<皮>姉さんがあの家に干されてる②~調査~

数年前に消息を絶った姉ー。

そんな”姉”らしき”モノ”が干されているのを発見した
弟の海斗は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーじゃあ、また大学でー」
海斗が言うと、茂は「おう」と、返事をして、
海斗を玄関先で見送るー。

ゲーム仲間の茂の家で、楽しい休日を過ごした海斗は、
茂の家から立ち去ると、
そのまま、”少し離れた家”の近くまで
やってきたー

「ーーーーーー……」

”宮田 久蔵(みやた きゅうぞう)”

玄関先の表札には、そう書かれているー。

「ーーー………」

さっきー
この家の”庭”に、
数年前に失踪した姉・亜香音に”そっくり”な、
雰囲気の”着ぐるみ”のようなものが干されていたー

もちろん、海斗も、それが亜香音本人だとは思っていないー

しかしー…
”亜香音を模した着ぐるみ”のようなものが干されていたということは
この家の住人である”宮田 久蔵”が、
亜香音のことを知っている可能性は0ではないー。

いやー…
あるいはー…

”あっ♡ あっ♡ んぁっ♡ 最高…♡ んっ♡”

「ーーー!」
海斗は、中から”女の声”が聞こえてくることに気付き、
息を潜めるー

家の側にいて、やっと中から聞こえてくる程度の声だがー
確かに”女の声”が聞こえてくるー。

宮田久蔵の家は、周囲の家とは少し離れているためー
このレベルの声なら、周囲に聞こえることはないだろうー。

だがー…
今、こうして宮田久蔵の家のすぐ側にまで
来ている海斗には”はっきりと”その声が聞こえたー

”はぁぁぁ~…マジでやめられないなぁ”

「ーーー!!!」

さっきまでは”喘ぐような声”だったためー
気付かなかったがー
明確な言葉を発した女の声を聞いてー
海斗は表情を歪めたー

「ーーね…姉さんー?」

特別、”珍しい感じの声”ではないー。

けど、海斗は忘れもしないー。
たった一人の姉である、亜香音の”声”をー。

今、宮田久蔵の家の中からした”声”は、
9割以上の確率で、姉の亜香音の声だと
断言できたー

”あぁぁぁ~女の角オナ、マジでたまんねぇ”

そんな声が聞こえてくるー。

「ーー姉さんが、この家に、いるのかー?」
海斗は、今一度表札を見つめるー。

だがー
表札には”宮田久蔵”なる名前しか書かれていないー。

しかしー
今、部屋の中から聞こえて来た声は
どう考えても女の声だったしー
ほぼ確実に姉さんの声だったと、
確信していたー。

インターホンを鳴らそうとする海斗ー。

だが、その手が震えているー。

何故、数年前に失踪した姉さんがこんなところにいるのかー。

そしてー
さっき”干されていた”姉さんらしき着ぐるみは何だったのかー。

色々な疑問が浮かんできては、消える。

しかしー
この数年間、ずっと姉の手がかりを探し続けて来てー
偶然とは言え、ようやくたどり着いたこの場所…

このまま引き下がるわけにはいかなかったー。

海斗は意を決して、インターホンを鳴らすー。

するとー
途端に物音が消えてー、
宮田久蔵の家は沈黙したー

「ーーー……」
海斗は、戸惑いながらもう一度インターホンを鳴らすー。

するとー
ガチャ…と、玄関の扉が開いたー

中から出てきたのはー
髪の毛がボサボサの小汚い感じの中年の男だったー

「ーーー何か御用ですか」
一応、丁寧な口調で応対してくる男ー

恐らくは、この男が宮田久蔵なのだろうー。

そう思いながら、海斗は”どう、姉のことを聞けばいいのか”と
頭を悩ませるー。

まさか、いきなり”姉さんの声がしたので”は、
まずいだろうー。

仮に、亜香音が”自らの意思”でこの家にいるのだとしてもー
逆に、この男に拉致のような状態でこの家にいるのだとしてもー

まずはーー

「ーあ、突然すみませんー
 実はーー」と、海斗は大学の学生証を警戒されないように
サっと見せると、
「ー人探しをしていましてー、消息を絶つ前にこのあたりで
 目撃されたって話もあったので、このあたりの方に聞き込みを」
と、海斗はそう説明したー。

