<皮>ホームレス自立支援③~目的~(完)

ホームレスたちに”新しい身体”となる”皮”を
提供する謎の支援団体ー。

そんな団体の支援を受けた彼はー…?

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女子大生・一ノ瀬 美姫として社会復帰した
竜彦ー。

あれから1か月ほどが経過し、
色々な手続きを終えて、美姫は元々彼女が
暮らしていたアパートで生活を続けているー。

「ーーしかし…俺が本当に女子大生になるとはな…」

鏡を前に、自分の姿を見つめる美姫になった竜彦ー

”皮にした人間を着る”ー

最初は、何となく”着ぐるみを着ているような”
そんな生活感覚などだと思っていたものの、
実際に一ノ瀬美姫になってみて、”そうではない”ことを理解したー

”自分がこの人を着ている”という実感はまるでなく、
本当に、自分が一ノ瀬美姫になったかのような
そんな感触ー。

身体も自然に動くし、声もしっかりと美姫の声が出るー。

着る時には、最後、後頭部あたりでチャックのようなものを
閉めたが、”救いの道しるべ”がその後、何か処理を加えたたために、
もはや後頭部のあたりにも、何の違和感もなかったー。

「ーーーすげぇなぁ…」
美姫はそう呟くと、
「とりあえず、今はフリーター状態だけど、家があるってだけでもすごいなー」
と、部屋の中を見回すー。

ジャージ姿の美姫ー。

「ーーーう~ん…家だとこの方が楽だなー」

そんな風に呟きながら
部屋の中でスマホをいじるー。

女になって社会復帰した仲間のホームレスたちの中には
メイドカフェで働いたり、AV女優デビューしたり、
風俗店で働いたり、コスプレをしながら配信者になって稼いだり、
”女”でしかできないような仕事・暮らしを選ぶような人間も
多かったものの、竜彦は特にそんなつもりはなく、
現在はコンビニでアルバイトをしながら、
”今後どうするか”を考えているー。

”救いの道しるべ”で、”着ることのできる女性”の一覧を見た時のことを
思い出すー。

流石に”大企業勤務”とか、そういうステータスの女性は少なかったー

代表・ノガミの説明によれば、
”自殺未遂”だったり”病気”だったり”自ら望んで皮”になったり、
あるいはー、”捨てられた子供”だったり、
”犯罪者”だったり、そういう人間が”皮”にされているのだと、
そう言っていたー。

そういうことであれば、まぁ、そういう人が”着ることのできる人間”に
いなかったのも納得だー。

「ーーまぁ、それでもあの公園にいるよりは、全然、なー」

長い髪を邪魔そうにかき分けながら、
美姫は「髪、切ろうかなぁ…」と呟くー。

正直、男であった竜彦にとって”美姫の長い髪”はジャマ臭いー。

最初は”綺麗”だと思ったし、
少しドキドキしたりもしたし、
”せっかくだから”と、ポニーテールを作ってみたり、
色々試したりはしたものの、
1か月もすれば、飽きるー。

他人の身体というか、自分の身体のように感じて来るし、
”女性”ならではの部分にドキドキしていたのも
1か月もすれば、無くなるー。

家を引っ越しした際の新鮮味がなくなるのと同じー
人間は、”違う身体になっても”結局は慣れてしまう、
と、いうことを実感させられたー。

「ーーーー」

ショートヘアーにすれば
髪を洗う時間も当然短縮できるし、
お手入れも楽にはなるー。

大学時代、竜彦も”髪の長い子の方が好きだなぁ”などと
友達に言っていたが
”綺麗な長い髪”を維持するのには、案外、男が思っている以上に
手間がかかることを、竜彦は、美姫になって初めて理解したー。

