<FANBOX試し読み>「歪められた絆」①~⑤

☆こちらは「試し読み」コーナーデス
 本コーナー以外の憑依空間内の作品は、憑依空間内で”必ず”完結します
<試し読み>と明記していない作品で、(試し読みコーナー以外では絶対にやりません)
「続きはFANBOXで」は絶対にやらないのでご安心ください!

「試し読み」は↓を全てご納得の上でお読みください☆!
(料金が掛かったりすることはないので、安心してください~!)

※こちらの小説はFANBOXご案内用の「試し読み」です。
(試し読みが欲しいというご要望にお応えして、試し読みをご用意しました)

pixivFANBOXで連載している長編「歪められた絆」の
第5話までを公開していきます!
※「試し読み」では、最後まで完結しません。ご注意下さい
(現在連載中)

・試し読みコーナーでも、事前に<試し読み>と明記、どこまで読めるかを
明記した上で掲載しています。途中までであることをご納得の上でお読みください!

※1話あたりの長さは通常のと私の作品と同じで、
FANBOXでは1話ごとに公開していますが、
試し読み版では①~⑤を全部まとめてあります。

第1話「洗脳」

「ーーー絶対、お兄ちゃんが助けに来てくれるもん!」

狭い倉庫ー
埃が飛び交い、わずかに外の光が差し込む中ー、
一人の女子高生がそう叫んだー。

制服のまま拘束されている少女は、
ヘルメットを被り、黒い手袋をはめた謎の人物と、
髪型をオールバックにした黒いトレンチコートの
怪しい人物によって拘束されていたー。

オールバックの人物が笑みを浮かべて、
ヘルメットの人物のほうを見ると
その人物は拘束されている少女の方に向かって歩いていくー。

「ーこれから、お前は悪い子になるんだー。
 兄を困らせ、家族を困らせ、周りを困らせる、そんな悪い子にー」

”正体”がバレないようにしているのか、
そのヘルメットの人物は、機械音声のような声で、
少女にそう語り掛けるー

「ーーそ、そんなことしないもん!」
その少女ー
神里 雫(かみさと しずく)は、必死にそう叫んだー。

「ーーーーー」
その言葉を聞くと、ヘルメットの人物は少し後ろに下がり、
背後に控えていたオールバックの人物に何か合図をすると、
その人物は、倉庫内の端においてあったスマートフォンを
ヘルメットの人物に手渡したー

「ーーお前は、今日からお兄ちゃんのことが大嫌いになるー
 ウザくて、ウザくて、ウザくて、仕方がないぐらいにー」
ヘルメットの人物の言葉に、雫は目に涙を浮かべながら
「ーそんなこと…絶対にないから!
 お兄ちゃんのこと、嫌いになったりしないから!」と、
雫は必死に叫んだー。

雫は、現在大学生の兄・悠馬(ゆうま)と小さいころから
とても仲良しだったー。
それは、高校生になった今でも変わらないー。

昔も、今も、雫にとって悠馬は
”大好きなお兄ちゃん”ー

「ーーーお前の意思など、関係ないー」
ヘルメットの人物の”不気味な加工音声”が響き渡るー

「ーーお前はこれから”洗脳”されるのだからー」

その言葉と同時に、スマートフォンを操作する
ヘルメットの人物ー

「せ…洗脳…? せ、洗脳ってなにー…!?
 わたしに何をするつもりなの!?」

雫が悲鳴を上げながら椅子に拘束された身体を
必死にじたばたと動かすーー

けれどー
ヘルメットの人物は答えず、倉庫の壁際に寄りかかって
腕を組んでいるオールバックの人物は、雫のほうを
見つめてニヤニヤとしているだけー。

「ーーお兄ちゃん!たすけて… おにいちゃん!」
目に涙を浮かべながら必死に叫ぶー

”ダークアプリ・M”ー
そう書かれた画面を表示させたヘルメットの人物は、
それを雫の方に向けるー。

「ーーーお前は、兄を憎みー、全てに不満を抱きー、
 非行を繰り返すんだー。
 ”自分の意思”でー」

ヘルメットの人物の素顔は計り知れないー
ヘルメットの下にマイクか何かを仕組んでいるのか、
AIのような不気味な音声が聞こえてくるのみー

「ーそんなこと…絶対に…絶対にしないから!」
雫は泣きながらヘルメットの人物のほうを睨むー。

「ーーわたしは、あなたたちの言いなりになんか、ならないから!」
雫が大声で叫ぶー

「お兄ちゃんは、絶対に助けに来てくれるから!!!」
とー。

「ーーーそう言ってられるのも、今のうちだー」
ヘルメットの人物がそう言うと
”ダークアプリ・M”を起動し、スマホの画面を雫の方に向けるー。

画面に表示された映像と、
特殊な音声ー
さらには、ヘルメットの人物が持つ特殊なスマホから
”人を洗脳するための”映像・音・電波”が放たれるー

「うっ… うっ… あっ… あぁぁっっ…やめて…」
雫がビクンビクン震えながら、もがき苦しむー

やがてー
倉庫中に、雫の悲鳴が響き渡りー
オールバックの人物は、「へっ…悪趣味だぜ」と、笑みを浮かべー
ヘルメットの人物は、そのまま無反応で雫にスマホを向け続けるー

「あ… ぁ… ぁ…」
雫はそのまま意識を失いー、
拘束されたまま、ガクッと下を向くー

「ーーーー…これで、この小娘はお前の意のまま、かー」
オールバックの人物がそう言うと、
「ーーーあぁ」と、ヘルメットの人物が呟くー

「ーーーー…(なるほどー)」
オールバックの人物は、心の中でそう呟くと、
腕を組んだまま、成り行きを見守るー。

「ー起きろ」
ヘルメットの人物が、雫の拘束を解くー。

目を覚ました雫は、先ほどまでとは違い、
睨むような目つきでヘルメットの人物と
オールバックの人物を見つめたー。

「ーーーほら、電話するといいー」
ヘルメットの人物はそう言うと、かがみながら、
雫のスマホを手渡すー。

”兄の悠馬”に電話をかける直前の画面にしてー

「ーーー電話?」
雫が呟くー。

「ーーーそう。お前の大好きな”お兄ちゃん”にー」
ヘルメットの人物が言うと、
雫はスマホを乱暴に取り返してから
「ーー大好き?あいつが?ふざけないで!」と、
鋭い口調で言い放つー

「ーーーおやおやおやおや」
背後にいたオールバックにトレンチコートの人物が
面白そうに笑うー。

「ーーーさっきまで”お兄ちゃんが助けに来てくれるから”
 な~んて、泣いてたのにな」

その言葉に、雫は立ち上がると
「ーーそんなこと関係ないし!」と、不満そうに吐き捨てるー

さっきまでの怯えた表情が、嘘のように消えているー

「ーーおぉ~…こわっ…これが洗脳かー」
オールバックの人物はそう呟くと、雫のほうを見つめながら、
「ーーお前、自分が何されたか、理解できてないのかよ?」と、
笑いながら呟くー

「ーーー洗脳? 
 ふんー ふざけないでー。
 あんたたちに洗脳されたからじゃないー。
 わたしは、元々アイツが大っ嫌いなの!」

雫はそれだけ言うと、不機嫌そうにそのまま立ち去っていくー

「ーー無駄だ。”M”の洗脳は完璧だー。
 意のままに操ることも、意識を操作することも、
 人格を変えてしまうことも、何だってできる」

ヘルメットの人物がそう呟くと、
オールバックの人物は「へへ…やばすぎだろ」と、
立ち去る雫の後ろ姿を見つめながら、
静かにそう呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

★主な登場人物★

・神里 悠馬(かみさと ゆうま)
大学生。妹の雫が豹変したことに困惑する。

・神里 雫(かみさと しずく)
高校生。兄の悠馬のことが大好き。少しイタズラっ子な一面も。

・森永 愛梨沙(もりなが ありさ)
大学生。悠馬の彼女。成績優秀な優等生。コスプレ趣味がある。

・藤嶋 亮介(ふじしま りょうすけ) 
大学生。高校時代からの親友。困った時には頼りになる存在。

・西園寺 美桜(さいおんじ みお)
高校生。妹・雫の親友。表裏が非常に激しい。

・九条 輝樹(くじょう てるき)
高校生。妹・雫の幼馴染で悠馬とも小さいころから面識がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーお兄ちゃん!」

その日の朝ー。
まだ、”雫”が洗脳される前ー。

「ーーお兄ちゃん!起きて~!起きて~!起きて~!」

部屋をトントントントンとノックしながら叫ぶ妹の雫ー。

「ーーーあと…5分…」
雫の兄で大学生の悠馬(ゆうま)はそう呟きながらウトウトしていると、
雫は頬を膨らませてから
「お兄ちゃん!もう9時だよ!大遅刻だよ!!!!」と、叫びながら
部屋の中に入って来るー

「く、9時~!?!?!?!?」
悠馬が慌てて飛び起きるー

「ーーや、やべっ!なんでもっと早く起こしてくれなかったんだ!?」
悠馬は、半分自虐的に笑いながら、1階に駆け下りて、
母親の裕子(ゆうこ)のいるキッチン付近に向かうー

「やべ!やべ!やべ!」
悠馬がそう騒ぎながら慌てて大学に行く準備をしていると、
妹の雫も2階から降りて来て、いつも通り
のんびりと高校に行く準備をしているー

「ーーーってーーーー!なんで雫はのんびりしてるんだ!?
 っていうか、9時なら雫も遅刻じゃーー

 ハッーーー!」

ハッとして悠馬が時計を見ると、まだ7時台だったー。

「ーーまだ7時じゃないかよ~~~!」
苦笑いしながら頭を抱える悠馬ー

「ーだってお兄ちゃん、起きないんだもん!」
雫はそう言いながら少し頬を膨らませるー。

「ーー……はぁ~…雫は昔から俺をびっくりさせるんだよなぁ~」と、
苦笑いしながら、悠馬が呟くー

「ーーそんなことないよ~!お兄ちゃんがびっくりしすぎるだけ!」
笑う雫ー。

雫はよく、兄の悠馬にイタズラをすることが多く、
昔からこんな風に驚かされることも多いー。

けれどー
悠馬を傷つけるようなドッキリは仕掛けて来ないし、
ちゃんと”分別”もできていて、
普段はとても仲良しー。

兄の悠馬は、数年前は”雫も思春期になったら、俺のこと
キモイとか言い出すのかなぁ~”などと、悩んでいた時期もあったが
実際、妹の雫が高校生になっても関係は変わらぬままー。
そんなことを心配する必要もなかったー。

「ーーーそうだ!お兄ちゃん!わたし、生徒会に立候補したの!」
雫が笑いながらドヤ顔で生徒会の立候補者のプリントを見せて来るー

「り、り、り、っこうほー?副会長!?雫がー!?
 いやぁ~無理だろ雫には~!ははは」

悠馬は思わず笑ってしまうー

「も~!学校ではわたし、頼れる女の子なんだからね!」
雫の言葉に、悠馬は「ははははは」と笑うー。

”まぁー”
悠馬は、笑いながらも、雫が学校で真面目にやっているのは
知っているし、
彼氏の九条 輝樹(くじょう てるき)も、
”雫は、悠馬さんが思っている以上に、頑張ってますよ”などと
言っていたー。

