<入れ替わり>史上最悪の放送事故①~新曲披露~

生放送の最中にー
出演者同士がまさかの入れ替わり…

史上最悪の放送事故に発展していくー。

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朝の時間帯に行われている人気ニュース番組ー。

ニュースを伝えたり、
ちょっとした日常の特集を行ったり、
ドラマの番宣が行われたり、
アイドルがゲストとしてやってきて歌を披露したり、
バラエティ要素もあるニュース番組だー。

今日も、その番組の”生放送”が行われていたー

キャスターの隈園 恭一郎(くまぞの きょういちろう)が
先日起きた事件のニュースを伝えているー。

恭一郎は、”少し髪の毛が薄くなったおじさん”という感じの
風貌で、独身の50代の男性だー。
ハッキリとした口調と、分かりやすいシンプルな伝え方で、
面白味に欠ける部分はあるものの、
堅実に、ニュースキャスターとして長年のキャリアを積み上げて来たー

「ーーその事件当初の様子を教えて下さいー」
現場のリポーターとの中継が繋がり、恭一郎がそう呟くと、
現場のリポーターの方に画面が切り替わるー。

”はい、こちらは被害を受けたアパートの前になりますー。
 事件が起きた当時は、大半の住人が寝静まっている最中でー
 東条(とうじょう)容疑者は、そう言った時間帯を
 狙ったものと思われますー

 東条容疑者は、元交際相手の家に合鍵を使って侵入し、
 元交際相手に復縁を迫りつつ、
 メリケンサックとみられる凶器で、交際相手を怪我させたとしてー”

そんな、事件の様子が現場のリポーターから伝えられるー。
恭一郎は、いつもと同じ様子で、そんなリポーターとやり取りをしつつ、
ニュースを伝えていくー。

やがて、東条容疑者は、最後には自分で警察に通報して、
”大変なことをしてしまった、償いたいー”と、警察に言い放ったことー、
殴られた元交際相手の女性は無事であったこと、
逮捕後、警察に対して容疑を否認していること、などを
視聴者に向かって伝えたー。

自分で警察に通報して償いたいと言っておきながら
容疑を否認している奇妙な行動に、首を傾げるコメントを
呟くキャスターの恭一郎ー。

ここまではーー
”いつも通り”
順調だったー。

問題は、このあとだったー。

”CMの後は、莉桜(りお)ちゃんの新曲を生披露ー!”

そんなテロップと共に、
人気アイドルの莉緒が、カメラに向かって手を振りながら、CMに突入するー。

CMに突入すると、キャスターの恭一郎が、
莉桜に対して「よろしくお願いします」と、淡々と頭を下げると、
そのまま莉緒に、スタジオ内の歌を披露する場所を案内するー。

CMの時間は、それほど長くはないー。
CMの最中にこういったやり取りを済ませておく必要があるー。

「ーよろしくお願いしますー」
莉桜も、礼儀正しく恭一郎に対して頭を下げるー。

莉桜は、現在高校3年生のアイドルで、
数年前にデビューし、現在では多くのファンを抱える
人気アイドルだー。

元々はグループで活動していたものの、
メンバーの一人は持病により引退に追い込まれー
もう一人は問題を起こして引退しており、
その結果、一人になってしまったー。

だが、そんな状況にも関わらず、必死に一生懸命活動を
続けていた莉緒は、多くのファンから同情され、
たくさんの応援を受け、
今ではグループで活動している時代よりも人気の
引っ張りだこ状態になっていたー。

アイドルがよく着そうな感じの衣装に身を包んだ
莉桜は、少しだけ緊張した様子で、
生放送のスタジオに用意された簡易の舞台に
上がろうとするー。

だが、その時だったー

「わっ!」
段差に躓いて、転倒しそうになる莉桜。
莉桜を案内するために近くに立っていたキャスターの
恭一郎が、咄嗟に転倒しそうになった莉桜を支えようとしてー
そのまま恭一郎が巻き込まれる形で二人は、転倒してしまったー

「いたたたたた…」
段差に躓いて転んでしまった莉桜ー

スタジオは一瞬、騒然とするも、
すぐに恭一郎が「だ、大丈夫です!」と叫んだー。

放送開始まであと30秒ほどしかないー

だがー
”大丈夫です”と、周囲に伝えた恭一郎は、
青ざめていたー

「ーーーえ」
自分の声が、おかしいー

恭一郎が、目の前に倒れている莉桜を見つめるー

そしてー
恭一郎は、思ったー

”え…な…なんでー…?
 何でわたしが目の前にいるのー?”

