彼女が交通事故に遭い、記憶喪失ー!
しかし、それは彼女に憑依した男の”陰謀”だったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー咲(さき)が、また風邪ひいちゃってね~」
とある高校の昼休みー
男子高校生の勝谷 秀雄(かつや ひでお)は、
彼女の堀崎 澪(ほりさき みお)と、廊下を歩きながら話していたー
咲とは、澪の妹のことで、病弱な体質であることから
よく体調を崩しているー。
「ーーあ~、それで朝からずっと暗い感じなんだな~」
秀雄が言うと、澪は「あ、わかっちゃう?」と、苦笑いするー。
澪はとても明るく、優しい性格なのだが、
妹の咲を溺愛していて、咲が体調を崩すたびに
露骨に元気がなくなるため、
クラスメイトたちも”あっ…”とすぐに悟るぐらいにはなっているー
「ーーーでもいいよなぁ~」
秀雄がそう言うと、澪が少し表情を曇らせるー
「あ、いや、妹が体調を崩すのがって意味じゃないぞ?」
秀雄はすぐにそう付け加えた上で、言葉を続けるー。
「ほら、俺にも妹がいるけど、
俺、妹に嫌われてるしー
なんだか、そんな風に仲良しなのいいよなぁ~って」
秀雄の言葉に、澪は「でも、秀雄だって、妹さんのこと大事にしてるでしょ?」と
澪が言うと、秀雄は「ま、まぁ…あんなでも可愛いっちゃ可愛いしー」と
照れくさそうに微笑んだー。
そんな、”いつものような”日常ー
しかしー
”いつものような日常”は、当たり前のものではないー。
何か一つー、
何かたった一つだけでも、”非日常への入口”は開き、
非日常が”いつもの日常”になってしまうー
下校中ー
秀雄と澪が一緒に歩いていた際にー
秀雄と澪の”いつもの日常”は終わったー
「ーーー!?!?!?」
歩道を歩いていた二人ー。
だがー、
背後から一直線に車が二人の歩いている場所に向かって
猛スピードで走ってきていることにー
咲に秀雄が気づいたー。
「ーーー澪!」
秀雄は咄嗟に澪を庇おうとしたー。
「ーーえっ!? あっ」
澪も背後を振り返り、暴走した車に気付くー
秀雄は、迷わず澪を突き飛ばそうとするー。
”自分のこと”を顧みずにー
本能的に、澪を守ろうと、そう思った秀雄の
咄嗟の行動だったー。
しかしー
そんな秀雄を、澪が逆に突き飛ばしたー。
それと同時に激しい音と、振動が秀雄を襲うー。
至近距離で、車は近くの建物に激突に、
あまりの衝撃に秀雄は意識を失うのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー澪ー…」
意識がない中でも、秀雄はただただ、澪の無事を祈るー。
澪とは、小学生の時からお互いのことを
知っている間柄だー。
今は恋人同士であるものの、
幼馴染でもあり、親友でもあり、まるでお姉さんのようでもある
大切な存在だったー
事実、秀雄の妹、百恵(ももえ)は、
秀雄のことは嫌っていても、秀雄の彼女・百恵のことは
姉のように慕っていて、
よく”兄が迷惑かけてませんか?”とか、そんなことを
言っていたー。
「ーーーー澪…!… 澪!」
秀雄が、暗闇の中で、澪の名前を叫びー
目を覚ました時には、
病院の天井が、目に入ったー。
「ーーお…俺…」
秀雄が言うと、病院の看護師がすぐに駆け付けて来て、
「ーー分かりますか?」と、秀雄の状態を確認したー。
秀雄は、暴走した車の事故に巻き込まれたこと、
強い衝撃で一時的に気を失った状態で搬送されたものの、
幸い、怪我は大したことがないこと、
念のため、脳の検査を行ったものの、異常はなかったことから
少し安静にしたらすぐに退院できることなどを教えてくれたー
「ーそ、それでー…澪…、え、えっと、
一緒にいた子はー…」
秀雄が一番聞きたかったことを口にするー
澪のほうも、幸い、車の直撃は免れていたものの、
秀雄以上に強い衝撃を受けていて、現在はまだ目覚めていない、
とのことだったー。
「ーでも、大丈夫ですよー。
命に別状はありませんからー」
看護師の言葉に、秀雄は安心しながらも、
澪が早く目覚めることを祈ることしかできなかったー。
それから数日後ー
秀雄は既に退院し、学校に復帰したもののー
澪はまだ、意識不明の状態だったー。
頭に強い衝撃が加わったことによる
ダメージが、大きいのだと、病院の先生たちは説明していたー。
一方、交通事故を起こした暴走車を運転していた男は、
津川 守(つがわ まもる)という男で、
その守は、事故を起こした際に、運転席で泡を吹いて死亡していたのだと言うー。
外傷はなかったものの、
”事故直前に何らかの異常”が起きて、
急死した可能性が高い、という話だったー。
秀雄は、事故の時のことを思い出すー。
確かにー
車は”全くブレーキを踏む様子もなく”
秀雄と澪めがけて突っ込んできたー。
あの動きはー
確かに直前に、”何か”があったと考えるべきだろうー。
心臓発作か、脳の病気かー
あの突っ込んできた時点で、津川守という人間は、
もう、意識を失っていたのかもしれないー。
そう考えると秀雄は、津川守に対して複雑な感情を
抱くことはしても、どうしても憎むことはできなかったー。
持病もなかったというし、その男は、
あの事故を起こす直前まで、自分と同じように
普通に生活をしていたのだろうからー。
♪~~
その時だったー
学校からの下校中にスマホに連絡が入るー。
”澪のお母さん”
そう書かれているー。
「ーー…もしもし?あ、はいー。」
秀雄と澪は幼馴染であることから
互いの両親のこともよく知っているー。
そのため、こうして澪の母親が秀雄に電話をかけて来たのだったー
”ーー秀雄くん?
