<入れ替わり>史上最悪の放送事故③~苦難の果て~(完)

生放送中に入れ替わってしまった
キャスターとアイドル。

二人の苦難は続くー。

そして、その先に待つ運命はー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー………」
恭一郎(莉桜)は困惑しながら
自分の身体ー

恭一郎の身体を洗っていたー

「ーーーー」
半分目を閉じながら
イヤそうな顔をして、身体を洗う恭一郎(莉桜)ー

隈園さんに失礼だと思いつつも、
どうしても、おじさんの身体を自分で洗っているー”ということに、
拒否反応が出てしまうー。

「ーうぅぅ…」
恭一郎の肉棒を、まるで気持ち悪いものに触れるかのようにして
イヤそうな顔をしながら洗っていく恭一郎(莉桜)ー

「ごめんなさい…ごめんなさいー」

ここまで嫌悪してしまう自分に自分でも驚きながら
”隈園さんは別に何も悪いことしてないのにー
 こんな風に思ったら失礼でしょ…わたしー”と、
自分に何度も何度も言い聞かせながら
ようやく、お風呂を終えるー。

そして、恭一郎の服を着るー。

だがー、
どうしても”恭一郎のおじさんの匂い”が気になってしまうー。

特別、体臭が酷いとか、そういうことではないー。

けれど、どうしても、人は
”その人特有のニオイ”がすることがあるし、
家の中もどこか「おじさん臭い」感じがするー。

自分のニオイに困惑の表情を浮かべながら
恭一郎(莉桜)は「寝たら元に戻ってるといいなぁ…」と、
希望を託すかのように、静かに呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

莉桜(恭一郎)は、莉桜の母親からの
ビンタに驚き、部屋に戻っていたー

「莉桜ちゃんも、大変なんだなー…」

おじさんである自分には、
こういうことはよく分からないー。

「ーーーーー」
部屋に戻った莉桜(恭一郎)は、
恭一郎のスマホを手に、
色々と調べ始めるー。

スマホは、お互いに”自分のもの”を持つように
しておいたー。

そうすれば、電話はできないがメッセージのやり取りは
自分自身として、行うことができるー。

メッセージのやり取りなら、姿を見せる必要もないし、
声を相手に聞かせる必要もないー。
入れ替わった状態で、それを知られないように
やり取りするためには、これが一番良かったー。

”入れ替わり 元に戻る方法”
そんな検索を、スマホで繰り返していくー。

案の定ー、
人気入れ替わり映画や、入れ替わりのドラマー
そういうものが出て来るだけで
”現実の話”らしきものは見当たらないー

「ーー………」
髪が視界を邪魔して、何度も何度もそれを跳ね除けるー。

髪が肩にあたって気になるー。

触るつもりはないのに、時々胸に手が接触して気になるー。

時折、咳をしたり、ため息をついたりすると
”可愛い咳やため息”が出て、困惑するー。

「ーーはぁ~~~…」
スマホを置いてため息をつく莉桜(恭一郎)ー

50代になって、もう性欲みたいなものもすっかり
失われていた恭一郎ー。
しかし、それでも莉桜の身体になって、ドキッとするような場面を
入れ替わってまだ、1日も経過していないのにも関わらず
何度か経験したー

”これ、入れ替わった相手が変な男じゃなくて本当によかったなー”
そんな、莉桜の身を案じるようなことを考えると
「とにかく、元に戻る方法を探さないとー」
と、静かに呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

恭一郎と莉桜は、元に戻ることができない
日々を引き続き、送っていたー。

莉桜になった恭一郎は、
”元に戻れた時に莉桜が辛い思いをしないように”と、
必死に莉桜として振る舞えるように勉強したー。

莉桜の歌の歌詞も全て暗記したし、
踊り方や、番組に出演するときの振る舞いー、
そういったものも学んだー

元々、努力家で勉強家である恭一郎にとって
こういった”勉強する”という部分については
苦痛ではなかったし、恭一郎になった莉桜が
驚くほどに”莉桜として振る舞うことができるように”なったー。

もちろん恭一郎(莉桜)のアドバイスも聞きながら、
”莉桜になりきれるように”必死に努力をしたー。

その結果ー

今日も、歌番組で、先日放送事故を起こした際に
歌おうとしていた新曲を、歌い上げたー。

「ーーいい曲だね~」
番組の司会者の男が、歌い終えた莉桜(恭一郎)に対して言うー。

「ありがとうございますー」
莉桜(恭一郎)は、こんな、いかにもアイドルみたいな服装を着るのも、
アイドルとして振る舞うのも、莉桜の声で歌うのも
ドキドキして仕方がなかったが、
それは一切表には出さないようにして、
”ごく普通の女子高生アイドル”としての振る舞いに徹したー

