不登校で引きこもりになってしまっていた少女に
”憑依”して、女子高生ライフを堪能する男ー。
”優等生に変貌した涼香”に待ち受ける未来は…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
涼香の父・孝雄は、
一人、涼香のことを考えていたー。
涼香が急に学校に通い始めてから既に1か月以上が
経過したー。
最初は、涼香が再び生きる気力を取り戻してくれたことに、
喜びを感じながらも、
最近は”ある不安”も感じるようになっていたー。
”本当にあれは、涼香なのかー?”という疑問だー。
部屋に引きこもるようになってから1年以上ー。
確かに、その間に心境の変化があったのかもしれないし、
それだけ長い時間、娘とまともに接することも
できていなかった状況だから、
”前と違う”ように錯覚してしまうことはあるかもしれないー。
だが、とは言っても、孝雄は涼香の父親だ。
涼香が生まれてから、保育園、小学校、中学校と、
”引きこもる前の涼香”のことを良く知っているー。
”今までの涼香”と、
”引きこもりから出て来た涼香”が、
”同一人物”とは、とても思えないー。
「ーーー」
パソコンを前に、涼香の父・孝雄は表情を歪めていたー
”解離性同一性障害”
”思春期”
”脳の怪我”
”急に人の性格が変わる可能性のあること”を
孝雄は調べていたー。
だが、今回の場合、涼香が事故でけがをした、とか
そういうことは起きていないから、
それは候補から落ちるー。
「ーーー…」
孝雄は、パソコンの画面を見つめながら、
困惑の表情を浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー生徒会!?お姉ちゃんが!?」
妹の紗枝が、表情を歪めるー。
「ーうん!立候補したら、ほら!」
涼香が、笑いながら”生徒会会長”と書かれた
プリントを見せるー
「ーお姉ちゃんが生徒会会長!?!?!?」
妹の紗枝がさらに表情を歪めるー。
「ーーすごいじゃない~」
母親の結衣が微笑むー。
「ほんと、ついこの間まで学校にも行ってなかったなんて
思えないわ…」
結衣の言葉に、涼香は
「今までの分も頑張らなくちゃ、って」
と、照れくさそうに笑うー。
「ーーお姉ちゃんがせいとかいかいちょう…」
呆然とした様子の妹・紗枝ー。
いつの間にか、非のうちどころがないお姉ちゃんに
なってしまった涼香に対して、
聞こえないようにブツブツと文句を呟く紗枝ー。
そんな涼香に対して、母の結衣は
「あ、そうだ!今日、お父さんが帰ってきたら
涼香と話をしたいんだって!」と、
笑いながら言うー
「ーわたしと?」
涼香は少しだけ表情を曇らせながらも
「うん!わかった!」と言いながら部屋に戻っていくー
部屋に戻った涼香は
「ーー僕とお話ってー…」と、険しい表情を浮かべたー
”引きこもり”だったからこそー
”不登校”だったからこそー
学校でも家でも、”それなりに涼香”として振る舞えているー。
学校にはほとんど行ってなかったため、
”本当の涼香”のことを知らない人ばかりで、
”まるで転入生のように扱ってもらえて”
涼香が急に変貌したことには、誰も違和感を抱かなかったー。
家族も、そうー。
1年以上引きこもっていた娘の性格が変わっていても、
すぐには違和感を抱かれるようなことには、なりにくいー。
けれどー
「ーお父さんが、僕に…」
涼香は不安な表情を浮かべるー。
涼香に憑依した男は、
今や、涼香としての人生を満喫していたー。
元々、自分は”こんな風な人生”を送りたかったー。
勉強だって頑張りたかったし、
生徒会もやってみたかったー。
でも、自分は容姿のせいで、それができなかったー。
この世にはー
”生まれ持った容姿で、できないことが生まれてしまう人間”は、
いるー、と、彼はそう思っている。
だからー
今度はこの身体で、”自分が手にすることができなかった人生”を
手に入れたいー。
涼香に憑依するまでの人生は散々だったー。
だが、休日に家で、死んだ目をしながらネットを見ていた際にー
偶然、”あなたに最適な身体を斡旋します”というネット広告を見かけたのだー
”闇.net”と呼ばれる団体が運営する”肉体の斡旋システム”
”憑依”により、あなたに最適な身体を見つけ、紹介するというシステムを知った
男は、”絶対に嘘だろ”と思いつつも、
”どうせ僕の人生なんてゴミなんだ”と、ダメ元で、闇.nteの肉体斡旋システムを利用してみたー。
”憑依する側”と”憑依される側”
双方が傷つかず、”Win-Win”な関係になれることを追求したという
そのシステムを利用した男は、
闇.netの担当者から”数名の候補者”を紹介された。
植物人間状態の女性やー、
精神錯乱状態で再起不能の男性ーなど、
”奪われる側”にもそれなりの理由がある人間数名が並んでいたー。
そして、そのうちの一人が、男が今、憑依している涼香だったー。
年齢や、容姿、状況から一番”いい”と思った子が涼香だったー。
それだけのことだー。
”闇.net”なるものが何なのかは
男にはよく分からないー。
だが、こうして涼香になった男は、
涼香の身体で、”第2の人生”を堪能していたー。
別に、涼香自身を傷つけるつもりもないし、
涼香の家族を傷つけるつもりもないー。
「ーーー」
けれどー
”もし”
もしもー、
父親である孝雄が”娘が憑依されている”と
感付いたのだとしたらー?