本当は、亜香音が消息を絶ったのは別の場所だったが
それとなく適当に理由をつけたー

「ーそうですか」
宮田久蔵は、あまり興味が無さそうな反応を示すー。

だがー
海斗がスマホを操作して、姉・亜香音の写真を
見せつけたその時だったー

「ーーーーーーーーーー!!!!!」

「ーーーー!!!」

宮田久蔵の表情が明らかに変わったー。

海斗も、すぐにそれに気づくー

「ー何か、ご存じですか?」

しかしー
海斗は、宮田久蔵の変化に気付かなかった風を
装って、そのまま淡々と言葉を口にするー

「……いや」

宮田久蔵は、表情を戻すと、
すぐに再び、あまり感情を感じない口調で
喋り始めたー。

「ーー昔の知り合いに似てると思ったんだがー
 よく見たら違ったねー」

その言葉に、海斗はどうするべきかどうか、
迷ったものの、
”もう1歩”踏み出すことにしたー。

「ーーさっき、女性の声が聞こえたのですがー」
とー。

「ーーーん???」
宮田久蔵は、途端に気まずそうな顔をすると、
「ーー同居している女性がいるからねー」と、
海斗のほうを見つめたー。

「ーーーー」

「ーーーー」

海斗は、これ以上色々と突っ込むのは難しいと判断して、
「ーーー失礼しましたー」とだけ呟くと、
「色々とご協力、ありがとうございました」
と、頭を下げて、その場を後にしたーー

「ーー宮田…久蔵ー」
宮田久蔵の家から少し離れた場所で立ち止まると、
海斗は”あの人は姉さんのことを知っているー…”と、
その反応から、読み取っていたー。

「姉さんー…」
やっぱり、さっき、宮田久蔵の家から聞こえた声が
姉さんの声なのだろうかー。

そんなことを思いながらも、”今日はもう遅いから”と、
ひとまずその場を立ち去ることにしたー。

姉の亜香音が”自分の意思”であそこにいるのかどうかー

宮田久蔵が、悪人なのか善人なのかもわからないー

そんな現状で、宮田久蔵をしつこく追及することは
海斗にはできなかったー

それに、本当に”勘違い”の可能性もあるー。

”また来よう”
そう思いつつ、海斗は家へと向かって歩き出したー

・・・・・・・・・・・・・・・・

「チッー」

宮田久蔵は、海斗が帰ったのを確認すると、
海斗が来た時に慌てて脱ぎ捨てた亜香音の皮を身に着けて
舌打ちをしたー

「ーこの女の、弟かー」
亜香音は険しい表情を浮かべながら
何度も何度も爪をガリガリと齧り始めるー。

亜香音の癖ではなく、宮田久蔵自身の癖だー。

「ーー………せっかく、手に入れたこの身体ー
 誰にも渡さんぞー」
亜香音は低い声でそう呟くと
”なんとかあの弟を追い払わなければ”と、
心の中であれこれ考え始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー俺見たんだ!姉さんが干されてるのを!」

帰宅した海斗は、母親に、
亜香音のことを伝えたー

だが、母親も、近くにいた父親も
「ーさすがにそれはないよ」というような反応だったー

「ーーー……でも、その宮田さんって人の家からは、
 姉さんみたいな声も聞こえて来てたしー!」

海斗がさらに続けると、
母親も父親も顔を見合わせて
困惑した表情を浮かべたー。

「ーー……あぁもう!母さんと父さんは、姉さんのこと
 どうでもよくなっちゃったのか!?」

感情的に叫ぶ海斗ー。

父親は「そうじゃない」と、すぐに否定し、
「冷静になるんだ」と、海斗を諭すー。

しかし、人一倍、亜香音のことを尊敬していて、
また、姉として大好きだった亜香音のこととなって、
海斗は周囲が見えなくなりつつあったー。

翌日ー
海斗は再び、宮田久蔵の家の周囲にやってきていたー。

そして、
宮田久蔵の家の周りで、宮田久蔵を見張るー。

だがー
庭は塀に囲まれていて見えずー
まさか、友人の茂に”宮田久蔵を見張るために”
家に上がらせてくれ、ということもできないー。

「ーーーー…(姉さん)ー」

昨日、”干されている”のは、姉の亜香音だったー。

もちろん、普通ではありえないことだー。
遠目だったし、見間違いかもしれないー

だが、”亜香音そっくりの着ぐるみのようなもの”が
干されていたのは、事実なのだー。

それにー

”俺が姉さんを見間違えたり、聞き間違えたりするわけがないー”

