血濡れた傘を手に、
人々を襲撃する”憑依された女子大生”ー
雨の日の夜の悲劇ー
その結末は…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーみ~つけた」
憑依された女子大生・里穂は、
血濡れた傘を手に、
震えていた女を見つけると、
笑みを浮かべながら
「ーーねぇ、教えて、死ぬのって怖い?」と、クスクスと笑い始めるー。
「ーーー…た、助けてー」
その言葉に、里穂は「くふふふふふふふふ…」と笑うー。
里穂は”憑依”されているー。
でなければ、返り血を浴びて笑っているような人間ではないー。
本来の里穂は、大学でも慕われている穏やかな性格の女子大生で、
心優しい性格の持ち主だー。
しかし、今の里穂は、まるで別人のように狂気に身を委ねているー。
”目の前にいる里穂”が、憑依されているなどとは夢にも思っていない
追い詰められた女性は、
”殺人鬼・里穂”を前に悲鳴を上げるー。
”やめて!死にたくない!死にたくないー!”
雨の中ー
姉と待ち合わせていた高校生の麻耶は、
その声を聞いてー
「お姉ちゃん…?」と、首を傾げるー。
普段、絶対に遅刻などしない姉ー。
しかし、今日は違ったー
一向に姉は姿を現さず、
連絡をしても返事がないー。
そんな中ー
”駅の周辺で人を刺して回っている女”がいると聞いたー。
麻耶は、姉が事件に巻き込まれたのではないかと
不安になっていたー。
警察官の数が次第に増えていく中、
麻耶は、声のした方角に向かったー。
そこにはー
既に血を流しながら倒れている女性の姿があったー
「ーひっーーー!?」
悲鳴を漏らしながら思わずその場に尻餅をついてしまう麻耶ー
服が濡れてしまったことにも気づかないぐらいに
驚きの表情を浮かべてー
すぐに、少し離れた場所に集まっている警察官たちに
このことを知らせようとするー。
スカートも下着も濡れてしまい、
気持ち悪い感触を肌で感じながらも、
麻耶は立ち上がるー。
死んでいたのは”姉”ではなかったー。
でもー
”お姉ちゃんも、こんな風にどこかでー”
と、心配になってしまうー
普段のお姉ちゃんなら、絶対にすぐにー
目を見開いたまま死んでいてー
雨に打たれている女性のほうを見つめ、
悲しそうな表情を浮かべると、
麻耶は震えながら、警察官たちのいる方角に向かおうとしたー
その時だったー
「ーーー!!」
麻耶の視線の先にー
”血に濡れた傘”を持った女がいたー
憑依された里穂だーー。
里穂は、傘で顔を隠したまま
ゆっくり、ゆっくりと麻耶の方に近付いてくるとー
その傘を持ちあげてー
不気味な笑みを浮かべたー
「ーーー!!!!!!!」
「ーーー!!!!!!!」
麻耶と里穂が目を見合わせるー
麻耶は、里穂の顔を見て
驚いた表情を浮かべー
そのままガクガクと足を震わせたー。
憑依された里穂が麻耶のほうを見つめるー。
そして、手に持っていた刃物を握りしめーーーー
そのまま、何もせずに麻耶には興味がないかのように、
立ち去ろうとするー。
麻耶は震えながら立ち去ろうとした里穂に声を掛けるー。
「ーーーど…ど…どうして、こんなことするのー?」
とー。
そう問われた里穂は立ち止まるー
”殺人鬼”と鉢合わせしてしまったー。
返り血を浴びて、顔に血が付いた状態の里穂の顔を見て、
麻耶は人生で一番の恐怖を感じたー。
恐怖で身体が動かないー
でもー
麻耶は、そう聞かずにはいられなかったー。
里穂が振り返って麻耶のほうを見ると、
「ー幸せなカップルを見ると、腹立つからー」と、
静かに呟いたー
「ーーーーー」
「ーーーーーー」
麻耶と憑依された里穂が見つめ合うー。
麻耶は、今度こそ殺されると思ったー
しかしー
里穂は、やはり麻耶には何もせず、
そのまま立ち去っていくー
「ーーー………はぁ…はぁ…はぁ…」
”ー幸せなカップルを見ると、腹立つからー”
憑依された里穂は、その言葉の通り
”カップル”か”夫婦”ばかりを狙っていたー
麻耶はーカップルでも夫婦でもないー
だから、狙われなかったのだろうかー
麻耶は止まらない身体の震えを何とか
抑えながら
立ち去っていく”見知らぬ女子大生”・里穂の姿を見つめるー
”は…早く、警察の人に言わなくちゃ”
あの人を放っておけばさらに犠牲者が増えるー。
慌てて来た道を引き返して通りに集まっている警察に、
遺体を見つけたこと、事件を起こしている女と遭遇したことを
告げて、里穂が向かった方角を指さしたー。
「ーーー……お姉ちゃん…どこなのー…」
警察官が、里穂の向かった方角に向かうのを見つめながら
麻耶は呟くー。