「ーー今日は、歌詞の方は大丈夫だった?」
司会者の男が、少しネタにするようにして言うー。

生放送中に歌詞を忘れてしまった莉桜ー。
これは、当分の間、ネタにされていくのだろうー。

「ーーはい。今日はもう、ばっちりですー」
莉桜(恭一郎)が笑みを浮かべながら言うと、
司会者の男も「これからも頑張ってください」との言葉で締めて
次に歌うグループの話題に移ったー

「ーーーは~~~アイドルって大変だな…」
一人になった莉桜(恭一郎)は静かに呟くー。

「ーーー……なんかこう、常に見られているような気がするって言うかー
 常に”作られた自分”でいないといけないというかー」

莉桜(恭一郎)はそんなことを呟きながら、
今日の予定は全て終わったことをマネージャーに確認して、
そのまま帰路につき始めるー。

”莉桜ちゃんも、こんな大変な思いをしてたのかなー”

恭一郎は思うー。

まして、莉桜の場合、母親もあんな感じだー。
莉桜にとっては本当に”心の休まる場所”が
なかったのかもしれないー。

「さて…と…とにかく、元に戻る方法を早く見つけないとなー」
莉桜(恭一郎)が”莉桜として振る舞う”のは、
あくまでも莉桜に身体を返したあとのことを考えて、だー。

今の感じなら、元通りになったあと、莉桜はスムーズに
元の生活に戻ることができるだろうー

「ーあんな若い子の未来を、こんなことで奪うわけにはいかない」

そう思いながら、今日も莉桜(恭一郎)は帰宅後に
入れ替わりの状態を元に戻す方法を調べ始めるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方、恭一郎になった莉桜も、
”恭一郎として”キャスターの仕事を続けていたー

莉桜には分からないことだらけで、
苦しいこともあったけれど、
莉桜(恭一郎)がしっかりアドバイスしてくれたことや、
恭一郎自体、元々そこまで人付き合いがなかったことで、
そういった面では助かったー

今でも失敗するしー
入れ替わった当日の”放送事故”のことで未だに悪口を
言われたりはするけれどー、

それでも、何とか上手くやっているー。
そんな、状況だったー。

しかしー

”「ーーはい。今日はもう、ばっちりですー」”

自分自身がー
莉桜になった恭一郎が、アイドルとして
テレビで活躍をしているのを見るたびに、
恭一郎(莉桜)の中での不安は、次第に膨らみつつあったー。

莉桜になった恭一郎とは毎日のように連絡を取り合っているし、
お互いの立場上、頻繁に会うことは難しいけれど、
それでも定期的に会うようにして、
情報の交換をしているー

”元に戻る方法、必ず見つけるからー”
莉桜(恭一郎)はいつもそう言っているー

けれどー
もう、まもなく1か月になろうとしていてー、
その不安は膨らむばかりー

”ありがとうございました!”
笑顔でカメラに向かって頭を下げる莉桜(恭一郎)

恭一郎の”莉桜になりきる”技術は、相当なものだったー。
それだけ、今までいろいろなことを勉強してきたし、努力家なのだろうー。
おかしなことをしている様子もなく、
最初の約束通り、莉桜の身体も大事にしてくれているー

けれどー
”あまりにも完璧すぎて”
このまま”莉桜”としての立場が奪われてしまうのではないかー

そんな風に思うことが多くなってきたー

だってー
”今の莉桜”のことを、誰も疑問に感じていないのだからー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

半月後ー

「ーーー!!!!これは…」
莉桜(恭一郎)は、嬉しそうに笑みを浮かべた。

ついにー
”元に戻る方法”を見つけたのだー。

”接触性急性入れ替わり症候群”ー
そんな、記述を見つけたー。

ネットの検索結果にも引っかからないレベルの小さな情報だが、
書かれていることは、まさに莉桜と恭一郎に起きていることだったー

個人の”変わり者”とされている研究者のサイトで
真偽も怪しく、世間では”頭がおかしい”みたいな
扱いを受けている様子だったものの、
莉桜(恭一郎)は藁にもすがるような思いで、
その研究者とコンタクトを取ったー。

