「わたしに憑依してみませんか?」
ある日、突然憑依好きの男の前に姿を現した謎の少女ー。
そんな、彼女の目的はー?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーお前、ホントそういうの好きだなぁ」
大学の廊下を歩きながら笑う男子大学生ー
「ーいやだってほら、このギャップ…見ろよ!
こっちが憑依される前ー
こっちが憑依されたあとー
この子が、こんなに変わっちゃったんだ!っていうー
この差ー?
ゾクゾクするだろ?」
もう一人の男子大学生が興奮した様子で
スマホを手に熱弁すると、
「ー俺には分からんー」
と、最初に言葉を発した方の男子大学生が苦笑いするー。
「ーーいやいやいや、これも聞いてみろよー」
食堂までやってくると、イヤホンを手に、
そのキャラクターが”憑依される前の”セリフと
”憑依されたあと”のセリフを連続して再生したー
「この…同じ声なのに別人みたいな感じが
こう…たまんないだろ?」
彼はー
”憑依”好きだったー。
小さい頃に見ていたヒーロー系の番組や
アニメなどで、”偶然”
敵キャラに味方が憑依されるようなシーンがあるものが多かったためー、
彼はいつしか憑依に夢中になってしまっていたー。
昔とは違い、今では見るテレビ番組は
”憑依があるもの”あるいは”憑依がありそうなもの”という視点で
選んでいるし、
動画サイトで”憑依”だとか”BODYSWAP”だとか、
そういった単語で検索しながらニヤニヤしているのも、
日常茶飯事だー。
「ーー誠太郎(せいたろう)はホント、好きだよなぁ、こういうの」
もう一人の男子大学生が言うと
誠太郎は「ーお前にも、この良さを伝えたい!」と、
興奮した様子で叫ぶー。
「ーそんなことよりさ」
誠太郎に対して、もう一人の男子大学生・明夫(あきお)が
笑いながらスマホを手にして、ある写真を見せつけて来るー
「ーーうわああ!やめろおお!!」
叫ぶ誠太郎ー
「ーーおいおいおい そんな悲鳴を上げるなよー
ほら、ギラファノコギリクワガタの動画ー
マジ、すごくね?」
明夫は、大の虫好きで、自宅で色々昆虫を飼育しているほかー、
海外のレアな昆虫の動画を見ては喜んでいるー。
「ーやめろおおおおおおお!」
対する誠太郎は、虫は大の苦手で、いつも明夫から
昆虫動画を見せつけられるたびに、
悲鳴を上げているー
「で、こっちはオオカレエダカマキリでー」
「ぎゃあああああああぁぁぁぁ」
誠太郎の様子に、明夫は笑いながら、
「あ、そうそう、昨日、俺の家にも出たんだよー」
と、話を変えるー
「で、出た?な、なにがー」
震えながら誠太郎が言うと、
明夫は「ゴキブリがー」と、苦笑いしたー。
「ーぎぃぃぁああああああ!やめろぉぉぉぉぉ!
想像するだけで鳥肌が立つー」
誠太郎はそんな悲鳴を上げながら
「で、た、退治できたのかー?」と、呟くと、
明夫は少しだけ笑いながら、
「ーいや、よく見たら可愛いと思って、ちょっと飼ってみようかなって」と、
ゴキブリを虫カゴに入れて飼育を始めたことを明かしたー
「お前、マジでやばいやつだなー」
誠太郎が青ざめながら呟くー。
「ーいやいや、だってさ、カブトムシとクワガタと
大して変わんなくね?」
「ー変わるだろ!!!」
誠太郎はツッコミを入れると、
ため息をつきながら
「そんなんだからモテないんだよー」と、
冗談を口にするー
「ーその言葉は、そのままお前にそっくり返すぜー」
明夫は笑いながらそう言うとー、
誠太郎は苦笑いしたー。
誠太郎も明夫も、前に彼女がいたことがあるのだが、
どちらも振られているー
誠太郎は、彼女に”憑依したい!憑依したい!”と
連日言い続けたり、
”男に憑依された演技してくれよ~”などと言っているうちに
”ごめん、ついていけない”と、振られてしまったー。
一方の明夫はー
当時付き合っていた彼女は、別に昆虫嫌いでは
なかったものの、あまりにも昆虫の話をしすぎて、
”加奈より、カナブンが好きなんだね!”と、言われてしまいー、
”カナブンと結婚すればいいじゃん!”と、振られてしまったー。
