犯罪組織に命を狙われることになってしまったお嬢様ー。
執事は、そんな彼女との入れ替わりを提案ー。
お嬢様の身体で、犯罪組織を撃退していくー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”うちに、来ないかー?”
「ーーーえ…?」
彼は、孤独だったー。
幼い頃に、家族を事故で失い、
彼を引き取った親族も、彼のことを邪魔者のように扱い、
気付いた時には、彼は家を飛び出していたー。
生きるために、盗みも働いたー
まだ、少年だった彼には、どう生きて行けばよいのかー
誰に、助けを求めればよいのか、
分からなかったー
この世界に、居場所なんてないと思ったー。
極限状態で生き抜く中ー
”強さ”も身に着けたー。
そんな生活が続いたある日ー
”青年”と呼べるような年齢になっても
そんな生活を続けていた彼はー
ある日”若き実業家”の家の忍び込みー
盗みを働こうとしたー
だがー
忍び込んだ際に、そこの主人に捕まってしまったー
それが、まだ若き頃の蘭の父親・城ヶ崎 重治(じょうがさき しげはる)だったー。
重治は、彼を捕まえると、
”まずは、話を聞かせてほしい”と、なぜか彼に頭を下げたー。
”こんな屋敷に危険を冒してまで忍び込むなんて、
何か理由があるはずだー”
とー。
彼は、警戒しながらも、
全てを話したー
”生まれて初めてー”
いやー
両親が事故で死んでから初めてだったー
”親身になって話を聞いてくれる”人間はー。
話を終えると、重治は何度も何度も頷きながら
「大変だったなー」と、優しく微笑んだー。
そして、重治の”居場所”がないことを案じた彼は
こう言ったのだー
”うちに、来ないかー?”
とー
既に盗みを働いていて、手配されてしまっていた彼は、
重治の提案で偽名を名乗ったー
それが、”トーマス”だったー。
それ以来ー
”トーマス”となった彼は
自分に居場所を与えてくれてー
自分の話を聞いてくれた重治にー
そして、城ヶ崎家に、一生をかけて尽くすつもりで、
今日まで、尽くしてきたー
だからーー
”お嬢様は、私が絶対にお守りしますー”
あれから数十年が経過した今もー。
絶対にー
「ーーーーぐっ……」
国際犯罪組織ガルフの日本支部代表・カナハラが表情を歪めるー
「情けないねぇ」
背後で見ていたメイド服姿の諜報員・ウェンディ裕子が笑いながら
部屋の中に入って来るー
「ーーーへぇ…」
ウェンディ裕子は、蘭(トーマス)を見つめると、
その構えから”只者ではない”ことを読み取るー。
「ーーー…近付いてきたら、ぶっ飛ばすわよ!」
あくまでも”お嬢様”のフリをしながら蘭(トーマス)が言うと、
ウェンディ裕子は「ーーじゃあ」と、
メイド服のスカートの部分に隠れていたナイフを取り出すと、
そのままナイフを蘭(トーマス)に投げ始めたー
スローイングナイフー。
投げることに特化したナイフを、蘭(トーマス)に
投げつけるー。
しかし、それを蘭(トーマス)は
服をふわふわさせながら回避していくー
無表情のまま、次から次へとナイフを投げる
ウェンディ裕子ー。
それを、蘭(トーマス)は、バク転しながら回避すると、
近くにあった本をウェンディ裕子に向かって投げつけるー
「チィッ」
ウェンディ裕子は、ジャンプして回転すると、
人間離れした動きで、壁に張り付いて、そのまま天井まで
移動し始めるー
「ーークククー
”スパイダー”の異名も持つウェンディに勝てる人間などいない」
それを見ていたカナハラが笑うー。
天井から、蘭(トーマス)の頭上に襲い掛かる
ウェンディ裕子ー。
お嬢様とメイドの姿をした二人が
激しい戦いを繰り広げるー。
ピッー
ウェンディ裕子のナイフが、蘭(トーマス)の頬に小さな傷をつけるー
”お嬢様の身体に、傷をー”
そのことに激しい怒りを感じた蘭(トーマス)は、
ウェンディ裕子の腕を乱暴に掴んでー
そして、そのままウェンディ裕子を投げ飛ばしたー
「ーーッー」
カナハラの近くに投げ飛ばされたウェンディ裕子は
表情を歪めながら、
”何か”をする仕草を見せようとするー