そしてー、
さらにその1週間後ー。

アイドルとしての仕事がない日に、数時間かかる距離にある
その研究者の家を、予め連絡した上で訪問したー

博士が、朝の時間を指定してきたため、
早朝からの移動になり、大変だったー

がー
その成果はあったー

博士から
”元に戻るための薬”を貰うことができたのだー。

”人間同士が入れ替わる怪奇現象”を人為的に引き起こし、
予期せぬ入れ替わりが発生した人間同士を
元の身体に結び付ける力を持つー

そんな薬であると研究者は説明していたー。

「とにかく、これで元に戻れるんですね!?」
莉桜(恭一郎)はそう説明するとー
博士は、莉桜(恭一郎)の目の前で一緒にいた助手の男と
”目の前で”入れ替わりを実際にやって見せたー。

「これで、毒入りの薬じゃないと、分かったじゃろ?」

そんな言葉に、博士を信じた莉桜(恭一郎)は
「やっと、元に戻れますーありがとうございますー」と、
笑みを浮かべたー

しかしー
ちょうど、博士の家で流れていた朝の番組から
とんでもない音が聞こえて来たー

”わたしは、莉桜なんですー”

とー
”男の声”がー

「ーえ」
莉桜(恭一郎)が呆然として、テレビのほうを見つめるー。

「ーわたしは、隈園恭一郎ではありませんー
 莉桜なんですー
 あの日、生放送で新曲を披露した日ー
 わたしたちは、入れ替わってしまってー」

その言葉にー
スタジオの周囲の人間が、泣き始めた恭一郎(莉桜)を
必死に止めようとしているー

「わたしは莉桜なの!」
50代のおっさんが、泣きながら叫ぶー

そして、カメラの前にパニックになりながら
恭一郎(莉桜)が
「ねぇ、信じて!わたし、わたし莉桜なの!お願い!だれか!」と、
泣き叫びながら、言い放つー。

止めに入ったスタッフを突き飛ばして
「わたしは莉桜なのに!!莉桜なのに!!!」と、
必死に叫ぶ恭一郎(莉桜)ー

そこでーー
生放送の映像は途切れたー。

「ーーーほっほっほ…」
博士は、放送が中断されたテレビを見つめながら笑うー

「ーーー……遅かったー」
莉桜(恭一郎)が膝をつくー。

”史上最悪の放送事故”レベルの事態が起きてしまったー。

彼女は、不安だったのだろうー
恭一郎が、あまりにも”莉桜”そのもののように振る舞っていたことがー
逆に、不安だったのだろうー。

元に戻れない日々が続きー、
莉桜は、もうこれ以上耐えられない、と
生放送で真実を打ち明ける、と言う行動に出てしまったー

もちろんー
誰も信じないだろうー。

隈園恭一郎は、頭のおかしなおっさんとして
社会から抹消されるー
恐らくは、クビになるだろうし、
世間からも冷たい目で見られるだろうー

「ーーくそっ…一歩遅かったー」
博士から貰った元に戻るための薬を手に、悔しそうに呟く
莉桜(恭一郎)ー

今、元に戻っても、もう、
”恭一郎の人生”は元通りには戻らないー

”頭のおかしなおっさん”として
永遠に生きていくことになってしまうー

「くそっー…くそっー」

このまま、元に戻れば、莉桜も恭一郎も”元通りの生活”に
戻れたはずなのにー。

もちろん、莉桜の不安も分かるー

でもー

莉桜は、恭一郎の身体で、
今度こそ、取り返しのつかない放送事故をしでかしてしまったー

スタジオで泣き叫びながら暴れる恭一郎(莉桜)の映像が
全国に流れてしまったー

「ーーくそっー…」
莉桜(恭一郎)は、博士から貰った薬を握りしめたまま、
博士の横で膝をついて、
映像が途切れたままのテレビを見つめて、
悔しそうに涙を流したー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

もう少し早く、元に戻る方法にたどり着いていれば、
円満解決したかもしれませんネ~…!

ギリギリ、間に合いませんでした~…!

今日もお読み下さりありがとうございました~!!

コメント

  1. 匿名 より:

    莉桜は本当にバカですね。このまま自分の全てを奪われてしまうんじゃないかと、不安になる気持ちは理解出来ますけど、勝手な被害妄想で暴走した結果、全ておしまいですね。ちゃんと相手にも戻ろうとする意思があったのに、流石に頭のおかしいおじさんとして生きていく覚悟は出来ないでしょうから、もうこのまま莉桜として生きていくしか選択肢がない感じですよね。
    元自分の莉桜をなに食わぬ顔で、頭のおかしいおじさん扱いして。

    なんかこの話、前のバカップルと入れ替わる話にも似てますよね。あの話も元女側の愚かな考えなしの言動で戻れなくなってましたし。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      実は続編の構想もあるので、
      もしかしたら、この続きを描く日も
      来るかもしれません~!

      ネタバレしそうなので、頂いたコメントへの
      反応は、秘密デス~笑

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