そんなことは絶対にないー。
あり得ないー。
そう思いたいー。
けど、もしも自分が逆の立場だったらー?
”不登校だった自分の娘が憑依されて優等生になっている”と、
知ったらー、
もし自分だったらどうするだろうか。
そんなことを思い、考えているうちに、父・孝雄が帰宅したー。
「ーーお父さん、話って?」
孝雄の部屋を訪れる涼香ー。
「ーあぁ、いやー。大した事じゃないんだがー、
どうしても気になってなー」
孝雄が言うー。
「気になること…?」
涼香の表情が曇るー。
やはり、”憑依”に感付いているのだろうかー。
「ー涼香が今みたいに、ちゃんと学校に行って、
それだけじゃなくて、友達や彼氏も出来て、
成績も良くなってー。
本当に、涼香がこんな風に立ち直れて
よかったと思ってるし、母さんも、父さんも喜んでるー。
でもー
一つだけ、どうしても気になるんだー」
孝雄は、そこまで言うと
「ーーー本当に、涼香なんだよなー?」
と、涼香のほうを真剣なまなざしで見つけながら呟いたー。
「ーーー……」
涼香は一瞬ドキッとしたー。
”絶対に見られてはいけない秘密を見られてしまった”
そんな感じの、血の気が引いていくような感じ…
それを味わったー
「ーーな、な…何を言ってるの…、お父さんー
わたしは…わたしだよ?」
涼香は激しい動揺を悟られないように、そう呟くとー
「ーいや、それならいいんだー。
急に変なことを聞いて、すまないー」と、
父・孝雄は頭を下げたー。
「ーーもしもーー
”誰か”が、涼香を守るために、涼香の代わりをやってるんだったらー
お礼とお詫びをしないといけないー
そんな風に思ってさー」
孝雄は、そこまで言うと改めて涼香に謝るー。
「ー急な変化すぎて、嬉しいんだけど、戸惑っちゃってなー。」
そう言いながら笑う孝雄ー。
孝雄の部屋に置かれているパソコンには
”多重人格”と書かれた画面が表示されていたー。
父の孝雄は、娘の中に別人格が生まれた可能性でも
考えていたのだろうかー。
”ふぅー…”
その画面と、孝雄の反応を見て、涼香は静かにため息をついたー。
少なくともー…
”娘の涼香が憑依されている”と、気づいたわけでは
無さそうだー。
「ーー確かに急に変わったかもしれないけどー…
そろそろ、ちゃんとやらなくちゃ、って思っただけだから、心配しないでー」
涼香はそれだけ言うと、孝雄は「そっか」と、微笑むー。
「ーあんま、無理しすぎるなよ?