普段は、こんな”可愛い妹キャラ”でも、学校では違う、
と、いうことなのだろうー。

「ーー今日が選挙!
 でもね、副会長に立候補した子4人いてー、
 受かるの2人だけなんだよね」

雫が自信なさげに言うー。

悠馬は少しだけため息をついてから、
「ー大丈夫、雫なら副会長になれるさ!」と、勇気づける言葉を
口にするー

その言葉に、雫は心底嬉しそうに笑顔を浮かべると
「お兄ちゃんにそう言われると、会長になれる気がしてきた!」と、微笑むー

「いやいやいやいや、副会長に立候補したんだから、
 会長にはなれねぇよ」

その言葉に「あ、そっか~!」と頭を叩きながら笑う雫ー。

そうこうしているうちに、雫は学校に向かう時間になるー。

「ーお兄ちゃん、いってきま~す!
 雫ちゃん、副会長に就任!!! 期待しててね!」

雫が笑いながらそう言うと、そのまま家から飛び出していくー。

悠馬は微笑ましそうにその背中を見つめると
「あ、やべー…あんまのんびりしてると、マジで遅刻するぞ」
と、そのまま慌てて大学に行く準備を始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「え~!雫ちゃんってば相変わらず可愛い~!」

大学の昼休みー
彼女の森永 愛梨沙(もりなが ありさ)が、
朝の出来事を悠馬から聞かされて微笑んだー。

「ー参っちゃったよー」
悠馬がそう呟くと、
愛梨沙は「でも可愛いなぁ~最近、雫ちゃんに会ってないし、
また今度遊びに行っちゃおっかな」と、笑うー。

「ーははは…雫も愛梨沙には懐いてるし、
 喜ぶと思うよ」

悠馬はそこまで言うと、
少し沈黙しながら周囲の視線を気にしたー

「ーー………ーーー」
「ーーーーーーー」

キョロキョロしながら悠馬は、やがて、愛梨沙のほうを見て
「っていうかさー…」と、愛梨沙に向かって言い放ったー

「ーな、な、な、な、なんでメイド服!?」
悠馬が叫ぶと、黒っぽいメイド服姿で平然と大学内を
歩いている愛梨沙が「え?だめ?」と、微笑むー。

「だ、だ、だめじゃないけど!?なんで!?」
悠馬が叫ぶー

「ーなんでって?今度の学園祭でホラ、
 わたし、メイドカフェ的なやつやるから、
 その確認と思って、昼休みにサークルの部屋で
 ちょっとだけー」

愛梨沙が言うと、
悠馬は、周囲の視線を感じながら恥ずかしそうに言うと
「なんで着ている愛梨沙より、俺が恥ずかしそうにしてるんだー」と、
苦笑いするー。

愛梨沙は、小さいころからの幼馴染で、
今は悠馬の彼女ー。
中学だけ別の学校だったものの、高校は偶然重なり、
大学も偶然重なったー。

とても真面目で優しい性格の優等生ーなのだが、
小さいころから”おしゃれな服”が好きで
やがてそれがコスプレ趣味に行き着いたー。

平気でコスプレ姿を晒すこともあるので、
そこが悠馬にとってはちょっとした、悩みの種ー。

「ーーおいおい、昼間からメイドをつれて何やってるんだよ」
背後から声がして悠馬が振り返ると、
そこには、悠馬の親友・藤嶋 亮介(ふじしま りょうすけ)の
姿があったー。

「ーーーってか、可愛すぎだろー、愛梨沙ちゃん」
亮介がメイド服姿の愛梨沙を見てそう言うと、
愛梨沙は「下心丸出しでじろじろ見ないでよね?」と、
少し低い声で呟いたー。

「ーみ、み、見ねぇよ!っていうか、なんで愛梨沙ちゃん、
 俺にだけ辛辣なの!?」
亮介が笑いながら言うと、
愛梨沙と悠馬は微笑むー。

「それだけ仲が良い、ってことじゃないか?」
悠馬がそう言うと、亜理紗は「そうそう!同性の友達みたいな感じで」と、
亮介に向かってそう言い放ったー

「ー友達~ 俺も彼氏になりたかったな~」
亮介が冗談を口にすると、
悠馬は「それはだめだぞ~?」と、亮介に言い放つー。

「へへ 冗談冗談ー
 大体、親友の彼女取るわけないし、俺も彼女いるしなー」

亮介は、バイト先で出会った、倫子(りんこ)という彼女がいるー。

雑談で盛り上がる三人ー。
やがて、愛梨沙は「あ、そろそろ着替えなくちゃ!」と
慌ててサークルの部屋へと戻っていくー。

「ーーっていうか、可愛くてコスプレ好きの彼女って、
 お前、前世でどんないいことしたんだよ?」
亮介が言うと、悠馬は「い、いや…俺は別にー」と苦笑いするー

「ーさて、と、今日は帰りに我妻(あがつま)と、一緒に
 ゲーセン行く予定なんだけど、お前も来るか?」

亮介の言葉に、悠馬は「あ、いや、今日は俺はやめとくよ」と、笑うー。

「そっか」
亮介は頷くと、「ー我妻のやつ、この前もクレーンゲームで
キレててさ~!」と、笑いながら悠馬に話を始めたー

そうー
”この時”までは、”今日”この日がー
”悪夢の始まり”になるとは、夢にも思っていなかったー

まさかー
妹の雫が”豹変”してしまうなんてー。

いやー
悠馬だけではないー
雫、本人もー。

「ー生徒会副会長はー
 2年C組の山口 徹(やまぐち とおる)くんと、
 2年D組の神里 雫さんに決まりましたー」

高校ではー
雫が”生徒会副会長”の座を勝ち取り、思わず「やった!」と
ガッツポーズしてしまい、恥ずかしそうに周囲を見渡して
「あはは…」と誤魔化していたー

「ーーー雫ー、おめでとうー」
一緒に副会長に立候補していた雫の
親友・西園寺 美桜(さいおんじ みお)が
雫の勝利を祝うー。

「ーーうん!ありがとうー」
雫は美桜と握手をすると、美桜はそのままにっこりとほほ笑んで、
「わたしもできる限り手伝うから、頑張って!」と、
応援の言葉を口にしたー。

「ーーーうん!」
微笑む雫ー

「ーーーチッ」
眼鏡をかけた真面目そうな雰囲気の美桜は、雫に背を向けると同時に
笑顔を瞬時に消して、不満そうにそう舌打ちをしたー。

そんなことに気付かず、雫は
”お兄ちゃんに、自慢できる♪”と、心の中で呟いたー

けれどーーー
”そんな未来”は、なかったー

部活で少し遅くなった雫はー
下校中ー
”ヘルメットの人物”と”オールバックの人物”に拉致されてー

”洗脳”されてしまったー。

「ーーーあれ?雫はー?」
今日は一人で帰宅した悠馬がそう呟くと
母の裕子は「まだ帰ってないよ~!」とだけ返事をしたー。

「ーーーははは さては生徒会副会長になれなくて
 拗ねてるんだなぁ~」

悠馬はそんなことを呟きながら、自分の部屋に向かおうとしたー

その時だったー

バン!

乱暴に玄関の扉が開くとー
そこには、雫の姿ー

「ーーお、雫ー
 おかえーーー」

「ー話しかけないで」
雫は不愉快そうにそれだけ呟くと、そのまま自分の部屋に
向かっていくー

「ーーーえ? な、何かあったのかー?
 副会長になれなー」

「ー喋んな!うざい!」
雫は兄・悠馬の言葉を遮ると、
今までに見たこともないような表情で、
そう叫びー
そのまま自分の部屋に入って行ってしまったー

「し、雫ー?」

”さァ、始めようー”

夜道をヘルメットの人物が歩くー。

その反対側から、夜の街頭に照らされた人物が姿を現すと、
静かに、そう囁いたー

②へ続く

第2話「豹変」

あらすじ

兄・悠馬と仲良しだった女子高生の雫ー。

しかし、ある日の下校中、雫は
謎のヘルメットの人物とオールバックの人物に拉致され、
その場で”洗脳”されてしまうー。

洗脳されるその瞬間まで、必死に”お兄ちゃん”のことを
考えていた雫ー

けれど、洗脳された雫は、それに抗うことはできずに
豹変してしまったー。

”妹が洗脳されてしまったー”
そんなことも知らずに、帰宅した雫から突然
”喋んな!うざい!”と、怒鳴られた悠馬は、只々、困惑することしか
できなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

★主な登場人物★

・神里 悠馬(かみさと ゆうま)
大学生。妹の雫が豹変したことに困惑する。

・神里 雫(かみさと しずく)
高校生。兄の悠馬のことが大好き。少しイタズラっ子な一面も。

・森永 愛梨沙(もりなが ありさ)
大学生。悠馬の彼女。成績優秀な優等生。コスプレ趣味がある。

・藤嶋 亮介(ふじしま りょうすけ) 
大学生。高校時代からの親友。困った時には頼りになる存在。

・西園寺 美桜(さいおんじ みお)
高校生。妹・雫の親友。表裏が非常に激しい。

・九条 輝樹(くじょう てるき)
高校生。妹・雫の幼馴染で悠馬とも小さいころから面識がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーチッ」
部屋に戻った雫は舌打ちをすると、
乱暴に鞄を投げ捨てて不満そうに
「マジでウザい…」と、呟くー。

兄の悠馬のことを思い出すだけでイライラするー

「ーーいつまでもわたしを子供みたいに扱ってー…
 ふざけんな」

雫はそう吐き捨てると、
自分の机の上に飾ってあった”お兄ちゃんとの写真”を手に掴み、
それを床に叩きつけたー。

「お兄ちゃんは、絶対に助けに来てくれるから!!!」

洗脳される直前ー
自分が言い放った言葉が頭の中に浮かんでくるー

「ーーーーーーっ」
”洗脳されたばかり”の雫はまだ、少し頭が混乱していたー。

だが、すぐに”洗脳”された自分の意思に従って
「あんなやつに助けを求めるー?笑わせないでー」と、
不満そうに言葉を口にしたー。

何もかもイライラするー。
雫は制服姿のまま、いつもは絶対見せないような
不機嫌そうな態度で、ベッドに寝転んで
大きくため息をついたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

ガン!

「ーーー」
悠馬は、2階から響く音に不安そうな表情を浮かべていたー

「な、何かあったのかなー…?」
悠馬が台所の方にいる母親の裕子にそう言うと、
裕子は「学校で友達と喧嘩でもしたんじゃないの?」と、
少し困ったような表情で呟いたー。

雫がこんなに”イライラ”している様子なのは
珍しいー
いや、今までに一度も見たことがないー。

心配になった悠馬は、少しため息をつくと、
「ーーちょっと、見て来るよ」と、だけ呟いて、
そのまま2階の階段を登るー。

雫の部屋の前にやってくると、
悠馬は雫の部屋をノックしたー

「ーどうしたんだよ?雫ー…
 何かあったのか?」

”いつも仲良し”な悠馬と雫ー
だからこそ、いつも通り、声を掛けたー

”いつもなら”
少し機嫌が悪いことはあっても、
すぐに甘えてきたりするし、
何なら、これは”雫お得意の”ドッキリかもしれないー。

そんな風に思いながら、部屋のノックを繰り返すー。

”うるさい!”
中から雫の声が聞こえてくるー

雫が声を荒げるのも、珍しいー。

「ーーし…雫…は、入るぞ?」
そう確認しながら雫の部屋に入ると
部屋に入ると同時に、雫が教科書を思いっきり投げつけて来たー

ドン!

