<入れ替わり>わたしが、この犯行をやめられないワケ③~憎悪~(完)

バスジャックの男と入れ替わってしまった
女子大生・香奈。

このままだと自分が逮捕されることになってしまうと
困惑していた彼女。しかし…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー俺は中身のお前に言っているー。
 おい、クソ野郎ー。
 女の子ごっこはそんなに楽しいか?」

バスジャック発生後も、ずっと堂々と寝ていた男が
バスの停車後に目を覚まして、そう言い放つー。

「な、な、なにを言っているか、分からないんですけど!」
香奈(林吾)は少し語気を強めてそう言い返すー。

女子大生・香奈と入れ替わった林吾は、
香奈の身体を奪い、そのまま香奈として生きて行こうと目論んでいたー。

”入れ替わり”自体は偶然起きたことで、
林吾が仕組んだことではないー。

しかし、香奈になった林吾はー、
元々自分の身体など好きではなかったし、
女好きでもあったため、香奈のような可愛らしい女子大生になれることは、
まさに、夢のような状況だったー。

しかも、先日飲食店でトラブルを起こし、
指名手配中だった彼からすれば、
”香奈になることで、犯罪者ですらなくなる”という、
まさにメリットだらけの状態だったー。

「ーーーとぼけるな。
 お前が栗澤林吾だろうが。」

男は、なおも強い口調でそう言い放つー

「ーーえ…?え?」
運転手は困惑を続けているー

林吾(香奈)は「あ…あの…あなたはー?」と、
その男に問いかけると、
男は「信じてもらえるかは知らんが、警察だ」と、だけ
そう答えたー。

しかし、男は警察手帳も見せる様子もなく、
そのまま香奈(林吾)を睨みつけたー

「く、く、栗澤…り、林吾?わたしが?
 あはっ!…あ、あ、あるわけないない!
 どこからどう見たらわたしがそんな汚いおっさんに見えるわけ?

 女の子に失礼じゃない?」

香奈(林吾)が、挙動不審にキョロキョロしながら
そう言い放つー

「ーー”外見”は、な。
 だが、中身はお前の言う”そんな汚いおっさん”だろうが」

男がさらに言い放つー

”汚いおっさん”と言われた林吾は
香奈の姿のまま、怒りを感じて歯ぎしりをするー。

だが、すぐに”これは挑発だ”と気づきー、

「ーい、一緒にしないで下さいよ~!あはは」と、笑うー。

そして、男の背後にいた運転手に
「運転手さん!わたし、もういいですか?このあと用事があるので」と
言い放つと、運転手は「え…え~っと」と、戸惑いの様子を見せるー。

「ー運転手」
男が、香奈(林吾)の腕を掴んだまま呟くー

「ーーえ…あ、はい」
運転手はさらに戸惑いながら男のほうを見ると、
「ー降りろ」
と、だけ呟いたー

「ーーは?」
運転手が首を傾げるー

「いいから、降りろ。
 俺は警察だ」

その言葉に、運転手は「あ…あの…ですが、証明みたいなものはー」と
言い放つと、男は
「俺の言葉が信用できないか?」と、鋭い目つきで運転手のほうを見つめると、
少し間を置いてから
「通報したから、じきに警察官たちが駆け付けてくるだろう?
 バスの外でその対応をしてろ」と、そう言い放ったー

運転手は戸惑いながらも、そのまま外に向かうー。

「ーーーチッ」
香奈(林吾)が舌打ちをすると、
男は、林吾(香奈)のほうを見て、
「入れ替わった時の状況を教えてほしい」とだけ呟いたー。

林吾(香奈)は寝ていた男のために、今一度
バスに乗って、入れ替わって、今に至るまでの流れを
丁寧に説明したー。

「そうかー」
男はそれだけ言うと、
「わかった。安心しろ」とだけ言い放ち、
香奈(林吾)のほうを見つめたー。

「ーーな…何なのさっきから!わたし、怒りますよ!」
香奈(林吾)が叫ぶー。

林吾からしてみれば、早くこの現場から立ち去り、
香奈の身体であんなことやこんなことをしてみたかったー。

「ーーー!?」
突然、男は、香奈(林吾)の掴んでいた腕を、
香奈自身の胸のあたりに持っていき、
そのまま胸を触らせたー

香奈(林吾)が、自分の胸を触っている状態になりー
顔を赤らめ、一瞬、ニヤっとしてしまうー

「ー男だな」
男はそう呟くと、
香奈(林吾)が表情を歪めるー。

「な…ど、どういう意味ですかー?」
香奈(林吾)の言葉に、男は
「ー自分の胸を触った時の反応が、”男”だっていってんだー。
 栗澤林吾」と、鋭い口調で言い返したー

