怒りのあまり、友人から受け取った薬で、
彼女を”家電”にしてしまった…
苦しむ彼女を前に、彼はもう”後戻りできない状況”に
なってしまったことを理解する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーあ…ぁ……あ…… れ…零児…たすけてー」
苦しむ美咲を見て、
呆然としていた零児は、突然我に返ったー
”大変なことをしてしまったー”
零児は、そんな風に思ったー。
”感情的になって、美咲に”あの薬”を使ってしまったー”
そう後悔した零児ー
「ーーれ…いじ… なんで……あ… ぅ…」
美咲の身体から、聞いたこともないような音が聞こえるー
やがて、美咲の苦しむ声がさらに大きくなり、
零児は”もう後戻りできない”ことを自分の中で悟るー。
洗濯機と、電子レンジー
続けて壊れた家の家電を見つめながら
零児は静かに呟いたー。
「ーまずは、そうだな…洗濯機になってもらおうかー」
その言葉に、美咲は苦しそうに立ち上がるとー
突然、ボキッ、と音を立てながら
身体がみるみるうちに変形していき、
人間とは思えない大きさの大口を開けるー。
聡一が洗脳して、”家電”にしていた女と同じだー。
「ーーお前は、なんだ?」
零児が言うと、美咲は
「ーーわたしは…せんたくき…です」と、
苦しそうに呟いたー。
「ーーす、すげぇ…
本当に美咲が洗濯機にー」
”大変なことをしてしまった”とは思いながらも、
今、目の前にいる美咲がこんなことになっている、という
この状況に、驚きと支配感を感じながら、ゾクゾクとする零児ー。
零児は、普通の洗濯機と同じぐらいに肥大化した
美咲の口に服を詰め込んでいくー
「ーこりゃすげぇや…一体どんな気分なんだろうなー」
家電と化した美咲を見つめながら、
零児がニヤニヤと笑みを浮かべると、
中腰のような、変な姿勢のまま、美咲は口で、洗濯を始めたー
その姿を見つめながら、零児は、
美咲との思い出を思い出すー。
「ーーーーーー」
”洗濯機”として、洋服を洗濯させられている美咲を見つめるー。
なんだか急に、”可哀そう”という感情が
強まってきてしまうー。
だが、最近の美咲との喧嘩の日々を思い出し、
すぐに首を横に振ると、心を鬼にして、
「よーし、じゃあ次は電子レンジだー」と、呟くー
美咲が苦しそうな声を出しながら、
身体を変形させるかのように”電子レンジ”として
利用できる姿になると、
「わたしは…電子…レンジです…」と、
目から涙を溢れさせながら呟いたー
”泣いてるー…?”
零児は少しだけ焦る。
美咲にまだ、意識があるのだろうかー。
そんな不安を感じながらも、
「ーーお前の今の正直な気持ちを聞かせろー。嘘はつかなくていい」
と、呟くー
美咲は顔の部分にヘラヘラとした笑みを浮かべると
「わたしは…幸せです…
ご主人様のために…わたしは…家電になりますぅ」と、
嬉しそうに答えたー。
変形の過程で涙腺が刺激されただけだと、
美咲の涙を解釈した零児は
「お前が電子レンジを壊したせいで、冷凍食品も
食えなかったからなぁ…
代わりにお前に暖めてもらうぞ」
と、ニヤニヤしながら、美咲の中に冷凍食品を放り込んだー
「しかし…すげぇな」
数分後、”本当に温まった”冷凍食品を口に運びながら
”人間が家電になるとか、あり得ねぇ”と、
呟きながらも、
「ま、これで静かになっていいなー」と、
ソファーに座ってため息をつくー。
その時だったー。
美咲のスマホが音を立てているー。
「ーー!」
一瞬ドキッとする零児ー
自分が”してはいけないこと”をしてしまっていることぐらい、
零児も当然理解しているー。
