人々を女体化させていく凶悪犯・室田ー。
室田を前に女体化してしまった彼は、
室田の行方を何としてでも追いかけようとするー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
病院ー
「ーーーーーー…」
”女”になってしまった自分の身体を見つめる幸則ー。
拳をぎゅっと握りしめるー。
室田によって女体化させられた人間が
男に戻るための方法は今のところ不明ー。
これまでの被害者たちに対しても、
懸命に色々な対処が行われたものの、
誰一人として、男に戻ることはできなかったー。
「ーーもう、慣れたかー?」
死んだ同期とは別の同期の男・川熊(かわくま)が、
やってきて、幸則に声を掛けるー
「ー川熊ー……」
女体化した幸則がそう言うと、
川熊は「ー写真で見るより、美人じゃねぇか」と、
笑いながら、幸則の近くまでやってきて、
自販機で買ってきたお茶のペットボトルを差し出すー
「悪いなー。ありがとう」
幸則はそう言いながらペットボトルを受け取ると、
川熊刑事は「しかし、お前までやられるとはなー」と、
困惑した表情を浮かべたー。
長い黒髪にー
隠すことのできない胸ー
男のそれとは違う手ー
身体つきも、骨格も、やはり”男”とは違うー。
「ーーーーー…そうだなー」
幸則はそう呟くー
口から出る声も、完全に”女”の声ー。
自分の身体が視界に入っていなければー
自分が女体化したことも忘れそうになってしまうけれどー
声を出すたびに、”自分は女”であることを
思い出さされるー。
「ーー……でも、良かったじゃねぇか」
川熊刑事は、コーヒーを口にしながら、そう呟くー
「ーだってほら、お前、滅茶苦茶美人じゃんー
それに、少し若くなった感じだしー。
女体化した奴らの中には
ブスになる奴もいるし、老け顔の奴もいるしー
それに比べたらまだいい方だろ?」
そんな言葉に、
幸則は苦笑いするー。
川熊刑事の言葉は悪いが、
”少しでもポジティブな部分を見つめて、落ち込むな”という
意味だと言うことは理解して、
幸則は「ー俺に惚れたのか?」と、冗談に冗談を返したー
「まさかー お前を女としては見ねぇよ」
笑いながら言う川熊刑事ー。
「ーー……の割に、いつもより異性に対する気遣いを感じるぞ?」
幸則がそう言うと、
川熊刑事は「そりゃ気のせいだろ」と、笑いながら答えるー。
そしてー
少し笑ってから真顔に戻ると、
「ー俺とお前の関係は変わらないさー。
これからも、”大事な同期”として、よろしくなー」と、
手を差し伸べたー
「ーーーあぁ」
幸則は、川熊刑事の気遣いに感謝しながら
静かにそう呟いて、川熊刑事と握手を交わしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーうぁぁぁ… ぁぁぁぁあ!?」
深夜ー
新聞配達員を襲撃して”女体化”させた
室田は、その姿を確認してから、
そのまま静かに歩き出すー。
”まだ”君”は私の前には姿を現してくれないのだなー”
室田は、注射器をしまい、
ゴーグルの下から、鋭い目つきで月を見上げるー。
「美月(みつき)ー」
室田はそう呟くと、
「私は必ず、君にまた会いに行くよー
だから、待っててくれー」と、静かに夜道を歩き始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー俺を、捜査に復帰させてください!」
翌日ー
女体化した幸則は、
女体化犯罪者・室田捜査の責任者の一人である
上梨警視正に対して、そう言葉を投げかけていたー
「すまないが、それはできない」
上梨警視正は首を横に振るー。
「ー”女体化”してしまった者は捜査から外すことに
なっているー
これは決まりだー」
上梨警視正の言葉に、幸則は「しかし!」と、
なおも食い下がるー。
「健康状態への影響も計り知れないし、
性別が変わったことによって
本来の運動能力を発揮することも難しいー
他にも、手続き上の色々な問題があるー。
悪いが君には、捜査から外れてもらうー。
これは、君だけではなく
他の女体化した刑事たちも同じことだー。」
”上層部の犬”と揶揄されることもある
