突然、仲良しだったはずの夫と離婚して
帰ってきた姉の梨奈ー。
戻って来てから人が変わったような感じに
なってしまった姉を前に、
弟の直幸は、疑問を抱いていく…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー姉さんさぁ、それ、苦手じゃなかったっけ?」
直幸が、ふとカルピスのペットボトルを冷蔵庫から
取り出して飲んでいる梨奈のほうを見つめながら言うー
「え?あ、そうだっけ?」
梨奈はそう言いながら、
「ー実家出てからよく飲んでたから」と、微笑むー。
「ーーそっかー…
いや、姉さんがカルピス飲むイメージなかったからさ」
直幸がそう言うと、梨奈は「好みなんて変わるものでしょ」と笑うー。
「ーーま、まぁ、そうだけどー」
戸惑う直幸ー。
梨奈はそんな直幸を他所に「そろそろ部屋に戻ろっと!」と、
言いながら部屋の方に向かって行くー。
”やっぱり姉さんじゃないみたいだー”
直幸はそんな風に思うー。
離婚して帰ってきた姉は、
”まるで別人”だー。
急に男のような言葉遣いをしたり
悪さをし始めたりー
暴れ始めたりー
そういう”極端な”変化があるわけではないー。
しかし、”細かな変化”が数えきれないほどあって、
”本当に姉さんなのか?”とすら思ってしまうー。
例えばー
今だってそうだー。
姉の梨奈は
カルピス系の飲み物は苦手だったはずだし、
実際にそう公言していて、飲んでいる姿もほぼ見たことがないー。
そしてー
”ペットボトルに直接口をつけて飲む”人ではなかったし、
”飲み終えたペットボトルを台所に放置していく”人でもなかったー。
さらにはー
”異様な量の水分を飲んでいる”気がするー。
以前は、母・千賀子から”熱中症になっちゃうよ!”と
指摘されるぐらいだったはずだが、
今は”異様に”水分を取っているー。
”カルピスを飲んでいる姉さん”
それだけで、こんなに違和感を感じる部分があるのだー。
「ー前はコップ一つでも、自分で洗ってたのになぁ…」
姉・梨奈が放置していった空のペットボトルを見つめながら、
直幸は”離婚すると人って変わるのかな?”と首を傾げたー。
「ーーーーー」
そして、自分の部屋に戻った直幸は
スマホを見つめるー
”兄貴”と呼んで慕っていた、梨奈の結婚相手・元春ー。
姉の梨奈が帰宅してからも、
元春に何度も連絡を取ってみたが、
元春からは、一向に返事がなかったー。
”姉さん”と離婚している以上ー、
確かに、”元妻の弟”である直幸とは関わりたくないのかもしれないー。
でも、本当に、それだけなのだろうかー。
そんな不安を、直幸は感じずにはいられなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
土曜日になり、直幸の彼女・愛唯が遊びに来るー。
「ーあ、お久しぶりです」
直幸の母・千賀子に丁寧にあいさつをする愛唯ー。
「ーあ、愛唯ちゃん!こんにちは」
ちょうど、お昼の時間であることから、
母・千賀子が簡単な料理を用意してくれることになり、
食卓にそれが並んでいるー
「わぁ…おいしそう!わざわざすみません!」
愛唯が申し訳なさそうに言うと、
「いいのよー。直幸といつも仲良くしてくれてありがとうね」
と、千賀子は微笑んだー
「いえいえ、わたしこそ、いつもお世話になりっぱなしで」
大人しそうな見た目なのに、かなりおしゃべりな愛唯は、
ずっと直幸の母・千賀子と雑談を続けているー
そこに直幸と姉・梨奈もやってきて、
父は仕事中であるため、
