一人の少女が、
自らを人質に立てこもりー…
その事件には”憑依”が絡んでいたー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「今日の、深山さんの様子に変わったところはー?」
竜太郎は、立てこもり現場となっている
小暮稔の家のすぐ側でー、
優花の友人や担任の先生、家族にそれぞれ話を聞いていたー。
”ー到着はまだなのか!?いい加減に俺を待たせるな!”
そんな中でもー
優花の怒鳴り声が聞こえてくるー
「ー普段は、本当にいい子なんですー
なんでー」
優花の母親は困惑したような様子で涙を流すー。
「ーいつも”俺”なんて言わないのにー」
父親も困惑した様子だー。
朝の優花の様子を、まずは家族に確認する竜太郎ー。
泣きじゃくる母親に代わり、
今日はちょうど仕事が休みだったという父親が説明するー
「朝は特に変わったところはありませんでしたー
いつも通りの時間に降りて来て、
いつも通りに朝食を済ませてー
いつも通り支度をして、学校に向かいましたー」
その説明に、
竜太郎は”少なくとも朝の時点では”
優花に変化がなかったことを理解するー
「ーー今日も帰ってきたら
これをする、あれをするーって、帰ってきたあとのことも
わたしと話してたんですー
それなのにー」
優花の母親が泣きながら呟くー
「なるほどー…」
竜太郎は、そう言いながら母親を落ち着かせようと、
言葉を口にするー
”こういうこと”を朝の時点でする予定なら、
確かに”帰ってきたあとの話”をするとは思いにくいー
「学校では、どうでしたか?」
竜太郎は、現場に駆け付けた先生や友人に確認するー。
だが、学校でも優花は普通で、
友人の一人は、来週に迫っていたテストの話をしていたのだというー。
「テストで悩んでーとか…そういう様子はー?」
優花は普段から成績が良かったのだと言うー。
テスト前、ということで、
たとえば”試験勉強が上手く行かずに苛立っていた”というようなことも
考えられないことではないー。
「ーー”今回は、結構いい点数が取れそう”なんて言ってましたしー…
優花ちゃん、素直なので、
ダメなときは「今回はやばいかも…」とか、普通に言ってますしー
たぶん勉強で悩んでいたこともないと思いますー」
友人の一人がそう説明するー。
「ーーーーーふむ…」
竜太郎は、困惑したー。
朝も、学校でも変わった様子がなくー、
下校中に、突然このような凶行に走った、とでも言うのだろうかー
「ー普段の深山さんの自分の呼び方はー…?
”俺”って言ってるのかな?」
龍太郎は、優花の友達たちに
優花の普段の”一人称”について確認するー
だがー、
現場に駆け付けた5人の友人たちは、
誰一人として”優花が俺と言っているのは聞いたことがない”と、
口をそろえたー
「ー大体”わたし”か、”優花”か、
あとー…たまに”うち”って言うことはありますけどー
”俺”とかは聞いたことないですねー」
友達の一人の言葉に、
”普段使わない一人称を使っている”ことを
竜太郎は理解するー。
「ーーー…最後に深山さんの姿を見たのはー?」
それぞれに確認する竜太郎ー。
一番最後に優花と一緒にいたのは、
放課後に、優花と一緒に学校から出て、少し先の場所まで
一緒に歩いた友人だったー。
その友人は、バスに乗るために、学校から5分ほど歩いた場所で
いつものように優花と別れたのだと言うー。
「その時に変わった様子はー?」
その言葉に、優花の友達は首を横に振るー
「ー特にありませんでしたー…
それに、”明日、わたしと一緒に試験勉強を優花の家でする約束”も
してたのでー」
と、友達は”明日の約束をしたのに、理由もなく優花がこんなことするはずがー”と、
竜太郎に説明したー
”どういうことだー?”
