<入れ替わり>わたしは物語の中に ~また、あの世界へ~ 最終章

物語の中の登場人物との入れ替わりー…

予想外の出来事から始まった
”新たな物語”は、
ついに終章を迎えるー。

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「ははははははは!!!敗北の過去などいらぬ!」

加奈(オディロン)は自宅で”本”を燃やし、
嬉しそうに笑っていたー。

加奈と入れ替わって現実世界にやってきた騎士・オディロンは、
加奈の部屋に置かれていた”本”を見たー。

そこには、オディロンがいた世界の出来事が
記されていたー

”結末”の部分までー。

そこで、オディロンは自らの運命も知ったー。

だが、加奈になったオディロンは、
”自分がいた世界が本の中の世界”だとは夢にも思わずに、
これは”過去の出来事が記された本”だと勘違いしー、
さらには加奈になったオディロンは、
自分は”未来の世界に女として転生した”と思い込み、
”本”に火を放ったのだー。

「ーークククー…まさか未来の世界に
 やってこれるとはな…!」

普段、穏やかな表情を浮かべていることがほとんどの加奈の顔を、
こんなに歪むのか、と思ってしまうぐらいに歪めて
嬉しそうに笑う加奈(オディロン)ー。

だが、オディロンは知らないー。
自分がいるのは未来の世界などではなく、
”本の外の世界”であることをー。

そして、オディロンは、
”自分のいた世界”を焼き尽くそうとしてしまっていることをー。

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大地が焼け、空が焼け、全てが燃えていくー。

”街が炎に包まれた”
そういう状況ではない。

”何も建造物がないはずの空”まで炎を上げていて、
まさに、”世界の終末”と言える、そんな光景が広がっているー。

「ーーこの先だー」
エミールが、王宮から少し離れた寂れた場所にやって来るー。

当然、ここも炎に包まれつつあるー。

”世界”そのものが燃えているー。

「ーーエミール様…ここに何が?」
オディロン(加奈)が焦りながら言うと、
エミールは言ったー。

「ーここは”禁忌の地”として立ち入りを禁止されている場所だー。」
エミールの言葉に、オディロン(加奈)は「えぇっ!?」と声を上げるー。

「ーー小さいころ、俺とリゼット姫がここに一緒に遊びに来たことがあってなー。
 その時に見たんだー
 ”世界の亀裂”と呼ばれる場所をー」

エミールは”世界の亀裂”こそが、”この世界の出口なのではないか”と、
オディロン(加奈)に言い放つー。

「世界の亀裂ー」
オディロン(加奈)はそこまで呟いてハッとしたー。

そういえばー…
加奈の持っているこの物語が描かれた本の表紙にー
”破れてしまった箇所”があることを思い出したー。

本棚にしまおうとして、引っかけてしまい、
”破れてしまった”場所がー。

そしてー
”世界の亀裂”と呼ばれる場所に案内されたオディロン(加奈)は
表情を歪めたー

”亀裂の形”がー
”破れた表紙”と同じだったのだー。

「ーー……」
ココに飛び込めばー、
本の外に、出ることが、できるかもしれないー。

「ーーーーでも、エミール様は!?」
オディロン(加奈)が叫ぶと、
エミールは首を横に振ったー

「ーたとえ、この世界が本の中の世界でも、
 俺は、この世界で生まれ、この世界で育ったー。
 
 俺のいるべき場所は、ここだー」

エミールが言うと、エミールは少しだけ考えてから
いつも携えている剣につけていた小さな石のようなものを
剣から外して、それをオディロン(加奈)に手渡したー

「ーこれは…?」
オディロン(加奈)が寂しそうに言うと、
「ー小さいころ、姫様ー…リゼット姫が作ってくれた
 手作りのお守りさー。
 子供の頃の手作りだからー
 決して綺麗じゃないけどー…
 それを、君に託すー」
と、エミールは言い放ったー

「ーさぁ行くんだー
 俺が、本の中の登場人物だとしてもー
 こうして、君を助けることができて、誇りに思うー。

 俺は”人”を助けるために騎士になったんだからー」

エミールの言葉に、オディロン(加奈)は寂しそうに、
炎に包まれた空を見上げるー。

その時だったー

「ーーーがっ…!」
エミールは突然身体に衝撃を感じて、
振り返るー。

背後にはー
魔界呪術師のゼドと、洗脳されたままのリゼット姫の姿があったー。

「ーーー死ねー」
リゼット姫が冷たい口調で、エミールを刺した剣を抜くー。

「エミール様!」
オディロン(加奈)が叫ぶー

「行け!早く!」
エミールが再び叫ぶー。

「ーーーで、でもー」
オディロン(加奈)が叫び返すー

「行け!行くんだ!!!!!
 早く!!!」

それでも戸惑うオディロン(加奈)ー

「頼む!行ってくれ!!!!!
 加奈!!!!!!!!!」

エミールの必死の叫び声に、
オディロン(加奈)は、目に涙を浮かべながら、
「ーーエミール様…どうかご無事でー」と、
言い放ち、そのまま”世界の亀裂”へと飛び込んだー。

