虫嫌いの女子高生と昆虫おじさんの二人が
入れ替わってしまった。
入れ替わった二人は、元に戻る方法を
探るも、どうにもならずー…?
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「ーーこのままだと、君のご両親、心配しちゃうよな…」
穂香(勲)は、落ち着かない様子で髪を払いのけながら
そう呟くと、
勲(穂香)は「あ…はい…そうですね…」と、
戸惑いながら頷くー。
既に日は沈み、そろそろ帰らないと両親が
心配してしまう可能性があるー。
「ーーー…」
穂香(勲)は、少しの間、色々と考え込むー。
自分は独身の”昆虫大好きおじさん”であり、
仕事も個人でやっているため、
しばらくの間、入れ替わったままでも大きな影響はないー。
仕事をしない分、収入は減るが
クビになることはないし、
自身が経営する昆虫ショップ以外の仕事は、
”穂香の身体”でも最悪の場合はできるー。
昆虫たちの世話も、1日ぐらいであれば、
昨日もしっかりと世話をしているし、大丈夫だろうー。
しかし、穂香の場合はそうはいかないー。
1日家に帰らないことはできないー。
幸い、明日は土曜日であるため、学校は休みなのは助かったが、
とにかく、一度家に帰らないといけないー
「ーーー」
穂香(勲)は
”このまま二人で穂香の家に行き、入れ替わったという事情を説明する”か、
あるいは
”お互いのフリをして、勲は穂香の身体で穂香の家に、
穂香は勲の身体で勲の家に帰る”
この2つの選択肢で頭を悩ませていたー。
「ーーーどうした方がいいと思う?」
穂香(勲)が、2つの選択肢を詳しく説明した上で、
勲(穂香)に対してそう質問すると、
「入れ替わりなんて言っても、信じてもらえそうにないですよね…」と呟くー。
最悪の場合、勲の身体になった穂香が不審者扱い
されてしまう可能性もあることにはあるー
「ーー…もちろん、元に戻れない日が続いたら、
いつかは打ち明けないといけないけどー」
と、前置きした上で、穂香(勲)は
「正直、僕は”一晩寝れば直るんじゃないか”と思ってる」と
説明したー。
何をしても元に戻ることはできなかったー。
が、一晩寝れば、明日朝、起きた時には元に戻っているのではないか、と
穂香(勲)はそう考えていたー。
体調不良も、一晩寝て見れば回復することもあるー。
それと同じ要領で、穂香(勲)は
”一晩寝れば身体も元に戻る”と、そう考えたのだー。
「ーーー…確かにそれもそうですねー」
勲(穂香)は、落ち着かない様子でそう呟くと、
二人は”今日はひとまずお互いのフリをしてお互いの家に帰ること”に決めたー。
勲の方は独身の一人暮らしであるため、
特に大きな問題はない。
住所だけ教えておき、”後は適当に過ごしてもらえれば”と、告げるー。
一方、穂香は妹もいるし、両親もいるため、
色々な情報を、穂香になった勲に伝えるー
「あ、あの…へ、変なことしないでくださいね…?」
勲(穂香)が言うと、
穂香(勲)は「大丈夫大丈夫ー僕はそういうことしないからー」とだけ言うと
「あ、でも…着替えとトイレだけは…ごめんな」と、告げたー。
「ー流石に、漏らすわけにはいかないしー」
穂香(勲)の言葉に、勲(穂香)は「あ…は、はいー」と
顔を赤らめながら頷くー。
勲の言葉が、”下心からではない”ことは
今日半日、一緒に行動していて理解しているー。
穂香にとっては、幸いと言うべきだろうかー。
勲は良くも悪くも”昆虫にしか興味がない”ー。
異性とも、普通に会話をすることはできるが
恋愛感情も、下心も抱くことはほとんどないー。
しかしー、とは言え、トイレに関しては
確かに、”トイレに行かないでください”は無理があるし、
逆の立場で考えてみれば、
”トイレ禁止”を守るためには、漏らすしかなくなってしまうー。
「お風呂は、明日お休みみたいだし、僕は入らないから、
もし、明日朝元に戻ってたら、君が自分で入ってくれるかな?」
穂香(勲)が言うと、勲(穂香)は「分かりましたー」と
頷くー。
鞄だけはそのままで、
お互い”どうしても必要な私物”は