上梨警視正に、何を言っても無駄だったー
恐らくは、上層部の意向なのだろうー。
しかし、上梨警視正の”上”の人間には
そう簡単に会うこともできず、
幸則は、上梨警視正にこうして直訴することしか
できなかったー
「ー分かりましたーそれではー」
幸則はそう呟くと、警察手帳と”辞表”を
上梨警視正の机に静かに置いたー
「何のつもりだ?」
上梨警視正の言葉に、幸則は
「刑事として、室田を追うことができないなら
俺は、個人で室田を追いますー」
と、言い放つー。
「ーー……そんなことが、許されると思っているのかー?」
上梨警視正の脅すような口調ー。
だが、幸則はそれにも応じずに、
頭を下げると、そのまま上梨警視正のいた部屋から
外に出てー
静かに廊下を歩きだしたー
「室田ー…俺は必ずお前を捕まえるー」
そう、決意しながらー。
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室田による”女体化事件”は止まらなかったー
”一個人”による犯行であるため、
世界中から男がいなくなってしまう、だとか
そういうレベルの事態にまでは
発展していないものの、
女体化させられてしまった人間を元に戻す方法は
今のところ不明で、
それにより、社会に混乱をもたらしていることは
事実だったー。
最近では
”室田様に会いに行く会”と呼ばれる謎の会が
ネットを中心に活動を開始し、
室田に”わざと”遭遇して女体化したがっている
”女になりたい男たち”が、所属している様子だー。
確かに、室田洋平は”直接的な人殺し”はしないー。
しかし、
何をされるかも分からないし、
”女体化した男”がこれ以上増えていくことは
止めなくてはならないー。
「ーーーーーー」
警察官を退職し、一人、室田の行方を追っている幸則ー。
警察からもマークされている様子だったがー、
それでも、幸則は止まらなかったー
「ーー…よぉ、俺だー」
そんなある日ー
同僚の川熊刑事が幸則の元を訪れたー。
「どうだ?調子はー?」
川熊刑事の言葉に、幸則は
少し笑いながら「いいのか?警察から見れば”裏切者”の俺なんかに構ってー」と呟くー。
「ー刑事としてではなく”友”として来たんだー」
川熊刑事はそう言うと、「ーーお前、髪切らないんだな」と、
冗談を口にしたー
「え?」
幸則は長い黒髪を触りながらそう呟くと、
川熊刑事は「あ、いや、ショートにすれば、男の時と同じような
感じにできるだろ?」と、笑うー
「それはどうにもできないし、声もどうにもできないけどさー
髪ぐらいなら、”男の時と同じような状態”に
戻せるのに、長いままなんだなって」
川熊刑事の言葉に、幸則は「あぁ、それもそうなんだけどなー」と、
呟いてから、”それ”と言われた胸を見つめるー。
「ー髪だけ切ってもー
なかなか、なー
どうしても、自分がもう男じゃないってことが
分かっちまうしー」
幸則がそう答えると、
川熊刑事は少し複雑そうに
「ーーそうなのかー」と、頷くー。
”女体化した人間の気持ちは、女体化した人間にしか分からないー”
川熊刑事の言うように
”髪を切っても”、
胸も、何もかも”女”のままなのだー。
「ーーーーー…悪いー。
実際経験してみないと、分かんねぇこともあるよな」
川熊刑事はそれだけ言うと、
何か紙をわざとらしく落としたー
それを拾う様子を全く見せない川熊刑事に対して
「おい、川熊ー落ちたぞ?」と、困惑しながら呟く幸則ー。
「ーーーーーん?俺は何も落としてねぇよ」
川熊刑事の言葉に「?」と、首を傾げる幸則に対して、
「そういやお前、トイレとかどうしてるんだ?」と
笑いながら色々なことを聞いてきたー。
そしてー、
雑談を終えると、”落とした紙”を拾うことなく、
川熊刑事は「じゃ、頑張れよ」と言いながら
そのまま立ち去って行ったー
「ーーー??」
幸則は、首を傾げながら川熊刑事がわざと落としていった紙を
拾うと、そこにはー…
「ーーーー!!!!」
人々を女体化させる犯罪者・室田の
潜伏地点と思われる場所がメモされていたー。
「ーーーー……川熊ー」
幸則は同期の川熊刑事が、