「ーーーーエミール様ー」
亀裂に向かって落下していく身体ー

最後にー
エミールは、自分の名前を呼んでくれたー。

そんな風に思いながら、
オディロン(加奈)は、身体に似合わぬ涙をこぼしたー。

「ーーーその先に何がある?」
魔界呪術師・ゼドが笑みを浮かべるー。

「ーーーー」
洗脳されたリゼット姫は、ゼドの横で意思のない人形のように
立ち尽くしたままー。

「知っていたとしても、教えるものかー」
エミールがそう言いながら、炎に包まれた空を見上げながら
剣を構えるー

魔界呪術師・ゼドはそんなエミールを見て
静かに笑みを浮かべると、何度か頷いてから、
エミールを睨みつけたー。

「そんなに死に急ぎたいかー。よかろうー」
ゼドは左手から黒い瘴気のようなものを発すると
禍々しい見た目の本を出現させて、
エミールを鋭い目つきで見つめるー。

「ー我が暗黒魔法の力をとくとみるが良いー」

魔界呪術師・ゼドの言葉に、エミールは意を決して
剣を握りしめてゼドの方に向かったー。

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「ーーーさて…未来の世界はどのようになっているのかー」

現実世界ー
加奈(オディロン)は笑みを浮かべながら
自分の髪を触るー。

「しかしまさかこの私が女になるとはなー」
加奈(オディロン)は困惑した様子を見せながらも
「それもまた一興ー…まずはー」
と、自分の胸のあたりに手を触れて
不気味な笑みを浮かべるー

”騎士長のひとり”という立場を利用して
あの世界では、女遊びも頻繁にしていたオディロンは
「まずは、この私の新しい肉体を存分に堪能しなければな」
と、服を脱ごうとし始めるー。

だがー
その時だったー

「ーー!?」

流し台のところで、火をつけた本が、炎だけではなくー
光を発し始めたー

「ーな、なんだー!?」
服を脱ごうとしていた加奈(オディロン)は驚いた表情を浮かべながら
炎に包まれた本の方に近付くー

そしてー
その瞬間、部屋を包み込むほどの大きな光が放たれて、
加奈の身体はその場に倒れ込んだー

ーーーーー

ーーーーーーーー

しばらくの沈黙ー。

やがて、「う…」と声を上がって起き上がった加奈は
寂しそうな表情を浮かべてからー、
台所の流し台で燃えている本の方を見て
「ーーエミール様…!」慌てて本の炎を消し始めたー。

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「ーーーはぁ…はぁ…」
エミールが燃え盛る世界の中、険しい表情で相手を睨むー

「ーーバカな…この…私が…」
本をバサッと地面に落とし、膝から崩れ落ちるようにして
魔界呪術師のゼドがその場に倒れ込むー。

”本来の物語”では、ラスボスだったゼド。
しかし、ゼドは”本拠地”である魔界城からエネルギーを得ることで
より強力な力を発揮するキャラであったため、
魔界城から離れたこの場所で戦ったことによりー、
”原作通り”の力を発揮することなく、エミールによって
葬られたー。

だが、それでもゼドは強い。
ボロボロになったエミールは、燃える世界の中、
その場に座り込むー。

そして、ゼドが死んだことにより、意識を失って倒れた
洗脳されていたリゼットの方に、苦しそうにしながら
近付いていくー。

そこにー

「ーー!?!?!?!?」
オディロンが突然、”亀裂”から飛び出すようにして
この世界に戻ってきたー。

加奈と再び入れ替わったオディロンは、燃える世界を見て
混乱したー

「ーな…私は再び過去にー!?」
唖然とするオディロン。

ボロボロのエミールが近くに座り込んでいるのを見て、
オディロンは笑みを浮かべるー。

「ーなんだ…何が起きているー?

炎に包まれた世界ー
王宮の方角だけではなく、世界そのものが燃えているー。

オディロンが、その状況を理解することはできなかったー。

”さっきまで、私は女になっていたはずだがー?”

自分は”未来”の世界にいたはずー。
なのに、何故また”過去”にー?

