<入れ替わり>わたしが、この犯行をやめられないワケ②~困惑~

バスジャックの男と入れ替わってしまった女子大生。

彼女は、このまま犯行をやめれば、
”男の身体のまま逮捕されてしまう”可能性に気付きー?

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”自分の身体”に力強くビンタされた
林吾(香奈)は、痛みを感じながら
”自分”の方を見るー

香奈になったバスジャックの男は、
香奈の顔をニヤニヤと歪めながら、
さらに近付いてくるー。

「みなさ~ん!早く通報しちゃってくださ~い!」
悪意のある声で、そう叫ぶ香奈(林吾)ー

先程からの
香奈と林吾のやり取りに、乗客の一部は違和感を感じながらも、
”入れ替わり”などということが現実に起こるとは
誰も思わず、
とにかく警察に通報しようとするー

「ーへへへへ…
 何が起きたのか知らねぇけどー
 こうなった以上、俺はもう別にバスジャックを続ける必要もねぇ。
 
 へへ…お前、大学生だろ?
 俺がお前の代わりに女子大生として生きて行ってやるからー
 お前は俺の代わりに刑務所で臭いメシでも食ってきなー」

香奈(林吾)は小声で笑みを浮かべながら言うとー

「ー今夜はーそうだな。まずはお前の身体でイってみるかー」
と、イヤらしい笑みを浮かべたー

周囲の乗客が警察への通報をしようとスマホを手にしているー。

”このままじゃー”
そう思った林吾(香奈)は咄嗟に、香奈(林吾)の腕を力強く引っ張ってー
そして”人質”にしたー。

「ー動かないで!」
林吾(香奈)がそう叫ぶー。

香奈(林吾)が一瞬驚いた表情を浮かべながらも、
すぐにニヤリと笑みを浮かべるー

”ハッタリだろー?お前に、”自分の身体”を刺せるはずがねぇ”
香奈(林吾)は小声でそう呟くー

もちろん、それは図星だー。

林吾になった香奈が、香奈になった林吾を刺すことはできないー。
自分の身体を傷つけることは、彼女にはできないー。

だがー

華奢な香奈の身体ではー
猫背で薄汚い革ジャン姿だけどー、体格だけは良い林吾の身体に
”本気で抑えられたら”
そこから逃れることはできないー

「ーーわたしは大丈夫です!通報してください!」
ニヤニヤしながらそう叫ぶ香奈(林吾)ー

しかしー
林吾(香奈)は
「動くんじゃねぇ!この女をぶっ殺すぞ!」と、
ありったけの力を込めて叫んだー。

”入れ替わった”当事者である香奈(林吾)は、
林吾(香奈)に自分が刺されることはない、ということを
ほぼ100パーセント確信しているー。

しかし、他の乗客たちからすればそうではないー。

林吾(香奈)のありったけの力を込めて叫んだ言葉に
他の乗客たちは、通報しようとする手を止めていたー

「ー…チッ」
香奈(林吾)は舌打ちしながら
「ーわたし、大丈夫ですから、早く通報してください!」と、
必死に叫ぶー。

「ーダメだ!通報したらこの女の首を切るぞ!」
刃物を手に、林吾(香奈)が叫ぶー。

中学生の時、少しだけ演劇部に所属していたのが
今になって役に立ってるかもしれないー。

そんな風に思いながら林吾(香奈)は、
できるだけ他の乗客に恐怖を与えるような口調で叫ぶー。

”通報するのは”
元に戻ってからだー。
今、このまま警察に通報すれば、
”わたし”が逮捕されてしまうー。

だから、”この犯行”をやめることはできないー。

”ごめんなさい”と
心の中で呟きながらも、乗客たちの反応を見るー。

乗客たちは、どうやら林吾(香奈)の脅しに負けたのか、
通報することもできず、
そのまま沈黙したー。

香奈と林吾の他にこのバスに乗っているのは、

杖をついているおばあさんに、
泣いている子供ー
泣いている子供を慰めている母親ー
最初からずっとビビってるサラリーマンー
最初からずっと寝ているスーツの男ー
泣くのに疲れたのか、青ざめている女子高生ー

