他人を”女体化”させる注射器を持つ謎の凶悪犯・室田。
彼の暗躍により、社会は混乱していくー。
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「ーおう、また明日なー」
大学生の男子が、友人に向かってそう言い放つと、
そのまま一人、夜道を歩き始めるー。
「ーー思ったより、話し込んじゃったな」
そう思いながら家に向かって歩く彼ー。
しかし、その背後から
覆面で口元を隠した怪しげな男が迫っていたー。
「ーーー!」
前を歩いていた大学生が振り返ったその直後ー、
覆面の男は、大学生の首に何かを突き立てたー。
ズキッと痛みが走りー、
彼は死を覚悟したー。
しかしー
「ーー違う」
覆面の男のそう呟く声が聞こえて、
彼はそのまま立ち去って行ったー。
「ーーー…?」
”死んでない”ー
男子大学生は”首に何かを刺されたのに”
ほとんど血も出ていないことに気付き、
表情を歪めるー
「ーお、おいっ…!」
立ち去っていく覆面の男にそう声を掛けたその時ー
彼は”自分の身の異変”に気付いたー
「ーーえ」
今、自分の口から出した”声”ー
それが、
”自分の声”ではなかったのだー。
「ーーあ…あ…、あー…あー…」
声のチェックをする男子大学生ー。
だが、やはり自分の口から自分の声が出ないー。
いや、それどころかー
自分の口から出ているのは、どう考えても”女”の声だー。
「ーえ… え… な、なんだよ今のー」
覆面の男に”何を刺されたのか”と気にしながら
立ち上がろうとしてー、
男子大学生は「えっ!?!?!?」と、さらに驚きを感じたー
「なんだこれ!?俺の身体にー…お、おっぱいがー!?」
彼は悲鳴に似た声をあげるー。
視線を落とすと、
そこには、自分の身体にはなかったはずの胸の膨らみがー
そしてー
思わず、路上なのにも関わらず、
ズボンの上から股間を触った男子大学生は、
大声で叫んだー
「な…ないっ!!!!!!!!」
とー。
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”速報 男子高校生4人が女体化”
「ー先ほど入ったニュースによりますと、
南第3高校の男子高校生4名が、
最近多発している女体化被害にあったとのことですー。
えー現場は、南地区の駅前付近、
被害を受けた4人の男子高校生は、命に別状はなく
健康面にも問題はないとのことですが、
身体が女性と全く同じ状態になってしまっておりー」
そんなニュースが報じられているのを見て、
「ーー最近、多いっすねー これー」
と、刑事の一人が呟くー。
「ーーあぁ…恐ろしいやつだよー」
30代の男性刑事・川路 幸則(かわじ ゆきのり)が、
険しい表情でテレビを見つめるー。
テレビに映し出されているニュースには
”連続女体化事件”を引き起こしている凶悪犯ー
室田 洋平(むろた ようへい)の顔写真が映し出されているー。
口元を覆面で隠し、ゴーグルのようなものを身に着けた
鋭い目つきの男ー。
”警察では、現在この室田容疑者の行方を追っていますが
現時点では、室田容疑者の発見には至らずー…”
「ーー室田が見つかったぞ!」
ニュースを見つめていると、幸則らのいる部屋に
一人の刑事が駆け込んできたー。
”連続女体化事件”の首謀者・室田 洋平が見つかったというのだー。
「ーー室田!」
幸則はそう呟くと、すぐに立ち上がるー。
”室田ー 俺はお前を許さないー”
連続女体化事件ー…
それが、最初に起きたのは半年前の出来事だったー。
最初に餌食となったのは、この地域の男子大学生ー。
ある日の帰宅中に、突然首筋に何かを刺されて、
その後、女になってしまったのだー。
それから、”男性が女性になってしまう”事件が
繰り返し発生したー。
原因は、覆面の男が持つ”謎の注射器”
その注射器を打ち込まれた男性は
たちまち女体化し、女性になってしまうー。
現時点での治療方法は不明で、
今のところ、女体化してしまった人間を
男性に戻すことは出来ていないー。
中には喜んでいる人間がいるのも事実だったが
”急に性別が変わってしまう”という前代未聞の出来事に対して
法整備も追いつかず、”女体化してしまった人間”は
色々な部分で不便を強いられていたー。
一方、今のところ女性は狙われておらず、
実行犯の持つ注射器が、女性を男にすることができるのかは
不明だったー。
当初、警察は事件を隠蔽しようとしたー。
