<入れ替わり>一番憎いこの身体①~怒り~

事故を起こして妻の命を奪った女ー。

そんな”一番憎い相手”と、
妻を奪われた男が入れ替わってしまったー。

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突然だったー。
その連絡を受けた時ー、

彼の時間は、止まったー。

”妻が交通事故に遭ったー”

スマホを握りしめたまま、
彼、狭山 昌平(さやま しょうへい)は、
しばらく動くことも、言葉を発することもできなかったー。

”妻が交通事故に遭った”

当然、とてもショックな出来事だー。

だが、その言葉だけだったら、どんなに良かったことかー。

その言葉だけだったら、昌平はすぐに声を上げて、
すぐにそのまま病院に向かったかもしれないー。

だが、”妻が交通事故に遭った”という報告から
さらに続けて発せられた言葉を聞いて、
昌平は動くことも、言葉を発することもできなくなってしまったー

ただ、一点を見つめながら瞳を震わせ続けて、
あらゆる思考が頭の中を駆け巡るー。

”即死だったー”

そう、聞かされて
昌平は、絶望の淵に突き落とされたー。

交通事故に遭った妻・絵美(えみ)は、
”即死”状態で、誰が見ても”死んでいる”ことが
明らかな無残な状態だったのだと言うー。

「ーーーー………ありがとうー………」

妻のことを知る人物が、偶然事件現場に
居合わせたことで、すぐに連絡が入り、
妻の”即死”を知った昌平は、
呆然としながら、職場の窓の外の景色を
見つめることしかできなかったー。

大学時代に出会い、数年の交際を経て、
大学卒業と共に結婚ー、
幸せな生活を送っていたー。

そしてー
ついこの間、妻が妊娠し、
二人の間には初めての子供が生まれるー
はずだったー。

しかしー
それが全て奪われてしまったー。

妻の絵美は、買い物の最中に
車に追突されて、
その身に宿していた新しい命共々、
一瞬にして、この世から消えてしまったー

”あまりにも酷い仕打ちー”

昌平は、そう思ったー

俺がー、絵美がー、いったい何をしたって言うんだー…

そんな風に思ったー。

そしてー、すぐに逮捕された犯人はー
”最悪の相手”だったー。

妻・絵美に追突した運転手は、
現役の女子大生・神谷 梨音(かみや りおん)ー。

無免許運転かつ、スマホを見つめながらの運転ー

しかもー

「ーーあたしは悪くないし!」と、
開き直る始末だったー

派手な風貌の梨音は、
大学に遅刻しそうになり、
彼氏の車を借りて、大学近くの駐車場に車を止めて、
そのまま大学に行くつもりだったのだと言うー。

神谷梨音は、全く反省する素振りを見せずー、
しかも大学生とは言え、未成年だったからかー、
昌平が望むような裁きは与えられずー、
たった、たったの数年で、梨音は自由の身となったー。

妻と、これから生まれるはずだった子供を奪われ、
絶望のどん底に叩き落とされた昌平ー

一方、人の命を奪っておきながら数年で自由になり、
今も遊び歩いている梨音ー。

昌平の怒りは、頂点に達したー。

”殺してやりたい”とさえ思ったー。
仇討ちは違法ー。
そんなことは分かっているー。

しかし、この気持ちは”遺族”になってみないと分からないー。

妻と、これから生まれるはずだった子供を、
無免許運転かつスマホを操作しながら運転していた女に奪われー、
しかもその女は詫びることなく、開き直っていて、
かつ、法律上で裁きも十分に与えられず、
世間には名前も報じられないままー、自由の身となっているー。

”諦めるしかない”
”変な気を起こすな”
”死んだ妻と子供はそんなこと望んでいない”
”反省していないように見えても彼女も苦しんでいるはず”

そんな、綺麗事を外野は言うー。

だが、”俺のいる地獄”に叩き落とされてみろー?
お前たちは同じように「仕方ないですね」と笑えるのかー?

昌平は、そんな風に思ったー

仕返しをしてはいけないー。

仮に、昌平が妻と子供の命を奪った梨音に復讐をしてしまえば、
昌平が犯罪者の仲間入りだー。

しかも、梨音とは違い、大々的に報道されるだろうし、
”被害者が若い女性”となることで、
昌平が大悪党かのように、世間で報じられることになるだろうー。

だが、しかし、それでもー。
こんな仕打ちを受けて黙っていられるのかー?

