<皮>ホームレス自立支援②~社会復帰~

ホームレスを支援する謎の団体
”救いの道しるべ”

彼らが提供する”皮にした女性”を前に
迷うホームレスがいたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」
夜ー。
公園内にはホームレスたちが作ったテントが
並んでいるー。

その一つには、ホームレスの竜彦がいるー。

竜彦は、リストラされた挙句に、
妻と子供に貯金を全て持ち逃げされて
一気に地獄へと転落した男だー。

大企業に勤めて、別に出世コースというわけではなかったが、
順調な人生を送っていた竜彦はー、
まさか、自分がこのような”ホームレス”になるなどとは
夢にも思っていなかったー。

だがー
そんな竜彦にも、マツさんをはじめとする
ホームレスたちは親切に手を差し伸べてくれたー。

本当に感謝しているし、今では
ここにいるホームレスたちは、竜彦にとってかけがえのない仲間だー。

けれどー
やはり、ここでの生活は辛いー。
元の生活に戻りたい、何度そう思ったことかー。

それでも
一度住所も、職業も失ってしまい、
竜彦のような、既に決して若くもないような人間だと、
なかなか、社会復帰をするのは、難しいー。

だがー

”私はあなたたちを救いたいー。
 あなたたちに、救いの手を差し伸べたいー”

そう語っていた支援団体の代表・ノガミのことを思い出すー。

元々、この公園には多数のホームレスたちがいたー。
しかし、既に半数ほどのホームレスは
”救いの道しるべ”による支援を受けて
この場所を去り、各地で”女性”として生活しているー。

この前、ここを訪れた石井というホームレスもそうだー。
今は、本倉加奈という女性の身体で生活をしているー。

何か”救いの道しるべ”側から要求されるようなこともなく、
ここから出た大半のホームレスは今、
ホームレス生活から抜け出して楽しく暮らしているらしいー。

少し前にも”俺、AV女優デビューしたぜ!”などと
自慢していた元ホームレスもいたー。

「ーーーはぁ~~~」
竜彦は考え込むー。

現在”救いの道しるべ”の支援を拒んでいる
ホームレスは大体、元々いたホームレスの三分の一ぐらいの
割合だー。
その中でも、消極的な人間と積極的に反対している人間は
いるものの、最近ではノガミの寛大さや、
実際にここを出たホームレスたちによる”現状”を知り、
”救いの道しるべ”の支援を受ける人間が増えているー。

「ーーーー」
竜彦も、正直”気になって”来ているー。

竜彦自身には特に”女になりたい”という願望はないが、
やはり、実際に、ノガミが持ってくるような”若い美人女性”の皮を
身に着けて、自分が若い女性になればドキドキはするだろうし、
社会生活を取り戻すこともできるだろうー。

悪い話ではないー

けれどー
そうなれば、ここら一帯のホームレスのまとめ役でもある
マツさんからは失望されるかもしれないし、
喧嘩っ早いジンからは”裏切者!”と罵倒されるかもしれないー。

あの人たちを裏切ることはしたくないー。

「ーーーふぅ…」
竜彦は”本音を言えば、支援を受けたい”方向に気持ちは
傾きつつあったー。
だが、反対する人たちもいるのも事実で、
どうすればいいか、自分でもわからなくなりつつあったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

「ーーー」
街で空き缶を拾いながら、それを袋に入れていた竜彦ー

缶を拾って売却することでー
ホームレスになる前の自分からすれば考えられないほど
少ない量ではあるものの”お金”を手にすることができるー。

「ーー竜彦ー」

「ー?」
背後から声がして振り返ると、
そこには、綺麗な生足を晒したおしゃれなデニムパンツ姿の女がいたー

「ーーえ…?」
竜彦が困惑して自分を指さすと、
「ーー俺だよー高井戸(たかいど)」と、その女は呟いたー。

「ーーーた、高井戸さん!」
竜彦はそう叫ぶー。

高井戸、とは竜彦が最初に公園に住み始めた際に
”隣”にいたホームレスだー。
良く世話になったホームレスの一人でもあるー

”救いの道しるべ”による支援が始まった直後に
それを利用して、それ以降は会ってはいなかったため、
久しぶりの再会だったー

「ーへへ、足を見てるのバレバレだぞ?」
高井戸が笑いながら言うと、
「ーい、いや、だって、いや、さすがに目がいきますよ」
と、竜彦が苦笑いしながら言うと、
「ーーまだ”支援”利用してなかったのかー
 お前らしいなー」と、高井戸は笑うー。