里穂は、麻耶とは全く関係のない女子大生で、
麻耶との面識は一切ないー。
待ち合わせている麻耶の姉も女子大生だが、
今、憑依されて殺人を犯している里穂と、麻耶の姉は別人で、
麻耶とは、何も関係がないー。
「ーーお姉ちゃんー…お願いだから無事でいてー」
”あの女の人に殺されていないこと”を、願いながら
麻耶は一旦、待ち合わせ場所の南口の方に戻ることにして、
そちらの方向に向かって走り出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーークククククー」
ニヤニヤしながら傘を手に歩く里穂ー。
”大切な人”との待ち合わせ場所に向かっていた里穂はー
駅で憑依されて、今、こうして人殺しをさせられているー
「ーー里穂!!!」
そんな里穂に、背後から声を掛けたのはー
同じぐらいの年齢の男子大学生ー。
里穂の彼氏の力也(りきや)ー
「ーーー」
憑依された里穂が、返り血を浴びた顔で振り返って笑みを浮かべるー。
憑依された里穂の待ち合わせ相手は、彼氏ー。
今日、里穂は彼氏と合流して、このあと一緒に買い物をしたり、
食事をする予定だったー。
だが、憑依は、そんな里穂の日常をー
里穂と力也の幸せな時間を奪ってしまったー
「ーこの女の、彼氏ー?」
里穂は、静かにそう呟くと笑みを浮かべるー。
「ー里穂…なんで…?い、いったいなんでこんなことを!?」
事情を知らない彼氏・力也は里穂の豹変に
ショックを隠し切れない様子でそう叫ぶー
力也は傘も持たず、雨に濡れながら
里穂のほうをまっすぐと見つめるー
里穂は笑いながら
「ーわたし~いっぱい殺しちゃったぁ♡」と、嬉しそうに叫ぶー
「なんで…!?なんでだよ!里穂!」
力也は叫ぶー
最愛の彼女が”突然”人を殺めるー
そんな状況に、彼は強いショックを受けていたー
里穂は傘をその場に捨てると、
血で汚れた手と顔を見せつけながら
一人、笑うー。
「ーだって~むかつくんだもん♡」
とー。
「ーな、なにがー」
力也が言うと、里穂は「幸せそうにしてるやつらがー」と、
答えたー
そして、里穂は力也のほうめがけて
歩き始めるー
刃物を手にー
「お、おい!やめろ!里穂!おい!」
雨に濡れながら、笑う里穂は、
力也に向かって刃物を振るうー。
必死にそれを抑える力也ー。
「ーな、なにがあったんだ!?おい!」
力也は叫ぶー。
けれど、その叫びは里穂には届かず、
里穂は狂ったようにクスクスと笑いながら
力也のほうを見つめるー。
里穂は、異常な力で力也を刺そうとするー
”全く人を殺すことに躊躇している様子がないー”
力也はそんな風に思ったー
「里穂…!」
力也は心の中で”ごめん”と叫びながら、
里穂を蹴り飛ばすと、水たまりの中に吹き飛ばされた里穂は
ずぶぬれになりながら立ち上がったー
その時だったー
麻耶から里穂のことを聞いた警察官たちが
その場にたどり着きー、
ようやく連続殺人犯を見つけた警察官たちは
銃を手に、里穂を取り囲むー
力也は警察に保護されながら
「彼女ー…俺の彼女なんですー」と、困惑した表情で呟くー
「ー彼女…?何でこんなことを」
警察官が聞くと、力也は悲しそうに「分かりませんー」と、
首を横に振るー。
思いあたることが全くと言っていいほどないー。
そう、分かるはずがないー
”彼女が憑依されて殺人に手を染めさせられている”
などとー
里穂は「ざーんねん…ここまでだね」と、静かに微笑むと
警察官たちのほうを見つめながら
笑みを浮かべたー。
雨に打たれー
髪も服も何もかも濡らしながら
里穂は「楽しかったー」と、呟くと、
次の瞬間ー
「ーーな、なにをー!?」
警察官が驚いて声を上げた直後にはー
もう、”それ”は起きてしまっていたー
突然の出来事だったー
里穂は、笑いながら持っていた刃物で、
最後に自分の首筋を切りつけて、
笑みを浮かべたまま路上に倒れ込んで動かなくなったー
警察官たちもー
彼氏の力也も、
里穂が”憑依されていた”という事実を
知ることはなく、
里穂自身が狂気に染まってこのような
最悪の事件を起こしてしまったー…
と、そう思ってしまいー
真実を知ることはなかったー
無理もないー。
人間が憑依されて、他人に操られるなんて、
あり得ないことなのだからー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
南口の方に戻ってきた麻耶は、
パトカーのサイレンの音を聞きながら
スマホを手にするー
その時だったー
”ごめん麻耶!電車で寝落ちしてて、今そっちに戻ってるところ!”
