無免許・よそ見・スピード違反ー。
最悪の運転で事故を起こし、妻の命を奪った女ー。
しかも、開き直りー…。
そんな一番憎い相手と入れ替わってしまった彼の運命はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お…お、お、俺が、神谷梨音ー?!」
梨音になってしまった昌平は、病室でそう叫んだー
「ーーえ……」
梨音の病室にやってきていた女性看護師は、
突然の”梨音の奇行”に困惑したー。
「ーーーお、俺は狭山昌平です!神谷梨音じゃありません!」
梨音(昌平)がそう言い放つー。
だがー、看護師の女性は何度も瞬きをしながら
首を傾げると、やがて「か、神谷さんー落ち着いて下さいねー」と、
言葉を口にしたー。
「ーーい、いや、あのー…俺はー」
梨音(昌平)はそう言い放つも、
自分でも、困惑して口を閉ざすー。
確かに、自分の口から出ているのは
どう聞いても女の声だしー、
鏡に映る自分の姿は神谷梨音だー。
「ーーー…」
その手の派手なネイルを見るだけで
腹立たしくなってくるー。
”この手が、絵美の命をー”
怒りがこみあげて来るー。
この手が握っていたハンドルがー
運転していた車がー
妻の命を奪ったのだー。
「ーー神谷さんー…だ、大丈夫ですかー?」
看護師の女性が困惑しているとー、
「ーも、もう一人ー」と、
梨音(昌平)は呟いたー。
「もう一人の人はー…?」
とー。
もう一人の人ー、
つまり”自分”のことだー。
昌平は、呼び出した梨音が挑発的な言動を繰り返して
歩道橋から立ち去ろうとしたことで、
もう、何もかもがどうでもよくなってしまい、
立ち去ろうとしている梨音の背後から、
自分の身体ごと転落するつもりで、
猛烈な勢いでタックルをしたー。
悲鳴を上げる梨音と、
自分が歩道橋の階段を転がり落ちていくー
そんなところまでは覚えているー。
だからー
”自分も落ちた”のは間違いないー。
しかし、目を覚ました自分は
梨音になっていたー。
これは、いったいどういうことなのかー。
梨音(昌平)、頭の中で瞬時にいくつかの説を考えたー
”これは、夢である”
”自分は死んで、梨音に取り憑いた状態になっている”
”何らかの理由で自分が梨音に変身しているー”
夢ー、だと思いたいが、
正直、この感覚は夢ではないー。
夢にしては現実味がありすぎるー。
と、なるとー
”俺は死んで、神谷梨音に取り憑いたのかー?”
そう考えるのが妥当だろうかー。
少なくとも、昌平はそう思ったー。
しかしー
看護師の女性は言ったー。
「意識不明の状態ですがー……
命には別状はないとのことです」
とー。
「ーーえ」
梨音(昌平)は、”そうかー”と
心の中で呟いたー
”自分は死んで神谷梨音に取り憑いている”のだと
そう、確信を得るー。
恐らくは、意識不明の状態の自分はー
幽体離脱して、神谷梨音に取り憑いているのだろうー。
そう思ったその直後だったー
病院のスタッフらしき人が、女性看護師を呼びに来るー。
「どうかしましたか?」
その看護師が言うと、
”さっき運び込まれた狭山さんが、意識を取り戻したの”と、
スタッフが言い放ったー
「え」
梨音(昌平)は唖然とするー
狭山さん、とは自分のことだー。
”俺が意識を取り戻した???”
梨音(昌平)は困惑するー。
てっきり、自分は梨音に”取り憑いているー”
つまりは憑依している状態だと思っていたのだが、
”狭山昌平が意識を取り戻した”とは、どういうことなのかー
「ーえ…お、俺が意識をー!?」
梨音(昌平)が叫ぶと、
病院のスタッフが困惑した様子で首を傾げるー。
女性看護師も困惑した様子だー。
「あ、いえー…な、なんでもありません」
梨音(昌平)は混乱しながら
そう言うと、二人が立ち去って行くのを見て、
首を傾げることしかできなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
身体の痛みも少し落ち着き、
病室から外に出る梨音(昌平)ー
「俺が目を覚ましたって、どういうことだー?」
ふと、髪や胸が手に触れたりするー
一瞬、ドキッとしてしまう自分に
腹を立てながら、
”自分の身体”がいる場所を探すー。
そしてー、
ついにー
見つけたー
「ーあたしは神谷梨音なの!!!」
そんな風に騒ぐ男ー
”自分”の姿を見つけたー。
梨音(昌平)は、そんなー
”自分”ー
昌平になった梨音のことを見つけて
”何が起きているか”
すぐに理解したー。
”俺は、この女に取り憑いたんじゃなくてー”
そうー
昌平と梨音は、歩道橋から転落した際に
”入れ替わって”しまっていたのだー。
「ーーあ~~~~~~!!!!」
昌平(梨音)が、梨音(昌平)に気付いて
怒りの形相で近付いてくるー
「ーー!」
梨音(昌平)が身構えると同時に、
「ーあたしの身体、返して!