梨音がキラキラとした日常を載せている
インスタグラムを見て、昌平は怒りのあまり、自分のスマホの画面を
粉々に粉砕したー

この女は、悪魔だー。

あの事故を起こしてから数年ー
ちょうど、妻の命日となるその日に
梨音は、インスタグラムにケーキの写真を載せたー。

もちろん、たまたまこの女の誕生日なのかもしれないー。
だが、どうしても昌平にはその神経が理解できなかったー

まるで、そのケーキは昌平を煽っているかのように見えたー

しかも、最近は
”将来、お母さんになれたら、子供のこと絶対守る”みたいな
発言もしていたー

やはり、煽っているー。

こいつは悪魔だー
絶対に許せないー
生かしておけぬー。

昌平は禁断の領域に足を踏み入れるー

昌平は、そうー
”復讐”を決意したのだったー。

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自分で用意したルートで梨音に連絡を取り、
梨音を呼び出した昌平ー。

当初、梨音は昌平からの呼び出しに応じる様子を
見せなかったものの、
昌平が”君の個人情報を全てばらまく”と言い放ったところ、
梨音は渋々それに応じたー

”脅しですか?通報しますよ?”などと、梨音は
最初に言っていたものの、
昌平は
”俺は君に大切なものを全て奪われたー。
 だから、俺はもう逮捕されても、死んでも構わないー
 俺に残ってるのは君への怒りだけだー
 通報されても、俺は必ず君の個人情報を世界中のネットにばらまく”と、
怒りを抑えきれない憎しみに満ち溢れた声で言い放ったのだー。

”こんな言葉使いたくないけど、
 俺は君のせいで”無敵の人”になったー”

昌平の底知れぬ怒りに、梨音は軽い態度を崩さなかったものの、
正直なところ、少し恐れも感じていたー。

梨音は知らなかったが
昌平の両親は、既に昌平が大学生の頃に、それぞれ病気と急病で
亡くなっているー。

兄弟もおらず、
その上で妻と、これから生まれるはずだった子供の命まで
梨音に奪われてしまった昌平は、
本当に、”守るべきもの”がもはやなかったー

元々趣味はあったー。
しかし、妻の絵美が死んでからは、趣味も楽しめなくなったー。

昌平は、梨音が起こした愚かな事故によって
”何も失うモノがない人間”になってしまったのだー。

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数日後ー。

呼び出された梨音が、歩道橋の上で
昌平と対面するー。

梨音が場所を”歩道橋”に指定したのだー

大通りにあるこの歩道橋であれば
たくさんの人から見えるし、
”身の安全を確保できる”と、梨音は
判断したのだったー

昌平は、そんな梨音の姿を見かけると、
ギャルではないまでも、相変わらず派手な梨音を見て
表情を歪めるー

「ーあたし、忙しいんでー 話って何ですか?」
梨音がそう言うと、
昌平は「一言だけでもいい。謝ってほしい」と、言い放つー

梨音はあの時、事故を起こしてから逮捕されて
自由になってー…
今の今まで”一度も”反省の意思を示したことすらなかったー。

そうー、梨音は”全く悪いとすら思っていない”のだー。

「ーーーあはははははははは!
 しつこいんですけど~!

