<入れ替わり>わたしが、この犯行をやめられないワケ①~事件発生~

とあるバスに、
刃物を手に乗り込んできた男ー。

バスジャック事件が発生したその現場で、
更なる事態が発生したー…!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」
女子大生の宮藤 香奈(みやふじ かな)はー
休日の今日、
友達との待ち合わせ場所に向かうため、
バスに乗っていたー。

友達と合流したあとのことを考えたりしながら
窓の外を見つめるー

バスを降りたあとは、駅前で友達と合流、
電車で少し移動した後に、
今日、友達と二人で楽しむ予定のイベント会場へと
足を運ぶー

そんな予定になっているー。

バスでの移動はあと3駅ほどー。

ちょうど、残りのバス停の一つにバスが停車するー。

特に何も思わず、
何となく窓の外の景色を見つめていたその時だったー。

「ー動くんじゃねぇ!」

たった今、停車したバス停から乗り込んできた
猫背の小汚い革ジャン姿の男が、
そう叫びながら、バスの車内で刃物を取り出したー

「きゃああああああああ!」
「うわあああああああああああ!」

悲鳴がバスの中に響き渡るー

「おい!運転手!とにかくバスを走らせろ!」

その男がそう叫ぶと、
バスの運転手は「は…はい」と、困惑しながら
バスを走らせ始めるー。

「ーーー…う…ウソ…こんなことってー」
呆然としながら、たった今バスに乗り込んできた
”バスジャックの男”のほうを見つめる香奈ー。

もちろん”バスジャック”の存在は知っているー。

だが、自分がこんな事件に巻き込まれて
当事者になるだなんて、香奈は夢にも思っていなかったー。

「ーー騒ぐんじゃねぇクズども!」
男が乱暴な口調で叫ぶー。

「ーーーこ、こいつー…!」
乗客の一人がそう叫びながら、
バスに乗り込んできた男に指を指すー。

男はー
3日ほど前に、飲食店で店員とトラブルを起こし、
暴行を働いた上、逃亡している最中の男だったー

「ー栗澤 林吾(くりざわ りんごー)ー!」
思わず、逃亡中の犯人の名前を叫んだ乗客の男ー。

刃物を持った男・栗澤林吾は「うるせぇ!」と叫びながら
その男に刃物を突き付けるー

「ーー(こ…こういうときって…どうすればいいんだったっけ…)」
まさかのバスジャックに遭遇してしまった香奈は、
困惑しながらも、冷静にそう考えるー。

別に、こういう場面に慣れているだとか、
そういうことではないけれど、
とにかく、無事にバスから脱出するために、
あらゆる手を尽くそうと、あれこれ頭の中で
考え始めるー

”警察に、通報しなくちゃー”
そう思いながらも、男が怒鳴り声を上げてー、
乗客の子連れ親子の子供が泣き始めたり、
おばあちゃんが「あんた!バカなことはやめなさい!」と
犯人の林吾に向かって叫びー、林吾にビンタされるような
光景が目に入って来るー。

「ーー俺はよぉ、3日前の件で警察に追われててよぉ…
 でもよ、俺は悪くねぇ

 悪いのは、俺に絡んできた店の方なんだー

 でも、俺なんかの話を警察は聞いちゃくれねぇー。
 だから、お前らを人質にとって、警察と交渉するんだー。

 俺は悪くねぇってなー」

そう呟く林吾ー

バスジャックをする人間の理由なんて
”巻き込まれる側”からしたらどうでもいいー。

香奈も”そんなことに巻き込まないでよ”と、思いながらも
なんとか、警察に通報しようとスマホをこっそりと操作するー。

幸い、香奈は後ろの方の座席に座っていたため、
まだ前方にいる林吾とは目が合いにくいし、
手元でスマホを操作するだけなら十分に可能だー。

もちろんー
他の乗客の中にもこっそり通報しようとしている
人間はいるかもしれないし、
バスの運転手が何らかの形で異常を知らせる操作は
しているとは思うー。

けれど、”他人任せ”にしていて
誰も警察に通報しようとしていなかったー
なんてことになってしまっては大変だし、
周囲の乗客の状況を全員、確認できない以上、
香奈は”犯人がこっちに近付いてくる前に警察に通報できれば”と
考えながらこっそりスマホを操作するー