”人間電子レンジ”とも言える状態にされたままの美咲を見つめるー。
だが、美咲は虚ろな目で前を見ているだけで
”自分のスマホの音”にも、まるで反応を見せないー。
「ーー」
零児は少し慌てたー。
”やってはいけないことをしているー”
そんな、うしろめたさが、
”美咲のスマホに誰かから電話が掛かってきている状態”に
焦りを覚えるー。
「ー美咲!出ろ!」
零児が叫ぶと、美咲は「はいー」と呟いて、
そのまま身体をロボットのように動かし、
スマホを手にしたー。
「ーもしもし」
感情のない声ー
声は確かに美咲の声だが、
これだと、相手が異変に気付く可能性があるー。
「できる限り、いつも通りにー」
零児が小声で言うと、美咲は
”いつもの美咲”のように、電話で話し始めるー。
電話相手は、どうやら美咲の大学時代からの親友のようだったー。
”ーー…しかし、このまま会社に行かせるのはまずいなー”
大学を卒業した二人は、既に社会人だ。
美咲も就職しているー。
”家電人間”のようになった美咲をどうするかー。
そう、思いながらも、零児は”疲れた…”と、思いながら
「ー空気清浄機にでもなってろ」と、呟くと、
そのまま変形を始めた美咲を放置して、自分のベッドの方に向かって
歩き始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝ー
零児が目を覚ますー。
久しぶりに、学生時代の夢を見たー。
美咲と一緒に、楽しく笑い合いながら、
大学の食堂で何気ない昼休みを過ごすー。
そんな、夢だったー。
「ーーーーー」
零児が顔を横に向けると、
膝をついたまま、”空気清浄機”として、
普通の人間ではしないような感じの呼吸をしている
美咲の姿が目に入ったー
その顔に、笑顔はないー。
そんな美咲を見て、
零児は、再び美咲を”可哀そう”だと思ったー。
今度は、その感情がさらに膨らみー
思わず美咲に向かって「ごめんー」と呟くー。
自分でこんな風にしておいて、
今になって急に後悔の感情が
爆発しそうになるー
「ーわたしは空気清浄機ですー
空気を綺麗にするのが、お仕事ですー」
美咲の声ー
だが、その喋り方は、まるでロボットのようで、
何の感情も感じなかったー
「ーみ…美咲…も、もういいよーもうー」
零児がそう言うー。
だが、”もういいよ”という家電は存在しないからか、
美咲の身には何も起こらず、
「ー空気の清浄をいったんやめます」とだけ呟いたー。
「美咲ー」
零児は、たまらずスマホを手にすると、
慌てた様子で、友人の聡一に連絡したー
「あ、あのさ聡一…これってさー、あ、いや、まだ使ってないけど
仮に美咲を洗脳したりしてさ、
元に戻したいなぁ~って思ったら、戻すことはできるのか?」
零児がそう言うと、
聡一は笑いながら答えたー
”まぁ、できないことはないぜ”
とー。
「ーーーそ、その方法はー?」
零児が言うと、聡一は
”お前に2種類、薬を渡しただろ?
支配者側が飲む薬と、支配する側が飲む薬ー”
と、呟くー
「あぁ」
零児が頷くー。
”それを2種類同時に自分が飲んで、
家電にした相手にキスをすれば、
相手を元通りにすることができるんだー。
まぁ、2種類飲むと、子供の風邪ひいたときに飲む
シロップの風邪薬の不味い版みたいな味がして
きついから、おすすめはしないけどよ…”
聡一の言葉に、
零児は「そ、そっかー」と、呟くー。
”どんな味だよ”と、思いながらも零児は
”美咲を元に戻す方法”があること安堵したー。
例の薬は1回につき、容器の三分の1を使えばいいと
書かれていたため、まだ残っているー。
”まぁ、でも、基本は一度洗脳して家電にしたら
元に戻すなんてことはするなよ?