何なのこれ!?」
と、いつもの調子で言い放ったー。
「ーーーーー」
梨音(昌平)は答えないー。
「ーーちょっと!!!何とか言いなさいよ!
何なのこれ!?
もぅ…ホントマジで最悪…!
早く元に戻して!」
周囲の病院関係者の戸惑いもお構いなしで
そう言い放つ昌平(梨音)ー
梨音(昌平)は、そんな昌平(梨音)を見つめながらー
”あること”を思いついたー
「ーーー何のことですかー…?」
梨音(昌平)がそう言い放つと、
昌平(梨音)は「え…」と、
いつもの強気な表情ではなく、呆然とした表情を浮かべたー
「ー何を、言ってるんですかー?」
梨音(昌平)が言うー。
”わざと”梨音のフリをしたー。
病院関係者は、混乱しながら
”昌平のほう”を、変な人を見る目で見つめたー
それはそうだー
若い女性に対して”あたしの身体を返して”などと叫ぶ男のことを
不審な目で見ない人間は少ないだろうー。
「ーちょ、ちょっと!ふざけないで!」
昌平(梨音)はそう叫ぶもー、
梨音(昌平)はなおも、”わざと怯えたような素振り”を見せたー
やがて、病院関係者に、昌平(梨音)は、落ち着くように言われると、
そのまま少し離れた場所に連れていかれたー。
「ーーまさか、”入れ替わり”なんて、本当に起きるとはー…」
梨音(昌平)は笑みを浮かべるー。
梨音になった昌平が、
入れ替わっていないフリを咄嗟にしたのには理由があるー。
”昌平になった梨音”を、おかしな男だと、
病院の関係者に思わせるため、だー。
だが、
それをすれば
”評判が悪くなる”のは”昌平”のほうだー。
最悪の場合、罪に問われるような事態が起きても
困るのは”昌平”の方なのだー。
元に戻った時のことを考えれば
”昌平(梨音)”が変な風に思われることは
避けなくてはならないー。
しかしー
梨音になった昌平は、”元に戻るつもり”などなかったー。
「ーーーー…!」
病院での治療や、簡易な検査を終えて
異常がないことを確認し、手続きも終えた
梨音(昌平)は退院しようと、病院の出口に向かって
歩いていたー
その時だったー。
「ーこの変態…!あたしの身体を奪おうとしたって
そうはいかないからー…!」
待ち構えていた昌平(梨音)が表情を歪めながら言うー。
どうやら、昌平(梨音)も、歩道橋から転落した際の
怪我自体はそれほど酷くないため、
このまま帰ることができるようだー
「ーーあたしのフリをしても無駄ー。
そうやって、人を変態扱いして、
あたしの身体を奪おうって言うんでしょ?」
昌平(梨音)は、病院から出た梨音(昌平)についてきながら
そう呟くー
”意外と賢い”のか、
病院内では、あれ以上”あたしが梨音なの!”と叫ぶことはなく、
退院するタイミングまで我慢していた様子だったー。
確かに、病院の中でいつもでも
”年下の女に向かって「入れ替わっちゃったの!」”なんて叫んでいればー
梨音になった昌平が否定している以上ー、
”昌平(梨音)が変質者扱い”されて、通報される可能性が高いー。
そうならないために、昌平(梨音)は、病院の外に出るまで、
あれ以上騒がず、待っていたのだー。
「ーー早くあたしの身体、返してよ!この変態!」
昌平(梨音)が叫ぶー
「ーーーー」
梨音(昌平)は、歩き続けたまま答えないー。
「ーー何するつもり…!?
エッチなことしたら絶対に許さないから!
あたしの身体に少しでも変なことしたらー!」
わめき続ける昌平(梨音)ー。
だが、梨音(昌平)はうんざりした様子で
立ち止まると言葉を続けたー
「何勘違いしてるんだー」
梨音(昌平)は、怒りの形相でそう呟くー。
普段のへらへらした感じの梨音とは
別人のような、怒りに満ちた表情ー。
「ーお前の身体でエッチなことをする?
ふざけるなー!
