その日は、雨が降っていたー。
次々と人々を襲撃して笑う、
謎の”雨傘の女”
彼女の、目的はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー。
昼過ぎから降り出した雨は、
さらに強まり、
音を立てながら、路面を濡らしているー。
雨の中、夜の街に輝くビルの光を見つめながら、
一人の少女は、傘を手に、静かにため息をついたー。
”お姉ちゃん、遅いなー…”
駅の南口で、”お姉ちゃん”を待つ少女ー。
現在高校生の村西 麻耶(むらにし まや)は、
2年前に大学入学を機に、一人暮らしを始めた
”お姉ちゃん”を待っていたー
現在大学生の姉とは、とても仲良しで、
姉が一人暮らしを始めると言い出した際には、
涙が溢れて止まらなくなってしまったぐらいだったー。
そんな姉は、一人暮らしを始めたあとも
定期的に実家に遊びに来ていて、
今日も、麻耶は、その姉を駅まで
迎えに来ているのだー
「ーーー」
駅前の広場の時計を見つめる麻耶ー。
”お姉ちゃん、どうしたんだろうー?”
待ち合わせ場所に遅刻してくるなんて、珍しいー
そんな風に思いながら、麻耶は、姉に送ったメッセージに
返信がないかどうか、スマホを確認するー。
しかし、姉からの返信はなく、
傘を手にしたまま、麻耶は姉が駅から出て来るのを、
心待ちにして、駅のほうを見つめたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー」
一人、クスクスと笑いながら、雨の中、歩いている女がいたー。
女子大生の里穂(りほ)は傘を差しながら
クスクスと笑みを浮かべているー。
「ーーーーー」
その表情は、とても正気とは思えなかったー
そしてー
雨の中”事件”は起きたー
「ーーうっ…」
街中を歩いていた金髪の男が、里穂とすれ違った直後ー
うめき声をあげてその場に倒れ込むー。
「ーど、どうかしましたか?」
通行人のサラリーマンが、倒れ込んだ金髪の男に近付くも、
金髪の男は、うめき声を上げながらー
自分の倒れた場所に血だまりを作っていたー
「ひっ!?」
声をかけたサラリーマンの男が驚きの声を上げるー。
すぐに周囲の通行人もそれに気づき、悲鳴を上げるー
「ククククククー」
すれ違いざまに、持っていた刃物で男を切りつけた里穂は
ペロリとその刃物を舐めるー。
里穂が、すれ違いざまに先ほどの男を刺したのだー。
「ーーー…ククー…ひひひひひ」
不気味な笑みを浮かべながら、里穂は持っている鞄の中に
入っているスマホが音を立てていることに気付き、
それを見つめるー。
手についた血がスマホにつくのもお構いなしに
そのスマホを見つめると、
そこには、里穂の大切な人の名前が表示されていたー
「ーーふん」
里穂は鼻でそれを笑うと、スマホを地面に叩きつけて
ブーツでそれを踏みにじったー。
「ーーーー」
そして、鞄から学生証を取り出すと、
自分の名前と、自分の顔写真を見て、里穂は笑みを浮かべたー
穏やかな笑みを浮かべている学生証の里穂ー。
そして、それを見つめて笑みを浮かべている今の里穂ー。
その笑い方はまるで”別人”とも言えるような雰囲気で、
同じ容姿なのにー
同じ人間とは思えなかったー
「まさか、今日の朝、自分が殺人鬼になるなんて
思ってなかっただろうなぁ…」
里穂はそう呟くと、
「クククククククッ」と笑いながら学生証を放り投げるー。
雨で濡れた路面に学生証が横たわりー
そこに、雨が降り注ぐー。
穏やかな笑みを浮かべる里穂なんて、
最初から存在しなかったかのように、
里穂の顔写真は水に濡れ、歪んでいくー
「ーーーふふふ…ふふふふふふふふ」
里穂は刃物を手に”ターゲット”を見つけると、
背後からその人物に襲い掛かったー
「あっ…」
今度は、デート中だったカップルが襲われたー。
2人の命の灯火はあっという間に消え、
里穂はクスクスと笑いながら、
再び歩き出すー。
繁華街に悲鳴が上がるー。
傘を持っている人間が多いからか、
”誰が”やっているのか、イマイチ把握できない状況が続き、