悠馬の頭のすぐ横に教科書が激突して
悠馬は思わず「うわっ!」と叫んでしまうー。

「ど…ど…どうしたんだよ?雫ー…!
 せ、生徒会…落ちたのかー?」

悠馬が困惑しながらそう言うと、
雫は”今までに見たことのないような”表情で、兄の悠馬を
睨みつけて来るー

「ー生徒会なんて、どうでもいいー」
雫は少し低い声でそう呟くー

「ど…どうでもー?」
悠馬は、朝の雫の姿を思い出すー

「ーお兄ちゃん、いってきま~す!
 雫ちゃん、副会長に就任!!! 期待しててね!」
雫はそんなことを言っていたー。

「ーーーー」
悠馬は、そんな雫の姿を見てハッとしたー

”これは、いつものドッキリだー!!”

とー。

雫は悪戯好きで、特に兄の悠馬にはよく”ドッキリ”を仕掛けて来るー
今朝も、”もう9時だよ!大遅刻だよ”なんて嘘をつかれて、
慌てて飛び起きる羽目になったのは、記憶に新しいー

「ーはは…はははは…なるほど~」
悠馬が笑みを浮かべると、雫は不機嫌そうに表情を歪めたー。

「ーーでも、その手には乗らないぞ雫~」
”雫が急に豹変した理由”が分かって安堵の表情を浮かべながら
そう呟く悠馬ー。

本当は、生徒会副会長になることが出来て
飛び跳ねるぐらい嬉しいのに
”わざと”不機嫌な様子を見せて、ドッキリさせようとしているのだー。

雫ならー
そのぐらいは、やるかもしれないー

そう思ったー

「ーーは?」
雫が明らかに不機嫌そうな声を出すー。

「ーーはは…まだ続くのか?これ?」
苦笑いする悠馬ー。

”しょうがないなぁ”と、妹のドッキリに付き合ってあげようと
悠馬がため息をついたその時だったー

「ーーいいから出てって!不愉快!」
雫は乱暴な口調でそう言うと、悠馬の手を乱暴に掴んだー。

雫の冷たい手に、少しドキッとしながらも
悠馬は「お…おい…ど、どうしたんだよー?」と、困惑の
表情を浮かべるー。

「ーし…雫!ほ、本当に何かあったなら、何があったのか教えてくれ!
 …俺、頼りないかもしれないけど、
 雫のためならー」

流石にドッキリではないかもしれないー
そんな、不安を抱きながら悠馬がそう言葉を口にするとー

パチン!!!

「ーー!?」

それほど痛みはなかったー

がー
身体の痛みより、精神(こころ)にその痛みが響いたー

「ーーし…雫ー…?」
ビビッているわけではないー
けれど、悠馬の身体は震えていたー

「ーーーあんたなんか大っ嫌い!」
雫が心の底からそう叫ぶー。

悠馬は「し…雫ー…お…俺…何かした…?」と、
困り果てた表情で呟くー。

「ふん!」
だが、雫は答えなかったー

どんなに考えても、思い当たる答えはないー。
急にー
急に雫はどうしてしまったのかー

そんな風に考えながら呆然としていると、
「いいから出てってよ!!!!!」と、雫は
今にも暴れ出しそうに足をドンドンと床に叩きつけながら叫んだー

「わ、わ、わ、わかった!わかったから!」
悠馬はそれだけ言うと、慌てて雫の部屋から飛び出して、
そのまま自分の部屋に一度退散したー。

”なんなんだー?
 何が起きてるー?
 俺ー何かしちゃったのかー?”

今まで、妹の雫があんなに怒っているのを見たことがないー
初めての経験だー。

「も、もしかしてー…急に思春期に突入したー?」
少し抜けている部分もある悠馬は、一瞬そんなことを口にしたが、
すぐに首を横に振って、”いやいや、それはない”と、
冷静さを取り戻すー。

その時だったー

♪~~

悠馬のスマホが鳴り響くー。

「こんな時に誰だー…?」
そんな風に呟きながら、名前を確認すると、
そこには親友の亮介の名前が表示されていたー。

電話に出ると、亮介が
”今、大丈夫か?”と呟くー。

「ーーん…まぁ、大丈夫だけど、どうしたんだー?」

”あぁ、いや、そんな大事なことじゃないんだけどよー
 明日までに提出するあのレポートさ、
 ちょっと範囲忘れちゃったからさ、
 教授が配ってたプリント、写真撮って俺の方に
 送っておいて貰えるか?”

騒がしい音のする場所から電話を掛けてきていて、
亮介の声を聞きとるのに苦労しながらも、
悠馬はなんとか話を聞き取ると「あぁ、別にいいよー」と呟くー。

そういえば、大学で彼女の愛梨沙、そして亮介と話した際に
亮介は”友人の我妻と一緒にゲーセンに行く”と言っていたことを
思い出すー

「ーゲーセンからかけてくんなよー…聞き取りにくいぞ?」
悠馬が苦笑いしながら言うと、
亮介は”はは、悪い悪い”と呟くー。

隣からは、我妻の声も聞こえてきているー。

”あ、我妻も送ってほしいって!我妻の分も頼んでいいかー?”
亮介が申し訳なさそうに言うと、
悠馬は「いいけどー…お前らなぁ…」と、二人の適当ぶりに
苦笑いしながら、少し雑談を続けるー

”うざい!どいつもこいつも!うざい!”

「ーー!」
悠馬は、隣の部屋から、一人怒鳴り声を上げる雫の声が
聞こえて来て、電話をしながらビクッとするー。

”どうした?”
電話の向こうから亮介の声ー。

「ーーあぁ、いや、何でもないー
 じゃあ、ゲーセン、楽しめよ」

悠馬がそう言うと、亮介は”あぁ 今度お礼はするからさ”と、呟きながら
そのまま通話を終了したー。

「ーーー」
スマホを握りしめながら、時折隣の部屋から聞こえてくる
何かを投げているような音に、悠馬は不安を覚えるー。

「ーーー雫…どうしちゃったんだー…?」
妹が”何に怒っているか分からないー”
人生で初めての状況に、悠馬は困惑することしかできなかったー。

しばらくすると、悠馬は晩御飯を済ませるために下へと降りるー。
既に、雫が帰宅した時点で、暗くはなっていたものの、
今日は父親の茂雄(しげお)がもうじき仕事から帰ってくるから、
という理由で、晩御飯の時間はいつもより遅くなっていたー。

「ーーお、ただいま」
既に着席しながらテレビを見ていた茂雄が、
2階から降りて来た悠馬に声を掛けるー。

悠馬も「おかえり」と、いつものように返事をすると、
母親の裕子が「あれ…?雫はー?」と、不安そうに呟いたー。

「ーい…いや、それがー」
悠馬は戸惑いながら”機嫌がまだ悪いみたいでー”と、
困惑の表情を浮かべるー

「なにか、あったのかー?」
”眼鏡をかけた優しいお父さん”という雰囲気の
父・茂雄が目を細めながらそう呟くと、
「ーーなんか、今日、雫、帰ってきてからずっと機嫌
 悪くてさー…
 さっきも部屋から追い出されちゃって」と、悠馬は苦笑いしたー

「ーーははは…なんだ悠馬?
 お前、雫を怒らせるようなこと何かしちゃったんじゃないのか?」

少し揶揄うようにして父・茂雄がそう言うと、
「しょうがない。父さんが呼んでくるか」と、立ち上がるー。

妹の雫は、父・茂雄との関係も別に悪くはなくー
普通に普段から会話をする間柄だー。

「ーーー父さんも怒られるかもしれないぞ?」
悠馬がそう呟くと、
父・茂雄は「はっはっはー父さんを甘く見るなよ~?」と
笑いながら2階へと上がって行ったー

”ふざけんな!出てけ!!”

程なくして、2階から雫の怒鳴り声が聞こえて、
1階に戻ってきた父の茂雄は、
落ち込んだ様子で「ははは…」と苦笑いしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”え~…雫ちゃんが?”

部屋に戻った悠馬は、彼女の愛梨沙と通話をしていたー。

「ーーあぁ…何か今日、ずっと怒っててさ」
悠馬が言うと、愛梨沙は
”悠馬のこと大好きな雫ちゃんでも、そういうことあるんだね”と、笑うー。

「ーー初めてだから不安でさ」
そんな言葉に、愛梨沙は
”大丈夫だよ~!案外、次の日になるとコロッと機嫌よくなることも
 あるし、今日はとりあえずそっとしておいたら?
 わたしだって、嫌なことあっても次の日には忘れちゃうことも多いし”
と、アドバイスしてくれたー。

「ーう~ん…まぁ、そうだなぁ…今は静かだけど、
 まだ怒ってるかもしれないしー」

悠馬はそれだけ言うと、
彼女の愛梨沙に対して「ありがとう」と、お礼の言葉を口にしたー

雫以外の話題も少し話してから、彼女の愛梨沙との通話を終えた悠馬はー
「まぁ…雫も年頃だしなー」と、呟いてから
寝る支度をして、その日は静かに眠りについたー。

・・・・・・・・・・・・・・

”まずは、”洗脳”は完了したー”

ニヤリと笑みを浮かべるー。

”次はーーー…”

大事な妹が、”エッチな妹”になってしまったら、
どう思うだろうかー。

ダークアプリ・Mを手にして
その設定画面を開くー。

”一度、洗脳した相手”にはー
直接命令を下したり、思考をコントロールしたりー、
記憶を植え付けたりすることもできるー。

今、雫は”洗脳された状態で、自由に行動している状態”だー。
だが、その雫を完全に支配することもできるし、
さらに歪めることもできるー。

「ーーー」
笑みを浮かべながら、ダークアプリ”M”を手にした人物は、
雫の”洗脳”を強めていくー。

雫の性欲を強めー
雫の理性の部分を削り取りー
雫の”男遊びへの欲求”を強めー
”自分は優秀で可愛い”と思い込ませー
他人を見下す嫌な女へと変貌させていくー。

「ーーーーー」
”完了”ボタンを押したその人物は
満足そうに微笑むと、そのままスマホを置いて
静かに部屋の明りを消したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

目を覚ました悠馬は、
すぐに”昨日のこと”を思い出してため息をつくー。

部屋から出る悠馬ー。

「ーーーー……」
雫の部屋の扉をノックするー

”雫、機嫌直してくれてればいいけどー”