当然、声も可愛らしい雰囲気の声になっていて
元々の高井戸の面影はないー。

「ーーー少し時間あるか?
 そこのファミレスで話そうー。
 奢ってやるから」

高井戸の言葉に、竜彦は頷くと、
二人でそのままファミレスに移動したー。

「ーーーた、高井戸さんは今、何をー?」
竜彦が言うと、
高井戸は「栗本 浩美(くりもと ひろみ)」と、
呟くと、「メイドカフェでバイトしてるよー」と、
言い放ったー。

どうやら、元々の”浩美”という女性は、
高校卒業後に一人暮らしを始めたものの、
大学の人間関係が上手く行かずに退学、
そのまま生活が破綻してしまい、
色々あって”救いの道しるべ”に自分の身を差し出したようだったー。

「ーーーでもよ、毎日楽しいぜー?
 家賃も十分に払えるし、
 ”栗本 浩美”っていう新しい人生を楽しめるんだからー。

 まさに、社会復帰って感じでさ」

浩美の言葉に、竜彦は戸惑いながらも
浩美を見るー

「ーーま、まるで別人みたいですよー」
とー。

胸元に光るペンダントを見つめながら
「それにしても、ずいぶんおしゃれですね?」と、
苦笑いする竜彦ー

「ーへへっ…こういう身体になると、やっぱおしゃれって楽しくてさー
 俺、ずっと、”何で女はおしゃれなんかに金をかけるんだろう”って
 思ってたけどー
 自分がなってみると、分かるよー
 やっぱ、色々こうー自己満足かもしれないけど、やってみたくなってさー」

満足そうに、自分のデニムパンツのあたりに手をかける浩美ー。

「ーーそれで、お話ってー?」
竜彦が言うと、浩美は真剣な表情に戻って答えたー。

「ノガミさんの支援ー、受けて見ないかー?
 別に、怪しい勧誘じゃないー。
 女になってから、別にノガミさんたちから何か言ってくることは
 何もないし、金銭を要求されたりもしてないー。

 もちろん、あの人たちもどこかで利益は得ているんだろうけど、
 やっぱ、ノガミさん、元ホームレスだったらしいし、
 俺たちを救いたいって思いは本当みたいだしー…

 少し前に石井がお前たちのところに行ったらしいじゃないかー。
 あいつから連絡を受けて”お前もまだいる”って聞いたんだー

 いつまでも意地を張ってたって仕方ないぞー。
 ちょうど俺の働いてるメイドカフェがバイト募集もしてるし
 アレだったら仕事も紹介してやるー

 どうだー?
 ノガミさんの支援、受けて見ないか?」

浩美のそんな言葉に、竜彦は少し戸惑った表情を
浮かべながらも、「そうですねー」と、
少しだけ穏やかな表情で呟いたー

そしてー
その日の夜ー
竜彦は”決断”したー。

”救いの道しるべ”の支援を受けることをー。

それから数日後ー
再び公園に”救いの道しるべ”が姿を現したー。

ジンがいつものように
「俺たちはお前の支援なんて受けねぇ!」と叫ぶー

リーダー格のマツさんも
「ノガミさんー気持ちはありがたいが、
 我々はどうしてもあなたを信用できない」と、
支援の手を拒むー。

ノガミはいつものように穏やかな笑みを浮かべながら
頷くと、
「ー中心的人物のマツさんがこんな感じだと、
 皆さんもなかなか”俺は受けたいです”とは言い出せないでしょう?
 
 もしも、こっそり支援を受けたいという方がいらっしゃれば、
 我々はあちらの車で待っていますから、
 ぜひ声をかけて下さいー」
と、静かにホームレスたちに語り掛けたー。

そしてー
竜彦は他の数名のホームレスたちと共にー
”救いの道しるべ”の車に向かったー。

少し大きめの車で
その中で”皮”を提供している様子だったー。

「ーーー竜彦…テメェ!」

「ーー!」

公園の一角に止まっている”救いの道しるべ”の
車に向かおうとしていた竜彦の背後から
声がして、竜彦が振り返ったー

そこには、ホームレス仲間のジンがいたー。

「ージ、ジンさんー」
竜彦が困惑した様子で言うと、
ジンは鬼のような形相で、すぐさま叫んだー

「この…裏切り者…!」
とー。

竜彦はすぐに首を横に振るー

「俺はー…!俺は、ジンさんを裏切るつもりなんて…!
 皆さんを裏切るつもりなんてー!」

竜彦がそう言いながらジンのほうを見つめると、
ジンは「ーお前も女になりてぇってのか?自分を捨てるのか?」
と、不満そうに呟くー

「そ…そうじゃありません!
 でも、このままじゃ俺、ずっとホームレスのような
 気がするんです!