周囲の混乱は拡大していくー
里穂は、血走った目で周囲を見渡しながら笑うー。
無差別に人を手にかけているわけではないー
里穂には”明確な狙い”があったー
しかしー
このようなことをしていれば、
里穂が逮捕されるのは時間の問題だろうー。
既に、警察に通報が行きー
現場付近には警察が到着しているー。
”自分が逮捕されてまで”
この女子大生は、何がしたいのかー
いやー…
里穂は”何も”したくはなかったー。
こんなことしたくはなかったし、
里穂自身に人を殺める理由もなければ、
人を殺めるつもりも毛頭なかったー。
なのにー
こんなことをしているー
それはー
”今の里穂は、里穂であって里穂でないからー”だー。
身体は確かに里穂のものー。
しかし、”中身”は、今は里穂ではないー。
里穂は今日、ある人と会うために、
久しぶりにこの街にやってきていたー。
大学を終えて、明日からの休日をこちらで過ごすために
電車に乗り、大切な人を待たせている駅前に
向かっている最中だったー。
けれどー
里穂は、電車を降りた直後、”憑依”されてしまったー。
里穂本人の意識は、その時点で乗っ取られ、
今、里穂の身体を動かしているのは、里穂本人ではないー。
里穂は、自分の意思とは全く関係なくー
”人殺し”をさせられていたー
「死ねっ…死ねっ!あはっ…あははははははははっ♡」
悲鳴を上げる4人目を手に掛ける里穂ー
「みんな…壊れろ!壊れろ!あはっ…ははははははははははっ!」
とても正気とは思えない里穂の笑い声に、
周囲の人々は悲鳴を上げながら逃げていくー。
里穂は、にやりと笑みを浮かべると、返り血を浴びた傘を手に、
再びゆらゆらと歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーお姉ちゃん…どうしちゃったんだろうー?」
姉の到着を待つ麻耶は、
駅の南口前の広場で、傘を差したまま、
時計を見つめたー。
姉と約束した時間から、既に40分以上が経過しているー。
スマホで姉に連絡を入れてみたものの、
姉から返事はないー。
「ーーお姉ちゃんー…」
お姉ちゃんが大好きな麻耶は、不安を覚えながら、
駅のほうを見つめるー
その時だったー
パトカーのサイレンの音がやかましく響き渡り、
駅の北口の方から、悲鳴を上げながら慌てて逃げて来る人の
姿が目に入ったー
「ーーな、何かあったんですかー?」
心配になった麻耶が、北口から逃げて来た
ちょうど同じぐらいの年齢の学生に声を掛けると
「え…あ、はいー…あっちで刃物を持った女の人がー」と、
慌てて言い放つと「ーあなたも逃げた方がいいですよ!」と叫んで、
そのまま走り去っていくー。
「ーー…え…」
麻耶は、途端に不安な表情を浮かべたー
”お姉ちゃんー”
姉が待ち合わせ場所に姿を現さないのは、
もしかしてー…
そんな”嫌な予感”が頭の中をよぎってしまったー
「ーーそ…そんなことないよねー」
麻耶は姉が事件に巻き込まれたのではないかと思いながら
必死に雨の中、駅の北口のほうを目指して走り始めたー
パトカーのサイレンがさらに騒がしくなる中ー、
里穂は、自分の指についた血をペロリと舐めたー
「ふ~~~…ゾクゾクする」
里穂はそう言うと、怯えながら壁に追い詰められていた男の
ほうを見て、笑い始めたー
「や…やめてくれ…!い、いったい何なんだー!?」
この男の”彼女”は、数分前に里穂に命を奪われているー。
そすて、命からがらその場から逃走したこの男もまた、
憑依された里穂に追い詰められていたー。
男は表情を歪めながら里穂のほうを見つめるー。
だが、里穂の目は、とても正気とは思えない目つきだったー
男が、”このままじゃ俺も殺される”と、
必死に里穂の方に突進するー。
里穂と男が争いになるー。
「ーーくくっ…ひひひっ…あははははははっ!必死じゃん!」
里穂は、そう呟きながら、
男を蹴り飛ばすと、倒れた男を見つめながら
静かに自分の指をペロリと舐めてー
そして、男に襲い掛かったー
