)は、そのまま真っすぐビルの端っこへと向かったー。

昌平(梨音)は、泣きながら、
梨音(昌平)にしがみつくー

「や、やめてー…やめて…やめて!!」
パニックになっているのか、その表情は青ざめて、
ガクガクと震えているー

「ーー妻が君の車を避けれなくて、本当に
 悪かったなー
 だから俺は責任取って死ぬよ」

梨音(昌平)はなおも皮肉を込めて言うー。

この女は
”あたしの車を避けれなかったほうが悪い”と
言い放ったー

それなら責任取って死んでやろうじゃないかー。
そう思って、梨音(昌平)は笑うー。

「ーーも、もう…わかりましたー…
 わかりましたからー
 全部、全部、悪いのはあたしですー」

泣きながら昌平(梨音)が土下座をするー。

「ーー……本当に、本当に、
 申し訳ありませんでしたー」

昌平(梨音)が、屋上のコンクリートに顔を押し付けながら
土下座をするー。

梨音(昌平)は、そんな姿を見つめるー

だが、この女は
今の今まで、謝罪なんてしなかったんだー。

この謝罪も心からのものではなく
ただ単に、自分が助かりたい一心での言葉だと、
梨音(昌平)は強く感じたー。

「ーーー…あたしの身体で飛び降りてもー
 死ぬのは狭山さんだけですよー…
 だから、だから、やめてくださいー」

昌平(梨音)が言うー。

恐らくー
昌平のことを助けたいのではなく、
”自分の身体”を守りたい故の言葉ー。

「ーーそんな言葉に騙されると思ったか?
 君は、自分の身体を守りたいだけだろう?」

梨音(昌平)が言い放つー。

「ーーこんなキラキラした爪をしてー…」

梨音のネイルを見るだけで腹が立つー
こういうものも含めて
全て滅茶苦茶にして破壊したくなるー。

妻と、これから生まれるはずだった子供の
命を奪われて、開き直られてー。

もう、昌平には、梨音への憎しみしか残っていなかったー

”どうしてこいつだけ、普通にのうのうと暮らしているのだ”
とー、怒りが身体中から湧き上がってくるー。

”梨音の身体で梨音に対する怒りを感じる”という
奇妙な状況に少し苦笑いしながらも、
「ーー本気で謝ってるならー、俺の妻と子供を返せ」と、
強い口調で言い放ったー

「ーー…そ、そんなことー」
昌平(梨音)が言うと、
「ー返せよ!俺の妻!元通りにしろよ」
と、梨音(昌平)が言い放ったー。

「ーーーごめんなさい!ごめんなさい!」
悲鳴に似た声をあげながら昌平(梨音)が再び謝罪の言葉を口にするー

「ー身体を返してほしいなら、
 先に俺から奪ったものを返せ!

 ほら、返せよ!
 元通りにして絵美を返せよ!あ?」

梨音(昌平)の怒りの言葉に、
昌平(梨音)は泣きながら、謝罪の言葉を何度も口にするー。

「ーー…あたしの身体で死んでもー
 あたしは、狭山さんの身体で生き続けることだって
 できるんですよー?
 だから、一度落ち着いて、元に戻る方法を考えましょうよ!」

「ーーー!!」

やはりー
”自己保身”ー
そう思えるような発言ー

梨音(昌平)は呆れて首を横に振るー。

それでも、ビルの端の方に向かう
昌平(梨音)を見て
梨音(昌平)は「ま、待って!」と叫ぶー

「ーーさ、さ、狭山さんの大切な人はー
 本当に、そんなこと望んでいるんですかー?」

昌平(梨音)が泣きながら言うー。

「ーーー」
その言葉に、梨音(昌平)は戸惑いの表情を浮かべるー

絵美がもしも、今のこの状況を見ていたらー
何て言うだろうかー。

絵美は、とても優しかったー

加害者である梨音のことを助けてあげてー…とは、
言わないとは思うが、
少なくとも、今の昌平の行動には「やめて」と言うかもしれないー。

”そんなことしないで”と、言うかもしれないー。

”あなたまで死ぬ必要はないー”と言うかもしれないー。

「ーーーーーーー」

「ー狭山さんが死んでも、絵美さんは、喜ばないですよ!!!」
昌平(梨音)が泣きながら叫ぶと、
梨音(昌平)は静かに頷いたー

「ーー絵美はー
 そうだな、喜ばないー
 君の言う通りだー」

”絵美は復讐なんて望まない”