そして、バスの運転手ー。

あと、後部座席の方でこっそりしゃがんでいた気の弱そうな青年もいたー。

幸いー
”全員”あまり強くなさそうな感じなことはー、
今の林吾になってしまった香奈にとっては
不幸中の幸いだと言えたー。

「ーー…チッ…いいから通報してって言ってんだよ!」
短期な林吾は、香奈の身体で口調を荒げるー。

けれどー
ビビッてるサラリーマンが
「で…でも、君の命を…犠牲にはできないよ!」と、震えながら叫ぶー

「だ、だから!大丈夫なんだって!」
香奈(林吾)が叫ぶー。

それでもサラリーマンは委縮してしまっているー。

”ふぅ…ありがとうございますー…”
林吾(香奈)は心の中で通報できないサラリーマンに
感謝しつつー
”とにかく、元に戻る方法を探さなくちゃ”と、
心の中で呟くー。

林吾の身体になっているうちはー
少なくとも”香奈”の身体を力づくで抑え込むことができるー。

だから、バスジャック犯自体は、今はあまり脅威ではないし、
刃物も林吾になった香奈が持っているー。

しかしー
いずれにせよ、このままじゃ、香奈が林吾として逮捕
されることになってしまうー
それは、阻止しなくてはいけないー

”どうすれば、元に戻れるのかなー”
林吾(香奈)は、刃物を香奈(林吾)に
突き付けながら考えるー。

さっき、バスの急ブレーキで転倒した際に、
入れ替わったー

と、いうことはー

「ーーなっ!?」
香奈(林吾)が表情を歪めるー

突然、林吾(香奈)に押されて、
腕を掴まれていた香奈(林吾)が
バランスを崩してしまったことにより、
二人一緒に転倒するー

奇妙な行動に、乗客たちが呆然とする中ー
林吾(香奈)は、香奈(林吾)の腕を掴みながら
身体を確認するー

「も、戻ってないー…」
林吾(香奈)が、呆然としていると、
香奈(林吾)は心の中で”戻るな!”と叫ぶー。

”せっかくJDになれたんだー…
 しかも、指名手配もされてねぇ身体にー
 戻るな!戻るな!戻るな!”

また入れ替わりが発生して
元の身体に戻ってしまうようなことが
起きないことを、心の中で何度も何度も強く
念じながら、香奈(林吾)が「とにかく通報してよ!」と、
乗客たちに苛立った様子で叫ぶー。

しかし、突然、林吾(香奈)が、香奈(林吾)にキスをしてきたー

「ーーーはっ!?」
顔を真っ赤にする香奈(林吾)ー

林吾(香奈)は「おぇっ…わたしの身体がおじさんとキスしちゃった」と
小声で呟きながらー
「しかも、元に戻ってないし最悪…」と、
”絶対にしたくなかった”けど、元に戻るためにと
我慢してキスをしたことが不発に終わり、
林吾(香奈)は悲しそうに表情を歪めたー

「ーー元に戻ろうったってそうはいかねぇー
 これは神様が俺にくれた奇跡だー。
 
 お前は、バスジャックしたおっさんとして大人しく逮捕されろー」

香奈(林吾)がニヤニヤしながら小声で呟くー。

「ーー…わたしの身体を返して」
林吾(香奈)が怒りを込めながら呟くー。

しかし、香奈(林吾)は
「別に俺が仕組んだわけじゃねぇし、俺だって元に戻る方法、知らねぇんだよ」と
笑うー。

「ーーーーー」
スーツ姿の乗客は先ほどからずっと目を閉じて寝ているー。

「ーーーーー」
母親と一緒の子供は先ほどからずっと泣き続けているー

「ーーー」
ビビりのサラリーマンは、先ほどから震えながら周囲を見渡しているー。

「ーーー………お前ら、わたしが通報していいって言ってんのに
 ホント、役立たずだな!」

香奈がそんなことを言うはずがないのに、
香奈の身体で素の自分を表に出してしまう林吾ー。

「まぁいいや」
香奈(林吾)はそう言うと、
チラッと林吾(香奈)のほうを見たー。

相変わらず、腕はしっかりとつかまれていて、
このままでは動けないー

「ーーーへへ」
がー、香奈(林吾)はあることを思いついていたー

「ーー離せよおっさん!」
そう叫ぶと突然、林吾(香奈)の股間に強烈な蹴りを
食らわせた香奈(林吾)ー

林吾(香奈)が、股間を蹴られて
今まで感じたことのない激痛を感じながら
飛び跳ね、ナイフも落としてしまうー

一瞬、香奈(林吾)は反射的にナイフを拾おうとしたが
”おっと、犯罪女にするわけにはいかねぇ”と、思い直して
周囲を見つめると
「今です!通報してください!」と叫んだー