おばあさんー
泣いている子供とその母親ー
完全にビビってるサラリーマンー
この状況でも寝ているスーツ姿の男ー
あまり頼りなさそうなバスの運転手ー
涙目の女子高生ー。

正直ー、
こういう状況をどうにかできそうな人間は
残念ながらバスには乗っていなかったー

”まぁ…わたしもだけど…”
香奈は心の中でため息をつくー。

”わたしも含めて”頼りになりそうな人間が
今、このバスの中にはいないー。

そう思いながらも、スマホで警察に電話を掛けることに
成功したその直後だったー

「おい女!何をしてる!?」
林吾が大声で叫ぶー

「ー!?!?!?」
香奈はビクッとして、警察に通報する直前で
スマホを落としてしまいー、
それを見た林吾はすぐに、”香奈が警察に通報するつもりだった”
ことを悟ってしまったー

「ーテメェ……!こっち来い!」
みるみる怒りの形相に変わっていく林吾が、
香奈の腕を乱暴に掴み、香奈を引っ張るー

「や…やめて!」
香奈は思わず悲鳴を上げながら、
林吾を振り払おうとするも、
林吾がナイフを突きつけて来て、笑みを浮かべるー。

だがー
その直後ーーー

ちょうどバスが交差点をカーブして揺れてーーー
林吾と香奈が、身体のバランスを崩し、
そのまま二人そろって転倒してしまったー

「ーく、くそっ!…もっとちゃんと運転しろ!」

怒鳴り声を上げるバスジャック犯ー

いやー

怒鳴り声を上げたのは、林吾ではなく、
女子大生の香奈だったー。

「ーーーあ?」
香奈が驚いた様子で自分の喉元を触り、
自分の胸を触り、身体を見つめるー

「ーな…な…な、なんだこれ!?」
香奈が心底驚いた、という様子で
変な声を出すと、
周囲の乗客たちも、困惑した表情を浮かべたー。

香奈に突然怒鳴られた運転手も同様だー。

しかし、この場で一番驚いていたのは、
今、怒鳴り声を上げた香奈自身とー
倒れていたバスジャック犯・林吾だったー

「ーーーえ…」
後から起き上がった林吾も、困惑しているー。

香奈は起き上がった林吾を見て
「テ…テメェ…」と乱暴な口調で呟くー。

転倒した際に、乱れた髪のまま、
どしどしと、女子大生とは思えないような歩き方で、
林吾の方に近付いていき、
「ーなんで、俺が目の前に?」と、小声で呟くー

そう聞かれた林吾は「そ…それはわたしのセリフですけど…」と
困惑しながら呟くとー、
「も、もしかしてわたしたち身体が入れ替わっているんですか…?」と、
不安そうに林吾(香奈)が呟いたー。

二人は、先ほどのカーブでバランスを崩して転倒した際に
お互いの身体が入れ替わってしまっていたー。

「ーー!」
林吾(香奈)は、自分の手に刃物が握られていることに気付き、
一瞬驚いたものの、すぐにあることをひらめいたー

”わたしがこの人になっててー
 わたしがナイフを持ってるってことはー”

「ーみ、皆さん…り、理由は分からないんですけど、
 わたしと…こ、この犯人の人、”身体が入れ替わっちゃってー”」

咄嗟にそう説明する林吾(香奈)ー

だが、周囲の乗客たちは、
急に”入れ替わり”などと言われても、
何のことか理解できない、という様子で
困惑の表情を浮かべていたー

「え…えっと、その…なんて言えば…

 え~っと、
 と、とにかくもう大丈夫です。
 早く警察に通報してください!」

林吾(香奈)が叫ぶー。

自分が”林吾の身体”になったことで
形成は逆転したー

このバスにいる人間の中では最も力自慢…に見えるし、
ナイフも手に持っているー

一方で、バスジャック犯の林吾は、
入れ替わったことによって”華奢な身体”になってしまい、
さらには”ナイフ”も手放すことになったー

”わたし、運動神経は悪いしー…これなら、この人がもし
 暴れ出しても安心だよねー”

