<皮>ホームレス自立支援①~謎の支援団体~

ホームレスたちに”謎の皮”を配り、
ホームレスの自立支援を促す謎の団体がいたー。

女として社会復帰していくホームレスたちー。
その、先に待つ未来とはー…?

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「ーなんだなんだ?」
ホームレスが多く暮らしている公園の一角で、
ホームレスの一人・竜彦(たつひこ)が、
首を傾げるー。

「また、例のやつらだよー」
竜彦の声を聞いて振り返った男は、
そう呟くー

この辺りで暮らすホームレスのまとめ役で
”マツさん”と呼ばれている男だー。

マツさんの本名は誰も知らないし、
マツさんは過去を語ろうとしないが、
誰に対しても優しく、包容力のあるマツさんは
この一帯のホームレスたちから慕われ、
リーダー的存在になっていた。

そのマツさんが、”何か”を見つめながら、表情を歪めているー。

最近、この辺りにやってくる
”ホームレス支援”を掲げる謎の団体”救いの道しるべ”ー。

彼らは、”ホームレスの社会復帰”を支援するという名目で
ホームレスたちに”怪しげな皮”を配っているのだー

「…おい!お前ら!一体何を企んでやがる!」

ふと、そんな声が聞こえたー。
マツさんや竜彦と同じ公園で暮らすホームレスの一人、ジンー。

けんかっ早いジンは怒りの表情で、
”支援団体・救いの道しるべ”に向かって叫ぶー。

「ーーーーこれはこれは、ジンさんー。
 落ち着いて下さいー」

支援団体・救いの道しるべの代表を名乗る男・ノガミが苦笑いするー。

「ーー落ち着いていられるか!俺たちの仲間を
 どんどんここから立ち去らせて、何を企んでいるのか聞いてるんだ!」

ジンが叫ぶと、ノガミは少しだけ笑みを浮かべたー

「”企んでいる”とはー…まるで、我々が悪党みたいな言い方ですねー」
優しい口調で言うノガミー。

「ですが、それは濡れ衣ですよ。ジンさんー」
好青年風の見た目のノガミは、そう言いながら
身振り手振りを加えながら言葉を続けるー。

「ー私は、皆さんのようなホームレスを救いたいのです。
 ですから、皆さんが社会復帰するための”支援”をしているのですー」

ノガミがそう言うと、

「その支援ってのが、俺たちを”女”にして、別の名前を与えることだってのか!?」
と、ジンが叫ぶー。

「ーー落ち着けー」
声を荒げて、今にもノガミの胸倉を掴みそうな勢いだったジンに駆け寄り、
ジンをなだめる竜彦ー。

「ーー落ち着いて下さいー」
ノガミはそれだけ言うと、公園の近くに停められた
”救いの道しるべ”の車に乗り込むホームレスたちを横目で
確認してから呟くー

「ー私もかつて、ホームレスとして生活したことがありますー。
 大学生のころでしたー。
 そこから私は、何とか這い上がって今、こうして
 支援団体の代表をさせていただいているわけですがー、
 あの時は本当に辛かったー。