誰がお前の身体なんか!」
梨音(昌平)は言い放つー
「ー妻を殺した女の身体になって喜ぶやつがどこにいるんだ!あ?」
梨音(昌平)が、怒りを込めて言い放つー。
梨音は、確かに”可愛い”のかもしれないー。
だが、どんなに見た目が可愛かろうと、
どんなに見た目が美人であろうと、
”自分の妻を殺して反省もしない女”の身体で
興奮するなど、昌平からすればあり得ないことー。
梨音の身体になったって何一つ嬉しいことはないし、
この声ー
この顔ー
この手ー
この足ー
全てに反吐が出る。
「ーーーだ、だったら、早くあたしの身体を返して!」
叫ぶ昌平(梨音)ー
「ーーあぁ、還してやるよ」
梨音(昌平)は笑ったー。
「ーー土になー」
と、付け加えてー。
そして、昌平(梨音)を無視して歩き出すー。
「ーえ…ちょ、ちょっと、どういう意味ー!?」
叫ぶ昌平(梨音)ー
梨音(昌平)は、歩きながら言い放つー
「君の身体で自殺してやるー
俺にはもう、守る人なんていないー
君に対する怒りだけで俺は生きて来たー。
だから、死んでも構わないー。
君の身体で、俺は死んでやる」
梨音(昌平)が淡々とそう言いながら歩くー。
その目には、
何も映っていないようにも見えたー
ただ、”流れる風景”を漠然と見ているだけで、
目に輝きを見出すことはできなかったー
「ーーや、やめて!!ちょっと!」
昌平(梨音)が叫ぶー。
すると、突然、梨音(昌平)は立ち止まって、
路上で土下座をしたー。
「避けなかった俺の妻が悪い、って
君は確か言ったよな?
だったらー、すまなかった。
本当に、申し訳ないー」
梨音(昌平)が土下座しているのを見て
周囲の通行人たちがどよめくー
「ちょ!?や、やめてよ!あたしの身体でー!」
昌平(梨音)が必死に止めようとするー。
確かにー
「ーだいたい、避けなかったあいつが悪いのよー
おかげで、あたしの人生に傷がついたし、
一度自由も奪われたー。
むしろ、謝ってほしいのはあたしの方なんですけど!」
とは、言ったー。
だがー
「ーーー…だから、俺、責任取って死ぬよ。」
梨音(昌平)は皮肉を込めてそう言い放ったー
「ー俺の妻が悪いんだろう?
無免許運転で、スマホをいじりながらスピード違反してた
君よりも!!!悪いんだろう!!?
だったら死んでやるよ」
怒り狂った表情でそう叫ぶ梨音(昌平)ー
屋上まで立ち入ることができるビルを見つけると、
梨音(昌平)はそちらに向かって歩き出すー。
「ーーやめて!やめてってば!」
昌平(梨音)が必死に”自分の身体で自殺しようとする”
梨音(昌平)を止めようとするー。
「ーーあ、謝る!謝りますから!」
昌平(梨音)は、初めて、そう言葉を口にしたー
今まで昌平が何を言っても、開き直るばかりだった梨音が
ここにきて、初めて謝罪の言葉を口にしようとしたー。
「ーーー」
梨音(昌平)は一度立ち止まると、
笑顔で呟いたー
「ー許さない」
とー。
「ーーもうさ、俺、君に完全にキレたんだよ。
もう俺は決めたー
一番憎い君の身体で、飛び降りて、死んでやる」
梨音(昌平)は笑顔でそう言うと、
「君の身体を殺してやる」と、さらに満面の笑みを浮かべたー。
「ーーや…やめて…」
呆然としながらその場に座り込む昌平(梨音)ー
「ー俺の妻は「やめて」と言うこともできず、君に
殺されたんだよ」
にっこりと笑うと、梨音(昌平)はそのままビルに向かって歩き出したー。
憎くて憎くてたまらないこの身体を、
土に還すためにー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
次回が最終回デス~!
どんな結末が待っているのかは、明日のお楽しみ…☆!
コメント
うーん、今までにはなかった新しい方向性の話ですね。このまま、昌平の思い通りに自殺する展開か、それとも、それ以外の展開か、結末が気になります。
少し新鮮な気持ちで執筆しつつ…☆
書き始める直前まで「結末A」と「結末B」どっちで書くか
迷っていました~笑
(①を書き始めた時点で、どっちにするか決めて書き始めているので
今の時点ではもう決まってます~!)
憎い相手の身体で自殺というのも、確かに復讐になるでしょうけど、もっと他の復讐もあるような気が。例えば、梨音の身体で太ったり、顔に酷い傷つけたりとかして、容姿を壊したり、どこの誰とも知れない相手の子供を妊娠させたり、社会的な立場を壊したりとか。その上で身体を元に戻せたなら、梨音は死んだ方がマシというくらいの生き地獄になると思いますけどね。
それにしても、梨音も自意識過剰ですよね。自分の身体でエッチなことをしようとすると決めつけてるとこが。前のバカップルの話の彼女と同タイプですね。まあ、あのキャラよりは、むやみに騒ぎ続けなかったところを見ると、梨音はもっと賢い、というか悪賢い感じですが。法律とかを笠に着て、いい気になってるとことかもそうですが。
ところで、少し思ったんですけど、もし、昌平の妻が事故で死んでなくて、意識の戻らない、植物状態とかになってたりとかしたなら、また展開が違ってきそうですよね。
ありがとうございます~!☆
妻がもしも植物状態で生きていた場合…
まだ、失うモノが残っている昌平は
物語のような行動には出てなさそうですネ~!
意識もある状態で生きていた場合だったら、
復讐よりも支える方向に人生を捧げる気がします~!