相手に渡すー。
スマホや財布などー
そういった類のものだー。
「もしも明日朝、元に戻ってたらこの公園で
今、渡したものを返してー
それでお別れ、ということで」
穂香(勲)の言葉に勲(穂香)は「はい」と頷くと
二人はそのまま「おやすみなさい」という挨拶をし、
何かあれば連絡を取り合うことを約束してー
そのままそれぞれの家へと向かったー。
「ーーー…あのおじさん…よく怒らなかったなぁ…」
勲になった穂香は、
穂香(勲)から教えてもらった
勲の家に向かいながら呟くー。
元はと言えば、
ハエに驚き、パニックになって猛ダッシュで街を走りー、
何の注意もせずに街角から飛び出したのが原因だー。
たまたま相手が人間だったからー
良かったものの、もしもアレが車だったら
今頃穂香はこの世にいないかもしれないー。
しかも、穂香のせいで正面衝突しておきながら
そのままダッシュでその場から立ち去り、
入れ替わりに気づかずに勲の身体で高校に侵入、
さらには女子トイレにまで入ってしまった穂香ー。
そのことも、勲と行動しているうちに
謝っておいたものの、
最悪、”勲は逮捕されていてもおかしくない”ことを
やらかしているー
”高校に勝手に入って女子トイレに入った”のだから
通報されていれば恐らくアウトだろうー。
何らかの問題にはなっていたはずー
幸い、問題にはならなかったものの、
穂香の一連の行動は、勲からしてみれば、”ふざけるな”と
言いたくなるようなものも多いだろうー。
けどー、穂香になった勲は怒らず、
むしろ、穂香のことを気にかけてくれていたー
勲になった穂香は「ごめんなさい…」と呟きつつも
「あ、そうだ…」と、お互いの家に帰る前に
交換しておいた”自分の財布”を手に、
近くのスーパーへと足を運んだー。
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「ーた、ただいま~!」
穂香になった勲は、穂香として
家に帰宅したー
「あ、おかえりなさい~遅かったねぇ~」
母親の言葉に、
穂香(勲)は「わ!も、申し訳ございませんー」と、
思わず他人行儀で叫んでしまいー、
母親と、奥にいた父親が困惑の表情を浮かべるー
「あ、ち、ちが…じ、じゃなくてー
と、友達の部活に付き合ってたからー」と、
”事前に”穂香本人と打ち合わせをしていた
理由を口にするー
「あ、そういうことね~」
母親が納得したのを確認して
「お邪魔しま…た、ただいま」と言いながら
玄関から家の中へと上がるー
”知らない家族”の元にー
しかも、女子高生として帰宅するー…
こんな経験は当然初めてだし、
頭の中でいろいろと考えていたよりも、
遥かに”難易度の高い”ものだったー。
戸惑いながらも、穂香(勲)は周囲をキョロキョロしながら
何とか事前に穂香本人から聞いていた”自分の部屋”に
たどり着くと、ほっ、と安堵の溜息をついてから、
部屋の中に入ろうとするー。
だがー
「あ、お姉ちゃん。おかえり」
妹の和美が偶然部屋から出てきて、鉢合わせしてしまうー
「遅かったね~?大丈夫?」
和美の言葉に、穂香(勲)は、”打ち合わせ”通り、
”友達の部活に付き合っていた”と、再び言葉を口にするー。
和美は「ふ~ん、そうなんだ」と言いながら、
そのまま1階に向かう階段を降りようとするー。
がー
「ーーーいっ…!?」
和美がふと、穂香(勲)の背後を見て
思わず変な声を出すー。
その様子を見た穂香(勲)が「え…?」と
首を傾げながら背後を振り返るとー、
そこにはー
小さな蜘蛛の姿があったー。
和美は、”またお姉ちゃんが発狂する”と、思い、
表情を歪めたのだったー。
しかしー
「ーーあ…蜘蛛ー」
穂香(勲)がそう呟きながら
「外に逃がしてあげよっか」と、平気で蜘蛛を手に乗せて
そのまま自分の部屋の窓から蜘蛛を外に解放するー。
そんな姿を目の当たりにした和美は
「え…??え…???」と、
”普段は大の虫嫌い”のお姉ちゃんの行動に強い違和感を感じる和美ー
蜘蛛を見ても、全く動じないー?
それどころか、笑顔で蜘蛛を手に取って、
それを外に逃がしているー?
