<皮>姉さんがあの家に干されてる③~対峙~(完)

数年前に消息を絶った姉をようやく見つけた弟ー。

彼は執念深く、
姉失踪の真相に近付いていくー。

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”姉さん!無事だったんだ!よかったー…!
 ずっと連絡がないから心配したんだぞ”

弟の海斗から届いたメッセージを見て、
亜香音は胸を揉みながらそれを見つめたー。

「ーークククー…バカな弟だぜ」
亜香音が邪悪な笑みを浮かべながら
そう呟くー。

もちろん、本来の亜香音ならそんなことは思わないー。

けれど、今の亜香音は、
宮田久蔵に皮にされてー、
その身も心も支配されているー

身体はそこにあってもー
今の亜香音は、海斗の知る亜香音ではないー。

「ーーー……わたしはもう、おもちゃなのー。
 誰にも、邪魔はさせないー」

亜香音はそう呟いてから、
”待ち合わせ場所に指定した”山に向かって歩き出したー。

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「ーーー…姉さんー」
海斗は、数年前に失踪した姉・亜香音から
突然連絡が来たことに驚きつつも、
やはり”宮田久蔵”と何か関係があるのだろう、と理解していたー。

あの日ー、
友人の茂の家のベランダから偶然見えた
”干されていた姉さん”ー

あれはやっぱり、何か姉さんと関係があるのだろうー。

そして、このタイミングで、何年も失踪していた姉から
連絡が来たということは、
かなりの確率で宮田久蔵が関係しているー。

「ーー俺が探ってるのに、気づいたんだろうなー」
海斗は、そう呟きながら、待ち合わせ場所の山へと向かうー。

宮田久蔵が、姉さんを誘拐して、家の中に
監禁しているー。

海斗は、”そんな風に”考えていたー。

そして、急に姉・亜香音から連絡が来たのは、
”自分が疑われていることに気付いた”宮田久蔵が
何か対策を講じたのだろうー。

疑われたことを悟りー
”姉の亜香音を素直に解放した”可能性もあるー。

これなら、海斗と亜香音にとってはハッピーエンドだー。

だが、”亜香音を脅迫して、何かを言わせたり、させようとしている可能性”もあるし、
”亜香音が何かされている可能性”も考えられるー。

そしてー
待ち合わせ場所に待っているのは姉の亜香音ではなく
宮田久蔵やー他の人間である可能性もあるー。

けどー

「ずっと探し続けた姉さんの手がかりなんだー」
海斗は、電車に揺られながら、目的地の駅に到着すると、
電車を降りて、駅から見える山のほうを見つめたー。

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日没近くー
山の近くの人通りがない道でー

海斗は、数年ぶりに姉・亜香音の姿を見つけたー

「ーーね…姉さんー」
後ろ姿だけで、すぐに分かったー

姉・亜香音は数年前失踪した
”大学生当時”とほぼ同じ容姿で、
そこに、立っていたー

声が震えるー
目から涙が溢れそうになるー。

ずっと、ずっと会いたかったー。
会って、話をしたかったー。

そんな思いが、溢れ出しそうになるー。

けれどー
数年間も行方不明になっていた”姉”が、
”普通の状況”に置かれているとは思えないー。

「ーーー……海斗ー」
亜香音が振り返るー。

亜香音の顔も、表情もー
当時のままー

”数年経過しているのに”
あまりにも当時のままにも、見えたー。

「ーー…姉さん…無事で…無事で本当によかったー」

薄暗いその場所で、海斗がそう言うと、
亜香音も「元気そうでよかったー」と、
海斗のほうを見て微笑んだー。

「ーーー…姉さんー…でも、どうしてー…?
 どうして、急に姿を消したりなんかー?」

その言葉に、
亜香音は少し表情を歪めたー。

「ーー……わたし、色々疲れちゃってー」

そう口を開いた亜香音は、
さらに言葉を続けるー。

「ーーー……海斗のことが嫌いだったわけじゃないのー。
 でも、わたし、毎日真面目に頑張りすぎちゃったのかなー。
 学校に、バイトに、プライベートにー。

 気が付いたら、夜に涙が無意識のうちに溢れて、
 もう、このままじゃ、わたし壊れちゃうなって」

亜香音はそう言うと、
海斗のほうを悲しそうに見つめたー

「姉さんー」
海斗は、そんな亜香音の言葉を聞き、
亜香音の日常を思い出すー。

確かに、”姉さん”はいつもいつも自分のことは二の次で、
周囲のために尽くすような、そんな感じの人だったー。

それに、押しつぶされて失踪したというのかー。

「ーーー……それでねーわたし、姿を消したのー
 行くアテもなかったけどー
 もう、何もかも投げ出したくなっちゃってー」

亜香音はそこまで言うと、続けたー

「ーーそんな時に助けてくれたのが、
 あの宮田さんなの」

亜香音は、そう呟くー。

宮田久蔵ー
”姉さんが干されていた”家だー。

「ーーー…宮田…」
海斗が少し険しい表情を浮かべるー

姉の亜香音が”宮田久蔵”との関係を自分から口にしたー

「ー宮田さん、すっごくわたしに優しくしてくれてー
 でも、宮田さん、身体が悪いから、わたしもその分、
 宮田さんを、そうー…なんて言うかな、半分介護してるような感じでー

 でも、今、わたしはそれなりに充実してて上手くやってるからー

 だから、海斗ー。
 海斗の気持ちも分かるけど、わたしは元気だからー

 もうー
 わたしのことは気にしなくていいの」

亜香音はそれだけ言うと、
海斗は「何でそんなこと…言うんだよ」と、呟くー。

「ーーー…ごめんね。さっき言った通りー
 わたし、疲れちゃってー
 全部、投げ出したかったのー
 だからー」

亜香音の皮を着た宮田久蔵は
”今は幸せだから、もう関わらないで”と、告げて
海斗を亜香音から遠ざけるつもりだったー

だがー

「ー宮田さんに、言わされてるのか?」
海斗が言うー。

「ーえ?」
亜香音が表情を歪めるー

「あの、宮田久蔵って人に脅されてるのか?姉さん」
海斗が言うと、亜香音は「そ、そんなことないよー」と、声を歪めるー。

「ーー俺、姉さんのことー
 自分で言うのもなんだけど、誰よりも知ってると思うんだー。
 だからー姉さんが、自分の意思でそんなこと言うなんて思えないー。

 仮に姉さんが全部イヤになったんだとしてもー
 誰にも何も言わず、姿を消すなんてありえないー。
 あんなに可愛がっていたハムスターを置いて消えるなんてありえないー」

