<憑依>憑依薬供給不足③~不足の果て~(完)

”憑依薬があらゆる分野に利用されているその世界”での
”憑依薬供給不足”は、想定以上の長期化ー。

世界各国に、あらゆる影響を及ぼしていたー。

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「ー憑依薬の供給の回復の見通しは現在、立っておらずー、
 原材料の調達及び、憑依薬の輸入に全力を尽くしておりますが、
 めどは、立っていない状況ですー」

総理大臣が、険しい表情でそう呟くー。

既に、憑依薬の供給不足に陥ってから1年以上ー。

憑依薬を用いて事業を行っていた会社は軒並み壊滅的打撃を
受けており、
つい先日は、憑依薬を使った娯楽施設を全国に展開していた
大手企業、
”ポゼッション・ドリーム株式会社”が経営破綻したことで、
世間は大きな衝撃を受けた。

また、1ヵ月前には、医療用の憑依薬の製造・販売・管理サポートなどを
行っていた大手企業、
”メディカル・ポゼッション”も経営破綻しており、
国内にも深刻な打撃を与えつつあったー。

「ー憑依薬を中心とした事業を行う、事業者に対する
 支援策としてー」

そんな会見を見つめながらー、
ため息をついたのは”憑依薬”の製造販売を行っていた
会社の社長ー。

ため息をつかずにはいられないー。
ここ1年ー、憑依薬の製造は停滞し、
会社の8割ほどを占める”憑依薬関連の事業”は
停止したー。

社員を涙ながらに解雇し、
必要なコストカットを行いー、
別の事業にも急遽手を出しー、
出来る努力は何でもしてきたー。

しかしー、
もう、限界だったー。

だからーーーー

「ーーー社長ー。ご苦労様です」
ニヤニヤしながら男が入って来るー。

だからー
”違法憑依薬”の製造に手を染めたー。

憑依薬の供給不足はいつ、終わるのかー。
それが示されなければー、
もう、どうすることもできないー。

そして、あらゆる事情が複雑に絡み合っている以上、
”憑依薬の供給不足はいつ終わります”と
宣言することも、誰にもできないことも分かるー。

この会社の社長はー
”首を吊るか”
それとも”違法憑依薬の製造に手を染めるか”
その二択を迫られたー。

「ーーいやぁ、いつも助かりますよー。」
男はそう言うと、隣にいたサングラスの女を見て、
笑みを浮かべるー。

「ーーねぇ、もう少し安くならないの?」
女は、サングラスを外して、微笑むと、
社長の耳元で「お願い…♡」と、甘い声で囁いたー。

「ーーそ、それはー」
ドキドキしながらも、社長は
”この女の”中身”は間違いなく男だー騙されるな”と、
自分の心の中で、自分に言い聞かせるー。

彼女は、半年ほど前から”憑依ホテル”のオーナーになった、結花という
女性だがー、
彼女自身も”違法憑依薬”によって憑依されて
身体を奪われている被害者であることはー
”憑依薬界隈”では噂になっていて、有名な話だったー。

「ーーーす、すみませんーそ、それはー」
社長が、憑依されている結花からの値引き交渉を拒むー。

結花は「ーーったく、ケチくせぇ野郎だな!」と、
本性を現すと、社長を蹴り飛ばしたー。

横にいた男が「おいおい、結花ー。男みたいな行動はやめとけよ」と、
ニヤニヤしながら言うー。

「ーふふ ごめ~ん!つい! 
 わたし、今は”女”だもんね」

結花はそう言うと、
「ーあんたはわたしたちのおかげで何とか生活することができてるってことを
 忘れないことねー」
と、脅すような口調で社長に言い放つー。

”憑依薬”を製造する会社ー
”憑依薬”を販売する会社ー
”憑依薬”を利用していた業界ー

それらは全て壊滅的な打撃を受けー、
再起不能にまで追い込まれているー。

そして、そんな”チャンス”を裏社会組織が
見逃すはずがなくー、
今では多くの”憑依薬に関係していた企業”や”お店”などが、
裏社会組織に目をつけられて、
こうして、悪事に加担させられていたー。