アリでもー
蜘蛛でも、
コバエでもー
どんな虫が相手であったとしても
”お姉ちゃん”は悲鳴をあげてパニックになり、
我を失ってしまうー。
そんな、お姉ちゃんなのにー
「ーーーえ…えっと、お姉ちゃんー」
戸惑いながら口を開く和美ー。
「ーーん?どうかした?」
穂香(勲)が”何か変な行動したかな?”と不安に思いながらも
そう返事をすると、
和美は困惑した様子で、穂香(勲)の背後にある、
たった今、蜘蛛を逃がしたばかりの窓を指さしながら、
「ーー…く、蜘蛛…」と、呟くー
「蜘蛛?」
穂香(勲)は首を傾げるー
「蜘蛛が、どうかしたのー?」
とー、”女子高生っぽく”振る舞いながらー。
「ーーーど、ど、どうかしたのってー…」
和美は呆然としながら
穂香(勲)のほうを見ると、
「お姉ちゃん、いつもコバエとか、アリでも悲鳴をあげて
パニックになっちゃうのにー…何で今日はー…?」
と、妹の和美が言葉を続けたー
「コバエやアリで悲鳴…?」
穂香(勲)は首を傾げると、
和美は言葉を続けたー。
「ーうん。だってお姉ちゃん、大の虫嫌いでー
虫を見かけただけで発狂しちゃうじゃんー。
それなのに、何でー?」
和美に”疑いの目”を向けられているー。
妹・和美の疑いの目は
”入れ替わっているんじゃないの?”だとか、
そういうことではないとは思うー。
しかし、それだけ虫を見かけただけでパニックになってしまう
”お姉ちゃん”が、
こんな風に平然と蜘蛛を逃がしていればー、
疑問に思ってしまうのも当然と言えるし、
首を傾げてしまうのも、当然と言えるだろうー。
”早くもボロを出してしまったー”
家族に変な風に思われないように、
今日1日だけでも、とにかくやり過ごさないとー…
そう思った勲ー
だが、次の瞬間ー
「あっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
穂香(勲)は大声で叫んで立ち上がったー。
「ーーひっ!?き、急に何!?」
妹の和美が、そんな穂香(勲)の声に戸惑いの声を上げると、
穂香(勲)は突然焦ったような表情で
家の外に向かって行くー
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!こんな遅くにどこ行くの!?えっ!?」
状況を全く理解・把握できない妹の和美は
只々、戸惑いながら声を上げることしかできなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーいやああああああああああああああああああああっ!?!!?!?!?」
勲の家に帰宅した勲(穂香)は
”この世の終わり”のような悲鳴を上げたー
”お店をやっているからー”としか聞いておらず、
今日は休業日だったことや、既に周囲が暗くなっていたことで、
自宅兼建物の中に入るまでー
勲(穂香)は”何のお店”だか、全く気付いていなかったー。
だが、中に入って、”たくさんの昆虫”が、お出迎えしたこの状況にー
相手の大半が虫カゴに入っているとは言っても、
その光景は勲になった穂香からすれば耐え難いものだったー
おじさんの身体で泣き叫びながら、
先程、穂香になった勲と別れたあとに”そうだ”と思い立って
スーパーで買った”殺虫剤”を慌てて開封ー
それを泣きながら部屋中にばらまいていくー。
勲の部屋のカブトムシもクワガタもカマキリもゴキブリもカナブンも
何もかもが、もがき苦しみ始めて、息絶えていくー。
泣きながら、店舗部分の方に駆け込むと、
パニックになった勲(穂香)は”売り物”の昆虫たちに向かっても
殺虫剤を撒き続けてー
ついには、勲の自宅部分、そして店舗部分にいた
”勲の宝物”は、全て息絶えてしまったー
「ーーはぁ…はぁ…はぁ」
殺虫剤を落として、その場に蹲って
ガクガクと震える勲(穂香)ー
そしてーーー
「ーーー!!!」
”虫嫌い”だと妹の和美から聞いて、慌てて
電話を掛けたものの、繋がらなかったため、
ここに全力疾走でやってきた穂香(勲)は
髪を乱したまま、呆然とー
「え……」
と、”自分の宝物”たちが全滅している光景を見て、
唖然とすることしかできなかったー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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起きてしまった大惨事…!
どうなるのかは…明日のお楽しみデス~!!
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