4人で食卓を囲み始めるー。
「ーーあ!お姉さん!お久しぶりです!」
梨奈の姿を見ると同時に、愛唯がすぐに梨奈に挨拶をするー
「あ、う、うん!久しぶり~」
少し歯切れの悪い感じの梨奈ー。
梨奈はそれだけ言うと、久しぶりに再会した
”弟の彼女”に対して、特にそれ以上言葉を掛けることはなく、
妙に無口になって昼食を口にし始めたー。
「ー直幸から、お姉さんが戻ってきたって聞いて
久しぶりに会いたいな~って思って、遊びに来たんです」
愛唯が過去の思い出を交えながら
色々と楽しそうに話をしているー。
姉・梨奈も、愛唯のことは気に入っていて、
前に一緒にお祭りに行った際には、
まるで同級生かのようにずっと話し込んでいて
彼氏である直幸が”姉さん”に嫉妬してしまうぐらいの
状態だったー。
だが、今日は、愛唯からの言葉に、
「うん」とか「そうね」とか「ふふ…」とか、
適当に思えるような返事しかせずに、
会話を膨らませようとしないー。
「ーーーお姉さん、やっぱりすごく落ち込んでるみたいだねー」
愛唯が小声で言うと、
直幸は「普段は元気なんだけどー」と、戸惑いの言葉を
小声で口にするー
今日も、さっき愛唯が遊びに来るまで、
”元気”だったのだー。
だが、愛唯が来てから、梨奈は口数が極端に減っているー。
「ーーーーー」
そしてー、
直幸はあることに気付いたー。
梨奈がやたらとチラチラ何かを見ていることにー。
「ー?」
彼女の愛唯や、母と雑談をしながら、
その梨奈の視線を何となく辿ってみるとー、
「ーー(姉さん、何見てるんだー?)」
梨奈の視線はー、
直幸の彼女である愛唯の胸に注がれているように見えたー。
しかも、”露骨に”愛唯の胸を見ているー。
「ーーーーー」
直幸は、愛唯のほうをチラッと見つめたが、
愛唯は梨奈の視線に気づいている様子はなく、
いつものように楽しそうに雑談を続けていたー。
やがてー
昼食は終わり、梨奈は、逃げるようにして
部屋に戻って行ってしまうー。
愛唯は、直幸の母・千賀子の後片付けの手伝いを
終えると、「おいしかった~!」と言いながら
同じく手伝いをしていた直幸のところに
近付いてきたー。
そして、小声で呟くー
「ねぇねぇ…なんか、お姉さん、イヤらしい目で
わたしのことずっと見てたんだけどー?」
愛唯が小声で言うー。
「き、気づいてたんだー?」
戸惑いながら直幸が言うー。
男の直幸ですら気付くレベルの
露骨にイヤらしい視線ー。
愛唯はあの場では顔に出さなかったが
当然、その視線に気づいていたようだー。
「ーなんか、足立(あだち)くんに見られているような
気分になっちゃった」
愛唯が苦笑いしながら言うー。
”足立くん”とは、直幸と愛唯が通う大学の男子で、
”変態野郎”のあだ名を男子からつけられている
筋金入りの変態だー。
女子のことも、イヤらしい目で見つめるのは
日常茶飯事ー。
愛唯は、姉・梨奈からの視線が、
そんな”足立くん”に見つめられている時に
よく似ている感じだった、と、そう言ったのだー。
「はははー…ごめんな、イヤな思いさせて」
直幸がそう言うと、
愛唯は「別に、いいんだけどー…なんかー…こう」と、
戸惑いながら言葉を口にしたー
「ーーー…本当に、あの人、お姉さんだよね?」
そんな言葉に、直幸は表情を曇らせるー
「ーい、いや…そ、そのはずだけどー…」
直幸は、そう返事をしながらも、
不安そうに2階への階段を見つめるー。
いや、あり得ないー。
”他人の空似”というレベルじゃないしー…、
もし、他人の空似なら姉さんはどこにいったー?