上層部からの指示を受けた
上梨(かみなし)警視正を中心に、
”社会の混乱が起きる”という理由で
女体化事件を隠蔽しようとしたのだー。
しかしー
それはできなかったー。
首謀者である室田 洋平が、数か月前
全世界に向けて動画を配信したのだー。
”皆さんこんにちはー 室田ですー”
どこか不気味な声で呟く室田は、
口元を覆面で隠し、ゴーグルを身に着けた姿で、
ネット上に姿を晒したのだー。
「ー今、私はある事件を起こしていますー」
そう言うと、室田の配信した動画では衝撃の
映像が流されたのだー
話題になっていたイケメン社長が、室田の横に
置かれていた椅子に縛られた状態になっていて、
室田は白い手袋をはめた両手をマジシャンのように
掲げると、淡々とこう言い放ったー
”私は、男を女にすることが、できますー”
とー。
”私は、マジシャンではありませんー
種も仕掛けもありませんー
これは全て、”リアル”ですー。”
室田は両手で、少し大げさな手ぶりを加えると、
さらに言葉を続けたー
”今から皆さんに”ライブ配信”で
この人気のイケメン社長が”女体化”するところを
ご覧に入れましょうー”
室田はそう言うと、
拘束されているイケメン社長に近付いていきー、
そして注射器をそのイケメン社長に刺したー
”う…あ…あぁぁぁあああっ…”
悲鳴を上げながら、ネット中継されたカメラを前に
女体化していくイケメン社長ー。
”ご覧くださいー
イケメン社長が、美人社長に変化した瞬間をー”
室田はカメラに向かってそう言い放つと、
両手を広げて、
”私は、全ての人間を女体化させますー”と、
笑みを浮かべながら言い放つー。
”今、この配信をご覧になられているー
イケメンもおっさんも、パパも、少年もー
いずれ、女になることになりますー”
室田はそれだけ言い放つと、
覆面の位置を、白い手袋をはめた指で調節すると、
静かに呟いたー
”Au revoir”
何故かフランス語で囁くように別れの挨拶を口にすると、
そのまま映像は途切れたー。
あれから数か月が経過した現在ー
女体化犯罪者・室田洋平による、暗躍は続いていたー。
当然、そのような動画が配信されてしまった以上、
もはや隠蔽することなどできず、
社会は大混乱に陥っているー。
当然、毎日のように増えていく”女体化被害者”を
隠蔽することもできないー。
ネット社会である現在ー
もはや、隠すことなどできないのだー。
とある建設中のビルに室田洋平が現れたと聞き、
刑事・幸則はその屋上に向かって仲間と共に急行していたー
「ーーーーーー」
パトカーの音を心地よいワルツのように聞きながら
建設中のビルの屋上で両手を広げる室田洋平ー。
「ー私は、いつになったらー」
月を見上げながら、室田洋平は、
ゴーグルの下の鋭い目を細めるー
「私はいつになったらー”きみ”に会えるのだろうー」
その言葉をかき消すかのように、
警察官たちが屋上にたどり着くー
「ーおやおやー」
室田は余裕の表情で振り返るー
いやー
表情は分からないー
口元は覆面で隠していて、
その目はゴーグルであまり良く見えないー。
白い手袋をはめた手に握られているのは注射器ー。
「ーついに、追い詰めたぞー」
10人以上の警察官が室田に銃を向けるー。
”ーーー”
その中の一人である幸則は目を細めるー。
幸則はー
数か月前に同僚だった刑事の一人が”女体化”させられているー。
その男ー
その後、鬱になってしまい、自ら命を絶っているー。
その仇をー
討たなければならないー。
「ーーーーー両手を挙げさせてもらおう」
室田はそう言うと、手に握りしめていた注射器を床に落としながらー
両手を上に上げたー
「ーーーーー…」
10数名の警察官が警戒しながら、室田の方に近付いていくー。
”人の命”を直接奪うわけではないー。
だが、この室田という男は、
これまで大勢の人間を”女体化”させてきた危険人物ー。
その目的も未だに分からず、
警察たちは、困惑していたー。
「ーーーーー」
ゴーグルの下から鋭い目つきで警察たちを見つめる室田ー。
やがてー
床からピンク色の煙のようなものが上がり始めるー。
「ーな、なんだこれはー?」
警察官の一人が声を上げるー。
「君たちは、私のショーの”観客”だー」
笑いながら室田が挙げていた両手を下ろすー。
「ーう、動くな!」
視界が遮られていく中、警察官の一人が銃を構えるー。
「ークククククー。
撃てるのか?撃てるのかぁ?