「ーち、ちょっと待って!通報しないで!」
林吾(香奈)が大声で叫ぶー。

「ーーわたし、この人と入れ替わっちゃってるんです!
 騙されないでください!」

再び入れ替わりを主張する林吾(香奈)ー

香奈(林吾)は「そんなこと、あるわけないじゃないですかぁ~」と
笑いながら言い放つー。

入れ替わった直後にも、”入れ替わっちゃった”ことを
周囲に伝えたものの、信じてもらうことができなかったー。
今、改めてそれを口にしても信じてもらえるわけがないし、
一度”バスジャック犯”のフリをして通報を阻止しようとしてしまったため、
今更言っても、もう誰も信じないのは明らかだった。

「入れ替わっちゃったんです!」からの「動くんじゃねぇ」からの
「入れ替わっちゃったんです!」など、
ただの頭のおかしいバスジャック犯としか、周囲は思わないだろうー

「ーへへ…入れ替わったことを信じてもらうなら、
 最初からずっとそう言い続けるべきだったな」
香奈(林吾)が言い放つー。

林吾(香奈)は、怯えていたサラリーマンの男が
警察に連絡しているのを見つめながら呆然とするー。

”わたし…バスジャックで逮捕されちゃうの…?”と、
そう思いながらー。

「ーー……」
けれど、どうすることもできなかったー。

最初に「入れ替わっちゃったんです!」と、周囲に言った際には
誰も信じてくれている様子はなかったしー、
恐らくそのまま”入れ替わっちゃった”と言い続けていれば
既に乗客の誰かに通報されていて、今頃警察に連行されていただろうー

だから咄嗟に、バスジャック犯・林吾の身体で
林吾のフリをして、乗客たちの通報を阻止するしかなかったー。

でも、結果はー
それも失敗だったー。

林吾のフリをしながら、元に戻る方法を見つけ出して
元に戻れればー、と思っていたけれど、
わざと二人で転倒しても、嫌々キスをしても
元に戻ることはできずー…

結局、警察に通報されてしまったー。

林吾(香奈)はうなだれながら
”入れ替わっちゃった時点でわたし…どうすることもできなかったのかな”と
心の中で呟くー

「ーー大丈夫ですか?」
バスを停車させたバスの運転手が呟くと、
香奈(林吾)は「はい!大丈夫です」と、明るい笑顔で答えたー

”クククククー
 まさか、逃亡犯だった俺が、善良な女子大生になれるなんてー
 人生、何があるか分からないものだぜ”

自分の綺麗な手を見つめながら、
香奈(林吾)がニヤリと笑みを浮かべるー。

”俺の身体になったあいつが逮捕されたらー
 まず何をすっかなぁ…”

ニヤニヤしながら心の中でそう呟くと

”まずはエロイこと、色々してみたいよな…へへっ”と、
心の中で笑ったー

子連れの親子ー
ビビりのサラリーマンー
おばあさんー

乗客たちが順番に避難していく中ー
バスジャックが起きてから、今までずっと
堂々と居眠りをしていた男が、ふと立ち上がったー。

「ーーー」
男は、立ち上がると、バスの出口の方に向かわずー、
香奈(林吾)と林吾(香奈)の方に近付いてきたー

「お…お客様?」
運転手が少し困惑しながらそう呟くー。

だが、それに反応することなく、
居眠りしていた男は、
二人の前に立つと、突然、香奈(林吾)の腕を掴んだー

「ーー!?」
香奈(林吾)が驚くー。

運転手も、林吾(香奈)も驚くー

「ーーーおい、おっさんー」
男の言葉に、香奈(林吾)は表情を歪めるー

「ーーな…な…なんですかー?わ、わたしは女ですけど!」
香奈(林吾)がそう叫ぶと、
男は鋭い目で香奈(林吾)を睨みつけながら言ったー。

「ー俺は中身のお前に言っているー。
 おい、クソ野郎ー。
 女の子ごっこはそんなに楽しいか?」

男の言葉に、香奈(林吾)は表情を引きつらせると
「な、な、なにを言っているか、分からないんですけど!」
と、あくまでも香奈のフリを続けて、そう言い返したー。

③へ続く

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コメント

バスは無事に停車…!
けれど、このままだと香奈が林吾の身体のまま
逮捕されてしまいますネ~…!

次回が最終回デス!

コメント

  1. 飛龍 より:

    入れ替わりを見抜いた男の正体とは……
    果たして元に戻れるのか!? 最終回が気になります~!

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆!
      謎が深まりますネ~!笑

      次回もぜひ楽しんでください~★