バスジャックの男・林吾になった香奈は
”これでみんな無事に解放される”と
安堵の笑みを浮かべながら、ナイフを手放そうとしたー

しかしーー

「ーーう…う…動かないで!」
林吾(香奈)がハッとして突然叫ぶー

「ーーえっ!?」
通報しようとしていたビビってるサラリーマンが
表情を歪めたー

「そ、そのスマホから今すぐ手を放して!」
突然叫び出した林吾(香奈)に、呆然とするサラリーマン。

いや、呆然としていたのは入れ替わってしまって
険しい表情を浮かべていた香奈(林吾)も同じだー。

人質にするはずだった乗客の一人である女子大生と
入れ替わってしまって”詰み”のはずだった彼は、
呆然と林吾(香奈)の様子を見つめていたー

「ーー早く!バスをそのまま走らせて!」
運転手の方に向かって叫ぶ林吾(香奈)ー

「(な、なんだこの女…血迷いやがったのか?)」
香奈(林吾)が、困惑しながら、
”再びバスジャックを再開した”林吾(香奈)のほうを
見つめるー。

「ーーー……あ、あなたもー動かないで!」
林吾(香奈)が叫ぶー

香奈(林吾)は、しばらく”意味不明”という表情を
浮かべていたもののー
ようやく気付いたー。

”ーへへ…そういうことかー”

香奈(林吾)は、
入れ替わって林吾になったあと、
一度は人質を解放して、そのままこの事件を終わらせようとしていたのに、
すぐに態度を変えた理由を理解したー

”このまま、人質を解放して、
 バスを停車させたらー
 逮捕されるのは、俺の身体になったお前のほうだもんなー?”

香奈(林吾)が悪女のような笑みを浮かべるー。

そうー。
林吾になってしまった香奈は”それに気づいた”のだー。

最初ー
入れ替わった直後は
”自分がバスジャックの男”の身体になったことで、
すぐに人質になっている乗客を開放、バスを停車させて
警察も呼べばー

全て解決で自分も助かる、と、そう思っていたー

だが、この状況で駆け付けた警察が、何をするかー。

それはー
恐らく、バスジャックをした犯人である
栗澤林吾を逮捕するのだー。

しかし、今、栗澤林吾の身体の中には、
香奈がいるー。

つまり、このまま乗客を開放して、
バスを停車させれば
”わたし”が逮捕されてしまうことに
林吾(香奈)は気づいたのだー。

”ごめんなさいー…
 でも、今のままじゃ、わたしが逮捕されちゃうんですー”

怯える乗客たちを見つめながら、
林吾(香奈)は心の中でそう呟くー。

「(へへへ…そうかそうかーお前はそうするしかねぇもんな)」
香奈(林吾)は、林吾(香奈)のほうを見つめながら、
不気味な笑みを浮かべるー

「ーう、動かないで!」
林吾(香奈)がそう叫ぶと、
香奈(林吾)は、にやりと笑みを浮かべたー。

”刺せるはずがないー”

香奈になった林吾は、そう思ったー。

いくら他人の身体になっているとは言え、
この女に人を刺せる度胸があるとは思えないし、
何より、”自分の身体”を刺すことなど、
絶対にできないはずだー

「ーーへへへ…”わたし”を刺せるのかなぁ???」
ニヤニヤしながら香奈(林吾)が、
林吾(香奈)に近付いていくー。

バスが走り続ける中ー、
林吾(香奈)は「こ、来ないで!」と必死に叫ぶー。

林吾の読み通りー。
林吾の身体になった香奈に、
人を刺す度胸があるかどうか、に関してはともかく、
少なくとも”自分の身体を刺すことはできない”という点は
正解だったー。

そう、林吾の身体になった香奈がー
”自分の身体”を刺すことなど、できないのだー

「ーーバスジャックなんて悪いことしちゃってー…!
 恥を知りなさい!」

嬉しそうにそう叫びながら、香奈になった林吾は
躊躇なく”元自分の身体”を力強くビンタしたー

②へ続く

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コメント

バスジャックの男と入れ替わってしまって
大変なことに…!

今のところ、大ピンチ!ですネ~!

続きはまた明日デス~!

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