学校に復帰したのも、ついこの間なんだし、
急に頑張りすぎると、また潰れちゃうかもしれないからー」
父・孝雄のそんな言葉に、涼香は「うん。ありがとうー」と、
言いながら、自宅の部屋に戻ったー。
「ーーもしもーー
”誰か”が、涼香を守るために、涼香の代わりをやってるんだったらー
お礼とお詫びをしないといけないー
そんな風に思ってさー」
そんな父の言葉を思い出すー。
「僕は別にー…
娘さんを守ってるわけじゃないんだけどなー」
涼香本人は、”いい”と言っていたー。
だから、悪いことをしてるわけじゃー…ない。
でもーーー
なんとなく複雑な気持ちになった涼香ー。
けれどー
それでもやっぱり、ようやく手に入れたこの身体ー
この幸せー
もう、放したくないー。
涼香は、学校でも、家でも、充実した日々を送っていくー。
成績はみるみる上がり、
彼氏の卓とも楽しい日々を過ごしたー
”元男”の自分だが、恋愛経験がなかったからかー、
それとも涼香としてしばらくの期間を過ごしたからか、
次第に、本当に卓のことを大切に思うことができるようになったー。
生徒会長としての仕事も充実し、
両親は、涼香の変貌を喜んだー。
だがー
「ーーーー紗枝?」
ある日の夜ー。
妹の紗枝が部屋に入ってきたー。
「ーーーーいい加減にしてー」
紗枝がそう呟くー。
「ーーな、何がー?」
涼香に憑依している彼は、一瞬”憑依がバレたのか?”と、
困惑するー。
しかし、そうではなかったー
「ーブスのくせに!引きこもりのくせに!不登校のくせに!!!!
これ以上、調子に乗らないで!」
そう叫んだ紗枝の手には、鋭い刃のハサミが握られていたー。
「ーちょっ!?えっ!?」
涼香が声を上げると、紗枝は”殺す気”で、
涼香に突進してくるー
涼香は決してブスではないー。
涼香に憑依した彼からすればとても可愛らしいし、
妹の紗枝が言う”ブス”は、見た目のことではなく、
何らかの憎しみ・嫉妬からの悪口なのだろうー。
「ーー何なの!?ちょっと!やめて!」
涼香は必死に抵抗しようとするー
紗枝の強い殺意ー。
涼香は、必死に紗枝を抑え込もうとしたー。
しかしー
紗枝に押し倒されて、紗枝は涼香の首にハサミを
突き立てようとするー。
ハサミと言えどー、首に思いっきり突き立てられたらー
少なくとも、無事では済まないー。
「ーちょっと!やめてよ!何なの!」
涼香が必死に叫ぶー。
「ーー今まで散々引きこもってたくせに!
部屋から出て来たと思ったら
みんなにチヤホヤされてー!
気に入らない!!!ほんと気に入らない!!
あんたなんか…消えちゃえ!」
紗枝の言葉に、涼香は「こんなことしたら…紗枝だって!」と、
必死に叫ぶー
「ーあんたが消えれば、それでいいの!
ふふ…ふふふふふふ!
お姉ちゃん、死んで♡」
紗枝が笑うー。
「やめろっ!!やめろ!」
涼香は必死に叫んだー。
”この手に入れた人生を手放したくないー”
そう、思ったー
「ーーもしもーー
”誰か”が、涼香を守るために、涼香の代わりをやってるんだったらー
お礼とお詫びをしないといけないー
そんな風に思ってさー」
父に言われた言葉を思い出したー
”自分のため”ー?
”涼香のため”ー?
それとも、”父のため”ー?
分からなかったー。
だが、涼香の身体を守るためにー
男は、咄嗟に行動に出たー
闇.netで斡旋システムを利用した際に
言われた言葉を思い出すー。
”本サービスでは、一度憑依したら抜け出すことはできませんー。
強引に抜け出すこともできますが、
霊体になったあとの憑依と、憑依からの離脱は
あなた自身に大きな負担となりますー。
無理に身体から抜け出せば、あなた自身がそれに耐えられず
何が起こるか分かりません。
最悪は、消える…
つまり”副作用”が起きますー。
そのことを忘れないようにして下さいー”
彼は、そう言われていたー。
だがー
それでもー
「ーーー!?!?!?!?!?」
涼香の身体が倒れ込んで、紗枝が表情を歪めるー。
「ーやめろおおおおっ!」
涼香から飛び出した、涼香に憑依していた男はー
紗枝を抑え込んでー
紗枝のハサミを蹴り飛ばすとー
驚く紗枝を無視して、
そのまま倒れ込んだ涼香のほうを見つめたー。
「ーーーーよかったー」
身体から力が抜けていくー
これで、よかったのだろうかー。
正気を取り戻した涼香はどうなるー?
このあと、紗枝が再びハサミを拾って涼香を刺したらどうなるー?
僕の幸せは、どうなるー?