 もちろん、かけがえのない仲間たちのことは忘れませんし
 辛いながらも、良いこともあったー

 けど、こうしてホームレス生活を抜け出して
 今、普通の生活をしていると
 ”あの時はつらかったなぁ”と、そう思うわけですー。

 だからこそー
 私はあなたたちを救いたいー。
 あなたたちに、救いの手を差し伸べたいー」

ノガミの言葉は、穏やかな口調で、
人を引き付けるような、そんな雰囲気があったー

”胡散臭い支援団体”の長としては
適任なのかもしれないー。

ジンが「嘘つけ!何か企んでるんだろ!」と叫ぶと、
竜彦は、横目で”救いの道しるべ”の車から
降りて来るホームレスたちの姿を確認したー。

先程車に乗り込んだホームレスが
長い黒髪の”美人女性”になって、出てきたのだー。

「ーー……ノガミさんー
 あなたの気持ちが本当だとして、
 俺たちのようにあなたを疑うホームレスがいるのは
 理解してほしいー」

ジンと竜彦の近くにやってきた
ホームレスのリーダー格・マツさんがそう言うー。

ジンのように感情的にはならず、
あくまでも”対話”するー。
そんな姿勢がマツさんからは見て取れるー。

「ーー皆さんに最適な”皮”を着て、女性にしていることー、ですか?」

その言葉に、マツさんは頷くー。

「ーまぁ、確かに怪しいと疑う気持ちは分かりますー。
 ですが、この社会は、一度転落した人間が
 そこから這い上がるのは、非常に難しいー。

 それは、私も嫌と言うほど理解していますー

 ですので、皆さんには”違う存在”になって
 社会復帰していただくー。

 ”皮”を着て、社会復帰した皆さんは
 ほとんどの皆さんが楽しく”日常生活”に戻っていますよー

 中には女性として、男と結婚した者もいますー」

ノガミの言葉に、
ジンは「そんなの怪しすぎる!」と、再び声を上げるー。

支援団体”救いの道しるべ”はー
ホームレスたちに”女性の皮”と”名前”を提供ー
その皮を着ると、”本当にその女性になったような状態”になり、
ホームレスたちは女性として社会復帰をしているー。

当然、喜んでその支援を受けるホームレスたちもいたー。

だが、一部のホームレスは
”どこからそんなものを持ってくるのか”と、
”救いの道しるべ”を怪しんでいたー

”皮”を着ると、本当にその人間になりきれてしまうー

”着ぐるみを着ているように見える”のではなく
”外から見れば普通の女性”にしか見えないー
そんな状態になるのだー。

先日も、”安”というホームレスが、
救いの道しるべの支援を受けて
女性の皮を着て、”住永 倫子”という名前を与えられて
社会復帰していったー。

救いの道しるべが用意する”女性の皮”には
一人一人名前もあり、ちゃんと住民票も存在し、
主にアパートだが、家も存在するー。

”救いの道しるべ”の代表・ノガミによれば、
救いの道しるべは、一人暮らしの女性を中心に、
自殺未遂を起こした者、病気などで昏睡状態に陥った者、
自ら望んで身を売った者など、
”実在の女性”を特殊な技術で着ぐるみのような皮にし、
それをホームレスたちに与えて、社会復帰を促しているのだと言うー。

”皮にされた女性”は実在の人間であるがゆえに、
名前も、住民票も、住所も持っているし、
そのまま普通に生活することができるのだとー。

だがー、マツさんらは”そんなこと、できるわけがない”と、
ノガミらのことを疑っていたー

”人間を皮にして、それを着ると、その人間になりきることができる”
なんて、どう考えても普通ではないー。

しかし、ノガミは
”関係各所の許可は取っているし、皮にされる人たちは
 すでに自殺を志願していたり、昏睡状態だったりする女性たちで
 本人たちが望んでいたり、昏睡状態になった本人の家族が
 望んでいたりするため、無理やり皮にしているわけではない”
とも、説明していたー。

言わばこれは、”身体をリサイクルしている”のだとー。

「ーーーお前たちも、早くノガミさんのご厚意を 
 素直に受け取ったほうがいいぜ?」

ノガミの背後から、美脚を晒した女性が歩いてくるー。

「ー石井(いしい)テメェ!」
ジンが怒りの形相で叫ぶー。

数週間前、”救いの道しるべ”の支援を受け入れて
”女の皮”を着た元ホームレス仲間の石井ー。

今は本倉 加奈(もとくら かな)という名前の女性を着て、
その身体で生活しているー

「ーー美女としてやり直す人生は最高だぜ?
 毎日が本当に別世界だー。」

加奈の身体でそう言い放つ”元仲間”を見つめながら
マツさんも、竜彦も困惑の表情を浮かべるー

「ーーこの女、本当に美人だし、
 俺がその美人になれてるんだから!
 こんなすごいことはねぇよ!

 職場でもキモイキモイばかり言われて挙句の果てに
 リストラされた俺が
 ”加奈ちゃん!”
 ”加奈ちゃん!”
 って、バイト先でチヤホヤされてるんだからなー
 へへっ」

元ホームレスの石井は、加奈の皮を着たあとに
とりあえずバイトを始めて、アパートで生活しているー

元々の”加奈”は、自室で自殺を図り、
昏睡状態になっていた女性で、
それを”救いの道しるべ”が皮にし、こうしてホームレスの石井が
身に着けているー。

「どうですー?これはWinWinな再利用方法ですよー?
 どのみち、その女性はもう自分の意識を取り戻すことは
 ありませんでした。
 だったら、その身体を有意義に再活用するのが良いとは
 思いませんか?」