 あたし、ちゃんと法律の裁きは受けましたよねぇ~?
 何で、謝らないといけないんですか?」

相変わらず開き直る梨音ー

「ーーいいから、謝れー」
昌平は怒りを隠し切れない様子で言い放つー

だが、梨音は昌平を馬鹿にしたようにして笑ったー

「ーーあのさぁ、
 この世界には法律があるの!
 あたしは”法律”の通り裁かれて自由になって、
 許されたのー

 今更そんな風にごちゃごちゃ言うとかさ、
 クレーマーと同じじゃないですか」

そう言い放つと、梨音はクスッと笑ったー

「ーだいたい、避けなかったあいつが悪いのよー
 おかげで、あたしの人生に傷がついたし、
 一度自由も奪われたー。

 むしろ、謝ってほしいのはあたしの方なんですけど!」

その言葉に、昌平は呆然として
反論することすらできなかったー

無免許でー、
スピード違反もしていてー、
スマホをいじりながら運転していた
自分の悪の所業を棚に上げて、
”謝ってほしいのはあたしのほう”と言い放つこの女ー。

最初から最後まで、謝罪の言葉も、
反省する素振りも一切見せずに、
挙句の果てに開き直りー。

いや、開き直りという自覚すらないのかもしれないー。
この女は、本気で”あたしは悪くない”と、そう思っているのかもしれないー。

この女は、正真正銘のサイコパスであると、
昌平はそう感じたー

「ーだいたい、そうやって人に迷惑をかける女だから、
 あたしの車も避けれなかったんですよね?

 自分が悪いのに、人に責任転嫁しないでくれます?」

梨音はそれだけ言うと、
「もうあたしに関わらないでくださいー。迷惑なんで」と、
言い放ってそのまま昌平に背を向けたー。

”なんだこいつはー?”
昌平は、歩道橋の上で立ち尽くしながらそう思ったー

”なんなんだこいつはー?”

いったい、どういう思考をしているー?

いったい、何を考えているー?

「ーだいたい、そうやって人に迷惑をかける女だから、
 あたしの車も避けれなかったんですよね?

 自分が悪いのに、人に責任転嫁しないでくれます?」

たった今、梨音が言い放った言葉が、
何度も何度も頭の中を駆け巡るー

そして、あまりの怒りに何もかもがどうでもよくなってしまった
昌平はー、
歩道橋の階段を今、まさに降りようとしていた梨音の背後からー
全身を使ってタックルを仕掛けたー。

「ーー!?」
目を見開いて驚く梨音ー

昌平は、自分の身体ごと、梨音を階段から突き飛ばしてー
そして、勢いよく歩道橋の階段を転がり落ちたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー…」

「ーーーーーーーーーー」

電子音のようなものが聞こえるー

朦朧とする意識の中、うっすらと目を開いた昌平は
表情を歪めたー。

ここは、天国か。それとも地獄かー。

どっちにせよ、こんな音を立てるようなものが
天国か地獄にもあるんだなー

そんな風に思って、身体を起き上がらせるとー、
ふと、自分の爪に派手な模様のようなものが
刻まれていたー

(なんだこれー?
 何かの、識別番号みたいなものかー?)

まだ、寝起き状態である昌平はそう思ったー

だが、ふと、肩に髪が触れるー。

「ーー?」
死ぬと髪が伸びるのだろうかー。

あぁ、そういえば幽霊は髪が妙に長いやつも多かった気がするー。
あれは、死ねば髪が伸びるから、だったのかー。

そう思いながら、昌平が今一度自分の手を見つめるとー
”肌の感じが妙に綺麗”であることに気付いたー。

そしてー
爪の模様のようなものー、とさっき思ったのはー
”ネイル”であることに気付いたー

「ーーーえ…?」
意識がハッキリとしてきた昌平が、髪と爪と肌以外の異変にも気づくー。

自分の頬を触るー。
手触りがー、いや、輪郭自体が違う気がするー

「えっ!?えっ!?」
慌てて身体を見下ろす昌平ー。

そこには、あるはずのない膨らみが見えたー。

「ーーえっ…? っていうか、この声ー」
昌平は困惑するー
口から出ている声が、そもそも”自分の声”ではないー

しかも、その声には聞き覚えがー。

「ーー!!!???」
ベッドから慌てて立ち上がろうとするも、まだ身体がー、
特に足が痛くて動けず、困惑していると、
その部屋ー…病室に看護師の女性が入ってきたー

「神谷さんー」
看護師の女性は確かにそう言ったー

「か、神谷ー?」
昌平は困惑するー。

そしてー
病室の脇の鏡のほうを見つめるとー
そこには”一番憎い相手”の姿が映し出されていたー

今の昌平の気持ちを表すかのように、
驚いた表情を浮かべた梨音が、写し出されていたー…。

②へ続く

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とんでもない相手と入れ替わり…!
次回からが入れ替わり本番ですネ~!

続きはまた明日デス~!

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