”既に警察官ではなくなった幸則”に
あえて捜査情報を伝えてくれたのだと悟ったー。
辞表を叩きつけた幸則に、”捜査情報”を漏らすわけにはいかないー。
だからこうして”さりげなく落とした”ことにして、
捜査情報を教えてくれたのだろうー。
「ーありがとうー川熊ー」
幸則は、”室田の潜伏拠点と思われる場所”として
メモされている廃墟地帯に向かう決意をし、
静かに呟いたー
「室田ー…俺はお前を絶対に許さないー」
とー。
室田を止めればー
”女体化してしまった人間”が元に戻る方法も分かるかもしれないー。
とにかく、室田を止めなくてはならないー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
幸則は、準備を終えると家を出てー、
室田洋平が潜伏している廃墟地帯に向かって歩き出したー。
「ーーーーーー」
”ーーーこの身体でどこまで動けるかー”
幸則は自分の綺麗な手を見つめるー。
どうしてもー
”男”だった時とは色々違うー
自分の体力が基準で、男⇒女になったことで
やっぱり体力は落ちている気がするし、
”身体自体に慣れていない”こともあり、
やはり普段通りに動くこともできないー。
髪や胸ー、変化した場所の”言いようのない違和感”も、
身体を動かす上での妨害になるー。
だが、凶悪犯の室田を前に
”そういうわずかな違和感”は、致命的な命取りと
なってしまうのも、また事実だー。
それでもー、やらなくてはいけないー。
室田を追い詰めて、確保しなくてはいけないー。
川熊刑事が室田の潜伏地点の情報を掴んでいた、ということは
”川熊刑事が独自に調査して、突き止めた” かー、
あるいは”警察全体で既に室田の潜伏地点を突き止めている”かー、
そのどちらかだー。
前者の場合、室田の潜伏地点を、警察はまだ知らず、
川熊刑事と幸則しか知らないことになるー、
がー
後者の場合は、室田の潜伏地点を警察も既に知っているため、
これから幸則が向かう場所には警察もいる可能性が高いー。
「ーーー…」
どっちかは分からないー。
だが、それでも室田を逃すことは絶対にできないー
幸則が、室田が潜伏している廃墟地帯に到着し、
警戒しながら先へと進んでいくー。
そしてーーー
廃墟地帯の奥にー
その姿はあったー
「ーーおやーーー」
振り返ったのはー
人々を女体化させる犯罪者・室田洋平ー。
その背後には、不気味な祭壇のようなものが見えるー。
「室田!!!!」
幸則が叫ぶと、
室田は覆面で隠した口元をわずかに歪めたー
「ーそんなに険しい表情をしてー
美人が台無しだなー」
ゴーグルの下の鋭い目を光らせながらそう呟くー
「ーふざけるな!!俺は男だー」
幸則が、言葉とは真逆の声で叫ぶー。
「ー最初は皆、そう言うー。
だが、私が女にしてやった人間たちの中には
今では私に感謝している人間もいるぐらいだー
君も、いずれそうなるー」
白い手袋をはめた手で、ゴーグルの位置を調節すると
室田は、「そういえば君は確かー」と、呟きー
「この前、私を撃った刑事かー」と、口にすると
何度か一人、頷いたー。
「ーもう刑事じゃないー」
幸則が言うー。
「ーほう?」
室田が大げさな手ぶりを加えながら反応するー
「俺は、お前を止めるためなら、何だってするぞー」
”もう刑事じゃないから何だってできる”
そんな勢いで言い放つ幸則を前に、
室田は背後にある祭壇を振り返るとー、
「君に教えてやろうー」と、静かに言葉を口にしたー
「ー私が何故、人々を”女”にしているのかー」
とー。
「ーーー…」
険しい表情を浮かべながら、幸則が室田のほうを見つめると、
室田は、背後にある祭壇らしきものを見つめながら、
口を開いたー
「ー私は、もう一度会いたいのだー。美月にー」
「ーー美月?」
幸則が首を傾げると、室田はさらに言葉を続けたー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
女体化犯罪者を止めることはできるのでしょうか~?
次回が最終回デス~!☆
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