「ーーまぁ…でも、バイト先の店長も気に入ってくれてるみたいだし、
 まだこのままでいいか」

美姫はそんな風に呟きながら
「は~~~やっぱ家っていいな!昼寝しよっ!」と、
ご機嫌そうにベッドで昼寝を始めたー。

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「ーーーーー」

ホームレス仲間の一人だったジンが
夜中に目を覚まして、ウトウトしながら
トイレに向かうー。

だが、その時だったー

「ーーー…悪いなー。
 で、どうだ?残りのやつらはー?」

「ーー残りのやつらはあまり見込みがないー。
 私が”それとなく”誘導はしているものの、
 頑なに支援を拒むようなやつらばかりだからなー」

「そうかーそれは残念だ」

そんな会話が、深夜の公園の端っこで聞こえて来たー。

ホームレスたちはいつも”公園内にある複数のトイレ”の
1か所を利用するのだが、今日は誰かが使用中だったために、
少し離れた場所のトイレにやってきていたー。

だからー
”この二人”は、ここにホームレスがやってくるなどとは
夢にも思わず、会話していたのだろうー。

ジンは目を見開くー

夜の公園でコソコソと会話をしていたのはー
”救いの道しるべ”の代表・ノガミと、
ホームレスたちのリーダー格・マツさんだったからだー。

「ーーー誰だ!?」
マツさんが叫ぶー。

「ーーー!」
見つかってしまったジンは表情を歪めると、
「い、今のはどういうことだ!?マツさん!」と叫ぶー。

マツさんの隣にいた
”救いの道しるべ”の代表・ノガミが表情を歪めるも、
すぐにいつものような穏やかな笑みを浮かべたー。

「ーおやおや、これはこれは、ジンさんー。
 こんな夜中にお会いするとは、奇遇ですね」

ノガミの言葉に、ジンは「くだらない茶番は必要ねぇ」と言うと、
「どういうことだ!マツさん!」と、叫ぶー。

「ーーー…悪いなー。
 で、どうだ?残りのやつらはー?」

「ーー残りのやつらはあまり見込みがないー。
 私が”それとなく”誘導はしているものの、
 頑なに支援を拒むようなやつらばかりだからなー」

その会話はまるでー
”マツさん”が、”ノガミ”と結託して、
”支援を受けるホームレス”を提供しているかのような、
そんな言い草だったー。

「ーーーーーーーあ~~~~~~」
マツさんはボサボサの頭を掻きむしりながら
気まずそうにすると、ノガミのほうを見てから
静かに呟いたー。

「ーージンーお前たちの慕う”マツさん”はーーー」

そう呟くと、
マツさんは突然、自分の後頭部を掴み、ビリッと
音を立ててからー

突然”脱皮”するかのようにしてめくれてー
中から、金髪の鋭い目つきの女が姿を現したー

「ーとっくに私が支配していたー。」
女が言うー。

「ーーな…な…?マ、マツさんー!?」
困惑するジンー。

ノガミは笑みを浮かべながら呟いたー

「我々の仕事は、”ホームレスの有効活用ー”
 皮にした女をホームレスに着せて、
 ”ある目的”のために各所で社会復帰させることー

 あなた方のような、ホームレスたちが暮らしている場所を
 見つけては、そこのリーダー格のホームレスを皮にして支配し、
 上手く、そこの一帯で暮らすホームレスたちに”支援”を受けさせるー」

ノガミの言葉に、隣にいた女が無表情のまま呟くー

「ーお前たちに”支援”を受けさせるため、私は
 お前たちのリーダー格の、マツという男を皮にして乗っ取り、
 お前たちを誘導したのだー」

まるで男のような口調で呟く強気そうな女ー

”救いの道しるべ”は、
ホームレスたちが暮らしている場所を見つけては
そこの中心的人物を皮にして、支配しー、
”支援”を申し出るー。
皮にされた中心的人物ー…今回の場合はマツさんが、
支援に反対するフリをしながら、少しずつ支援希望者が増えるように
ホームレス内で上手く誘導し、ノガミは何食わぬ顔で
ホームレスたちに”皮”を着せ、社会復帰させていくー。