髪を乱しながら悲鳴を上げる男の命を奪うと、
里穂は静かに立ち上がってー
少し離れた場所に見えるパトカーを見つめたー
「ーそろそろ、この女も捕まるかなー」
そう呟きながらも、”まぁ、自分の身体じゃないし”と、
里穂は不気味な笑みを浮かべながら、
更なる獲物に向かって歩き始めたー。
この女の身体は、自分の身体じゃないー
だからこそ、どんな風に使うことだってできるー。
この身体が、どうなったって、
知ったことではないのだからー
「ふふふふ…ふふふふふふふふ」
憑依された女子大生・里穂は、笑みを浮かべながら
血濡れた傘を持って歩くー。
雨の中、次のターゲットを探してー。
本人は、こんなこと絶対にしたくないだろうしー、
今、自分がさせられていることを知れば、
絶対にそれを止めようとしたり、悲しんだりするだろうー。
けれどー
身も心も完全に支配されてしまっている里穂は、
今、笑みを浮かべながら
自分が絶対にしたくないことをー
自分の人生を壊してしまうことをさせられているー。
大切な人を待たせているのにー
そこに向かうこともせず、
人の命を奪っているー。
「ーーふふ」
次のターゲットを見つける里穂ー。
足早にこの付近から立ち去ろうとしている
カップルを見つけると、里穂は
そのカップルに向かって笑みを浮かべながら
早歩きで、そのカップルの背後に近付いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
雨の音ー
悲鳴ー
サイレンの音ー。
色々な音が飛び交う中ー
どよめく北口にやってきた麻耶ー
大学入学を機に一人暮らしを始めた
お姉ちゃんが、久しぶりに実家に帰ってくるー…
なのに、待ち合わせ時間を過ぎても姉は
一向に姿を現さないー。
北口方面で、刃物を持った女の人がいるー。
そんな話を聞いた麻耶は、
”お姉ちゃんも巻き込まれていないかどうか”
心配になって、
自分の身の危険も顧みずに北口方面にやってきていたー。
駅を抜けて、北口の方に出てくると、
駅前の少し先の方から悲鳴のような声が聞こえたー。
「お姉ちゃんー」
麻耶の中で不安が強まり、
悲鳴の聞こえた方に走っていく麻耶ー
「君!そっちは危ないぞ!」
近くにいたサラリーマン風の男性が叫ぶー。
しかし、”大好きなお姉ちゃん”のことになると、
周りが見えなくなってしまう麻耶は、
悲鳴のした方角に走って行ってしまうー。
「ーーーー…!」
麻耶が駆け付けると、数名の人と、警察官が
そこにはいたー。
”犯人の女”に刺されたのか、
カップルらしき男女が倒れていて、
警察官が「近寄らないでください!」と、
倒れている男女の周りに、野次馬が
近寄れないようにしているー。
別の警察官は「早くこの場から離れて下さい!」と
麻耶を含めた人々に言い放ちながら、
避難を促しているー
「ーーーー!」
傘を差した女が、警察官が背中を向けている路地を横切っていくのが
見えたー。
その顔は、傘に隠れて見えないー
「ーー…お姉ちゃん…大丈夫だよねー?」
大好きなお姉ちゃんの無事を祈りながら、
麻耶は、姉を探して別の方角へと走り始めるー
流石に、連続で人を襲っているような
ヤバい女に直接立ち向かっていくほど、麻耶は愚かではないー
スマホを確認しながら、
姉からの返事がないことに、さらに不安を強めた麻耶は、
”お姉ちゃん…無事でいてね”と、心の中で呟いたー
「ーークククククー」
傘を差した里穂は、麻耶とは違う方角に向かって歩きながら
不気味な笑い声を浮かべ、雨の中、更なるターゲットを探して
歩くー。
身体も、心も、全て支配されたままー
②へ続く
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コメント
梅雨の季節なので、雨っぽい憑依モノを~☆笑
2話完結なので、明日で完結デス~!
姉妹は無事に再会できるのかどうかも
楽しみにしていて下さいネ~!
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