二人ともー
相手によっては理解されない趣味を持っている点では
共通と言えたのかもしれないー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大学でも1日を終えて、
家に向かって歩いていた誠太郎ー。
だがー
その時だったー
「ーーあの」
背後から声を掛けられた誠太郎が振り返ると、
そこには、可愛らしい少女の姿があったー。
”美少女”と言ってもいいー。
「ーー…え?…」
振り返った誠太郎ー。
だが、誠太郎にこんな可愛い知り合いはいないし、
妹もいないー。
「ーーー…あ、あの、人違いじゃないですか?」
誠太郎は”うおぉぉ可愛い!憑依してぇ!”などと
心の中では思っていたものの、
そんな素振りを全く見せずに、冷静に返事をしたー。
「ーーい、いえ、人違いではないんですー」
少女がそう言うと、言葉を続けたー。
「ーあ、あのー」
恥ずかしそうに、戸惑いの表情を見せる少女ー。
誠太郎は、”え?俺?まさかいきなり知らない子に告白される?”と
首を傾げていると、
少女は信じられない言葉を発したー
「ーわたしに、憑依してみませんか?」
とー。
「ーーは?」
誠太郎は、告白される以上の衝撃を感じて、
表情を歪めたー。
意味が分からないー。
一瞬、少女の顔色が悪く見えたため、
幽霊かと思ったものの、
そんなことはなく、すぐに少女は
「あっ!すみません!」と言いながら
「怪しい者じゃないんです」と、生徒手帳のようなものを示したー
そこには近くの高校の名前と、
2年D組”市原 紗耶香(いちはら さやか)”という名前も
記載されていたー。
生徒手帳の顔写真も、目の前にいる少女と同じ人物で、
間違いはないー。
「ーーい…いや…十分怪しいですけどー」
誠太郎は、年下の相手とは言え、全く面識がないため
敬語で言葉を続けるー
「ーそ、そ、そうですよねー…
い、いきなり憑依してみませんか、なんてー…」
紗耶香は恥ずかしそうにそう呟くと、
「あ、あのー良ければ話だけでも聞いてもらえませんか?」と、
近くのファミレスを指さしたー
「ーう…う~ん…ま、まぁいいけどー」
戸惑いながらも、誠太郎は紗耶香の話を聞くことにして
共にファミレスへと入店したー。
年頃の少女らしくパフェを注文して
嬉しそうに食べている紗耶香ー
「ーで…さ、さっきのはー…?」
誠太郎が言うと、紗耶香は答えるー
「ーわたしに憑依してほしいなって思ってー」
紗耶香が笑いながら言うー
「い、いやー…憑依って意味分かってる?
身体を乗っ取ってー
その…好き放題されちゃうってことだぞー?
なんていうか…変なこともされちゃうかもしれないし、
最悪、犯罪を犯されちゃう可能性だってー」
「ー分かってますー」
紗耶香は、誠太郎の言葉を遮ると、言葉を続けるー
「でも、わたし、憑依されてみたいんですー。
自分の身体が勝手に動いて、
わたしの身体なのにわたしじゃない雰囲気を出してるなんて
興奮しませんか?」
紗耶香の言葉に、
誠太郎は「ーーき…君は俺以上の変態だなー」と、戸惑うー。
まさか、”憑依したい”人間はいても
”憑依されたがっている人間”がいるとは思わなかったー。
紗耶香によれば、少し前に行われた
誠太郎の通う大学の学園祭に遊びに来た際に、
誠太郎と友人の明夫が”憑依”について話をしているのを
偶然聞いてしまい、誠太郎が憑依好きだと知ったのだというー。
「ーでも、本当に憑依なんてー」
誠太郎が言うと、紗耶香は微笑んだー
「できるんですー」
とー。
「え?」
戸惑う誠太郎ー。
そんな誠太郎を見て、紗耶香は笑いながら
”憑依薬”を、誠太郎の方に差し出したー
「これを使えば、わたしに憑依できるんですー」
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
紗耶香に言われて、ファミレスでは目立ちすぎる、と
”憑依する場所”として、近くのカラオケ店に移動するー
紗耶香が憑依薬の説明を丁寧にしてくれたー。
親戚の医師から貰ったものであることー
ちゃんとした憑依薬であることー