だがー
雫の部屋から返事はなくー、
悠馬は仕方がなく1階に降りると、既に雫は
リビングのソファーに制服姿で座っていたー。

「ーーー」
綺麗な黒髪に、可愛らしい制服ー。
いつも通りの雫の後ろ姿ー。

「ーー雫ー」
悠馬は、少し躊躇いながらも、意を決して声を掛けたー

だが、雫から返事はないー。

よく見ると、雫はイヤホンをつけて、
スマホで音楽を聴いて、身体を小刻みに動かしていたー

「ーー雫ー…?」
悠馬は途端に不安になるー
雫の”普段の行動”とは異なるからだー。

「ーーー……チッ」
雫が舌打ちをして立ち上がるー。

「ーーーまたウザいのが来たー」
雫はため息をつくと、そのままスマホを置いて、
悠馬から離れようとするー

「ーし…雫ー」
悠馬は表情を曇らせたー。

”昨日と同じー”
雫は、機嫌を直していないー
”いつもの雫”には戻っていないー。

「ーー!」
悠馬は、雫のスカート丈がいつもよりも短めで、
雫が口紅を塗っているのに気づいたー

「ーーーし…雫…何があったんだよー?」
悠馬が雫を追いかけるようにしながら声を掛けるー

「うるさい」
雫は愛想なく悠馬にそう言い放つー。

母の裕子も、心配そうに離れた場所から
その様子を見つめているー。

「ー俺が悪いなら謝るからー…
 昨日から、何か、変だぞ?」
悠馬はなおも食い下がるー

「ーうるさい」
雫は再び同じ言葉を繰り返したー

雫の”いつもの笑顔”を思い出しながら
今の雫を見つめるー
同じ雫なのに”まるで別人のように見えるー。

「ーーーし、雫ー…何かあるなら、言ってくれないと
 俺も分かんないよ!
 母さんも、父さんも困ってる!
 頼むから、何か理由があるならーーー

「ーうるせぇんだよ!」
雫は突然声を荒げると、悠馬の急所に突然蹴りを食らわせたー

「ぐっ…ぁっ!?」
あまりの痛みにその場に蹲る悠馬ー

「ごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃ!
 朝からうるさい!黙ってて!」

雫はそれだけ言うと、母の裕子に向かって
「わたし、今日は帰り遅いから」と、乱暴な口調で言い放つー

「え…あ、うんーわかったー」
戸惑いながらそう返事をする裕子ー

雫は、乱暴に鞄を掴むと、そのまま玄関の外に
出て行ってしまったー

「ーーし…雫ー…」

「ー大丈夫?」
母の裕子に声を掛けられて、悠馬は「だ、大丈夫だけどー…」と、
戸惑いながら、雫が立ち去った玄関のほうを見つめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

高校に向かう雫ー。

だが、その前に雫は、
まるで”操られる”かのように、とある倉庫のような場所にやってきたー

「ーーーいい子だ」
ヘルメットを被った人物が、雫を出迎えるー。

昨日と同じ、機械音声のような声ー。

「ーーお兄ちゃんのこと、どう思う?」
ヘルメットの人物にそう問われた雫は
「ーー大っ嫌い」と、言葉を口にするー

「ーークククー」
ヘルメットの人物は満足そうにそう声を漏らすと
「ーもう一度」と、少し弾んだ声を出したー

「ーー大っ嫌いー
 あんなやつー大っ嫌い!」

怒りからか、荒い息をしながら叫ぶ雫を見て、
満足そうにヘルメットの人物は頷くと
「ーー今日から早速、男遊びを始めるんだー。
 ”お兄ちゃん”を、家族をもっと困らせてやれー」
と、”M”を操作しながら呟くー

「ーーーーはいー」
雫は一瞬虚ろな目になってそう呟くとー
「いいぞー」と、ヘルメットの人物は呟いたー

「ーさぁ、学校に行けー。
 学校のやつらにも、”新しい神里 雫”を見せてやれー」

ヘルメットの人物の”命令”に雫は「はい」と頷くと、
そのまま不機嫌そうに歩き出したー

学校を目指してー

「ーーーーー……」
雫は、何もかもに”イライラ”しながら学校に向かうー。

自分の身に起きていることを、
雫はもはや、コントロールできなかったー。

”洗脳”の深みに、どんどんはまりー、
雫は完全に”支配下”に置かれているー。
自分でも、ハッキリそれを自覚できないままー…。

「ーーーー…」
学校の正門までやってきた雫は、
いつものような明るい表情ではなくー
校舎を睨むように見つめてから、静かに舌打ちをしたー。

③へ続く

第3話「不安」

あらすじ

怪しげな人物たちに”洗脳”されてしまった妹の雫ー。

兄の悠馬は、洗脳された雫の突然の豹変に困惑するー。

”今日はたまたま機嫌が悪いのだろう”
最初はそんな風に思っていた悠馬も、翌日になっても雫の態度が
変わらないことから、強い違和感を抱き始めるー。

妹の突然の豹変ー。
困惑しながらも、兄の悠馬は今日も大学へと向かうのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★主な登場人物★

・神里 悠馬(かみさと ゆうま)
大学生。妹の雫が豹変したことに困惑する。

・神里 雫(かみさと しずく)
高校生。兄の悠馬のことが大好き。少しイタズラっ子な一面も。

・森永 愛梨沙(もりなが ありさ)
大学生。悠馬の彼女。成績優秀な優等生。コスプレ趣味がある。

・藤嶋 亮介(ふじしま りょうすけ) 
大学生。高校時代からの親友。困った時には頼りになる存在。

・西園寺 美桜(さいおんじ みお)
高校生。妹・雫の親友。表裏が非常に激しい。

・九条 輝樹(くじょう てるき)
高校生。妹・雫の幼馴染で悠馬とも小さいころから面識がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーなんだって?マジかよ」
親友の亮介が少し大げさな手ぶりを加えながらそう呟くー。

亮介が時々、オーバーリアクションなのはいつものことだー。

「ーお前、何か妹を怒らせるようなこと、しちゃったんじゃないのか?」
亮介は揶揄うような口調でそう言ったものの、
悠馬がいつものように冗談に乗ってこないのを見て、
気まずくなったのか、
「ーー…雫ちゃんってー…そういう子には見えなかったけどなー」と、
困惑の表情を浮かべるー。

「ーー思い当たることも、何もないんだよね?」
彼女の愛梨沙が、不安そうな表情を浮かべて呟くー。

「ああ…何もー」
悠馬はそう呟きながら、昨日から突然豹変した雫のことを
思い出すー。

朝は”生徒会副会長になる・ならない”の話をしながら笑っていて、
”いつも通り”だったー。

それなのにー

「ーーー朝までは普通だったの?」
彼女の愛梨沙が、心配そうに聞いてくるー。

「ーーーで、帰ってきたらメチャクチャ機嫌が悪くなってた、
 ってことかー」
親友の亮介が、愛梨沙の言葉を補足するかのようにそう呟くー。

「ーーーー」
悠馬は思うー

「ごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃ!
 朝からうるさい!黙ってて!」

あれはー
本当に”機嫌が悪い”だけなのだろうかー。

「ーーー……わたしも雫ちゃんの連絡先知ってるから、
 時間のある時に連絡してみる」

愛梨沙の言葉に、悠馬は「ありがとう」と、少しだけ微笑むと
愛梨沙は「雫ちゃんは、わたしにとっても妹みたいなものだし」と、
少し照れくさそうに笑うー。

「ーーあ、そろそろわたし、行かないと」

「ーーあ、俺もー」

時計を見ながら愛梨沙と亮介がそう呟くと、
「ーあぁ、朝から変な話してごめんな」と、悠馬が
申し訳なさそうに笑うー。

「ーいいってことよ」
亮介が笑いながら悠馬の肩を叩くー。

「ーじゃあ…また後でね」
愛梨沙が小さく手を振り、
そのまま目的地が亮介と同じ方向だったため、
亮介と一緒に立ち去っていくー。

「しっかし、学園祭でメイド服なんてなぁ~
 愛梨沙ちゃんが貧乳じゃなかったらなぁ~」

「ーちょっと!それどういう意味!?そんな貧…貧乳でもないし!」

「ーーそうかなぁ~?」

「そうよ!っていうか、失礼すぎじゃない!?」

「ーーはははは」

二人のそんな雑談を聞きながら、悠馬はため息をつくと
”雫…本当にどうしちゃったんだろうなー”と、再び雫のことを
考え始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

高校のチャイムが鳴り、
昼休みの開始を告げるー。

雫のクラスメイトたちは、朝から雫の雰囲気に
違和感を抱いていたー

謎の人物たちによって洗脳された雫は、
学校でも、
”いつもとはまるで別人のような雰囲気”で、
振る舞っていたー。

「ーーーー…雫…大丈夫か?」
雫の彼氏、九条 輝樹が少し困惑した様子で
昼休みが始まると同時に雫に声を掛けると、
雫は「何が?」と、棘のある口調で、
輝樹のほうを見つめたー

「ーーーいや…朝から機嫌悪いみたいだからさ」
輝樹がそう言うと、
雫は「そう?別にー」と、だけ答えて
4時間目の授業で使っていた教科書を机の中にしまい、
座席から立ち上がるー

「ーーーーー」
輝樹が、困惑した様子で教室の外に向かおうとする雫のほうを
見つめているー。

「ーあ、そうだー」
雫は何かを思い出したようにそう呟くと、
振り返って輝樹のほうを見つめたー

笑みを浮かべている雫ー。

だが、その笑みは
いつものような”笑顔が似合う”雫の笑みではなくー
邪悪な雰囲気の漂う笑みだったー。

「ーー今度さ、わたしの家に来ない?」
雫の言葉に、輝樹は「ん?あぁーいいけどー」と、頷くー。

輝樹は雫と付き合い始めてから何度か、雫の家にも
お邪魔したことがあり、
兄の悠馬や母親の裕子とも面識があるー。

「ーーーふふ…ありがと」
雫はそれだけ言うと、ニヤッと笑みを浮かべて、
そのまま教室の外に向かっていくー。

「ーーーーーーーー」
廊下側の座席に座っている雫の親友・
西園寺 美桜は、教室から出て行く雫の後ろ姿を見つめながら
不愉快そうな表情を浮かべたー。

教室から出た雫は廊下を歩くー

「ーーあいつを苦しませてやるー…!
 もっと、もっと、あいつをー
 ふふ… ふふふふふふふっ♡」

昨日まで”大好きだった”兄のことを
そんな風に呟きながら、
雫は一人、悪女のような笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー色々考えてみたんだけどー…」

大学での1日が終わり、
レポートの整理をしながら、愛梨沙が
悠馬のほうを見つめるー。

「ーーやっぱり、昨日学校で何かあったんじゃないかな?
 …まぁ…わたしが言わなくてもそう思ってるかもしれないけど」

愛梨沙の言葉に、悠馬は「まぁ…な」と、頷くー。

”昨日の朝までは普通”だったー。

そして
”帰ってきた後から、様子がおかしい”

と、なれば”その間”に何かがあったと考えるのが普通だろうー。

「ーーーちょっと、高校で何かなかったのか聞いてみるよー
 連絡先知ってる子がいるし」

悠馬がスマホを持ちながら少しだけ笑うと、
「ーーえ?知り合いいるの?」と、愛梨沙が少し驚くー。

「ーん~あぁ、ほら、雫の彼氏だよー。
 うちに来た時、雫が”連絡先交換タイ~ム!”とか言い出して
 交換させられたからー」

悠馬は”普段は連絡取り合ったりはしてないけどな”と付け加えると、
「そっかー。彼氏さんなら何か知ってるかもしれないもんね」と、
愛梨沙も納得の表情を浮かべるー。

「ーーそうだ!今度の土曜日、わたしも悠馬の家に行っていいー?」
愛梨沙が思い出したかのようにそう言うと、
悠馬は「全然ー。愛梨沙なら、母さんも父さんも歓迎だと思うしー、
雫もー…いつもなら、愛梨沙に懐いてるからなー」と、笑うー。