とー。

「ーーう…だ、大丈夫ですかー…?」
直後、起き上がった莉桜が、困惑の表情を浮かべながらー

「ーーえっ… こ、これはー!?」
と、驚きの表情を浮かべるー

”自分の声”が、いつもの自分の声と違うのもそうだしー
自分がー”アイドル衣装”を身に着けているのもそうだしー

何よりー
”目の前に、自分がいるー”

そんな状況に、彼女はーー
いや、莉桜の身体になってしまったキャスターの恭一郎は、
激しく混乱したー

混乱しているのは、恭一郎になってしまった莉桜も、同じー。

二人は、転倒した際に身体が入れ替わってしまっていたー

「ーー放送開始10秒前」
スタッフの一人が言うー

「ーえ…!?あ、え…」
恭一郎(莉桜)が混乱した様子で、
周囲を見つめるー

莉桜(恭一郎)が、「ど…どうすればー?」と呟くー

だが、二人はお互いに入れ替わったことを確認する前にー
CMの時間が終わってしまいー、
スタッフに促されるままに恭一郎(莉桜)は、
ステージから「え?え?」と呟いたまま
離されるー。

莉桜になってしまった恭一郎も、
スタッフたちから「よろしくお願いします」と言われてー
拍手される中、
どうすることもできず、流されるままにスタジオ内に用意された
小さなステージの上に上がったー

「ーーそれでは莉桜ちゃんの新曲を生披露していただきますー」
女性アナウンサーの美鈴(みすず)が、笑顔でそう言い放つー

「え…ち、ちょっと待ー」
莉桜(恭一郎)は流石にまずいと思って、
そう言い放とうとするも、
スタッフたちの拍手にその言葉はかき消されてしまい、
莉桜の新曲のBGMが掛かり始めてしまうー。

「ー~~~!…」
莉桜(恭一郎)は困惑するー

だが、この番組ももうあと10分ちょっとー
莉桜の生披露のあとに、天気予報と占いコーナー、
それで番組は終わるー

10分ちょっと、莉桜として振る舞えば、
あとは何とかなるー。

莉桜(恭一郎)はそんな風に思いながら、
カメラの前に引きつった笑顔を浮かべるー。

「ーーー(え…)」
恭一郎(莉桜)はそんな様子を見ながら困惑するー

”わ、わたし…どうなっちゃったの…?”
元々、莉桜はグループ活動自体から、大人しいタイプの性格で、
アイドルとして明るく振る舞っているものの、
素の莉桜は大人しいー。

そんな彼女は、今の状況に対応できず、
今にも泣きそうな状態になってしまっていたー。

そもそもー、
”入れ替わった直後”に生放送が再開されて、
恭一郎になってしまった莉桜からすれば、
”自分が、どういう状況なのか”も分からないー。

莉桜になった恭一郎と、会話を出来ていない以上ー
”莉桜の中身が恭一郎”であることも、莉桜は分かっていないー。

”莉桜は莉桜のままで、なぜか自分は恭一郎になってしまったー”
という可能性もあり、余計に不安になるー。

「♪~~~~」
新曲を歌いだす莉桜(恭一郎)