竜太郎は、優花の関係者たちの話を聞いて、
頭をフル回転させ始めるー。
聞いた限りでは”深山優花”と”小暮稔”の関係性も皆無ー。
一体、何が起きているのだろうかー。
色々と考えながら竜太郎は「ありがとうございます」と
関係者たちに言うと、優花が立てこもっている小暮の家のほうを見つめたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーいい加減にしろ!早く自治会長と町長と市長を呼んで来いって
言ってんだよ!」
優花は警官たちにそう叫ぶと、
優花の説得をしようと少し前に出た警察官を見て
ナイフを自分の首に突き付けたー
「ーー近寄るんじゃねぇ!死ぬぞ!?死んでやるぞ!」
優花が大声で叫ぶー
自分の首にナイフを突きつけることも
全く怖がる様子も見せずにー。
「ーーー…ま、待ちなさいー こんなことしてもー」
警察官の言葉に、優花は「うるせぇ!黙ってろ!」と叫ぶと、
再び小暮稔の家の中へと入り込むー
「ーーーふざけやがってー」
優花は、そう呟くと”こうなるまでのこと”を思い出し始めたー
小暮稔はー
孤独だったー。
50代のころ、同居していた親が亡くなり、
そこから、彼の”ゆがみ”は始まったー。
親がいなくなった悲しみー
人付き合いがなくなったことー、
色々な要因が重なり、彼は近所に対して
”少しでも何かあると腹を立てて怒鳴り出す”ような
そんな男になってしまったー。
日常的な”些細なこと”であっても、
大声で怒鳴りつけたり、
仕返しをしたりするー。
それでいて、自分は何のルールも守らず、
好き放題を繰り返すー
そんな”自分勝手な男”になってしまったー
それでも、
”職場”では、仲の良い人間もいたし、
立場上、”身勝手な振る舞い”は抑え込まれていて、
彼ー、小暮稔にとっては”唯一の他者とのつながりの場”だったー。
だが、それすらも”定年退職”で失ったー。
再雇用の制度は利用せず、そのまま退職して、
そのまま余生を送ろうと考えていた稔ー。
しかしー
”高齢”になったことにより、ますます頑固になり、
世の中のあらゆる事象に腹を立てるようになり、
近隣住民に対する態度もさらにエスカレートしたー。
定年退職後の稔は、職場の人間との交流もなくなってしまいー
”誰も”
彼を止めたり、”それは間違っている”と意見するような
親しい人間はいなくなってしまったー
あっという間に稔は歪み、
いつしか下校中の高校生を見かけるだけで
怒鳴り声をあげるようなー
そんな状態になってしまっていたー。
学生が登校や下校するような時間帯には
”わざわざ学生が歩く道”に出かけて、
少しでも気に入らない学生がいれば、怒鳴りつけると言う
”迷惑行為”まで始めたー
何かあれば、すぐに役所に怒鳴り込み、
数時間にわたり、文句を言うー。
自治会長にも何度も何度も文句を言い、
町長にも、市長にも文句を繰り返すー
そんな小暮稔は”厄介な老人”として、
もはや地元では有名な存在になってしまっていたー。
そんなことを繰り返していた稔はー
すっかり役所からも相手にされなくなりー、
自治会からも破門状態で追放されていたー。
自分を追放した自治会の会長を憎みー、
自分を冷遇する町長を憎みー、
行政への恨みは、市長へと向かったー。
そんなある日ー
いつものように、稔が町役場にクレームをつけていた
時のことだったー。
”いい加減にしてくれませんかね?”
尾上(おがみ)町長が、うんざりした様子でそう呟くー。
”あまりにも”酷い連日のクレームに
尾上町長は苛立っていたー
そしてー
「ーあなた、自分のしてること分かってますか?