だが、カナハラが”ここでそれはまずい”と小声で呟くと、
蘭(トーマス)のほうを見つめて呟くー。
「ーーー…予想以上に長引きすぎてるー。
ここは一度引くぞ」
その言葉に、ウェンディ裕子は仕方がなく応じると、
カナハラとウェンディ裕子は、そのまま退散していったー。
「ーーはぁ…はぁ…」
部屋に残された蘭(トーマス)は、何度か苦しそうに
息を吐き出すと
「お嬢様ー」と、静かに呟いたー
物陰から出て来るトーマス(蘭)ー。
「ーご無事で、何よりです」
蘭(トーマス)がそう言うと、
トーマス(蘭)は、目に涙を浮かべながら
抱き着いてきたー
”怖かった…”
とー。
蘭(トーマス)は、
「自分に抱き着かれるとは…変な気分ですな…」と
笑いながらも、トーマス(蘭)の頭を
優しく撫でるー。
「ーー…トーマスって…すごく強いんだね…」
トーマス(蘭)がそう呟くと、
蘭(トーマス)は「ははは…まぁ」と、
少し照れくさそうにしながら、
「ー強くないと、お嬢様を守れませんから」と、
言葉を呟いたー。
「ーーそれにしてもー…
ちょっと、この格好、恥ずかしいですねー」
蘭(トーマス)は、”お嬢様の服”を冗談を口にしながら
少し触ると、
トーマス(蘭)は、
「トーマスの服だって、暑いしなんか、苦しい感じだよ!」と、
笑いながらそれに応じたー。
ようやく、トーマス(蘭)の表情に笑顔が
戻ったことを確認すると、
蘭(トーマス)は「とにかく、お嬢様がご無事で何よりでしたー」と、
優しく表情を緩めたー。
「ーー本当に、ありがとうー
いつもいつも、わたし、世話になってばかりでー」
トーマス(蘭)が言うと、
「ーートーマスがいてくれて、本当に良かったー」と、
心から感謝の言葉を付け加えたー
「いえいえー
お嬢様にそう思って頂けるだけで、私は幸せです」
蘭(トーマス)が微笑みながら言うー。
「ーーーーうんー。これからも、ずっとわたしの側にいてねー」
トーマス(蘭)がそう言うと、
蘭(トーマス)は
「それでは私は100歳以上生きないとですね」と、苦笑いしたー。
少し話をしてから
蘭(トーマス)は
「お嬢様はもうしばらくここでお待ちください」と、
真剣な表情に戻って言うー。
「ーーーえ…」
トーマス(蘭)が少し不安そうな顔をすると、
蘭(トーマス)は優しく呟くー
「まだ、屋敷の中に奴らが残っている可能性もありますー
先に安全を確認してきますー」
とー。
ガルフのカナハラとウェンディ裕子は撤退したー。
だがー
まだ、屋敷にその配下が残っている可能性もあるし、
ここで油断するわけにはいかないー。
安全を、確認しなければならないー。
「ーーーー」
蘭(トーマス)は、お嬢様のフリをしながら
屋敷の使用人やメイドたちと、屋敷の中を確認するー。
だがー
特に、その内部に異常は見当たらなかったー。
安堵の表情を浮かべた蘭(トーマス)は
父である重治に連絡を入れるー。
重治には”入れ替わり”の許可は”最終手段”として取ってあるー。
そのため、蘭の身体で電話をすることも可能だー。
屋敷の外に出て、庭の安全も確認しながら、
蘭(トーマス)は重治との通話を始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そうか。娘を守ってくれて、ありがとうー」
会社にいた重治は、トーマスからの報告を聞きながら
そう呟くと、
「娘の身体で、変なことはするなよ?」
と、蘭(トーマス)に向かって冗談を口にするー
”お嬢様は私にとっても宝でございますー
そのようなことは致しませんー
このあと、すぐに元通りにしますのでー”
蘭(トーマス)の言葉を聞いて、
重治は、少し微笑んでから
「いつも苦労を掛けるなー」と、お礼の言葉を口にしたー。
電話を終える二人ー。
だがー
その直後、背後の窓から見える隣のビルに
不自然な光が反射したー
「ーーーー!」
重治が振り返ると同時にー
重治の人生は”終わったー”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー妙にあっさりと退いたと思ったら、そういうことかい」