大きな工場で憑依薬を生産していたこの会社ー。

事情を知らない人間は
”憑依薬が供給不足になったなら、憑依薬が絡む仕事をやめて
 他の仕事をすればいい”
と、言うー。

けどー、
憑依薬の製造工場を畳むのに、どれだけ費用がかかると思っているのかー。

この仕事を辞めたその先に待つのは借金地獄ー。

当事者であるこの社長にとって
”辞めればいいじゃん”は、”死ねばいいじゃん”と同意だったー

だから、彼にとっての選択は”首を吊るか”
”違法憑依薬の製造に手を染めるか”
それしかなかったー

こういった人たちが各地で増えー、
違法憑依薬による被害が、爆増ー。

それでも憑依薬の供給不足は止まらず、
社会は混乱しつつあったー。

「ーそれにしてもー
 わたしたち、”中身は別人”になっちゃったのに
 今でもカップルなんてー

 くく…笑っちゃうね!」

結花が嬉しそうに笑うー。

結花の隣にいた男ー、武夫は「あぁ、そうだなーへへ」と
言うと、結花をイヤらしい目で見つめながら
「今夜、また俺を楽しませてくれよ」と、ニヤニヤしながら言い放つー

「ー好きだなぁお前もー
 ふふ、まぁ、いいけどー」
結花がそう答えるー。

憑依薬供給不足が始まって少ししたころー、
大学生・武夫と同居中だった彼女・結花は違法憑依薬を使った男に
憑依されて失踪したー。

その後、武夫は友人の健太郎から、
”憑依された結花”の居場所を知り、
憑依された結花が経営するホテルに乗り込んで、
”憑依された結花”と対峙したものの、
その場で拘束されて、
結花に憑依している男の”仲間”に憑依されてしまい、
今に至っているー。

「ーそれにしても、こいつら、まさか
 毎日ヤリまくるカップルになれるなんて
 夢にも思ってなかっただろうなぁ」

武夫がそう言うと、結花は「ふふ…大人しそうな彼女だったもんね こいつ」と、
自分を指さしながら笑ったー

「ーーあーそうだ」
結花は思い出したかのように社長のほうを見ると、
「ー値引きしてくれないんだったら取引は終了」とだけ呟くと、
「ーー他にもいくらでも”違法憑依薬”作ってくれる会社はあるから」
と、結花が付け加えたー。

「ーそ、そんな…そんなことされたら、生活がー!」
社長が泣きそうになりながら叫ぶと、

結花は笑みを浮かべながら社長を脅したー

「そういや、あんた、孫娘のこと、可愛がってるんだってね」

結花が冷たい目で、社長を睨みながら言うー。

「ー”こいつ”みたいにしてやろうかー?」
結花が笑いながら”自分”を指さして言うー。

それはつまりー、
”お前の孫娘に憑依してやろうか?”という
恐ろしい脅しー。

「ーーわ、分かりましたー…
 お、お安くさせていただきますー」

社長が震えながら言うと、結花は「ありがと」と、
悪女の笑みを浮かべながら立ち去っていくー。

憑依薬の供給不足の深刻化は、
あらゆるものの崩壊とー、
そして、違法憑依薬による犯罪の拡大を
招いていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー……いつになったら、わたしは他の人の身体に
 ”移動”できるんですかー?」