「ーーーじ…じゃあ…マツさんはー」
ジンが言うと、
女は答えたー

「”救いの道しるべ”が最初に姿を現した前の日にはー
 私が皮にして、既にこの男を乗っ取っていたー」

とー。

「ーーお…お前たちは何なんだー
 一体、何を企んでいるー…!?
 お、俺たちホームレスの支援なんざ、目的じゃないんだろうが!」

ジンが叫ぶと、
ノガミは笑みを浮かべたー

「ーー”国際犯罪組織ガルフ”は、ご存じですか?
 …いえ、知らなくても結構ー。
 
 ”救いの道しるべ”は、そのガルフの”資金源”となるグループ組織ー。」

ジンは、震えながら「が、が、がんも…?」と、
言葉を上手く聞き取れずにそう聞き返したー。

「ーーがんも? はは まぁいいー。
 秘密を知った以上、君はここで死ぬ。
 我々のことをがんもだと思っていてもらっても構わないよ」

ノガミはそう言うと、針のようなものをジンに飛ばして、
そのままジンを”皮”にしたー。

「ーー今回は70名ほどのホームレスを”社会復帰”させたー。
 必要な時にいつまでも操ることができる。
 本部にもそう報告しておいてくれ」

ノガミがそう言うと、
ホームレスのリーダー・マツさんを乗っ取っていた女、
国際犯罪組織ガルフ諜報員・ウェンディ裕子(ゆうこ)は、
「ーわかった お疲れ」と、だけ呟いて
そのままバイクに乗って走り去っていったー。

「ーーー”社会復帰”したホームレスどもが着た”皮”には、
 それぞれ特殊な加工がしてあるー。
 いつでも”脳”に刺激を与えて意のままに操ることができるー

 我々のために、な」

ノガミはそう呟くと
”ここの残りのやつらは、”支援”を受けないだろうし、
 そろそろこの公園からは引き上げだな”と、
そのまま2度とホームレスたちのいる公園に
姿を現すことはなかったー。

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「ーーーふ~~~…」
美姫になった竜彦は帰宅すると、
鏡に映る自分の姿を見て少しドキッとしたー。

美姫になってから時間が経つにつれて
そういう新鮮味は失われつつあったものの、
最近は”おしゃれをする楽しさ”に目覚めつつあったー。

「ーーほんと、女って男以上にイメージ変わるよなぁ…」

もちろん、男の時も、髪型を変えたり、服装を変えたり
すればイメージをガラリと変えることもできたのだが、
女になってからは、それ以上に、そういう部分を強く感じるー

「ーほんと、別人みたいだー」
美姫は、そんな”イメージの変化”を強く楽しめることに
ドキドキしながら、ホームレス時代よりも
遥かに充実した時間を送っていたー。

「ーそれにしても、よく考えたらこんな20代の若い子に
 なれるなんて、俺って人生得してるのかもな!」

美姫はそんな風に言いながら、
帰りにバイト先のコンビニで買ってきたスイーツと
晩御飯を机の上に並べるー

だがー
その時だったー

「ーーうっ…」
突然、美姫がビクンと震えるー

”私の仲間の店で”欠員”が出たー
 君は今日から我々の仲間が経営する夜のお店で働くんだー
 そこでは過激なサービスを提供してるがー
 まぁ、その女の身体なら、客も喜ぶだろうよー”

頭の中にノガミの声が響き渡るー

「ーーーはい…」
美姫は虚ろな目になって、そのまま歩き出すー。
家から出て、ノガミに”命令”された店へと向かうー。

「ーーーーー」
ノガミは、その様子を、モニターで見つめながら笑みを浮かべたー

”ホームレスたちが来た皮”には、
特殊な加工がしてあり、いつでも”命令”を送り、
意のままにすることができるー。

美姫を着ている達平には、
ノガミの仲間の系列店で働くように命令したー。

回りくどいやり方だがー
”いつでも操り人形にできる女”を
ホームレスの社会復帰として各地に放っているのだー。

ガルフ関係者が、”直接”皮を着て乗っ取ることも確かに可能だが、
そうなると”皮を着る人員”が必要だー。

だが、ホームレスを利用すれば、
”中の人”の人員を削減できるー

必要になった時には、いつでも簡単に支配できるー。

犯罪に利用することも、
系列店で働かせることも、
その他の作業をさせることも、
犯罪組織ガルフ幹部たちの女にすることもー
何だって、できるー。

「ーー社会復帰したホームレスたちよー。
 束の間の”自由”を楽しむがいいー。
 
 ”必要”な時が来るまでは
 自由を楽しませてやるからー」

ノガミはそう呟くと、静かに笑みを浮かべたー

おわり

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コメント

自立支援を謳う怪しい団体の皮モノでした~!

美姫になった竜彦は、この後、自分の意思なく
ずっと、ノガミらの系列店で働かされ続けています~!

お読み下さりありがとうございました~!

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