昆虫が大好きなおじさんと、
虫が大の苦手な女子高生ー。
そんな二人が入れ替わってしまってー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「きゃああああああああああああああああああ!!!!」
この世の終わりのような悲鳴が聞こえたー。
「ーーーお、お姉ちゃん!?」
そんな声を聞き、妹の和美(かずみ)が駆け付けると、
姉の穂香(ほのか)が涙目で指を指したー。
「ーーー…って、ただの蜘蛛じゃん!しかも小さっ!?」
妹の和美はあきれ顔でそう叫ぶー。
高校2年生の姉・穂香は
”大の虫嫌い”
家の中に蚊が飛んでいるだけで、自分の部屋の中に
逃げ込んで、ずっと引き籠り状態になってしまうぐらいだし、
小さい頃、遠足で山に足を運んだ際には
遠足の間、ずっと泣いていたという伝説も、作ってしまったぐらいだったー
「ーーも~…お姉ちゃん、こんなんじゃ将来、生きていけないよ?」
やれやれ、という様子で和美は蜘蛛を外に逃がすと、
そのまま穂香のほうを見つめるー
穂香はガクガク震えながら「む…虫は…虫は本当に…無理」と、
青ざめた表情で呟くー
「ーーも~~~~」
妙に大人びている妹の和美は、
「怖いのも分かるけど、少しは努力しないと!」と、言い放つー。
姉・穂香の”虫嫌い”は病的なレベルにまで達していて、
日常生活に支障をきたすことも多いー。
夏の終わりにセミにアタックされて、
通学路でそのまま座り込んで大泣き、遅刻してしまったこともあるぐらいだー。
幸いー、
普段は明るく元気な性格であるため、
学校には友達もそこそこいたものの、
”あまりの虫嫌い”は学校でも有名だったー。
「ーー虫のいない世界に行きたい…」
現実逃避しながらそう呟く穂香を見て、
和美は「たぶん、虫がいない世界には人間もいないと思うー」と、
ツッコミのようなものを入れたー。
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”昆虫おじさん”
そんな風に呼ばれている男がいたー。
40代の彼は、
”小さい頃から大の昆虫好き”で、
大学卒業後、最初は有名企業の営業職として
働いていたものの、やがて退職。
現在は、個人で昆虫ショップを経営しながら
昆虫の写真集や本を出版、
そして昆虫のサイト運営などをして、
生計を立てているー。
テレビに出るほど有名な存在ではないものの
”昆虫おじさん”と呼ばれて
それなりの収入を得ているー。
昆虫好きの中では一目置かれる存在だー。
「ーーー」
そんな”昆虫おじさん”こと、川路 勲(かわじ いさお)は、
今日も帰宅すると、
自宅にズラリと並べられた虫カゴを見つめたー
カブトムシー
クワガター
蝶々ー
セミー
カマキリー
バッター。
ここには、何でもいるー。
いや、そういった”飼育”で人気の昆虫だけではないー
カナブンー
ゴキブリー
蛾ー
そういった”嫌われる類の昆虫”も、
ここにはいるー。
彼にとって、昆虫はみんな友達であり、
蚊に刺されても、
”蚊だってこうしないと生きていけないからな”と、
微笑ましくそれを見守るー
そんなぐらいに、虫が好きだったー。
「ーーー」
部屋中の昆虫たちを愛おしそうに見つめる勲ー。
バッタのいる虫カゴの葉っぱや水を交換するー
カブトムシのいる虫カゴに昆虫ゼリーを入れるー。
クワガタのいる虫カゴのケースを少し掃除するー
彼のプライベートの時間は全て”昆虫”に費やされるー。
ここは、昆虫の楽園ー。
仕事中は”昆虫ショップ”で販売している虫と戯れー
プライベートでは自分の家族である虫たちと戯れるー。
そんな、昆虫まみれの日々を彼は送っていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ある日ー
「ーーひぃいいいいいいいいいいいいい!?!?!?!?!?」
女子高生が街中をパニック状態で奔走していたー。
”近隣住民”の何人かは、彼女が誰だかすぐに理解したー
「あらら…」
商店街のおばさんが、走り去る穂香の姿を見て
苦笑いするー