難病により、余命宣告を受けている女子高生が
苦しそうに先生にそう質問するー

「ーーーーーー」
担当の医師は答えないー。

彼女は余命2年の宣告を受けー、
”憑依で、終身刑の判決を受けた20代女性の殺人犯”に、”移動”する
予定が立っていたー。

しかしー、
その頃に憑依薬の供給不足が始まり、
今ではほとんど手に入らない憑依薬の”順番待ち”を
している、そんな状態だー。

既に余命宣告を受けて1年以上ー。
彼女の時間は、明らかに減っていたー。

「ーーーお姉ちゃんは、死ぬしかないってことですか?」
1歳年下の妹が、医師に向かってそう叫ぶー。

「ーいや、そうは言っていないがー」
戸惑う医師ー。
しかし、現実的にはーー

今のまま、供給不足が続けばー。

そしてー
翌日ー。

”悪魔”は現れたー。

”違法憑依薬”を手に笑う男ー。

「ー君たち姉妹を、助けてあげようー」
男は、お見舞いに訪れていた妹と、
余命宣告を受けている姉の前に現れると、
こう笑みを浮かべながら呟いたー。

「ーこの憑依薬を君にあげようー。
 ”血のつながりのある年下の人間にだけ憑依できる憑依薬”ー」

憑依薬の供給不足が長期化するにつれてー
”違法”憑依薬はさらに増えー、
”非人道的な効果を持つタイプ”もさらに増えて行ったー。

この男の持つ憑依薬も、その一つー。

「ーさぁ、妹に憑依するんだー。
 そうすれば、君は生きることができるー

 そしてー、君はお姉ちゃんに自分の身体を捧げるんだー
 お姉ちゃんに生き延びてほしいんだろう?
 それとも、その言葉は、嘘だったのかなぁ?」

この男は、憑依薬で”究極の選択”を迫り、
苦しむ人を見ては喜んでいる、快楽犯ー

余命後僅かの姉に、妹にだけ憑依できる憑依薬を渡し、
その反応を見て、楽しんでいたー

困惑する姉妹ー。

やがて、妹の方が「わたしの身体、お姉ちゃんにあげるから」と言い始めるー。

だが、姉はそれを否定するー。

姉か妹、どちらかが犠牲になるー。
そんな地獄を見て、男は笑うー。

”供給不足さえ”なければこんな悲劇、起きなかったのにー。

そうは言っても、もうどうすることもできないー

こんな、光景が世界各地で繰り広げられたー。

安全装置のついた憑依薬を製造できない状況による社会への打撃ー
それに付け込んだ違法憑依薬による犯罪の爆増ー。

混乱が、また新たな混乱を呼び、
あらゆる業界で崩壊を招くー。

当初、数年で解消されると見込まれていた
憑依薬の供給不足は解消することなく、長期化ー。

国レベルでの憑依薬を巡った争いまで起きるようになりー、
”たった一つ”の、モノが供給不足に陥っただけでー、
たったそれだけで、人類は深刻な状況に陥ってしまっていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーぁ…」

ふと、目を覚ますー。

長い夢をー
いや、随分と長い間、熟睡していた気がするー。

重たい身体を起こしながら、
周囲を見渡すとー

そこは、見知らぬ場所だったー

一体、何が起きたのかー。
一体、何があったのかー。

意識がはっきりしないまま、周囲を見渡すー。

そこは、まるで”ゴミ捨て場”のような
廃墟とも言える場所でー、

「ーー俺…は…」
目を覚ましたのは、武夫ー。

武夫は、長い間、違法憑依薬によって
憑依された状態が続き、
そして、憑依されていた人間が
次の”身体”に移動したために、
解放されたのだったー

「ー…結花!…結花は、どこにー!?」
武夫は周囲を見渡すー。

廃棄されたゴミやスクラップが並ぶ地帯から飛び出し、
自然に囲まれたその地を走りー、
近くの街までやってきた武夫ー。

ここがどこだかは分からないー。

だが、まずは状況を確認しなくてはー

”くそっ…俺はー…”
武夫は、こうなる直前のことを思い出すー。

そうだー、
きっと、自分は憑依されていたんだー。

そう思いつつ、武夫は焦る気持ちをなんとか
心の底に押し込んで、
まずは街で現在の状況を確認しようと試みるー。

「ーーーー!?」
しかしー
その街には、”人”の姿がほとんどないー。

「ーーー…なんだー…この街はー!?」
街の規模としてはそれなりに大きいー。

それなのに、人が異様に少ないー。
確かに、人はいるのだが、
その数は、異様に少ないー。

”街の規模”と”活気”が、
明らかに不釣り合いなのだー。

繁華街のように見えるのにー
”まるでシャッター街”のような異様な光景ー

「ーーーーーそこのー…あまり、出歩かない方がいいぞ」
汚らしい風貌の男が、ふいにそう呟くー

「ーーえ?」
武夫が首を傾げると、
その男は言ったー

「ーいつ、どこで誰に刺されるか分からないし、
 いつ、どこで違法憑依薬で憑依されるか分からないー。

 今の世の中で、外を普通に歩くのは
 俺のような物好きと、バカだけだよー。

 それとも、君もあれか?
 俺みたいに”いつ憑依されるか分からない”スリルでも
 味わいに来たのかー?」

男はへらへらと笑いながらそう呟いたー

その目は、正気には見えなかったー。
気が狂っているー…

「ーーーーーあの、今、世界はどういう状況ですかー?」
武夫は、ふと不安に思い、そう言葉を口にしたー。

その言葉に、男は笑みを浮かべながら答えたー

「ーーーははは、今更何を言ってるんだー。
 憑依薬不足から始まって、どんどんどんどん世界がおかしくなっていって、
 今はこのザマだー。

 へへ、”憑依薬不足で世界が崩壊”なんて、皮肉だなぁ」

男はそう言うと、酒を飲みながらゲラゲラと笑ったー。

武夫は、10年間憑依されていたー。
そして、その間に世界は、大きく変わってしまっていたー。

憑依薬の不足は解消せずー
憑依薬に関連する業界で倒産が相次ぎ、
失業者で溢れー、
違法憑依薬の拡大により、犯罪が蔓延しー、
国同士の争いも起きて、
やがて、違法憑依薬により無差別”憑依自殺”が繰り返されー、

今、この無法地帯となった世界が出来上がったー。

「ーーー…憑依薬が不足しただけで、世界が、こんなにー…?」
武夫は
”人が不気味なほどに少ない繁華街”を見つめながらー
いや、もう繁華街とは呼べないその場所を見つめながら
呆然とすることしかできなかったー。

おわり

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コメント

憑依薬が日常生活に食い込んでいる世界で
それが不足したら…?を描いた作品でした~!

恐ろしい結末になってしまいましたネ~!

お読み下さりありがとうございました!!

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憑依<憑依薬供給不足>

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