海斗がそう言うと、
「宮田さんに脅されてるなら、全力で助けるから」と、
真っすぐ亜香音のほうを見つめたー。

「ーーーーー…宮田さんに脅されてなんかない!
 あの人は、今のわたしの全てなの!
 失礼なこと言わないで!」

亜香音が声を少し荒げるー。

「ーーー…」
海斗はそんな亜香音の反応に”強い違和感”を抱くー。

「ーーー…本当に、姉さんなのか?」
とー。

「ーーえ?」
亜香音が表情をさらに歪めるー

「ーーーさっきからー…姉さん、変だよー」
海斗はそう呟くー

喋り方、仕草、振る舞い、癖ー。
姿と声は同じでも、何かが違うー。

「ーそんな風に、爪をかじったりもしなかったしー」
海斗が指を指すー。

無意識のうちに爪をかじっていた亜香音は表情を歪めて
ハッとするー。

「ーーーす、数年もあれば、人は変わるのよ」
亜香音はそれだけ言うと、目を逸らすー。

「ーーーー……姉さんー…おじいちゃんも、ずっと心配してるぞー」

海斗が悲しそうにそう呟くと、
亜香音は表情を曇らせながら「おじいちゃん、元気なの?」と聞き返すー。

亜香音がそう言うと、
海斗は悲しそうに苦笑いしながら呟いたー。

「ー元気なわけないだろ」
と、言い返すー。

「ーおじいちゃんは、姉さんが中学生の頃に死んでるんだからー」
とー。

「ーーーー!!!!!」
亜香音は表情を鬼のように歪めたー。

”死んだはずのおじいちゃん”が、
”心配してたぞ”と、わざと言った海斗ー。

それに対して”おじいちゃん元気なの?”は明らかにおかしい反応だー。

「ーーお前ー誰だ!」
海斗が叫ぶー。

「ーーーー」
亜香音は、呆然としながら表情を歪めると、
ゲラゲラと笑い出したー

「ーーあ~~~~あ…ムカつく弟だなぁ…もうー」
そう言うと、亜香音は海斗の腕を突然引っ張りだして、
山の奥の方に歩いていくー

「おい!姉さんじゃないよな!誰なんだお前は!」
海斗が怒りの形相で叫ぶと、亜香音は答えたー

「”身体”は姉さんなんだけどねぇ~」
とー。

そしてー
山の中まで入り込んだ亜香音は笑みを浮かべながらー
突然、パックリと真っ二つに割れたー

「ーー!?!?!?!?」
驚く海斗ー

中から出て来たのはー
宮田久蔵だったー。

「ー冥途の土産に教えてやるー。
 お前の姉さんは、俺が”皮”にして、着込んでいたんだよ!はははっ!」

海斗は、呆然としながら”脱がれた亜香音”のほうを見つめるー。

「ーーな…なんだってー…?」
海斗がようやく言葉を振り絞ると、
ペラペラになった亜香音の皮を手に、
ニヤニヤと笑みを浮かべる宮田久蔵がさらに言葉を続けるー。

「ーこの薬を飲ませるとー
 お前の姉さんみたく、人を”皮”にすることができるんだー。

 お前の姉さんは、何年前だったかなー?
 へへ…何年も俺の”お洋服”さ!

 ぐへへへへへぇ!」

宮田久蔵はそこまで言うと、
「ーお前の姉さんの喘ぐ声ー妙にエロイんだよー?
 聞かせてやろうか?」
と、笑みを浮かべるー

全て、腑に落ちた。

姉さんが突然失踪したこともー
どんなに捜索しても見つからなかったこともー
先日、宮田久蔵の家で”干されていた”のもー
宮田久蔵の家から姉さんの喘ぎ声が聞こえてきたこともー

全て、理由を理解することができたー。

「ーーお前が…お前が姉さんを!」