君たちは、世間の反応を恐れて、そう簡単には
発砲できないー。
それも、私のような人も殺していない相手が
ターゲットなら尚更だー。
人殺しをしているわけでもないー。
撃てば、世間は何と言うー?
それが怖くて、君たちは私を撃てないー。」
室田は自信満々にそう呟くとー
隠し持っていたトランプを手にして、
それをシャッフルし始めるー。
その行動の意味は、不明ー。
だがー
「ー動くな!動けば撃つぞ!」
視界が煙幕でさらに悪化していく中、幸則はそう叫んだー
「ーはははは だからー君たちに私は撃てなーーー
バァン!
銃声が、響き渡ったー。
幸則はー
銃を、撃ったー。
室田めがけてー。
同僚が女体化させられてー
これまでずっと室田を追ってきた幸則は、
その危険性を誰よりも理解していたー
例えー
室田を撃ったことで、世間から
”その発砲は適切だったのか”と叩かれることになったとしてもー
ここで、室田洋平を止めなくてはならないー。
”仮に、俺が世間から猛バッシングを浴びることになったとしてもー
俺は、こいつを止めないといけないー”
しかしー
「ーーーまさか、発砲できる警官がいたとはーーー!!!!
すばらしい!!!!!」
確かに、銃弾が命中したはずー
しかし、室田洋平は倒れることなく、笑みを浮かべたー
「ーーー!!!!」
「ーーシャッ シャッ シャッ シャッ シャッ シャッー」
室田が奇声を上げながら、
突然、トランプを警官たちに向けて飛ばし始めたー。
煙が充満する中、室田はしっかりと警察官の位置を把握し、
そのトランプを一人ひとりに命中させていくー。
「ーーうっ…あ… あぁぁぁぁっ!?」
トランプが命中した警察官の一人が
うめき声を上げながら女になっていくー。
「ーま、まさかこれはー」
幸則が唖然とするー。
一人、また一人と女体化していく警察官たちー。
”このトランプにも、人を女体化させる力がー?”
幸則はそう思いながら、咄嗟にそれを回避しようとしたー。
だが、人間離れした飛ばし方で、トランプを飛ばしてくる室田を前にー
幸則も回避することが出来ずー
「ーーくっ…くそっー…」
自分の手が変わっていくー。
自分の胸が膨らんでいくー。
自分の髪が伸びていくー。
「ーむ…室田ああああああああああ!」
幸則が、可愛らしい声で叫ぶと、
室田は「シャーーーーーッ!」と、全てのトランプを飛ばし終えると、
「ーーAu revoirッ!!!!!!!」と、別れの挨拶を叫んで、
そのまま煙の中へと姿を消したー
煙が晴れたときー
そこに室田の姿はなくー
10人以上の警察官全てがー
”女”になって、その場で呆然としていたー
「ーーーー…」
拳を握りしめる女体化した幸則ー
「ーー……俺はお前を許さないー」
震えながら、”新しい自分の声”で、呟いた幸則は、
女体化犯罪者・室田を必ず捕まえることを決意して、
建設中のビルに差し込む、月の光を見つめたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
人々を女体化させていく謎の犯罪者との対決…!
その目的は一体…?
今日もありがとうございました~!
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