「は…はぁ!?
 わ、わ、わたしは自分のおっぱい揉むのが好きな女なの!
 だからドキッとしただけ!」

香奈(林吾)は咄嗟にそう叫ぶー

「え…」
林吾(香奈)は”わたしの身体で何てこと言うの?”と思いながらも
顔を赤らめながら成り行きを見守るー

「ーーー名前・年齢・身長・体重・血液型・住所ー。全部言って見ろ」
男の言葉に、
香奈(林吾)は「な…なんであんたなんかに言わないといけないの!」と、
女子大生の口調を想像で真似ながら叫ぶー。

「ーー言え」
男は動じなかったー。

「ーーー…く…」
香奈(林吾)は表情を歪めながら、
言葉を口にしようとするが、
年齢も身長も体重も血液型も住所も、正直、何も分からないー

口をもごもごさせながら迷っていると、
「ー栗澤。自分の名前を言えばいいんだぞ?」と、
男は不気味な笑みを浮かべたー

「だ、だから俺は栗澤じゃねえって言ってんだろ!」
香奈の身体で、ついそう叫んでしまう香奈(林吾)ー

林吾(香奈)と、謎の男がその言葉に反応しー
男が続けた「栗澤だな」、とー。

香奈(林吾)は”しまった!”という表情を浮かべながらも
「ーーむ、ムカッってしただけです!
 女が”俺”って言っちゃいけないんですか!」と
さらに食い下がるー。

しかし、男はそんな香奈(林吾)を見つめると、
「最後のチャンスだー栗澤」と呟くー。

「ー入れ替わったことを、認めるか?」

その言葉に、
香奈(林吾)は
「だから!!!わたしは!!!!栗澤林吾じゃない!」と、
大声で叫び返したー。

次の瞬間だったー

香奈(林吾)の顔面に男の拳が叩きつけられたー

「ーがはっ!?」
身体ごと吹き飛ばされて、鼻から血を流しながら
後部座席に叩きつけられた香奈(林吾)が
「ひっ…!?ひぃっ!?」と声を上げるー

「ひっ!?!?」
殴られた香奈(林吾)だけではなく、
林吾(香奈)も驚くと、男は無表情のまま
香奈(林吾)に近付いたー

「言え。お前は栗澤林吾だろう?」
男の言葉に、香奈(林吾)は
「お…お…女の子を殴るの!?」と、なおも香奈のフリをするー

しかし、パチン!という音が、
大きく響き渡るぐらいの強いビンタを男がすると、
「あぁ。」
と、だけ答えたー。

「ーーち、ち、ちょ、ちょっと待って!こ、こんなことしたー…」

香奈(林吾)がそう言いかけるも、さらに顔面に拳が叩きつけられるー

血が後部座席に付着するー

香奈(林吾)は半泣きの状態で、
「ーーこ、この身体を傷つけてもいいのか!」と叫ぶー

恐怖から、もはや”香奈のフリ”をすることもできていなかったー。

「ーー答えろ。栗澤林吾ー
 お前は、栗澤林吾だな?」

男はなおも続けるー。

林吾(香奈)は”わ、わたしの身体が…”と思いながらも、
恐怖で男に声を掛けることもできず、
表情を歪めるー。

「ーー…く… く…」
香奈(林吾)は目に涙を浮かべながら悔しそうに男を睨みつけるー。

だが、男は
「じゃあ、死ぬか」と、笑いながら頷いたー。

「ーえ」
「え?」
香奈(林吾)も林吾(香奈)も困惑していると、
突然、香奈(林吾)の首を男が絞め始めたー。

「ーがっ…ひっ!?!?」
香奈(林吾)が驚いた顔で苦しみの表情を浮かべると、
「ー身体が死ねば、お前も死ぬからな。栗澤林吾」
と、淡々と呟いたー。

香奈(林吾)は驚いた表情を浮かべながら、
「や…やめろー」と、呟くー。

林吾(香奈)も驚いて「わ、わたしの身体ー!」と
やっとの思いで呟くも、
男は「君も動くな」と、だけ呟いたー

「ーひっ… ひっー…」
”完全に殺す気だ”ー
香奈(林吾)はそう思ったー

男が力を弱めるつもりはないー。

「言え。それとも死ぬか?」
その冷たい言葉が、
香奈(林吾)に最後の追い打ちをかけたー

「わ、わかったー言う…い、、、ぅ」
苦しみながらそう言い放つ香奈(林吾)ー

「ーー言え」
言うまで手を放さない、と言わんばかりの男に、
香奈(林吾)は「お…俺が栗澤…り、り、り、林吾だー」と、
ついに自白したー

首から手を離す男ー

死ぬ一歩直前を経験した気がする香奈(林吾)はー
青ざめながら、あまりの恐怖にお漏らしをして、
スカートの中から水滴が零れ落ちていたー。

「ーさぁ…栗澤林吾ー」
香奈(林吾)の前に男が立ちはだかると、
男はそのまま”警察に来てもらうぞ”と、だけ
静かに呟いたー。

その男の、あまりにも強い憎しみのようなものを感じながら、
林吾(香奈)は呆然とすることしかできなかったー。

「ーーーーさて」