自分の口からこんな声が出るなんて、と、ドキッとしながらもー
すぐに、音程がおかしくなるー

莉桜の身体ー
莉桜の声だからと言って、
莉桜本人と同じように歌を歌えるかー
と、言われればー
答えは”ノー”だー。

歌は、そんなに簡単なものではないー

スタジオの人間が、少し首を傾げながらも、
生放送であるからか、そのまま莉桜(恭一郎)の生披露を
続けさせるー。

しかしー

「♪~~~~ …… …」
歌っていた莉桜(恭一郎)が、表情を歪めながら
歌を途中で止めるー

BGMだけが流れ続けてー
莉桜(恭一郎)は顔を赤らめているー

”歌詞を忘れてしまった”のだろうかー。
スタッフたちはそう思いながら、
放送事故が起きてしまったことに、不安を感じるー

莉桜になった恭一郎ー。
莉桜の新曲は、ある程度は把握はしていたー

だが、”うろ覚え”レベルであり、
当然、生放送の場で生歌を披露できるほど
詳しくないし、覚えていないー。

歌詞が頭から抜けてしまいー、
そのまま「え…え~っと…」と呟くー。

曲だけが流れ続けてー
唖然とするスタッフたちー

もちろん、生放送で歌を披露すれば
歌詞を間違えたり、忘れてしまったりー
何かトラブルが起きたりー
そんなことは決して珍しいことではないー。

しかしー
ここまで露骨に歌詞が頭から飛んでしまうー…
と、いうことは珍しいことだったー

「ーーあ…あ…あの!」
それを見かねた恭一郎(莉桜)が叫ぶー

「そ…その…り、莉桜は…わ、わたしなんですっ!」
恭一郎(莉桜)が大声で叫ぶと、
スタッフたちも、莉桜(恭一郎)も呆然としたー。

生放送の場で50代に突入した
髪の薄いおじさんが”自分は現役女子高生アイドル”だと主張するー

これは、どう考えてもヤバい光景だー

「ーえ…?く、隈園さんー?」
恭一郎(莉桜)のほうを見ながらスタッフは困惑しているー。

莉桜の新曲の音楽だけが鳴り響く中ー
恭一郎(莉桜)が、スタジオ内の簡易のステージのところに
やってきて、そのまま莉桜の新曲を歌いだすー。

莉桜(恭一郎)は真顔で”どうすればいいのか分からない”と
いう表情を浮かべるー。

恭一郎(莉桜)が、振り付けも歌詞も完璧な状態で
歌っているー

それは、事情を知らない人間にとってー
いや、視聴者にとって、
50代のおじさんキャスターが、女子高生アイドルの歌を
ノリノリで歌い出したー、という地獄のような光景だったー。

もちろん、趣味でやるなら好きにしてもらっていいし、
カラオケで歌うなら、好きにすればいいー。

しかし、それを生放送で披露してしまうおじさん…と、いうのは
放送事故以外の何物でもなかったー。

「お、おい!カメラ止めろ!」
偉いスタッフの怒号が飛び交うー。

映像はスタジオから天気予報に切り替わりー、
”放送事故”は、もう手遅れな状態で打ち切られたー。

「ーち、ちょっと!いいから!」
莉桜(恭一郎)は慌てて顔を真っ赤にしながら、
”新曲”を披露しているおじさんー
つまり”自分の身体”の腕を掴むと、
そのまま、スタジオから引きずり降ろして、
関係者用の通路に、恭一郎(莉桜)を連れていくー。

呆然とする出演者やスタッフー

人があまりいない通路までやってくると
恭一郎(莉桜)は「は、離して下さい!」と叫んだー

「ーお、落ち着いてー!」

莉桜(恭一郎)はそれだけ言うと
”君と僕は入れ替わってしまったようだ”と、
状況を改めて口にするー。

「そ、そんなこと分かってます!だからわたしがー!」
恭一郎(莉桜)が、”だからわたしが代わりに新曲をー”と、
言い放ったものの、莉桜(恭一郎)は
「落ち着いて!」と、今一度叫んだー

「今、僕の身体で莉桜ちゃんが歌っても、
 かえって混乱するだけだー
 実際、スタッフの皆さんはすごく混乱していたし、
 多分今頃ネット上では相当騒がれてるー。

 僕たちが入れ替わったなんてこと、
 誰も知らないだろうし、
 番組を見た人からすれば、
 僕が、莉桜ちゃんを押しのけて一人で歌い出した
 やばいおじさんにしか見えないだろうし」

莉桜(恭一郎)がそこまで言うと、
恭一郎(莉桜)は「も…申し訳ありませんー」と、頭を下げるー

「ーいや、いいんだー
 僕だって、ちゃんと莉桜ちゃんの代わりに歌いきること、
 できなかったしー」

しばらく、お互いに申し訳なさそうに沈黙するー

そしてー…

「ー”入れ替わった”なんて言っても、周囲からきっと、
 変な目で見られるだけだー。
 莉桜ちゃんのためにも、僕のためにもー…
 ひとまず、元に戻れるまではー…」

”元に戻れるまでは互いのフリをして過ごす”

そんな選択を、二人はすることにしてー
お互いに困惑した表情で、そのままスタジオの方に
戻って行ったー。

②へ続く

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コメント

とんでもない放送事故になってしまった二人…!
続きはまた明日デス~!

今日もとっても暑いので、気を付けて下さいネ~!

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