”救いの道しるべ”代表のノガミの言葉に、
ジンは「人として、おかしいって言ってるんだ!」と、ノガミを
睨みつけるー

「ふふ…
 いつまでも頑固に意地を張ってー
 そんな汚らしい姿でいるの?」

元ホームレスの石井ー
いや、今は加奈を名乗る石井が挑発的に笑うー

「ー石井さん…!そんな言い方はないでしょう!」
気の短いジンだけではなく、話を聞いていた竜彦も
思わずそう声を上げたー。

「ーー石井さんじゃなくて、今の俺はー
 本倉 加奈ー。
 加奈さんとでも呼んでもらおうかなぁ?」

加奈がニヤニヤしながら言うと、
竜彦は「ーー俺たち、仲間だったじゃないですか!」と叫ぶー。

竜彦もホームレスになった直後、
この、”石井”という男にも世話になったー

だからこそ、今の”加奈”の身体を手に入れて
”元・仲間”を見下すような発言をする石井のことは
許せなかったー。

「ーーふふふ…じゃあさ、お前もなればいいじゃんー
 ノガミさんたちの支援で、社会復帰しようよ」

加奈がクスクス笑いながら言うー。

「ーーーーーーで、でもー」
竜彦は困惑の表情を浮かべるー

「ーふざけるな!俺たちはお前とは違う!」
ジンが叫ぶー

「ーーー……ははは」
”救いの道しるべ”代表のノガミは、笑みを浮かべると
「ーーあなたたちの気持ちも十分に分かります。
 私だって、あなたたちの立場なら
 ”なんだこの胡散臭い野郎は!”と思うでしょうー」
と、呟く。

「ーへっ!自分のことよく分かってんじゃねぇか!
 この胡散臭いペテン師野郎め!」
ジンが叫ぶと、ノガミは「ですがー」と、続けるー。

「ーもしも、私を信じる気持ちになったら、
 いつでも、言ってくださいー。
 ジンさん、あなたもですー。

 私はどんなに罵倒されても、あなたたちを救いたいー。
 ジンさん、あなたを救いたいー
 竜彦さん、あなたを救いたいー
 そして、マツさん、あなたのことも救いたい」

竜彦ら三人のホームレスにそれぞれそう呼びかけると、
「1度ホームレスになると、なかなか元の社会に戻るのが
 難しいのが、この世界ですー」と、ノガミは続けるー。

「ーーそれは俺らもよく理解しているー。
 だが、どうして”女”として社会復帰させる?」
マツさんが言うー。

「ー確かに、あんたの言う通り”既存の人間”を皮にして
 ホームレスにそれを着せて、その人間として社会復帰させれば
 元々持ち家もあって、ホームレスの状態から抜けだすのに
 大変な部分を解決できる、というのは理解できるー

 だが、何故”女”なんだー?
 ”男の皮”でもいいはずだ」

マツさんはそう言うと
「ーいちいち女の皮に限定しているところも、胡散臭いんだー」
と、呟いたー。

ノガミはふっ、と笑うとー
「簡単なことですー」と、答えるー。

「ーホームレスの男女比率、をご存じですか?
 
 ご存じの通り、この社会では男性のホームレスの方が多いー。
 故に、”男”として社会復帰させるよりも
 ”女”として社会復帰させたほうが、
 割合の上で考えれば、あなたたちが”再びホームレスに戻ってしまう”
 可能性は低いー

 それだけのことですー。

 少しでも”成功確率が高い”選択肢があるのなら
 それを選ぶのが、当然というものでしょう?」

ノガミはそこまで言うと腕時計を確認して、

「では、本日はこれでー。また来ますよー。
 マツさん、ジンさん、竜彦さんー
 あなたたちのことも、私は救いたいー。

 考えが変わったら、すぐに教えて下さいー
 誰であろうと、私は歓迎しますよー」

と、言い放ち、そのまま団体の車に戻って行ったー

「へっ!2度と来るんじゃねぇ!」
ジンが叫ぶー

だがー

「ーーーーーー」
ホームレスの一人、竜彦は”ノガミの支援”に、
心が揺らぎ始めていたー

②へ続く

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コメント

①は、状況の説明と導入部分でした~!☆
②からは、謎の支援団体とホームレスたちの
物語が本格的に動いていきます~!☆

今日もお読み下さりありがとうございました~!

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