「ーーふふふ…わたしが雫ちゃんから色々聞いてあげるから!
 悠馬は安心して!
 女の子同士なら、お兄ちゃんに言えない秘密も教えてもらえるかもだし!」

愛梨沙の言葉に、
悠馬は「ははは…じゃあー…お願いしちゃおうかな」と、
笑いながらも、
「ーま…俺も色々、調べてみるよ」と、
朝よりも少し元気を取り戻した様子で、静かに頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー雫は?」
帰宅した悠馬が、母親の裕子に確認すると、
裕子は困ったような表情で首を横に振ったー

つまりー
”まだ、機嫌が悪い”ことを意味しているー

「ーーなんか…色々買ってきたみらいで、
 部屋に戻ってからは1回も出てきてないわ」
裕子が言うと、悠馬は不安そうな表情で
雫の部屋のほうを見つめるー。

「ーーーーー」
悠馬は正直、”今の雫”に話しかけることには
少なからず恐怖もあったー。
いつもならー
”妹に話しかける”ことなんて躊躇しないー。

だが、今は違うー。

妹の部屋の扉がー
まるで”地獄への入口”になってしまったかのように、
近寄りがたい雰囲気を醸し出しているー。

昨日の朝まで、そんなこと、全然なかったのにー

「ーーーーー」
すぅっ、と息を吸ってから、悠馬は雫の部屋をノックしたー。

しかし、雫から返事はないー

「し…雫、いるんだろ?」
悠馬が困惑した様子で声を掛けると、
「ーいるけど、あんたの顔は見たくない」と
部屋の中から返事が返ってくるー。

「ーーな…なぁ…ほんと、どうしちゃったんだよー?」
混乱する悠馬ー

「どうもしない。あんたがうざいだけ」
雫の返事は、なおも冷たいー

”あんた”なんて今まで呼ばれたことがないー。

今までー
ずっと”お兄ちゃん”と十数年も呼ばれてきたのに
それがいきなり”あんた”になったショックー
これは、そう簡単に理解できるものではないだろうー。

”こころ”に直接、矢を打ち込まれたような、
そんな、強いショックを受けてしまうー

「ーー…わ、わかった、ごめんなー」
悠馬はそれだけ言うと、雫の部屋の扉を開けるのを
諦めて自分の部屋に戻るー。

そして、スマホを手にすると雫の彼氏である
九条 輝樹に対してメッセージを送ったー。

輝樹から見れば悠馬は”彼女の兄貴”だー。
向こうからしてもやりにくいだろうし、
基本的には連絡を取ることはしていないが、
何度か、雫関連で連絡が必要になったことはあって
そういう時はお互いにやり取りしたこともあるし、
面識もあるー。

”久しぶり”と、いう出だしで当たり障りのない言葉と、
雫の様子に変わったところはなかったかどうか、
それとなく確認するメッセージを送ってから数分ー。

雫の彼氏・輝樹から電話が掛かってきたー

”で、電話かよ”
そう思いながらもスマホを手に、返事をすると、
”お久しぶりです”と、輝樹の声が電話の向こうから
聞こえて来たー。

「ーー急にごめんなー…」
悠馬が言うと輝樹は”いえ”と、だけ呟いて、
少しため息をついてから言葉を続けたー。

”俺は、家庭で何かあったのかと思ってましたけど”

輝樹のそんな言葉に、悠馬は
「ーや、やっぱり高校でもあんな感じなのか?」と確認するー

輝樹は”えぇー。何があったんです?”と、逆に質問を
投げかけて来るー。

「いや…それがー俺にもー」
悠馬がそう言いかけると、輝樹は言葉を続けたー。

”俺はー原因は悠馬さんにあると思ってます”
とー。

「ーお…俺に?」
悠馬が聞き返すー。

輝樹は、”彼女”の雫が”お兄ちゃん大好き!”という態度を
隠そうともしないことから、
”相手は兄だから”と理解しながらも嫉妬していてー
雫と付き合い始めたころから、悠馬に対するあたりが強いー。

”えぇ。だってそうでしょう?
 昨日、帰るまではいつもの雫だったんですから”

輝樹がうんざりした口調で言うー。

「なんだって?」
悠馬は思わず聞き返すー

”昨日、帰るまでは普通だったー”

輝樹の言葉が本当なら、
雫は”学校を出てから”ー”帰宅するまで”の間に
豹変したことになるー。

”ーーだから、昨日帰り、学校を出る直前に
 話したときは普通だったんですよ”

輝樹の口調は丁寧だが、端々に敵意ー…
明確な…と言うより、”ライバル”的な、
そんな敵意が込められているー

”だったら、プライベートで何かあったって
 考えるのが、普通でしょう?”

輝樹の言葉に、悠馬は
「ーーっっ いや、待ってくれー
 昨日、雫が帰ってきたときにはもう様子がおかしくてー
 俺はてっきり学校でー」と、輝樹に向かって言い放つー。

しかしー
輝樹は”雫の豹変は兄である悠馬のせい”だと決めつけて
”雫を苦しめるなら、俺は、悠馬さんが相手でも容赦しませんよ”と、
だけ呟いて、そのまま電話を切られてしまったー

「ーいや、待てって! くそっ!」
スマホを手にしたまま悠馬がそう呟くー。

”いったい、昨日の帰り、雫に何があったんだー?”
そんな疑問を抱きながら、悠馬は部屋の中で考え込むー。

だが、やはり、
どんなに考えても雫が”豹変”した原因は思い当たらないー。

結局、晩御飯の時間まで考え込んでいたものの、
答えは出ずにため息をつきながら1階に降りるー。

既に、父の茂雄も帰宅していて、「お!今日もお疲れ」と
2階から降りて来た悠馬に対して、言葉を投げかけたー

「父さんも」
悠馬がそう言いながら、着席すると、
2階からー
雫が下りて来たー

派手な髪型に、ミニスカートに肩を出した服装ー

今までに見たこともないような、風貌でー

「し、雫ー?」
母・裕子が驚いて雫を呼ぶと、雫はそのまま玄関の方に向かうー

「お、おい、雫ー?どこ行くんだー?ご飯、できてるぞ」
父・茂雄が困惑しながらそう言うと、雫は「いらない」とだけ
呟いて、そのまま玄関の扉を開けてー
外へと出かけてしまうー

「ーーー…ちょ……おい!雫!」
悠馬も思わず叫ぶが、既にその言葉は、雫には届いていなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー例のグループで、問題なかったかー?」

オールバックの髪型の人物が、スマホを手に
誰かと会話をしているー

”あぁ、問題ないー
 既に神里 雫は、そのグループの所に向かわせたー
 今日から夜に遊び回る悪い妹になるんだー”

機械音声のような声が電話から響き渡るー

「ーーへへ…それはそれはー」
オールバックの人物は少し軽い調子で笑みを浮かべるー。

彼は、雫を洗脳したヘルメットの人物から”依頼”を受けて
雫を洗脳する前から、色々と動き回っているー

先程も、”雫を不良グループの仲間にしたい”と依頼を受けて
このあたりの地域で、夜に遊び歩いている不良グループを見つけて、
それを報告したところだったー。

「ーしかし、あの”お兄ちゃん大好き!”な妹を
 こんな風にして、どうするつもりだよ?」

オールバックの人物が笑みを浮かべながらそう呟くと、
”玉城(たまき)ー余計な詮索はするな”
と、冷たい口調で相手から返事が返ってきたー。

「ーーーへへへー
 まぁ、俺は”報酬”が貰えれば何でもいいー。
 深追いはしないさー」

オールバックの人物が苦笑いしながらそう呟くー

玉城 東吾(たまき とうご)ー
彼は、裏社会で暗躍する”便利屋”でー
雫の洗脳の件でも”依頼”を受けて動いているー。

「ーー何かあればまた連絡しろ」
オールバックの人物=東吾がそう呟くと、
”わかった”と、相手から返事が聞こえて、
そのまま電話は切れたー

スマホを手に、それを少しだけくるくると回すと
「ー”洗脳”なんて、依頼人の考えることはよく分かんねぇな」と、
笑みを浮かべるー。

そしてーーー

”電話相手のこと”を思い浮かべながらー
「ーーー本当に、”恐ろしいやつ”だー」と、静かに呟き、
そのまま東吾は、夜の闇の中へと消えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーねぇ、わたしも仲間に入れてよ」
洗脳された雫が、夜のゲームセンターで
大騒ぎしていた不良グループに悪い笑みを
浮かべながら声を掛けるー

「ーーへへ…なんだよ?お嬢ちゃん一人?」
不良グループの一人が、ニヤニヤしながら雫に近付くと、
「ひとりだけど?」と、雫は挑発的に返事をしながら、
その不良グループのリーダーらしき人物に近付いて、
笑みを浮かべたー

「ーわたし、真面目にやってるのが馬鹿らしくなっちゃったのー
 仲間に入れて」

洗脳された雫は、
自分が、自らの手で”大切なもの”をどんどん壊していることにも気づかずー
不良グループのリーダーに向かって、静かに笑みを浮かべたー

④へ続く

第4話「仲間」

あらすじ

妹が洗脳されたことに気付かず、
雫の急な豹変に困惑する兄・悠馬ー。

雫の彼氏である輝樹とも連絡を取るも、
輝樹は逆に、雫の豹変を”プライベートで何かがあったのでは?”と
疑っていたー

そんな中、
謎のヘルメットの人物と、
その人物に雇われているオールバックの男・玉城 東吾は
雫をさらに”歪めよう”としていたー

東吾が用意した不良グループの元に
ヘルメットの人物は洗脳した雫に命令を送り、
雫とその場所へと向かわせるのだったー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★主な登場人物★

・神里 悠馬(かみさと ゆうま)
大学生。妹の雫が豹変したことに困惑する。

・神里 雫(かみさと しずく)
高校生。兄の悠馬のことが大好き。少しイタズラっ子な一面も。

・森永 愛梨沙(もりなが ありさ)
大学生。悠馬の彼女。成績優秀な優等生。コスプレ趣味がある。

・藤嶋 亮介(ふじしま りょうすけ) 
大学生。高校時代からの親友。困った時には頼りになる存在。

・西園寺 美桜(さいおんじ みお)
高校生。妹・雫の親友。表裏が非常に激しい。

・九条 輝樹(くじょう てるき)
高校生。妹・雫の幼馴染で悠馬とも小さいころから面識がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜も遅くなり、悠馬は妹の雫が
外出したまま帰ってこないことを心配していたー