たぶん、それは事実だと思うー。

死んだあとー
もしも死んだ人に意識があるのならー、
復讐を望む人と望まない人がいるだろうー。

けれど、絵美はたぶん、望まない方の人間だー。

”昌平は、昌平の人生を生きてー”と、
言うタイプの人間だー。

”わたしのために、あの女を殺して!”なんてことは
絶対に言うタイプではないー。

それは分かってるー。

夜空を見上げて梨音(昌平)は寂しそうに
「絵美…」と、呟くー。

絵美は、こんなことを望まないー。
絵美の望まないことを、昌平は今、しているー。

「ーーーーー」
ふっ、と穏やかな笑みを浮かべた梨音(昌平)は
昌平(梨音)のほうをまっすぐ見つめたー

「ーーそうだなー…絵美は、こんなこと望んでないー。」
穏やかに笑いながら、梨音(昌平)は何度も頷くと、
やがて、穏やかな口調で言葉を続けたー

「ーーーでもーー俺は望んでる」
とー。

「ー!?」
”死んだあなたの家族は復讐なんて望んでいない”作戦で
この場を乗り切ろうとしていた昌平(梨音)は
表情を歪めるー

「ー絵美が望んでないのは分かってるー
 でも俺は、君が許せないー
 たとえ違法でも、たとえ自分が死ぬことになっても、
 俺は仇を討ちたいー。

 法律が君を裁かないなら、俺が君を裁くー。
 命を懸けて」

梨音(昌平)の言葉に、昌平(梨音)は
「ーーやめてって言ってるじゃん!どうして言うこと聞いてくれないの!」と、
怒り狂った表情で叫ぶー

”自分の顔”を見つめながら
梨音(昌平)は「やっぱ、反省なんかしてないじゃないかー」と、笑うと、
「ー”この世界にいても、もう何もやることも守るものもない”」
と、言葉を付け加える梨音(昌平)ー

「ー俺を抜け殻にしたのは、君だー。
 俺は死んでもいいし、どうなってもいいー。
 ただ、君を裁きたい。
 ただ、君を許せない。それだけだー」

そこまで言うと、「じゃ、俺、死ぬよ。妻が君の車を避けられなくてごめんな」と、
皮肉を再三口にして、そのまま飛び降りようとしたー

「ーうあああああああああああああああ!!」
ついにパニックになった昌平(梨音)が
叫び声を上げながら、梨音(昌平)に近付いてきて
腕を掴むと、そのまま力任せに、梨音(昌平)を
屋上のコンクリートに押し倒したー

”力”は昌平の身体の方が上ー

力任せに、昌平(梨音)は、梨音(昌平)を殴ったり、蹴ったりして
”あたしの身体で飛び降り自殺”を食い止めようとする
昌平(梨音)ー

「あたしの身体を返して!勝手に自殺するなんて絶対に許さないー!
 自殺したいなら、一人でしろ!!!
 あたしを巻き込むな!」

なおも、反省の色0の言葉を叫ぶ昌平(梨音)

”自殺したいなら、元の身体に戻ってから勝手にしろ”と、
叫ぶ昌平(梨音)ー

「ーーー」
梨音(昌平)は、静かに笑みを浮かべるとー
”この時を待っていた”と言わんばかりに、仰向けに倒れた
昌平(梨音)に襲い掛かって来る梨音(昌平)を
足で思いっきり蹴飛ばしたー

挑発すれば、最後には必ずこうしてパニックになって
実力行使に出ると思っていたー。

「きゃあっ!?」
蹴り飛ばされた昌平(梨音)は、屋上から
転落しそうになるー。

梨音(昌平)は、すかさずその手を掴んだー。

「ーーた…たすけてー」
転落しそうになる昌平(梨音)ー
梨音(昌平)が手を離したら、梨音は、昌平の身体で死ぬー。

「ーーー助けてほしいか?」
梨音(昌平)が冷たく言い放つー。

「ーー…た、助けてー…助けて下さいー」
泣きながら言う昌平(梨音)ー。

「ーなら、謝れ」
梨音(昌平)が冷たい声で言い放つー

「ーーぅ… ぅ… ぅぅぅぅぅぅ」
昌平(梨音)は目に涙を浮かべながら
悔しそうな表情を一瞬浮かべたものの、
”このまま死ぬ”恐怖に勝つことはできずー、
「申し訳…ありませんでしたー」と、
謝罪の言葉を改めて口にしたー

「ー本当に、申し訳ありませんでしたー」
今一度、謝罪する昌平(梨音)ー

「だからーー…助けて下さいー
 お願いしますー」
昌平(梨音)が震えながらー
振り絞るようにして、そう言い放つと、
梨音(昌平)は笑ったー

「ーーーいやだ」
とー。

「ーーー!」
昌平(梨音)の表情が絶望に染まるー

「ー俺の妻は、君に命乞いすることすらできなかったー
 君が一瞬にして殺したんだから」

「ーーなんで!!やめて!!やめてよ!!
 あんたの…あんたの身体だって死ぬのよ!?