そんな連絡が姉から入ったー
「ーお…お姉ちゃん!よかったー!」
麻耶は心底安心した笑みを浮かべるー。
てっきり、姉は事件に巻き込まれたのだと、
そう思っていたー。
けれど、実際はただ単に電車で寝落ちしていただけだったー。
程なくして、姉の若菜(わかな)が駅から姿を現し、
「麻耶~!」と手を振るー。
麻耶は「お姉ちゃん心配したよ~!」と、
嬉しそうに姉の若菜に抱き着くと、若菜は
「そんな大げさに~」と笑いながら、
パトカーのサイレンを気にするような素振りを見せて、
「何かあったの?」と呟くー
「あ、うんー…なんかー…刃物で人を襲う事件があってー…」
麻耶は、姉の若菜を心配させないように、と
犯人と遭遇してしまったことなどは伏せ、
数分前にスマホで”事件の解決”を確認したことまで、
若菜に告げたー
「ーーこわっ…そんな事件があったんだー…
遅れてよかったかも」
若菜が苦笑いしながら言うと、
麻耶は「も~!お姉ちゃんも巻き込まれたんじゃないかと思って、
心配したんだよ~!」と、困惑した表情で呟いたー
「ごめんごめんー心配かけてごめんね」
若菜はそう言いながら「じゃ、いこっか」と、
妹の暮らす実家の方に向けて歩き出すー。
「うん!」
麻耶は、大好きなお姉ちゃんとまた会えたことに
喜びを感じながら、嬉しそうに笑顔で頷いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
実家で過ごしていた若菜は、
スマホを見つめるー
女子大生の里穂が起こした凶悪事件が
スマホのニュースに表示されているー。
最後には、事件を起こした里穂も警察の前で自殺した、と
そう書かれているー。
「ーーーふふ」
若菜は微笑むー。
妹の待ち合わせに遅刻したのはー
駅のトイレの中に籠って、”里穂”に憑依していたからー。
本当はもうちょっと早く終わるつもりだったけれどー
里穂に憑依して暴れているうちにどんどん
楽しくなってきてしまってー
妹の麻耶が心配するほど、待ち合わせに遅れてしまったー。
里穂の身体で、麻耶と遭遇した際に、
麻耶に何もしなかったのはー
”里穂に憑依していたのは、姉の若菜だったからー”
「ーーー…」
若菜は不気味な笑みを浮かべるー
先月ー
若菜は、高校卒業後から付き合っていた彼氏にー
”裏切られた”ー
かなり酷い裏切られ方をして、
真面目だった若菜の心は”壊れて”しまったー
表では”いつも通り振る舞って”いるけれど、
家に変えれば一人で泣き、叫び、暴れてー、
自分を裏切った彼氏を毎日毎日呪っていたー。
そんなある日、若菜は憑依薬を手に入れたー
ネットで偶然、元カレへの恨みを晴らす方法を
検索していたところ、見つけたのだー。
彼氏に裏切られて以降、
若菜は、自分とは関係のないカップルを街中で
見つめるだけで、強い憎しみを抱くようになっていたー。
そしてー
昨日ー
”彼氏と待ち合わせしていた女子大生”里穂に憑依してー
街中のカップルや夫婦を手当たり次第襲ったのだー。
「ーーーー…はぁ~…楽しかった」
若菜は微笑むー。
小さい頃から、真面目で純粋で、優しかった若菜はー
彼氏の裏切りで、壊れてしまったー
表向きは、誰からも頼れる優しいお姉さんー。
故にー
自分の悩みは自分の中で封印してしまう癖があり、
本当は繊細なのに、彼氏に裏切られた際も、
周囲に「大丈夫」と、微笑みー、
家族にも何も相談しなかったー
そしてー
若菜は、壊れてしまったー。
「ーーお姉ちゃん~!起きてる~?」
麻耶の声が廊下から響き渡るー
「あ、うん~!起きてるよ~!おはよ~!」
若菜はそう返事をすると、部屋から顔を出すー。
妹の麻耶は部屋に入って来ると
嬉しそうに若菜と雑談を始めるー
まさかー
目の前にいる”大好きなお姉ちゃん”が
昨日の、最悪の事件を起こした里穂に
”憑依していた張本人”などとは、夢にも思わずにー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ダークな憑依モノでした~!☆
この妹にもし彼氏が出来てしまったら…
その時はどうなってしまうのかと思うと
怖いですネ~!
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
この話、憑依人の動機が前の告白をぶち壊しにする話に少し似てますが、直接的に無差別に殺しまくってので、この話の方が血なまぐさくて酷いですよね。
何にも関係ないのに理不尽な理由で憑依されて殺人鬼にされた上に自殺させられた里穂が気の毒すぎます。
そして大好きなお姉ちゃんが実は最低最悪な殺人鬼だと知らずにいる麻耶が不憫。いや、ある意味知らぬが仏かもですが。
ところで里穂の名前が何ヵ所か里奈になってるとこがあります。誤字です。
コメントありがとうございます~!☆
とても悲惨な憑依でしたネ~…!
妹がお姉ちゃんの正体に気付いてしまったら…
大変なことになりそうデス~!
名前の誤字のご報告ありがとうございます~!
この返信を送ったあとに修正してきます~!☆!