「ーーーな~んか、わたしのこと、よく覚えてない感じに
見えなかった?」
愛唯の言葉に、直幸は「た、確かに…」と呟くー。
昼食の光景を思い出す直幸ー。
確かに姉・梨奈は、愛唯との会話を極力避けているように見えたし、
”愛唯との思い出”を覚えていないような、
そんな様子にも見えたー。
「ーま、まぁ…やっぱ、元春さんと別れたからじゃないかなー
明るく振る舞ってても気持ちは辛いんだと思うー」
直幸がそう言うと、愛唯は「ふ~ん…まぁ、それもそうかもね」と
頷いたー。
ひとまず、姉の話はここまでにしてー、と、
直幸と彼女の愛唯は直幸の部屋で
色々な雑談をしたり、一緒に共通の趣味を楽しんだり、
いつものように、二人の時間を過ごすー。
「ーちょっとトイレに行ってくるー」
直幸はそう言うと、愛唯を一人残して、
1階にあるトイレに向かうー。
”姉さん、本当にどうしちゃったんだろうなー”
元春と離婚したことで落ち込んでいてー、ということなら
理解はできるし、
それならそっとして見守ってあげたいとは思うー。
でもー、
”そうじゃない”気がするー。
落ち込んでいる、というよりはー
無理に明るく振る舞っている、というよりはー、
もっと”違う”何かがー…
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー……」
一人、部屋に残された愛唯は、
”お姉さん、なんか前と全然雰囲気違ったなぁ…”と
心の中で呟くー。
2年以上も会っていないし、
元々頻繁に会っていたわけでもないー。
ただー、
以前とまるで雰囲気が違うし、
別人のように思えるー。
「ーーーー」
愛唯は、少し考えてから、
”ちょっと、お話してみようかなー”と、
直幸の姉・梨奈の部屋に向かうことを決意するー。
彼氏である直幸が悩んでいるのもそうだし、
自分自身も、何だか気になってしまい、
じっとしてることができなかったー
直幸の姉・梨奈の部屋の前にたどり着いた
愛唯は、部屋をノックしようとしたー。
だがー
その手を、愛唯はすぐに止めたー
梨奈の部屋の中から、奇妙な笑い声が聞こえるのだー
「ーーー?」
愛唯は首を傾げるー。
ブツブツブツブツ何かが聞こえるー。
しかも、不思議なことに部屋の中から聞こえる笑い声は、
”女”のものではなく”男”のものだったー
「ーーーえ…」
愛唯は戸惑うー。
この家にいる”男性”は、
彼氏の直幸と、直幸の父親だけのはずだー。
直幸には兄はいないし、弟もいないー。
そしておじいちゃんと同居しているわけでもないー。
直幸は先ほど、1階にあるトイレに向かって
2階にはいないはずー。
階段を下りていく音も聞こえたしー、
”階段を降りるフリをしてこっそり引き返して姉の部屋に入り、
姉の部屋で笑っている”なんて可能性は低いー。
直幸の父親は仕事中で、愛唯が来た時には
少なくとも、この家にはいなかったはずだー。
こっそり帰ってきて、直幸の父からみれば”娘”である
梨奈の部屋で笑っているー
とは、これまた考えにくいー
「ーじ、じゃあ…誰がいるのー…?」
愛唯はそう思いながら、
失礼、と思いつつも、
彼氏の直幸が気にしていることもあってか、
妙に気になってー、
直幸の姉・梨奈の部屋を除いたー
「ーーーー!!!!」
そしてー、
愛唯は見てしまったー
”莉奈の皮”を脱ぎかけてー、
上半身だけ、梨奈の中から飛び出した状態の
”男”の姿をー
「ーーひっ!?」
”莉奈が真っ二つに切り裂かれているー”
”皮”のことなど知らない愛唯には
そう見えてしまったー。
そんな、恐ろしい光景に思わず、
小さな悲鳴を漏らしてしまった愛唯ー。
”半分だけ梨奈を脱いだ状態”の男が
その声に気付き、振り返るー。
「ーーーあ~~~~~?」
男はそう言うと、
「ーーー見たな?」
と、不気味な笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーさて、戻るか」
トイレを終えて、手を洗い、水分補給も終えた
直幸は、2階で待たせている彼女・愛唯のところに
戻ろうと、2階に上り始めるー。
「ーーーー姉さんー」
同じく2階にある姉さんの部屋を見つめながら
不安そうに呟く直幸ー
姉の”元夫”であり、”兄貴”と呼び慕っていた
元春と連絡が取れない状態が続いているのも気になるー。
そんな風に思いながら、自分の部屋に戻り、
部屋の中で待っていた愛唯に「お待たせ」と
声を掛けると、
愛唯は「あ、おかえり~!」と、笑顔で直幸を
出迎えたー。
「ーーあれ…?」
直幸は、ふと、愛唯の目が涙ぐんでいることに気付き、
「何かあったのか?」と、不思議そうに呟くー
「ーーえ??」
愛唯は自分の指で目の涙に気付くと、
「あ、これは着たときのー…ううん、なんでもないよー」と、
涙を拭いて、笑顔を浮かべたー。
「ーなんだよ~?花粉症か?」
そんなことを言いながら笑う直幸ー。
直幸は、自分がトイレに行っている間に起きてしまった
恐ろしいことに気付いていなかったー…
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
不穏な気配が漂っていますネ~!
次回が最終回デス!
今日もありがとうございました~!
コメント