だがー
闇.netから言われた通り、自分の肉体が限界を迎えたのかー
そのまま意識は薄れー、
紗枝の目の前で、彼は光の雫となって、そのまま消えていったー。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー!!!!!」
彼は、目を覚ましたー。
そこはー
あまり見慣れない天井ー
”ここが、天国かー”
彼は、そう思ったー。
死後の世界があるとは思っていなかったけどー
あるんだなぁ…
”いや、僕の場合は、地獄か”
そう思いながら起き上がるとー
「あれ?」
彼は呟いたー。
”この部屋で”寝たことがなかったから
一瞬、天井を見慣れない天井だと感じたがー
よく考えたら
ここはーー
「ーー妹の…部屋?」
そう呟く彼の声は”女の声”だったー。
「ーーーえ」
鏡を見つめた彼はー
自分が、涼香を一方的に憎んでいた妹・紗枝の身体になっていることに気付いたー
「ーーーえ……」
「ーーーーえぇっ!?」
消えたと思った彼はー
何のはずみか、
今度は、妹の紗枝の方に憑依してしまったのだったー。
しかもーー
「ーー!!!」
今度は、身体から抜け出すこともできなかったー。
「ーー!?!?!?!?!?!?」
闇.netが言う”副作用”で、近くにいた妹の方に
憑依してしまい、しかも抜け出せない状況になってしまったのだろうかー。
「ーーーーー」
”この子は、僕に身体を奪われることになるなんて、夢にも思わなかっただろうなー”
そんな風に思いながら
紗枝としての”第2の優等生ライフ”が今日、始まったのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
今度は妹のほうに憑依してしまいました…!
姉を一方的に嫌っていた彼女も
まさか、こんなことになってしまうとは
夢にも思ってなかったでしょうネ~…!
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
紗枝は性格悪いどころか、一方的な妬みから実の姉を殺そうとするなんて、正気とは思えません。仮に殺せてもあんな直接的なやり方では殺人犯になって人生おしまいでしょうに。その愚かな行動の結果、身体を奪われても因果応報、自業自得としか言い様がないですね。ざまあ(笑)という気分です。
憑依人はまた新しい人生がスタート出来たみたいですけど、涼香はどうなったんでしょう?
憑依人が抜けたなら、元の引きこもりになるでしょうから、両親や周囲を困惑させるでしょうね。
そして今度は同時期に妹の紗枝が変わって優等生になるとしたら、両親に変に思われないですかね?
まあ、紗枝なら引きこもりの涼香程の豹変という事にはならなそうだからなんとかなるかな?
この後の続きがとても気になります。続編の予定はありますか?
コメントありがとうございます~!☆
解放された涼香は、
憑依されていた間の意識があったかどうかによっても
この後が変わってきそうですネ~!
続編については…当初の予定はここで完結だったので、
まだ今の時点では”未定”デス~!
でも、書こうと思えば書くことはできそうな気もします…★
なんか父親のお礼とお詫びをしないという台詞が不穏な響きに聞こえます。
もし別人が娘に成り済ましてるのだとしたら、ただじゃ済まさないと釘を差してるみたいで。考えすぎですかね?
それにしても、この話の憑依人は少し想像力とか思慮が足りてない気がしますね。
確かに引きこもりで友人とかがいない相手に成り済ますのは色々やりやすいけど、家族を欺くには急激すぎる変化はご法度ですよ。引きこもりの不登校からすぐ登校、じゃなくて、もっとゆっくり時間をかけて、少しずつ立ち直っていくみたいな演出が必要だったかと思います。実際、余りにも変化が急激で激しすぎるせいで、少なからず両親に疑惑を抱かれちゃってますし。学校で生徒会長になったりとか、派手に活躍してるのも疑惑の元になるので危ないですよね。頑張るのはいいことですが、もっと自重した方が懸命です。
そういう思慮の足りなさでは憑依人の紗枝としての新生活も非常に危ぶまれますね。
ただでさえ、紗枝は姉と違って、引きこもりの不登校でもなければ、交友関係も普通にあるので成り済ます難易度は涼香より上だというのに。あと、もし憑依から解放された涼香に憑依中の記憶があったりでもしたら、正体を見抜かれそうでヤバそうですよね。
ありがとうございます~!☆
父親については…今は詳しくお話しないようにしておきます~笑
今回の憑依人は、ずっと苦しい日々を過ごしてきて、
もう我慢の限界みたいな状態になっていることと、
涼香が高校生でいられる時間には限りがあるので、
結果的に急激な変化をした、という感じですネ~!