母の裕子や父の茂雄も、雫の帰りが遅いことを心配し、
雫のスマホに連絡を入れるなどしているものの、
雫から返事はないままだったー。

「ーー本当に、何も聞いてないの?」
母・裕子が心配そうに呟くー

「ー聞いてないよー…」
悠馬はそれだけ言うと、
「ー最近、雫、何か変だよなー…」と、
両親に向かって呟くー

母・裕子も、父・茂雄も
ここ数日、雫の様子がおかしいことには気づいていたし、
理解していたー

最初は、悠馬も含め”機嫌が悪いのかな”ぐらいの考えだったものの、
どうも違う気がするー

「ーーー」
落ち着かない様子で悠馬が座っていた椅子から立ち上がると
時計を見つめるー

既に時計は23時近くを示しているー
雫が、こんな夜遅くまで外出していることは
普段は絶対にないー。

「ちょっと俺…探してくるよ」
悠馬が困惑した表情でそう呟いたその時だったー

玄関の扉が音を立てー
そしてーー
雫が帰ってきたー

「ーーー雫!」
母の裕子も、父の茂雄も困惑しながら
その名前を呼ぶー

だが、雫は不機嫌そうな表情を浮かべたまま
両親を見つめるとー
「ーーいちいちそういう反応、うざいからー」とだけ
呟いたー

「し、雫!そんな言い方はないだろうー?」
茂雄が言うと、雫は「チッ」と舌打ちをするー。

しかもー
雫からは何だか煙草のようなニオイが漂っているー

「ーし…雫…ど、どこに行ってたんだー?」
悠馬が心配そうに聞くと、
雫は睨むようにして悠馬のほうを見つめると
「ゲーセン」と、だけ呟いて
自分の部屋に向かおうとするー

「ーげ…ゲーセン…!?
 ちょ…し、雫ー…急にどうしたんだよー?」

混乱する悠馬ー
しかし雫は「うるさいー。わたしが何をしようと勝手でしょ」と
言い放つー。

「ーーか、勝手ってー…お、俺も
 母さんも、父さんも心配してたんだぞー…!?」
悠馬は、心底悲しそうに雫に対してそう言い放つー

「ー心配してくれなんて、頼んでないし」
雫が目を逸らしながら、反抗的な態度を取るー

「ーな…何かあったの雫ー?最近…変よ?」
母親の裕子の戸惑いの声ー

母の裕子も、父の茂雄も、兄も悠馬も、
全員が、雫の豹変に混乱していたー。

家族4人、とても仲良しだった神里家ー。
今までにこのような不穏な空気が家庭内で流れたことはないー。

だが、その平穏は今、壊されてしまったー。

誰よりも家族と仲良しだった雫の豹変によってー

「ーあんたも、あんたも、あんたもー
 揃いも揃ってうざい!
 わたしを子供扱いしないで!」

悠馬、裕子、茂雄をそれぞれ指差して
攻撃的な言葉を吐きだすと、雫はそのまま自分の
部屋へと向かってしまったー

呆然とする三人ー。

悠馬は「何があったんだー雫…」と、呟くことしかできなかったー。

確実に”おかしい”ー
普通ではないー。
”何か”が雫に起きたー
そうでなければ、雫があんな風になるなんて思えないー。

心境の変化が生じる”何か”があったのかー
それともーーー

「ーーチッ」
雫は部屋に戻ると、不機嫌そうに舌打ちをして、
ベッドに座ると、スマホをいじりはじめたー

”むかつくー”

”むかつくむかつくむかつくー”

家族に対する憎しみが、自分の意思とは”違う場所”から
湧き上がってくるー。

自分が急激に”変化”していることは
当然、雫自身にも理解できているー

しかし、それに抗うことができないー。

自分の身体ー
自分の心ー
そのはずなのに、
自分の身体が自分の身体でないかのようなー
自分の心がまるで、自分から離れて行ってしまっているかのようなー
言葉に言い表しようのない感覚がー
自分の中でぶつかり合っているー

けれども、雫はどうすることもできないー。

だって、雫はー
自分では自分の意思で動いているように思っていても、
それは、自分の意思ではないのだからー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

悠馬は大学に足を運んでも、
ずっと雫のことを考えていたー

「ーーーーーー」

日に日に、暗くなっていく悠馬ー。

いつもは明るい悠馬が、露骨に元気を失っていくのを見て
親友の亮介は心配そうに声を掛けるー。

「おい、どうしたー。また雫ちゃんのことか?」

その言葉に、悠馬は「ーーはは…まぁな」と、
悲しそうに笑いながら頷くー

「ーまさか、雫がこんなことになるなんて、思ってなくてさー」
悠馬はそれだけ言うと、
亮介は”話、聞いてやるよ”と言わんばかりに亮介の座っている座席の
すぐ近くに座ったー。

普段はうるさい一面もあるものの、
こういういざという時に気配りできる一面も持つ亮介は、
今の悠馬にとって、とてもありがたい存在でもあったー。

「ーーーー俺と雫はさー、ずっと仲良かったからー
 今まで大きな喧嘩も一度もなかったと思うしー、
 こんな俺のことも、いつもいつも”お兄ちゃん”って
 慕ってくれてさー…

 雫は俺よりも勉強もできるし、人付き合いもうまいし、
 何事にも一生懸命だしー

 でも…雫は、それでもそんな俺のことを
 ずっとずっと、頼りにしてくれてたー

 だから俺もー
 そんな雫の想いに応えられるようにってー
 できる限り一生懸命やってきたー

 つもりだったけどー…
 
 …俺、何か足りなかったのかなー」

悠馬は自虐的に笑いながらそう呟くー

「ー妹と仲の悪い兄なんて、
 どこにでもいるとは思うけどー
 まさか…俺がそうなるなんてー…

 夢にも思ってなくてー。

 いや、そりゃまぁ、雫も難しい年頃なのは
 分かってるけど、
 あまりにもいきなりだったからー
 気持ちの整理がついてなくてー…」

悠馬は、頭の中がぐちゃぐちゃになった状態で、
何とか言葉を振り絞るようにして、そう呟いたー

「ーーーー悠馬ー」
亮介は心配そうに悠馬の名前を呟くと、
しばらく考え込むような表情を浮かべたー。

そして、しばらくして悠馬のほうを見つめると
「ーー本当に、雫ちゃんの意思なのか?」と、
表情を歪めるー。

「ーえ?」
悠馬が亮介のほうを見つめると、
亮介は「いや、だってさ、お前の言う通りなら、
”その日の朝まで”はいつも通りだったんだろ?」と、呟くー。

「あぁ、まぁ」
悠馬は、”雫が豹変する当日の朝”を思い出すー

当日の朝は”いつも通り”だったー
もちろん、悠馬が鈍感なだけだった可能性もあるが、
そうとは思えないー。

「ーーー…誰かに脅されてるとか、そういうことはー?」
亮介の言葉に、悠馬は
「脅すってー…誰が?何のために?」と困惑の表情を浮かべるー

「いや、分かんねぇけどー、
 でも、急にそんな半日で変わるか普通?
 喧嘩したならともかくー
 お前がそういう心あたりがないって言うんなら、
 ないんだろうしー」

亮介がそこまで言うと、
悠馬は「ーー確かにー…そういう方向は考えもしなかったけどー」と
表情を歪めるー。

「ーーーまぁー…何の根拠もないし、
 ただの憶測だけどなー…」

亮介は少しだけ苦笑いすると、
「悠馬」と、悠馬のほうをまっすぐと見つめて呟くー。

「ーーー俺にできることなんて限られてるけど、
 力になれることがあったら、手伝うからー、
 あんま、落ち込みすぎるなよー?」

亮介の言葉に、悠馬は少しだけ笑うー。

「ーーははは…お前が親友で、ホントに良かったよ」
悠馬が言うと、亮介は
「今頃俺のありがたさに気付いたのか?」と
笑いながら悠馬の肩を叩いたー。

「ーーーー二人とも仲良しで妬けちゃうなぁ~」
そんな悠馬と亮介の熱い友情に、
いつの間にかやってきていた悠馬の彼女・愛梨沙が
微笑みながら声を掛けるー。

コスプレ好きの愛梨沙は普段からとてもおしゃれで、
今日も、いつもながらにおしゃれだったー。

「ーーーうわっ!いつの間に!」
亮介がビクッとすると、
「ーわたしの悠馬を取っちゃだめだからね?」と、愛梨沙が
冗談を口にして微笑むー

悠馬がそんな愛梨沙を見つめながら笑うと、
亮介は「取らねーよ!俺、男に興味ないし!倫子がいるし!」と、
他の大学に通う亮介の彼女・倫子の名前を口にしたー

「ーーふふふ」
愛梨沙は笑いながら悠馬のほうを見ると、
「ーでも、悠馬ー。藤嶋くんの言う通りー」
と、優しく微笑むー。

「ーあんまり、一人で抱え込みすぎないでねー?
 悠馬のためならわたし、力になるから!」

愛梨沙の言葉に、悠馬は愛梨沙と亮介を見つめると、
「ー二人ともー本当にありがとうー」と、
感謝の言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」
今日も高校で不機嫌そうに廊下を歩いている雫ー。

クラスメイトたちもそんな雫の態度に
困惑しているー

”どいつもこいつも、バカばっかりー
 わたしの可愛さに嫉妬してー”

雫は、洗脳されて、すっかり高飛車で
”嫌な女”になってしまっていたー

元々の雫は”わたし、可愛いし”なんて
思っていなかったものの、
今の雫は”自分が可愛い”と絶対の自信を持ち、
周囲を見下しているー

「ー雫!」
背後から雫に声がかかるー。

雫に声を掛けたのは、雫の彼氏の九条 輝樹ー。

「ーー…輝樹ー」
雫は不愉快そうに振り返るー。

兄の悠馬や、家族に対する”憎しみ”を植え付けられたのとは異なりー
彼氏の輝樹自体には特に”そういった洗脳”はされておらず、
性格は最悪になってしまったとは言え、兄の悠馬に対する態度とは
また、違った反応を見せる雫ー。

「ーー…どうしちゃったんだよ雫ー。
 家で何かあったのかー?」

輝樹は”雫がプライベートで何かあった”と疑っているー。

先日、兄の悠馬と電話で話した際にもそのことを口にしていたー

あの日ー
”高校から帰るまでは”いつもの雫だったのだー。
そして、翌日から雫の態度が急に豹変したー。

下校中に謎の人物たちに洗脳されてしまった雫ー。

だが、この輝樹から見れば”帰宅後に何かあった”としか思えず、
輝樹は雫の兄・悠馬のことを疑っていたー

「ーーーーお兄さんと、何かあったのか?」
返事をしない雫に対して、輝樹がそう言い放つと、
「ーあんなやつのこと、口にしないで!」
と、雫が明らかに不愉快そうに言葉を吐き出したー

「ーや…やっぱり、悠馬さんと何かあったのか?」
輝樹は、そんな質問を雫に投げかけるー

「ーーあんなやつ、死ねばいいのに」
雫は冷たい口調でそう言い放つと、そのまま
「わたし、急いでるから」と、立ち去って行ってしまうー。

「ー雫ー」
立ち去っていく雫の後ろ姿を見つめながら
輝樹は不安そうに呟くー

そして、それと同時にー

”ーーー”
輝樹は雫の兄・悠馬に対する不信感を
心の中で次第に強めつつあったー

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した悠馬は、
大学での会話を思い出していたー

「ーーー…誰かに脅されてるとか、そういうことはー?」

「いや、分かんねぇけどー、
 でも、急にそんな半日で変わるか普通?
 喧嘩したならともかくー
 お前がそういう心あたりがないって言うんなら、
 ないんだろうしー」

親友の亮介の言葉ー。

そういえばー
昨日、雫は夜にどこかへと出かけていたー。

考え込む悠馬ー

確かに、その可能性も0ではないー。

今までそんな方向で雫の豹変を考えなかった悠馬はー
亮介の言葉に”別の可能性”を見出していたー

その時だったー
スマホが鳴るー。

「もしもしー?」
悠馬が応答すると、相手は大学の同級生・我妻 達也(あがつま たつや)
だったー。

亮介の親友で、雫が洗脳されたあの日は確か
亮介と一緒にゲームセンターに遊びに行っていたはずだー

「どうしたんだよ急に?」
悠馬が言うと、達也は”ちょっと伝えておきたいことがあってー”
と、応じたー。

「伝えたいこと?」
悠馬が表情を歪めるー。

”今日さ大学の周りで変な奴がお前を探してたんだよ”
達也の言葉に、悠馬は「どういうことだ?」と、困惑するー

”いや、俺もよく分かんねぇけど、
 神里悠馬はどうしてる?って、聞かれてさ。
 何かやべぇ雰囲気だったから、”いや、知らんっす”って
 答えておいたけど、
 知り合いか?”