憑依しても、抜け出すことも可能であることー
「ーーーいや…でも待ってくれー。
本当にいいのか?」
困惑する誠太郎ー。
確かに、現実に憑依ができるならしてみたいしー、
もし、憑依薬を手に入れたら、誠太郎は迷わず誰かに
憑依して、その身体で遊んだだろうー。
だがー…
逆に”わたしに憑依しませんか?”などと
自分から言われてしまうと戸惑ってしまうー。
「ーーはいー。」
紗耶香は頷くー。
「それに、この憑依薬は24時間で効果が切れますから、
わたしの身体をずっと奪うことはできませんしー」
と、紗耶香は付け加えたー。
「ーーーー」
誠太郎は、色々と疑問に思うー。
憑依薬が実在していることもそうだが、
自分に声を掛けて来た点など、正直言うと、かなり怪しいと思っているー。
「ーーー…何かの詐欺だと思ってませんか?」
紗耶香が苦笑いしながら言うー。
誠太郎は「まぁ…正直に言うと…うん」と、頷くー。
紗耶香は「ですよね」と、笑うと、
「でも、本当にわたし、憑依されたいですし、
何も嘘はついていません」と、真っすぐ誠太郎のほうを見つめるー。
その態度は嘘をついているようにも見えなかったー
カラオケの個室で歌うことなく会話を続ける二人ー。
「ーーー…24時間で効果が切れるからーって言ってもさ、
俺がもし悪いやつだったら、市原さんの身体で自殺したりー
例えばこうー…犯罪を犯したりするかもしれないぞ?」
誠太郎が確認するー。
だが、紗耶香は首を横に振ったー。
「あなたはそんなことしない人だって、信じてますー。
それに、わたしからこういう話を持ち掛けたんですから、
もし、そういうことをされたら、
”あなたの仕業”だって分かりますからー」
紗耶香の言葉に、
誠太郎は「うん…まぁ…そっか」と、困惑しながらも
少しだけ納得するー。
「ーわたしを物理的に傷つけたり、罪を犯したり、
社会的に殺すようなことをしなければ
何をしてもいいのでー…
どうですかー?わたしに憑依してみませんか?」
憑依薬を差し出す紗耶香ー。
「ーー……ほ、他はなんでもしていいの?」
困惑する誠太郎ー。
「ーはいー
だってー…たぶん…色々してみたいこととかありますよね?」
紗耶香が少し恥ずかしそうに言うと、
誠太郎は「ーーーえ…あ、いや、そのー?」と、言葉を誤魔化すー。
まさか、エッチなことを試してみたいとはさすがにー
「ーーその、言いにくいことも別にしていいですからー」
紗耶香が言うと、「これは、WinWinですからー」と、微笑むー。
誠太郎は、憑依したいという夢を叶えるー
その見返りに紗耶香は憑依されたいという夢を叶えるー
そういうことなのだろうー
「ーーーわかったー」
誠太郎は、そう呟いて頷くと、
紗耶香を”解放”するときの約束をお互いに話して、
そのまま憑依薬を口にしたー
「じゃあ、憑依するよ」
誠太郎が言うと、紗耶香は緊張した様子で「はい」と呟きー
目を閉じて、まるで祈るかのような仕草をしたー
「ーーーー」
自分の身体がそのまま霊体のような状態になりー
誠太郎は、目の前にいる紗耶香に”憑依”したー
「うっー…」
ビクンと身体を震わせる紗耶香ー
すぐにー
誠太郎に紗耶香の身体の感覚が溶け込むように
流れ込んできてー
自分が、紗耶香に憑依できたことを確信したー
「うわ…ほ、本当に憑依できてるー…
え…やば… こ、声もー」
驚いた様子で、紗耶香の手を見つめー
頬を触りー
髪を触りー
そしてー
ドキドキしながら胸に少し手を触れると
「ーーえ…ほ、本当に…
すげぇ… すげぇ…!」
と、一人になったカラオケルームで嬉しそうにガッツポーズをしたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
今回は憑依するまでが中心になってしまいました~!
明日は欲望を満たす番ですネ~!
普通に憑依を楽しむだけで終わるのか、
それとも…?
明日のお話をチェックしてみてくださいネ~!
お読み下さりありがとうございました~!
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