怒りの表情を浮かべる海斗ー

「ふへっ!この薬はあと2粒あるー。
 お前にも飲ませればー…」

にやりと笑う宮田久蔵ー。

「ーーー例えば、お前を”皮”にして、ハサミで切り刻んで
 燃やすごみに出したらー
 どうなると思うー?

 ただの布切れみたいなものがゴミ袋に入ってても
 誰も気づかないだろうなぁ!

 お前の姉さんは、俺のものだ!」

宮田久蔵が叫ぶと同時にー
海斗が、姉さんを返せ!と叫びながら
宮田久蔵に突進するー。

しかしー
宮田久蔵が海斗を捕まえて、海斗の口に
無理矢理、”人を皮にする薬”を飲ませようとするー

「えっへへへへへへ…
 お前は、ゴミ袋に入るんだー!」

宮田久蔵がそう叫んだその時だったー

”俺は、こんなところで死ねないー姉さんー!!”

海斗がー
宮田久蔵の顔面を必死に殴りつけてー
無我夢中で、宮田久蔵の持っていた薬を奪いー
それを宮田久蔵の口に押し込んだー

「ーーぅ…あ… き、貴様ー…ま… ……」
宮田久蔵がみるみるペラペラになってー

そして、皮になったー。

日が暮れた山中で、呆然としながら
海斗は、”姉さん”と”宮田久蔵”の皮を見つめー
そして、悲しそうに「姉さん…」と呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1週間後ー

”宮田久蔵”の皮をハサミで切り刻んで
燃やすごみに出してやったー。

残酷な行為な気もしたがー
姉さんの数年間を奪ったこの男には罰が必要だしー、
因果応報だと海斗は思ったー

「ーーーーでも…」

海斗は、自分の部屋に持ち込んだ姉の皮を見つめながら
悲しそうな表情を浮かべるー。

「ーー…」

果たして”人間”に戻すことはできるのだろうかー。
仮に戻せたとして、姉さんは無事なのだろうかー。

「ーーー俺は、諦めないよー」

海斗は、そう呟くー。

こうして”姉さん”を見つけることはできたんだー。

だったらー
元に戻すこともできるはずー。

海斗はそう信じて、”絶対に姉さんを救い出す”と、
改めて心の中で決意を固めるのだったー

おわり

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コメント

いつの日か、お姉ちゃんを救い出すことができると信じて…!

お読み下さりありがとうございました~!

…男を皮にせずに、戻す方法を聞き出した方が
海斗くんにとっては良かったかもですネ~笑
でも、自分の身に危険が迫っているかつ、
感情的になっていたので、そんなことを考える暇はなかった…
と、いう設定デス~!

コメント

  1. 匿名 より:

    最後のとこでシスコンっぽい海斗が姉の皮を着て、これからは自分が姉さんになるという狂っちゃうような展開になると思ってたら、普通に正気で姉を助けようとしてるみたいですね。割と意外です。

    というか、今までの話で一度皮になった人間が元に戻った話なんてありましたっけ?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      今回は狂わずに本気で助けようとするお話でした~!
      でも、そのうち着てしまうかもですネ…笑

      そういえば、無事に元に戻るお話はないような、あったような…