男はそう言うと、突然、銃のようなものを取りだしたー

「えっ!?」
林吾(香奈)が驚いていると、
男は、何も言わず、香奈(林吾)の頭にそれを打ち込んだー

「ひっ!?!?!?」
倒れた香奈(林吾)を見てー
”目の前で自分の身体が倒れる”光景を見た林吾(香奈)は
思わず悲鳴を上げるー

そしてー
男は続けて、林吾(香奈)にもそれを向けー
発射したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー…!?」
香奈が目を覚ますと、そこは病院だったー。

「ーーえ…?」
香奈が周囲をキョロキョロするー。

時間は数時間が経過しただけー。

「ーー目覚めたか」
目を覚ました香奈に掛けられる声ー。

香奈がビクッとすると、
そこにはバスで居眠りしていた男がいたー。

「ーーー身体ー戻ったぞ」
男が、香奈を指さしながら言うと、香奈は
自分の髪や手を確認して、
嬉しそうに「よかった… ありがとうございますー」と、呟くー。

「麻酔の効果が切れるまで、ここで寝ててもらったー。」

男は、ここはバスジャック事件が起きた場所の近くの病院だと説明し、
バスで入れ替わった二人に撃ったのは、麻酔銃であることを説明したー。

”元に戻した方法”は言えないとのことだったが、
”稀に”こういうことが起きるため、内々に処理している、と、
それだけ呟き、そこは、詳しいことは教えてくれなかったー。

「ーあの、出来損ないの果物野郎は、元の身体に戻して逮捕したよ」
林吾のことをそう呟く男ー

男はそれだけ言うと、
「あとで、看護師が来るからー、そしたら退院して、帰っていいー。
 費用はこちらで手配しておいたから、問題ないー」
と、そのまま立ち上がったー

「ーあ、ありがとうございますー…」
香奈は困惑しながらそう呟くも、
すぐに言葉を続けたー

「あの…あなたは…?」
香奈のそんな言葉に、男は立ち止まると、
「休日に、たまたまバスで居眠りしていたただの警察官だ」とだけ
答えて、そのまま病室から出て行こうとするー。

だがー

何を思ったのか、さらに言葉を続けたー

「ーー俺の娘が昔ー君と同じように”偶然”他の男と入れ替わってしまったことが
 あってなー。」

男は、それだけ言うと、
「偶然、俺がバスに乗っててよかったなー。
 そうじゃなきゃ、君は恐らく、バスジャックとして逮捕されていただろうな」
と、淡々と付け加えるー。

「ーーーー」
香奈は、男の目を見るー。

バスでー、香奈になった林吾を”殺す勢い”で脅していたー。
まるで、憎しみをぶつけるかのようにー。

「ーーーーーー」
男の目は鋭いー。
けれど、とても悲しそうだったー

「ーーー…俺が殴った場所ー…腫れてるなー…
 悪かった。許せ」

男は、香奈の中身が林吾だった時に、香奈を殴ったことを、
謝罪すると、香奈は首を横に振ったー

男は、そのまま立ち去っていき、2度と香奈の前に
姿を現すことはなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーまた明日~!」

1週間後ー

香奈は普通に日常生活に復帰していたー。

”あの日ー、わたしを助けてくれたあの人は何だったんだろうー”

今でも、時々そんな風に思うー。
多くは語ってくれなかったし、
言えないこともたくさんある雰囲気だったけれどー、と
思いながらも”娘”の話を口にした時の男の表情を思い出すー。

香奈は思うー

”あの人は、かつて入れ替わりで”娘”を失ったー、
 あるいは、とんでもない目に遭わされた警察官”

なのだとー。

答えは分からないー。
分からないことだらけだけどー。

とにかくー
香奈は、あの人のおかげで、
バスジャックとして逮捕されることもなく、
こうして、元の生活に戻ることができたー

”命の恩人”のことを思い出しながら
今日も香奈は、そのまま家へと帰宅するのだったー

おわり

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コメント

バスジャックの男と入れ替わってしまうお話でした~!

そのまま逮捕されてしまうB案(?)もあったのですが、
今回は、ちゃんと戻れるA案のほうを書きました~!☆
(よく2つ案を頭の中で考えてどっちかにすることがあります~)

お読み下さりありがとうございました~!

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