 こんな…こんなひどいこと!!どうしてするの!!!」

必死に叫ぶ昌平(梨音)ー

「ーーー全部君のせいだよー。
 全部、君のー」

それだけ言うと、梨音(昌平)は、梨音の身体で全力を
振り絞ったー。

正直、華奢な梨音の身体で、昌平の身体を引き上げるのは
大変だったー。

しかしー
人間、危機には限界を超えた力を発揮することがあるー

梨音(昌平)は、昌平(梨音)を屋上に引き上げるとー
「はぁ…はぁ…」と、苦しそうに息をしたー

昌平(梨音)は震えながら梨音(昌平)のほうを見つめるー

「ーーーーーこれで、少しは俺の気持ちが分かったかー?」
梨音(昌平)が言うと、昌平(梨音)は怯えた様子で
何度も頷いたー。

「ーーーーーー…
 ーーー…
 そうか」

梨音(昌平)は静かに頷くと、
「ーじゃあ、元に戻ろう」と、言葉を口にしたー

昌平(梨音)は安堵の表情を浮かべながらー
心の中で”こいつホントうざい!早く元に戻しなさいよ!”と、
呟くー。

梨音は、反省していないー
ただ、助かりたいだけだー。

昌平(梨音)が、少しだけ笑みを浮かべたその時だったー

「ーーーーなんてーーー
 言うとでも思ったか?」

梨音(昌平)の言葉に、昌平(梨音)が「え」と、
言葉を口にした直後だったー

梨音(昌平)が、昌平(梨音)に抱き着いてー
そのまま一緒に屋上から宙に身を投げ出したー

「ーえっ!?!?えっ!?いやあああああああああ!?」
落下しながら悲鳴を上げる昌平(梨音)ー

”希望から絶望に突き落とす”
それが、一番の復讐になると感じた梨音(昌平)は
”一度助けて安心させて” ”その上で一緒に飛び降りる”
という選択をしたー

「ー君の中身も、君の身体も俺は許せないー。
 だから、一緒にこの世界から消してやるー

 あの世で、絵美に謝って貰うー
 だから、一緒にあの世に来てもらうぞー」

梨音(昌平)は言ったー。

梨音の身体で自分が飛び降りても、梨音の中身は残るー。
昌平の身体を突き落としても、梨音の身体は残るー。

どっちか片方だけでも、残してたまるものかー。

入れ替わった時点で、昌平は決意していたー

身体も、心もー
両方”許さない”とー。

「ーきゃあああああああああああああああっ!!!!!」

絶叫ー

それは、人体が落下した音と共に、かき消されたー

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーさぁ、行こうかー」

見たこともないような白い空間ー

そこで、昌平は呟いたー。

梨音が泣きながら昌平を見つめるー。

ここはー
あの世ー。

「ーー絵美に、謝りに行こうか」
昌平のその言葉に、梨音は震えながら頷くことしかできなかったー

一番憎い相手の身体と中身、その両方を破滅させた昌平は、
あの世で、梨音の手を引き、
先に来ているであろう、妻・絵美の元に向かうのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

復讐の入れ替わりモノでした~!

執筆開始前には2種類の結末を考えていたのですが
(もう一方は、甘口ルートデス!)
①を書き始める前に、こっちのルートで書くことを決めて
執筆しました~!

甘口ルートの方が好みの皆様はまたの機会に~!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    まさか心中エンドになるとは。反省ゼロの梨音は自業自得としか思えないので、とても気分がスッとする爽快な結末ですね。

    自分的には昌平が心中失敗して、頭をぶつけるとかして、そのショックで元の自分の事を忘れて、昌平が身も心も憎い梨音になってしまうという皮肉すぎり結末も見てみたかったような気もしますけどね。

    • 無名 より:

      ありがとうございます~!

      その結末も面白そうでしたネ…!笑
      さらにダークな雰囲気がします~★!

  2. 匿名 より:

    さすがの梨音も、ここまでされたら、自分の罪を実感して、心の底から反省して、後悔してたりするんですかね? それとも、この期に及んで、自分は悪くないとか、何で自分がこんな目に、みたいなことを思ってたりするんでしょうか? まあ、どちらにしろ、後悔先に立たず、ですけど。

    ところで、少し気になったのですが、あの世の二人は元の姿に戻ってるんですかね?
    もし、入れ替わった姿のまま、二人があの世に行っていたら、面白くないですか?
    梨音の姿で昌平が妻に再会しても、誰? みたいなことになりそうなので(笑)。

    入れ替わったまま死んでも、あの世では元の姿に戻るのが基本の展開だろうとは思いますけどね。

    • 無名 より:

      流石に反省…して…
      いえ、してないかもしれないですネ~…笑

      あの世では元の姿に…と思ってましたが
      確かに入れ替わったままも面白そうデス!

      ~あの世編~(笑)も書こうと思えば書けないこともないかもしれません~!
      (※今のところ予定はありませんケド…)