ウェンディ裕子は、メイド服からラバースーツに着替えながら
自らが愛用しているバイクにまたがると、そう呟いたー。
「クククー…
我々の申し出を断った者たちが”どうなる”のか、
裏社会にもよく知らしめないといけないからな」
カナハラがそう言うと、
「ー流石は”犯罪のサーカス”の異名を持つアンタだねー」
と、ウェンディ裕子はあきれ顔で呟くー
カナハラたちはー
最初から”蘭を人質にして、蘭の父親と交渉するつもり”などなかったー
”国際犯罪組織ガルフ”の申し出を断ること、
それは即ち”死”を意味するのだー。
屋敷の人間の目を
”カナハラ”と”ウェンディ裕子”が引き付けている間にー、
部下があの屋敷に爆弾をセットしたー。
「ーーーーまた用があるときは呼びなー。
すぐ駆け付けるよ」
ウェンディ裕子はそう呟くと、バイクに乗ってそのまま走り去るー。
ウェンディ裕子のバイクが去っていくのを見つめながら
カナハラは静かに笑みを浮かべるー
「ーー我らに逆らえば、全ては終わるー
”ジ・エンド”だー」
そう呟くと、カナハラは部下に「殺れ」と、命じたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一瞬だったー。
お嬢様である蘭の父親・重治との電話を終えたその直後ー
今までに聞いたことがないような轟音が響き渡りー
蘭(トーマス)は、激しい衝撃に吹き飛ばされたー。
「ーーーー…う」
意識を取り戻した時にはー
蘭(トーマス)が、少し前までいたはずの
屋敷は、炎を上げていたー
「ーーお…お嬢様…!お嬢様!」
蘭(トーマス)が叫ぶー。
しかしー
トーマス(蘭)からの返事も、
他の執事や使用人たちからの返事もー
何もー返っては来なかったー
「う…う…うあああああああああっ!」
蘭(トーマス)は、絶望の淵に叩き落とされて、
その場で叫んだー。
”ご主人様”に報告するために、
一度庭に出たことで、彼は助かったー
しかし、この身体を返すべき相手も、
何も、かもー
蘭(トーマス)は失ってしまったー
トーマスは、執事になる前は、過酷な人生を生きて来たー
それ故に、いざとなれば”悪党を撃退できるほど”の
実力を持っているー
だがーーー
”ククククククーーー”
国際犯罪組織ガルフのメンバーが、
双眼鏡で、炎上した屋敷を見つめるー
「ー我々は”国際犯罪組織”ー。
どんなに力に自信があろうとー
一個人が、どうこうできる存在ではないー。
我らに逆らったことを後悔するんだなー」
双眼鏡で”屋敷に仕掛けた爆弾が全て爆発しー
”城ヶ崎家”の屋敷が壊滅したことを確認した男は
日本支部代表のカナハラに連絡を入れて
屋敷の爆破完了を報告したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーそんな…」
蘭(トーマス)は、唖然とするー。
連絡が取れないことを心配し、
”娘のフリ”をして、会社に駆け付けたところー
”ご主人様”である重治は、
会長室で、頭から血を流して倒れていたー
国際犯罪組織ガルフに所属するスナイパー・
ウルフ若林(わかばやし)により、
蘭(トーマス)と会話した直後に狙撃されて、
既にご主人様も死亡していたー
「ーーご主人様ー」
蘭(トーマス)は呆然としながら、
重治の血がついた、”お嬢様”の手を見つめるー
しばらく涙を流していた蘭(トーマス)は
静かに立ち上がったー
その目にはー
もう、涙は浮かんでいないー。
浮かんでいたのは、強烈な殺意のみー。
「ーー国際犯罪組織ガルフー…」
この罪を、必ず償わせてやるー。
お嬢様の身体のままー
トーマスは血塗られた復讐を開始しようとしていたー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
お嬢様を守り切ることが出来ず…!
次回が最終回デス~!
今日もお読み下さりありがとうございました~!☆
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