オディロンは、そう考えるー。

実際には未来に行ったわけでも、過去に戻ったわけもないー。
だが、彼に現在の状況を理解することはできなかったー

”エミール…貴様は、よくも私に恥をかかせてくれたなー”

元々エミールを敵視していたオディロンは、
そう思いながら、剣を手に、エミールの方に近付こうとしたー。

だがー

「ぐぼぁっ!?!?!?」
背後から突然鋭い痛みを感じて、
何が起きているのか理解できないまま、
オディロンはその場で絶命したー。

倒れたオディロンの背後から、
騎士長の一人・ベランジェと、
以前、加奈と入れ替わっていた山賊・ガストンが姿を現すー。

苦しそうに、エミールはベランジェとガストンを見つめるー。

「ー聞いたよー。
 ”この世界”は、本の中の世界なんだって?」
騎士・ベランジェの言葉に、
エミールは「ベランジェ…」と、表情を歪めながら
ベランジェを見つめるー。

「ーー”そこ”が、出口かな?」
ベランジェはエミールの背後にある”裂け目”の方向を
指差しながら笑みを浮かべるー

ガストンはニヤッと、笑うと
「ーー俺は一度”この世界の外”に出たんだー
 間違いねぇ」と、呟いたー

ガストンは、加奈と入れ替わっていた時のことを
ベランジェに全て話しー、
その見返りとしてベランジェに解放されたー

世界を包む炎を見つめながら、ベランジェは
「ー外の世界があるのであれば、私はそれを見てみたいー」と
笑みを浮かべるー。

魔物と内通していたベランジェー。

だが、今の彼にとっては、もうそんなことは
どうでもよかったー

この世界が本の中なら、その、外に出てみたいー。

「ーーーくっ…」
エミールは苦しそうにしながら立ち上がるー。

既に身体はボロボロー

だがー。

「ーー私に外の世界を見せるのだ!」
ベランジェはそう言うと、突然、紫色に光る剣で、
目の前にいた山賊のガストンを斬りつけたー

「なっーー…」
ガストンは、そのまま剣に吸い込まれるようにして
消滅してしまうー

「ーー王国の情報を魔王に提供する代わりに
 魔王から授かったこの剣で、エミール、
 お前を楽にしてやるー」

ベランジェが笑みを浮かべるー。

エミールはよろめきながらも、
”こいつを、加奈の世界に行かせるわけにはいかないー”と、
この場を守る決意をするー

世界が、全て炎に包まれていく中ー
エミールは”これが、俺の最後の戦いだ”と、
ベランジェに向かって、剣を向けたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

1週間後ー。

加奈は、寂しそうに書店で、
”あの物語”が描かれた本を見つめていたー

結局、どうして本の世界の登場人物と
”入れ替わり”などということが起きたのかは分からないー。

でもー
あれは、確かに現実だったー。

「ーーーーー」
”この本”の中にもエミールたちはいるー。

でもー
”あの本”の中にいたエミールと、この本にいるエミールは
違うエミールのなのかもしれないー。

”あの時”
一緒に行動したエミールはーーー

「ーーー…」
帰宅した加奈は、寂しそうに”ボロボロになった本”を見つめたー。

オディロンと再び入れ替わって、
元に戻ったあと、
加奈は、炎に包まれた本を、流し台の蛇口をひねって、
とにかく火を消したー。

だがー
水浸しになったその本はー
もう、読める状態ではなかったー。

「ーーーーーー」
加奈は、”あなたは、わたしの命の恩人ー”と、
そう呟きながら、少しだけ笑みを浮かべたー

「そうだー…亜樹美に謝らないとー」

入れ替わっている間、オディロンが加奈の身体で
亜樹美に何かしたらしく、親友の亜樹美はずっと怒っているー。

加奈は困惑しながらも、
ひたすら、亜樹美にお詫びのメッセージを送りながら、
”信じてもらえないかもしれないけれどー”と、
自分の身に起きていた出来事を話し始めたー。

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

「ーーー必ずー…みんなが幸せに暮らせる世界を、俺は作るよー」

エミールは、炎と水で壊滅状態となった王宮の復興を見届けながら
静かにそう呟いたー

あの時、炎に包まれて、完全に全てが燃え尽きる直前ー
突然、空から、これまで見たこともないような豪雨が降り注いだー。

世界を焼き尽くそうとしていた炎は消えていきー、
あまりの水の勢いに驚いたベランジェを、
エミールは最後の力を振り絞って葬り去ったー

結局、炎は全て消え、
世界は水没しかけたもののー
”滅ぶ”ことはなく、こうして、今、復興が進んでいたー。

「ーーきっと、お前が助けてくれたんだろうなー」

エミールは空を見上げながら
静かに呟いたー

「ーここが本の中の世界だとしても、そんなこと関係ないー。
 俺にとっては、ここが自分の住む世界なのだからー」

おわり

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コメント

”わたしは物語の中で”の完結編でした~!
もともとの本編より長い5話構成になったので、
いつも以上に、ゆっくりと展開を進めることができました~!☆

普段はあまりここまで長いものは書きませんが、
また機会があれば(土曜日の枠になる可能性が高いですケド)
チャレンジしたいと思います~!

ここまでお読み下さり、ありがとうございました~!

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