知り合いか?と言われても心当たりがないー。

悠馬は「その人の名前とかー、特徴とか分かるか?」と
聞き返すと、達也は答えたー

”オールバックの髪型でトレンチコートの背の高い男だったー”

とー。

「ーーーーー」
悠馬は自分の知り合いを頭の中で考えるものの、
思い当たることは何もなかったー

ガタッー

隣の部屋から物音がするー
また、昨日と同じように雫が夜に出かけようとしているー。

その物音に気付いた悠馬は「あ、悪いーちょっと用事が出来た」と
呟くと「知らせてくれてありがとなー。手間をかけて悪かった」と、
達也に対して感謝の気持ちを伝えると、
彼からの返事を聞いて、そのまま通話を終了したー

”脅されているのではないかー”
そう思った悠馬は、今日も少し派手めの格好で
出かけようとする妹・雫を”尾行”することにしたー。

「ーーー悠馬」
母の裕子が心配そうに呟くー

「ーちょっと、雫が何をしてるのか、見て来るー」
悠馬がそう言うと、父の茂雄も「気を付けるんだぞ」と、
不安そうに呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

裏社会の”便利屋”
オールバックにトレンチコートの男・玉城東吾が、
夜の廃工場のような場所で、
ヘルメットを被った人物と合流するー。

「ーー確かに」
東吾が札束を数え終えると、笑みを浮かべながら
相手のほうを見つめるー

相手はヘルメットで顔を隠していて、
その姿は見えないー

”ーーーーー”
東吾は、そんな相手を見つめながら少しだけ笑うと、
ヘルメットの人物が東吾に”次の依頼”を呟くー。

「ーーークククー
 俺も興味が沸いてきたぜ」

最初は”仕事”だったー。

だが、神里 雫を”洗脳”して、
こいつが最終的に何をしようとしているのかー

その、行方末に、東吾も興味を持ち始めていたー。

「ーーお前のやろうとしていることをー
 とことん見届けさせてもらうぞー」

そう呟くと、東吾は笑みを浮かべながら
報酬を手に、夜の闇の中に姿を消したー

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー!!!!」
雫を尾行していた悠馬は、表情を歪めたー

コンビニの前で群がっていた暴走族のような連中の元に
雫がやってくると、
笑みを浮かべながらその男たちと親し気に話をし始めたのだー

「ーーーー雫ー」

”やっぱり、脅されているのか?”
そんな風に思いながら悠馬は、雫と暴走族らしき集団のほうを、
身を隠しながら困惑した表情で見つめるのだったー

⑤へ続く

第5話「裏切り」

あらすじ

妹・雫の豹変に困惑する日々は続くー

何とか、妹・雫が豹変した理由を突き止めようとする悠馬は、
大学で妹の豹変について話していた際に、
親友の亮介が言い放った言葉ー…
”誰かに脅されているとか、ないのか?”
が、気にかかっていたー。

確かに、妹の雫を怒らせるようなことをした覚えはないし、
あそこまで態度が豹変するのはおかしいー。

”何かに巻き込まれているのだろうかー。”
そんな風に思いながら、最近、夜間に外出するようになった雫を
尾行した兄・悠馬は、
コンビニの前で群がっていた不良たちと合流した雫の姿を遠目から
目撃して、困惑の表情を浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★主な登場人物★

・神里 悠馬(かみさと ゆうま)
大学生。妹の雫が豹変したことに困惑する。

・神里 雫(かみさと しずく)
高校生。兄の悠馬のことが大好き。少しイタズラっ子な一面も。

・森永 愛梨沙(もりなが ありさ)
大学生。悠馬の彼女。成績優秀な優等生。コスプレ趣味がある。

・藤嶋 亮介(ふじしま りょうすけ) 
大学生。高校時代からの親友。困った時には頼りになる存在。

・西園寺 美桜(さいおんじ みお)
高校生。妹・雫の親友。表裏が非常に激しい。

・九条 輝樹(くじょう てるき)
高校生。妹・雫の幼馴染で悠馬とも小さいころから面識がある。

・玉城 東吾(たまき とうご)
裏社会の便利屋。ヘルメットの人物と共に雫を洗脳した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜間に外出するようになった妹の雫の後を
尾行してきた悠馬は、
表情を歪めていたー。

コンビニの前に集まっていた暴走族らしき集団を見つけると、
雫が笑いながら手をあげて、まるでその暴走族たちが
知り合いかのように、楽し気に話し始めたのだー

「ーーー雫ー…」
心配そうに呟く悠馬ー。

雫の態度が豹変した理由はー
この”暴走族”たちにあるに違いないー。

そう思いながら、悠馬は雫と、暴走族たちのほうを見つめるー。

「ーーはい、これ、頼まれてたやつ」
雫が笑みを浮かべながらポケットから何かを取り出すと、
それを暴走族たちのリーダーらしき男に渡したー。

「ーへへへ…マジでいいのかよ?親の金だろ?」
暴走族のリーダーらしき男はそう言いながら、
雫のほうを見つめると、
雫は「いいのよ。あんな奴らー」と、腕を組みながら笑ったー

「ー悪い子だねぇー…ま、そういうの好きだぜ」
リーダーらしき男はそう言うと、「いつものゲーセン、行くかぁ!」と、
仲間の暴走族たちに対して言い放つー。

コンビニの前から、雫と、暴走族たちが移動をし始めるー。

”ー家のお金を持ち出すなんてー…”
少し離れた場所からだったが、その会話は”ハッキリと”聞こえたー。

信じられないことにー
雫が家のお金を持ち出して、暴走族たちに渡したのだー

だが、これで分かったー
雫の様子がここ最近おかしかったのはー

”誰かに脅されているとか、ないのか?”

親友・亮介の言葉を思い出しながらー
悠馬は拳を握りしめるー

「あいつらが…雫をー!」

周囲を見渡しながら、暴走族のあとをつけるー。

すると、暴走族は繁華街の一角にある地下への
階段を下り始めたー。

雫は、まるでギャルのような笑い声を出しながら
その暴走族たちと楽しそうに話しているー。

だがー悠馬には分かるー

”雫が自分の意思で、あんなやつらとつるむはずはないー”
とー。

確かに、その悠馬の考えは正しいー

しかし、それはー
”雫が正気なら”の話だー。

悠馬は知らないー
妹の雫が洗脳されていることをー。

”ゲームセンター エンジェル・エデン”

そんな看板を見つめながら悠馬は息を飲み込むー。

地下に存在するゲームセンター。
外からではどのようになっているか、全く見ることができないー。

逆に言えばー、
万が一このゲームセンター内で何かが起きても、
外の人間の助けは期待できないー、
ということだー。

雫は暴走族らしき男と、この中に入って行ったー。

「ーーー……」
悠馬は迷うー

”このまま雫を助けに行くかー”
”場所だけは突き止めておいて一旦引き返すかー”

だがー
こうしている間にも、雫はあの男たちに
何をされているか分からないー

そんなことを考えるとー
このまま放っておくわけにはいかなかったー

”お兄ちゃんー!”

きっと、雫は助けを呼んでいるー。

「ーーー…雫、今、行くからなー」
悠馬は拳を握りしめて、
”いつでも警察に連絡できるように”
スマホの準備をすると、ゴクリと唾を飲み込んで、
暴走族たちのたまり場になっている
ゲームセンター”エンジェル・エデン”の入口の扉を開けたー