穂香はちょっと大きめのハエが、自分の周囲を
飛び回ってきたことに驚き、
疾走していたのだったー。
「ーーハエ…ハエ…ハエ…ひぃぃぃいいいいい!」
普段は明るく元気な穂香ー
けれど、虫が絡むとパニックになって
ひたすら奇行に走ってしまうー。
既にハエに追いかけられているわけでもないのに、
必死に走る穂香ー
街角を曲がり、
裏路地に入り、
路地から抜け出しー
ぜぇぜぇしながら学校に向かうー
その時だったー
「ーー!」
「ーーーあ!」
曲がり角で、普通の速度でのんびり歩いていた
おじさんと、我を見失って全力疾走していた穂香が
衝突してしまいー、
穂香も、おじさんも吹き飛ばされてしまうー。
「ーーひ…ひ…ひぇぇえええええええっ!?」
それでも穂香は、すぐに起き上がって、
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」と
何度も叫ぶと、そのまま全力疾走して、
再び”虫の恐怖から逃げたい”一心で走り続けたー。
「えっ!?ちょっと!君!」と、
誰かが叫んでいた気がしたが、
穂香はそれどころではなかったー。
自分がこれまでに感じたことのないような速さで
走ることが出来ているようなー
そんな感覚を味わいながら、やっとの思いで
学校に到着した穂香は、そのまま校舎内に飛び込むー。
周囲にじろじろ見られていることを感じながら
苦笑いする穂香ー。
穂香のあまりの慌てっぷりに、周囲も困惑しているのだろうー。
そんな風に思いながら、
まずはトイレに向かおうとするー。
だがー
トイレに入った瞬間ー
トイレの中にいた友達が悲鳴を上げたー
「ーーえっ!?!?!?!??」
友達が突然悲鳴を上げたことで、
ビクッとする穂香ー。
「ーーだ…誰ですか!?こ、ここ女子トイレですよ!」
友達がそう叫ぶー
「え…」
そう言われた穂香は、背後をバッと振り返るも、
そこには誰もいないー
「え…ど、どうしたの?男の人なんていないけどー」
穂香はそこまで言って、
「え…」と、自分の口のあたりを触ってー
手と、自分の身体を見つめたー
「え……え……えええええええええええええええ!?!?!?!?」
悲鳴を上げる穂香ー
いつの間にか自分の手が”男みたいな手”にー?
いや、それだけではないー
自分の口から溢れ出た声が男の声にー?
「ど、ど、ど、ど、ど、どういうこと!?!?!?」
混乱しながら、女子トイレ内の洗面台のすぐそばの鏡に
駆け寄ると、穂香は「だ、誰!?」と、
”自分の顔”を見て、困惑したー
鏡に映る自分の姿がー
見たこともないおじさんになっていたのだー
「ーーきゃあああああああああああああああ!!!」
騒がしく叫びながら、おじさんになってしまった
穂香は女子トイレから飛び出して、
そのまま走り去っていくー
「な…な…何なの?悲鳴を上げたいのはこっちなんだけど…?」
トイレに一人残された穂香の友達は
状況を理解できないまま、一人そう呟いて
首を傾げたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーなにこれ?なにこれ?どうなってるの!?」
知らないおじさんの身体になってしまった穂香は
パニックになって、そのまま学校から飛び出したー。
さっきぶつかった際にも、穂香は
虫のことで頭がいっぱいだったため
”ぶつかった相手”のこともあまり認識しておらず、
”自分がどうして知らないおじさんになっているのか”
と、いうことも理解できない状況のまま
どうしていいか分からず、とりあえず学校から離れようと、
走っていたー。
だが、その時だったー
「あ、君!君!!」
学校から走って来るおじさんになった穂香を見かけた
”穂香”の身体になったおじさんが、おじさんになった穂香を
呼び止めると、おじさんの姿のまま穂香は「え…」と、
立ち止まったー
「よかったー。急に走り去っちゃうからびっくりしたよ」
穂香(おじさん)が笑顔を浮かべながらそう呟くと、
おじさん(穂香)は「え…???え…????え…?」と
困惑してからー