洗脳されていた人間には、操られていた間の記憶も
ある程度残るから、
大問題になるかもしれないからな”
「ーーわかった」
そう呟いて、少し雑談を交わしたあとに聡一との電話を終える零児ー。
零児は美咲のほうを見つめるー。
”謝ろう”
そう、思ったー
大切な彼女を”こんな姿”にしてしまって、
初めて気づいたー。
自分のしていることの恐ろしさにー。
自分のしていることが”悪魔の所業”であるとー。
何を言われるかは分からないし、
このままお別れになる可能性はとても高いー。
でも、それでも、零児は美咲に謝りたかったー。
聡一から受け取った二種類の薬を置いてある場所へと向かう零児ー。
”空気清浄機”にされて膝をついたまま、
生気のない目つきで、ずっと一点を見つめている美咲ー。
どんなに美咲との関係が悪化していても、
こんなことをするのは間違いだったー、と、
零児は自分の心の中で激しく後悔したー。
もう、学生の頃のような関係に
戻ることはできないだろう。
美咲から同棲の解消を持ち出されていたわけだし、
こんなことをしてしまった以上、
美咲が許してくれるはずもないー。
だが、零児は今回、自分がこんなことを
しでかしてしまって、初めて気づいたー。
”悪いのは、俺だったのかもしれない”
とー。
いや、”かも”ではない。
自分の方が悪かったのだー
”謝ろう、美咲にー”
結果がどのような結果になったとしても、
受け入れようー。
そう思いながら、零児は2種類の薬を
手にすると、美咲のほうを見つめたー。
「人間を、家電にするなんて狂ってるよー俺」
零児はそう呟くと、2種類の薬を
聡一に言われた通りに飲み干したー。
「ーーー……美咲」
聡一は、”子供の頃に飲んだ風邪薬のまずい版みたいな味がする”
と言っていたが、別にそんなことはなく、
むしろ、特に味は感じないー。
そんなことを思いながら、零児は美咲にキスをしたー
”たぶん、これが最後のキスだろうー”
きっと、美咲とは別れることになるー。
でも、俺は”この失敗”を糧に、成長していきたいー。
”ボキッ”
音が聞こえたー。
美咲が、家電人間になってしまった状態からー
人間に戻るー
そんな音がー
”ボキッ ボキッ ボキ ペキ”
人間から聞こえてはいけないような音が
何度も何度も響き渡るー
洗脳して”変形”してしまった美咲から
何度も聞こえていた音だー。
”美咲に、何て謝ろうかー”
正気を取り戻した美咲がどんな反応をするのか、
そのことに強い不安を感じながらー
「ーー!?」
零児は表情を歪めたー。
自分の身体から今まで感じたこともないような激痛と、妙な感覚を覚えたー。
「ーーえ?」
よくよく気付くと、ボキボキと音を立てていたのは
”美咲の身体”ではなく”自分の身体”だったー
「ーーえ…!?」
その直後、激しい痛みと、音がして、
身体全体が苦しくなるー
「ーーな…なんだ… これ… お、おい…」
零児は、今まで感じたことのない”激しい苦痛”を感じると同時にー、
自分の口が裂けるように、大口を勝手に開けてー、
口がボキッと、音を立てたのを感じたー
「ーーえ…こ、、、これって… 俺がーーー」
零児は慌ててスマホの方に手を伸ばそうとしたー
だがー
”べきっ”という音が自分から響いてー
零児の意識はその時点で途切れたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー」
後日ー
零児の友人、聡一が零児の部屋を訪れていたー。
「ーーーあ~~~あ…”やっちまった”のかー」
”空気清浄機”として膝をついたままの美咲が、
トイレにも行かず、その場でお漏らしをしているのか、
足元に水たまりを作っているー。
「ーーー」
聡一が視線をずらすと、そこには”人間洗濯機”のような状態になった
零児の姿があったー。
「ーー悪いな零児。2個同時に飲むのは”自らが家電人間になるための飲み方”だー。
お前が改心して、”俺から薬を貰った”なんて誰かに言い始めたら
困るからなー」
零児が、2個同時に薬を飲んだ時に”聡一から聞いた味”と違う味がしたのは
聡一はそもそも、そんなことしたことがなかったからー…
適当なことを言っていたからだー。
「ーーー人間を洗脳して、家電扱いするの、俺は楽しいけど、
お前は良心には、勝てなかったか」
聡一はニヤニヤしながらそう言うと、
”連絡の取れない友人の家に来たら、友人がこんな状態だった”と、
無関係の友人を装うために、”わざと”慌てた様子で警察に通報し、
アパートの管理人のところに駆け込んでいったー
おわり
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コメント
かなり人を選ぶ(と思う)お話でした~☆!
毎日お話を作っているので、
たまには限定的な方が喜ぶかもしれないお話も…☆!
お読み下さりありがとうございました~!
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