ゲームの筐体が大量に置かれているその場所にはー
”一般客”らしき姿はなかったー。

中にいたのは、いかにもな感じの男女たちー
とても、”まとも”には見えないー。

そしてー
奥の方にあったビリヤード台に女が追い込まれるような形で、
男とキスをしていたー。

激しく交わされるキスー。

「ーーーー!!!」
その、キスをしている女のほうが、妹の雫だったー

「ーーおい!!!!」
悠馬は、カッとなって、男の腕を掴むー。

男が驚いた様子で「なんだテメェ?」と、振り返るー。

その顔を見て、悠馬は先ほどコンビニの前に
群がっていた暴走族らしき集団のリーダー格の男であることを
確認するー。

「ーーーーーーは…?何でここにいるのー?」
男とキスをしていた雫が、表情を歪めるー

雫は化粧もしていて、いつもとはまるで別人のような
雰囲気に見えるー。

「ーー雫ー、もう大丈夫だからなー」
悠馬はそう言い放つと、暴走族のリーダーらしき男が笑ったー

「おいおい、なんだこいつ?雫、お前の彼氏かー?」
少し不快そうに呟く男ー。

雫は「ううんー…わたしの……お兄ちゃん」と、
険しい表情で呟くー

”お兄ちゃん”ー
その言葉を吐きだすだけで、不愉快な気持ちでいっぱいになるー。

「ーーーへ~ぇ、そうかいー。
 で、何だ?兄上サマが、妹に何の用なのかな?」

暴走族のリーダーらしき男が笑いながら、
悠馬を睨みつけるようにして言うー。

「ー雫を脅してこんなところに連れ込んで、何のつもりだー?」
悠馬は、荒々しい男たちを前に、警戒しながらそう呟くー

「あん?」
不満そうな男ー

もちろん、悠馬もこんな男たちと争って勝てるとは思っていないー

「ー別に、ここで何をしてるとかー
 お前たちをどうこうしたいとか、そういうことじゃないんだー。
 黙って雫を返してくれれば、俺も黙ってココを立ち去るー。

 2度とここには来ないし、それ以上何もしないー。
 だから、頼むー…雫を返してくれー」

悠馬はそれだけ言うと、頭を下げたー。

こいつらに興味はないー。
ただ、自分は雫を助けたいだけだー。

女子高生をこんな風に無理やり夜に外出させているー
なんてことを知られれば、
この暴走族たちにとっても都合が悪いだろうー。

だからー
争わずに、こうして雫を助け出そうとしたー

「ーーへへへへへ」
「くくくく」
「ふふふふふふふ」

周囲にいる暴走族らしき男女が、
悠馬を馬鹿にするように笑うー。

ゲームセンターのゲームの音が、鳴り響く中、
周囲の暴走族の一人が「どうするんだよー?修(しゅう)」と
笑いながら呟いたー。

”修”とは、この暴走族のリーダーらしき男の名前なのだろうー。

すると、修は笑いながら、
近くのパンチングマシンまで歩いていくと、思いっきりそれを殴りつけたー。

”215”というスコアが表示されているー

高いスコアなのか、低いスコアなのか、悠馬には理解できなかったがー
修が、自分のことを”威嚇”してきているのは理解したー。

「ーーーお前さぁ…俺らに喧嘩売ってんのか?」
修が笑いながら、仲間と共に悠馬を取り囲むー。

雫は少し離れた場所のビリヤードの台に寄りかかって
退屈そうな表情を浮かべているー。

「ーーけ…警察に通報するぞ!」
悠馬がスマホを手に、修たちの方に向かって叫ぶー

「ーー!」
修が動きを止めるー。

「ーあんたたちだって、そんなことされたくないだろ?
 俺も面倒ごとには巻き込まれたくないし、
 ただ、妹を、雫を連れて帰りたいだけなんだー。

 だから、頼むー
 大人しく雫を返してくれー。
 そしたら、俺も大人しくこのまま立ち去るー。
 通報も何もしないー。」

悠馬がそれだけ言うと、
修は険しい表情で悠馬のほうを見つめるー

悠馬はタップするだけで警察に通報できる準備を整えていたー
仮に、修たちが飛び掛かっても、警察に電話は繋がるだろうし、
警察に電話がつながれば、仮に悠馬をボコボコにしても、
警察はこの場所にやってくる可能性が高いー。

そんなことを考えながらも、ジリジリと悠馬との距離を詰めていく修ー。

悠馬は「おい!近寄るな!」と叫ぶー。

修も”これ以上近付いていいものかどうかー”考えながら
足を止めようとしたー。
”警察に通報されては、色々マズイ”のは、修も理解しているー。

雫もそうだが、”他にも”警察に目をつけられそうなことは
そこそこしているからだー。

だがー、その時だったー

「お兄ちゃん!」
修たちに取り囲まれている悠馬に向かって雫が叫ぶー

「雫ー」
悠馬は雫のほうを見ると、
雫は「警察に通報した方がいいよ!スマホをこっちに!」と叫んだー。

悠馬は、何の疑いもなくー
”囲まれていない雫の方が通報はたやすい”と判断して
修たちの頭上を飛び越えるように、雫の方にスマホを投げたー

雫が悠馬のスマホを手にすると、
クスッと笑みを浮かべたー。

そしてー
信じられない行動に雫は出たー。

「ーーーあんた、ホント、バカすぎてウザいー」
雫はそう言い放つと、悠馬のスマホを床に叩きつけてー
それをそのまま踏みにじったー

一瞬、雫に通報されるのではないかと焦っていた修は、
「へへ…」と、汗をかきながら笑うと、
「ーー妹と、仲悪いんだなぁ?」と、悠馬のほうを見て笑ったー

悠馬は信じられない、という様子で雫のほうを見つめるー。

「ーーそいつ、好きにしちゃっていいよ」
雫はそう言うと、ビリヤードの台に座って
足を組んで笑うー。

悪魔のような笑みを浮かべる雫ー

「ど…どうしちゃったんだ!!雫ー!
 こいつらに、何をされたんだ!?」

悠馬は、”こいつらに脅されている”と思いながら雫に向かって叫ぶー。

だが、修たちに囲まれた悠馬は、そのまま修たちから
殴る・蹴るの暴行を受け始めるー。

「ー雫!!雫!!」
それでも必死に叫ぶ悠馬ー

”ボコボコにされる兄”を見て、
お兄ちゃんが大好きだったはずの雫は、
ゾクゾクしながら笑みを浮かべるー

「ーーウザい…!ウザい…!もっともっと、殴られちゃえ!」
小声でそんな風に呟く雫ー。

「ーーーしずく…」
ボロボロになった悠馬が床に倒れ込むー

そんな悠馬を見つめて、雫は笑みを浮かべるー。

”ウザいー”
”ウザいー”
”ウザいー”

笑いながらその光景を見つめていた雫ー

しかしー

”ーーーーーーーーーーーー!”

雫は、一瞬だけ表情を歪めたー

苦しみながら”雫…”と、目に涙を浮かべながら
手を伸ばす悠馬ー

その手をー
”お兄ちゃん!”と叫びながら、一瞬、助けそうになったー。

「ーーー…何なの…」
雫は自分の咄嗟の衝動に、不満そうに舌打ちすると
「もう、そんなやつ放っておいて遊ぼうよ!」
と、修に対して言い放ちー、「そうだなー」と応じた修と共に
ゲームセンターの奥の方に向かって消えて行ったー

”今のー…何なのー?あんな奴ー…うざいだけなのに”
雫はそう思いながら、終始不機嫌そうに、
ゲームセンターで暴走族たちと遊び続けたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」
心配そうにスマホを握りしめる愛梨沙ー。

悠馬の彼女・愛梨沙は、
夜になってから悠馬からの”反応”が一切なくなったことを
心配していたー

「何か、あったのかなー…?」
愛梨沙が、表情を歪めるー。

「ーーそうだ!今度の土曜日、わたしも悠馬の家に行っていいー?」

明日は、その”土曜日”だー。
愛梨沙は、悠馬の家に行き、豹変したという雫から話を聞こうとしているー。

だが、明日のことを確認しようとメッセージを送ったのにも関わらず
悠馬からの返信が全くないのだー。

「ーーー…あ、もしもし?ごめんね、夜遅くにー」
愛梨沙がそう呟きながらスマホを握りしめるー。

電話の相手は悠馬の親友・亮介ー。
亮介なら何か知らないかと思い、亜理紗が連絡したのだったー

”悠馬と連絡がつかない?
 いや、俺は知らないなー”

「ーあっそー…じゃあ用はないけど」
亮介にだけ辛辣な愛梨沙がそう言うと、
亮介は”何で俺にだけそんな冷たいんだよ~?!”と笑いながら言うー。

愛梨沙は苦笑いしながら、
「ーーでも、いつもはすぐに反応あるから心配になっちゃってー」と、
再び真面目な話に戻すと、
亮介は”確かにそうだよな…”と、呟くー。

”まぁ、俺からも連絡してみるよー
 連絡付いたらすぐに愛梨沙ちゃんにも連絡すっから”

亮介のそんな言葉に、亜理紗は「うんー。ありがとうー」と返事を
すると、そのまま通話を終了したー。

ため息をつく愛梨沙ー。
最近は、彼氏の悠馬が悩んでいる様子を見ているからかー
愛梨沙自身も、疲れが溜まっているー

悠馬の力になりたいー
そう思いつつも、なかなかなることができないもどかしさからの
疲れだろうかー。

「ーーー……一番つらいのは、悠馬だもんねー」
愛梨沙はそんなことを呟くと、
連絡のつかない悠馬を心配しながら、再びスマホを
いじり始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーあぁ、問題ないー」
オールバックの男ー、
裏社会の便利屋・東吾が、夜の繁華街を歩きながら
スマホを手に、通話を続けているー

「ー神里 雫は例の暴走族と親し気に楽しくやってるよー
 あぁー
 さっき、兄貴が連中のアジトに乗り込んでいったー
 まぁ、どうなるかはお察しだなー」

東吾がそう言うと、
電話相手は”ご苦労だったー”と、いつものような
機械音声のような声で答えたー。

「ーーそれにしても、可愛そうなやつだなぁ…
 妹が暴走族とつるみだして、
 助けに行ったつもりがー
 きっと今頃は、やつらのサンドバックにされているー

 変わり果てた妹の前でー」

東吾が笑いながら言うと、
相手も少しだけ笑ったー

「ーーしっかしー
 ”神里 雫”も正気を取り戻したら
 今の自分のしてることを見て、何て言うんだろうなー?」

そんなことを呟きながら、
繁華街のはずれの方に向かっていく東吾ー

「ーーーーーーーーーー!!!!」

”神里 雫”も正気を取り戻したらーーー

「ーーえ?」

偶然ーーー
コンビニで買い物を終えて家に帰ろうとしていた
雫の彼氏・九条 輝樹が、そんな会話をしている東吾とすれ違ったー。

「ーー今、何てー?」
輝樹が振り返ると、
”雫”の名前を出していたトレンチコートにオールバックの男は
既に少し離れた場所を歩いていたー

「ーーどういうことだー…?」
輝樹は表情を歪めながら
”神里雫も正気を取り戻したらー”と、いう言葉に、
強い違和感を覚えたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーあ!」

悠馬の彼女・愛梨沙がハッとして時計を見るー

”寝落ちしちゃったー…
 って、悠馬からの連絡はー!?”

悠馬からの連絡を待つうちに、ウトウトしていた
愛梨沙がそんなことを思いながら
表情を歪めるー。

悠馬からの返事が、まだないー。

「ーーー…悠馬ー」
心配になった愛梨沙は、そのまま家を飛び出して
悠馬のことを探し始めるー。

そしてー
見つけたーーー

「ーーゆ…悠馬ー?」
ボロボロになった悠馬が、路上を一人、放心状態で歩いているー。

「ーーあ…愛梨沙ー」
悠馬が愛梨沙に気付いて、痛々しい顔で少しだけ微笑むー

「ーど…どうしたの?何があったのー?」
悠馬の前にやってきて、悠馬を支えるようにして、
近くの公園のベンチに座らせると、
悠馬は少しだけ笑いながらー悲しそうに呟いたー

「ーーーー俺…どうすりゃいいんだろうなー…」
悠馬はそれだけ言うと、
雫が暴走族とつるんでいたこと、
ゲームセンターで雫に裏切られて、暴走族たちに
ボコボコにされたことー

それらを愛梨沙に話したー

「ーー悠馬ー」
心配そうに悠馬のことを見つめる愛梨沙ー。

「ーーー……ーーー情けない彼氏でごめんなー」
そんな言葉を呟く悠馬にー
愛梨沙は痛々しい彼氏の姿を見て、目に涙を浮かべながら
首を横に振るー。

「ーーーーー」
ただ、無言で悠馬の手に優しく触れると、
愛梨沙は「ーー悠馬は何も悪くないよー」と、
悲しそうに呟いたー

ポツ、ポツ、と雨が降り出すー。

愛梨沙はそんな雨に気付いてー
夜空を見上げるー。

まるでー、
悠馬の心情を現しているかのようにー
ポツ、ポツ、と寂しげな雨が、亜理紗と悠馬の
身に、ゆっくりとゆっくりと降り注いだー

⑥へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

恒例の第5話までの試し読みでした~!

洗脳モノの長編を書くのは、
今回の長編第6弾が初めてなので、
新鮮な気持ちで書けています~!

長編だと、じっくりと時間を掛けて色々描写できるので、
やっぱり、普段のサイズの作品とは
また違った工夫や書き方が必要になりますネ~!

お読み下さりありがとうございました!

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