「ぎゃあああああああああああああああっ!?!?」
と、大声で悲鳴を上げたー
「ー!?!?!?」
穂香(おじさん)は、あまりにも大きな悲鳴を
”元・自分の身体”があげたのでビクッとしながらも
「ち、ちょっと、落ち着いて」
と、穂香の身体のまま言い放つー。
穂香(おじさん)は、そう言い放った直後に
周囲からの視線を感じて、ふとキョロキョロすると、
”女子高生を見て悲鳴を上げているおじさん”にしか
見えない奇妙な光景に、周囲の通行人たちの視線が
集まっていることに気付いたー
「あ…こ、これはーその…」
穂香(おじさん)自身も”どうしてこうなったのか”を
あまり理解できないまま、
困惑した様子を浮かべていると、
「ど…ど…ど…ドッペルゲンガー…!!!」
と、悲鳴を上げながらおじさん(穂香)が
逃げ出していくー。
昆虫に関わらずパニックになると我を
見失ってしまう穂香ー。
おじさんの身体のまま必死に逃げ出す
おじさん(穂香)を見て、困惑の表情を浮かべた
穂香(おじさん)は慌ててそのあとを追い、
走り出したー。
「ーーー…ってーー」
走り出したのは良かったもののー
穂香の身体はーー
運動が苦手でー、
すぐに疲れ、息切れしてしまったー
「はぁ…はぁ…はぁ…僕の身体より遅いぞー…」
穂香になったおじさんも、運動は得意な方ではない。
しかも、彼は40代ー
その自分よりも走れないなんてー
と、思いながら、
「っていうか早いな!」
と、おじさんの身体になった穂香が、もう遠くに行っているのを見て、
感心した様子を見せるー
”感心してる場合じゃなかったー”と、
慌てて後を追おうとすると、
”慣れない身体で全力疾走”したからか、足を攣ってしまい、
だいぶ遠くを走っていたおじさんの身体で蹲った穂香ー。
穂香(おじさん)はその隙になんとか追いつくと、
「お、落ち着いてー、僕はドッペルゲンガーなんかじゃないから」と、
安心させるような口調で呟いたー
おじさん(穂香)は「な…な…何が起こってるんですか…?」と、
ようやく、穂香(おじさん)の言葉に耳を傾け始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
先程、街角でぶつかった際に、
どうやら身体が入れ替わってしまったらしいことー、
そして、自分の簡単な自己紹介も行ったー。
「ーいやぁ…ごめんね 僕みたいなおじさんが、
君の身体動かしてるなんて…気味わるいと思うけどー」
入れ替わったおじさんー、
昆虫おじさんこと川路 勲は穂香の身体で
そう呟いたー。
「ーーーあ、い、いえ…わたしこそ、すみませんでしたー」
勲(穂香)は、自分がハエから逃げていたことで、
ぶつかってしまったことを思い出して、謝罪の言葉を口にするー
「ーとにかく、元に戻る方法がないか、色々試してみよう」
穂香になった勲は、
特別異性に興味があるようなことはなくー、
昆虫一筋だったことは、穂香にとっては不幸中の幸いであったかもしれないー。
特別、穂香の身体を意識するような素振りも見せず、
エッチなことをしようとか、そういう素振りも見せなかったー
色々”元に戻れる可能性のあること”を
二人で試していくー。
街角でもう一度ぶつかってみることも試したー。
だがー
結局、日が沈むまで、思いつく限りのあらゆることを試して
みたけれどー、何も上手く行かなかったー。
試しに病院にも行ってみたものの、
”案の定”というべきだろうかー。
入れ替わりなんて信じてもらうこともできなかったー
「まいったな…」
穂香(勲)は夜の公園のベンチに、不慣れな感じで座ると、
途方に暮れる勲(穂香)のほうを見てー、
”早く、この子に身体を返してあげないとなー”
と、心の中で呟いたー
②へ続く
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コメント
今のところは平穏(?)な流れ…!
でも、次回は大変なことに…☆
続きはまた明日デス~!
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