海斗は、そう思っていたー。

干されていたのは確実に”姉さん”をイメージした何かだったし、
昨日、家の中から聞こえて来たのは亜香音の声で間違いないー。

「ーーー」

しかしー
宮田久蔵の家に動きはなくー
姉の亜香音が姿を現すこともなかったー

「ーーーー…」

海斗は、気づいていないー。

宮田久蔵の家のカーテンが、ほんのわずかに
動いたことにー

「ーー………チッ」
家の中にいた亜香音ー…
亜香音の皮を着た宮田久蔵が舌打ちをするー。

ガリガリと爪をかじりながら、
”海斗に見張られている”ことを悟った
亜香音は、激しい苛立ちを覚えるー。

「くそっ…これじゃ、声を出すこともできねぇ」

今日はたっぷりとHなことを楽しもうとしていた宮田久蔵ー。

だが、亜香音の身体でエッチなことをすれば
どうしても、身体の底から欲望と共に
吹き上がって来る声を抑えることはできないー。

「ーー……あいつがいる限りー……
 ……ーーー邪魔だな」

亜香音は何度も何度も舌打ちをしながら
爪をガリガリと齧ると、”諦めるまで待つかー”と、
表情を歪めたー。

その日からー
海斗は、何日も何日も、宮田久蔵の家に通ったー。

”これじゃ、俺、不審者だよな…”
そう思いながらも、大学帰りには、必ず宮田久蔵の家を確認しー
時間に余裕のある日は、近くに身を潜めて、宮田久蔵の家を見張ったー。

しかしー

宮田久蔵は、”亜香音の皮”を着るのをやめて、
海斗が諦めるまで”亜香音の皮”を着るのを我慢していたー

”餓鬼がー我慢強い俺を舐めるなよ”
宮田久蔵は、心の中でそう思いながら、
何食わぬ顔で、外出しー
近所のコンビニで”いかにも一人暮らし”と言わんばかりのモノを買うー。

海斗は、そんな様子も見張りながら
”あの日、姉さんらしき声が聞こえたのは確実なんだ”と、
表情を歪めるー。

海斗と、宮田久蔵の”我慢比べ”は続くー。

”何年も、行方不明だった姉さんの手がかりをやっと手に入れたんだ!”と
必死に連日、宮田久蔵の家を見張る海斗ー

”それに気づきながらも”
こういうガキは必ず諦める、と、自分の我慢強さに自信を持つ宮田久蔵ー。

だがー
”家の周りをウロウロされている”にも関わらず
宮田久蔵が通報したりすることはなかったー。

それも、そのはず。

彼には”後ろめたいことがある”
それは当然、亜香音を皮にして、意のままにしている件だー。

バレるとは思えないー。
しかし、元来、小心者である宮田久蔵は
”警察沙汰にすれば、自分のこともバレるのではないか”とビビり、
通報はせず、海斗が諦めるのを待っていたー。

翌日もー
翌週もー
そして、半月後もー

海斗は執念深く、”姉さん”の声がした宮田久蔵の家を見張っていたー

まさか、”姉さんが皮にされている”などとは思っていないー。

しかし、”宮田久蔵が姉さんを拉致していて、今も姉さんはこの家にいる”と、
そう、考えていたー。

「ーーくそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!あのガキィ…!」

部屋の中で一人爪をかじり続ける宮田久蔵ー。

ついにー
”亜香音の皮を着てHなことをしたい”欲望に耐え切れずー
”我慢比べ”で根負けした宮田久蔵は
”動き”を見せたー。

「ーーーー!」

土曜日ー

海斗の元に、メッセージが届いたー

”姉の亜香音”を名乗るメッセージ。

亜香音の自撮りと思われる写真も送られてきて、
”久しぶり”と書かれていたー。

「ーーー…」

痺れを切らした宮田久蔵は、”亜香音の皮”を着て、亜香音のフリをしー、
海斗に”もう自分に近付かないように”言うつもりだったー。

もしも、それを拒んだ場合にはーー

”ーー会って、お話できるかなー”

姉・亜香音からのメッセージー。

海斗が、メッセージを確認すると、
待ち合わせ場所に隣町にある山を指定してきていたー。

日時は、今日の日没ー。

「ーーー姉さんー」

”やっぱり、姉さんは生きていたー”

そう、思いながらも、
”待ち合わせ場所が明らかに怪しいこと”や、
”数年間失踪していた理由も何も語っていないこと”に
強い不安を感じる海斗ー。

しかしー

「ーーー…姉さん、俺、行くよー。たとえ、罠でもー」

海斗はそう決意して、姉・亜香音が待ち合わせ場所に指定してきた山に
向かうことを決めるのだったー

③へ続く

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コメント

我慢比べに負けた皮おじさん…
墓穴を掘るのか、思い通りになるのか、
明日のお楽しみデス~!

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