みんなあなたのこと”迷惑な老人”だと思ってますよー。」
尾上町長はそう呟いたー。
”良いお年寄りはたくさんいるし、ほとんどの人はそうー
でも、あんたは言葉は悪いけど”迷惑なジジイ”だよー”
そう言われた稔は、
怒り狂ったー。
”迷惑なジジイ”
稔は、町長のその言葉に、さらに腹立ち、
行動をエスカレートさせたー。
「ー年寄りの言葉は聞けないってのか!?」が口癖になり、
毎日のように役所に乗り込んで、怒鳴り声をあげたー。
だがー
もはや、相手にされなかったー
そこで、稔は考えたー
”年寄りの言葉を聞けないってなら、俺にも考えがあるぞ”
とー。
その結果、たどり着いたのがー
”憑依”だったー。
憑依薬を手に入れた稔は
”偶然”あまり人目に付かない場所を歩いていた
優花を”新しい身体”に選んだー
”迷惑な老人”扱いされた稔はー
いや、実際に迷惑行為を繰り返していたものの、
それを自分自身で顧みるということが出来ずに、
”迷惑な老人扱いされた”と、逆怨みして、
他人を憎むことに全てのエネルギーを注いでしまった稔は、
”老人扱いするなら、若い身体を奪うまでだー”
と、考えたー。
”誰でも良かった”
若ければー。
男か、女かさえ、どうでもよかったー。
そんな
”どうでもいい”と思っている老人に狙われてしまった
不運な少女が優花だったー
”たまたま”
人目にあまりつかない場所を歩いている若者の中で
”一番最初に目についた”
それだけの理由でー。
「ーーーおい!」
背後から、下校中の優花に声を掛ける稔ー
「ーーーーえ…?」
いきなり”おい!”と、男の声で声を掛けられて
驚かない子は、そういるものではないー
優花も困惑した表情で振り返るー。
だがー
稔は「ーお前の身体をよこせ」と、だけ言うと、
そのまま稔が使った憑依薬の”憑依する条件”である
”キス”を、優花に対してしたー。
いきなり見知らぬ60代の男にキスをされて、
驚きのあまり目を見開く優花ー。
何が起きているのかも理解できないまま、
優花にキスをした稔はその場に倒れ込んで、
ふらふらとした優花は、やがて、笑みを浮かべ始めたー。
「ーーふんー 俺を迷惑なジジイ扱いしやがって」
優花に憑依を終えた稔は
”優花の人格や立場”など、まるで気にせず、
倒れている自分の身体を足で転がすと、
稔が持っていた自宅の鍵を回収しー
そのまま稔の身体を路地裏に隠して、
優花は、すぐにその場を立ち去ったー。
そしてー
自宅に戻ると、優花は稔が隠し持っていた銃を発砲して、
騒ぎを起こし、稔の自宅で”自分自身”を人質に立てこもりを
初めて、今に至っているー。
「ーー早く俺の要求通りにしろ!
でないと、この女をぶち殺すぞ!」
優花が自分でそう叫んで、自分にナイフを突きつけているー。
「ーーーお、落ち着くんだ!自殺なんかしてもいいことないぞ!」
警察官の一人が叫ぶー。
あくまでも、警察官は”女子高生が自殺しようとしている”としか
理解していないー。
それもそのはずー
”憑依”など、あまりにも非現実的すぎて、
”あの子、ひょっとして憑依されているのでは!?”などとは、ならないー
「ーーー!」
前線で説得に当たっていた警察官が背後から肩を叩かれて
振り返ると、そこには優花の家族や友人から話を聞き終えた
竜太郎の姿があったー。
竜太郎はこれまでにも、時として大胆な発想と行動で、
事件を解決してきたことがあるー。
それ故に、上層部の一部からは目をつけられているー…のだが、
それは今、この場では関係のないことー。
「ーー……深山優花さん」
竜太郎が言うと、
「ーーーいやー…君は、誰だ?」
と、表情を歪めたー。
「ーーあ?」
玄関の扉の前で自分にナイフを突きつけながら
不愉快そうに呟く優花ー。
「君のご家族や友人、先生から話を聞いたんだー。
この後の約束とかもしてたみたいだしー
いつも、真面目に頑張ってたみたいじゃないか。
その君が、どうして急にこんな行動を引き起こしたのかー
どうして、まるで男みたいな振る舞いをするのかー
どうして、小暮稔の家に立てこもってるのかー
そして、どうして君が町長や自治会たちと会いたがってるのかー
色々考えたよ」
竜太郎はそう言うと、険しい表情で竜太郎を睨む
優花のほうを見つめて、静かに言葉を続けたー
「ーー深山優花ー。 いや、小暮稔ー」
そう言い放つと、周囲の警官が驚きの表情を浮かべて、
憑依されている優花自身も、少し驚いたような表情を浮かべたー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依した身体で、自分自身を人質に立てこもり…
最悪の事件の行く末は…!?
続きはまた次回デス~!
コメント