 ”救いの道しるべ”から差し伸べられた手を掴めば
 住む場所も手に入りますし、社会復帰のための大きな一歩を
 歩み出すことができますー

 先日、高井戸さんにも会いましたー。
 高井戸さん、すごく充実してそうでしたー

 俺もー…俺も、もう一度、ここから出て、社会復帰したいー」

竜彦がそう言うと、
ジンは「ケッ」と呟くと、
「ーこの裏切者!」と、再び言葉を呟くー。

「ー”救いの道しるべ”に悪意があるようには見えませんー。
 確かに”皮にされた人間を着る”なんて、奇妙な話ですし、
 現実離れしすぎていて、不安なのは分かります!
 でも、”社会復帰への道”が示されているのに
 それを拒んじゃいけないと、俺は思うんです!」

竜彦が言うと、ジンは露骨に不満そうな表情を浮かべるー。

「ーテメェ…俺がチキン野郎だって言いてぇのか?」
ジンの言葉に、竜彦は「違います!…でも!」と叫ぶー

ジンは頭ごなしに”救いの道しるべ”を否定しているー。
どんなに議論しても、ジンに理解してもらうことはできないだろうー。

その時だったー

「ーー行かせてやれ」
脇から、リーダー格のホームレス・マツさんが姿を現すー

「ーーマ、マツさん!」
ジンが不満そうに叫ぶと、マツさんは
「ー俺たちは、来るものは拒まないし、去りたいものが
 去ることも拒まないー。
 今まで世話になったなー」と、竜彦のほうを見て
少しだけ微笑んだー

「ーマツさんー」
竜彦はそう呟くと”救いの道しるべ”の車のほうを見つめてから
もう一度マツさんたちのほうを見て、静かに頭を下げたー。

「ーーここでの生活のことも、絶対に忘れませんー
 皆さんのこともー。

 今まで、ありがとうございましたー」

竜彦が言うと、マツさんは「達者でな」と、呟きー
ジンは「裏切者!」と叫んだー。

竜彦は、二人に今一度頭を下げると、
そのまま”救いの道しるべ”の車の方に向かって走り出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー”支援”を受ける気になって下さいましたかー。
 ありがとうございますー」

代表のノガミは、竜彦の姿を見ると
丁寧な様子でお礼の言葉を述べたー。

そしてー
”着ることができる”
女性の一覧を表示させたー。

「ーーー…」
リストを見つめる竜彦ー

「一度”着る”と、基本的に”脱ぐ”ことはできませんので、
 慎重に選んでくださいー。
 ゆっくり考えて頂いて、構いません」

ノガミはそれだけ言うと、
少しだけ笑ってから

「怪しい理由ではなく、やっぱあっちで!とか、
 色々な身体を楽しみたい、とか、されてしまうと
 キリがなくなってしまいますからね」

と、説明を付け加えたー。

確かに、何度も何度も”着替え”みたいな真似をされたら
色々問題も起きるだろうし、
それは理にかなっているー

竜彦は、色々と考えた結果ー、
大学1年生の”一ノ瀬 美姫(いちのせ みき)”という子の
皮を着て、社会復帰をすることにしたー。

「ーちなみに、この子はー?」
竜彦が聞くと、
「親と元々仲が悪く、大学入学を機に家を飛び出したものの、
 学校でもバイト先でも上手く行かず、命を絶とうとしていた子です」
と、ノガミは説明したー。

「ーーなるほど…」
竜彦はそう呟くと「ーー分かりました」と、
”一ノ瀬 美姫”を着て、ホームレス生活に別れを告げるのだったー

③へ続く

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コメント

ついに新しい生活へ…☆!
果たして順調に社会復帰することは
出来るのでしょうか~?

続きはまた明日デス!

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