澪が、澪がさっき目を覚ましてー”
澪の母親の言葉に”ほんとですか!?”と
嬉しそうに声を上げる秀雄ー
”ええ…でもー…”
澪の母親の言葉に、秀雄は「何かあったんですか?」と
不安そうに聞き返すー。
”そのー……記憶が、はっきりしないみたいでー”
澪の母親の言葉に、強い不安を感じながら
秀雄は「今、ちょうど学校が終わったところなので、
すぐに向かいます!」と言いながら電話を切った。
秀雄は走ったー
ただ、ひたすらにー。
人生で、こんなにも全力疾走をしたのは、
もしかしたら初めてだったかもしれないー。
そんなことを思いながら秀雄が、澪の病室に駆け込むとー
澪は病室のベッドの上で身体を起こした状態で、
窓のほうを見つめていたー
「み…澪ー!」
秀雄が言うと、振り返った澪は、表情を変えないままー
「ーーー…あ…あのー」と、申し訳なさそうに言葉を呟いたー
澪の母親に会釈をしながら、秀雄が澪の方に近付いていくと
澪は秀雄のほうを見て、
申し訳なさそうに言葉を続けたー
「ーあ…あの…すみませんー…
その…わたし、記憶がハッキリしないみたいでー」
澪の言葉に秀雄は「お…俺のことも、分からない…?」と、
澪に確認するー
澪は「ごめんなさいー」と頷くと、
秀雄は強い衝撃を受けながらも
「ーーま…まぁ、仕方ないさーと、とにかく無事でよかった」と、
なるべくそのショックを表に出さないように言い放ったー
自分の自己紹介をする秀雄ー
「ーーー…そう…なんですねー
わたしの彼氏ー…
ごめんなさい…思い出せなくて」
澪の言葉に、秀雄は
「いいよ。焦らなくてー。ゆっくり思い出せればいいと思うし。
まずは無事で本当によかった」と、澪に言い放つー
”まるで他人行儀のような澪の言葉遣い”にも
本当は凄いショックを受けていたけれどー
それでも澪を不安にしないために、秀雄はそう言い放ったー
「ーありがとうございますー。
優しいんですね…」
澪はそれだけ言うと、「少し疲れましたー…」とだけ言って
ベッドの上で横たわるー
「ーーあの…お母さん…
少し、休んでもいいですか?」
母親に対してもそう言い放つ澪を見て、
秀雄は何とも言えない脱力感を感じると、
澪の母親と共に、退出したー
病室の扉が閉まるー
澪はニヤッと笑みを浮かべるとー
静かに「ーー作戦成功ー」と、不気味な笑みを浮かべたー。
そうー
これは”作戦”ー
男が、”澪の身体を手に入れるための”作戦だったのだー
車を運転していた男・津川 守は”わざと”澪に突っ込んだー。
30代後半の津川守は、ありきたりな毎日に嫌気が刺していて、
そんなある日、ネットで憑依薬と出会ったー。
そしてー
守は”他人の身体を奪うこと”に決めた。
一時的に乗っ取った身体で遊ぶのではなく、
乗っ取った身体で、人生そのものを奪い、
その身体で生活していくつもりだったー。
守の実の姉が”女”という立場を悪用して、
”人生、チョロすぎ!”と笑っているような人間で、
守はそういった人が身近にいたことからも、
”女子の身体を乗っ取って、人生をやり直したい”と
そう思っていたー。
欲望と快楽の人生をー。
だがー
一つ問題があったー。
例えば、女子高生の身体を乗っ取れば、
”急にその子として振る舞う”のは困難だー。
急に乗っ取った少女の性格や振る舞いが変わり、
友達や家族の名前も分からないー
という状況になれば、周囲から不審に思われるだろうー。
かと言って、憑依前にプライベートレベルの情報まで
探るのは難しいし、
赤ちゃんに憑依すれば、成長するまでに時間がかかり、
これまた面倒臭いー。
さらに、赤ちゃんに憑依した場合、どんな容姿に成長するかもわからないー。
守の資金力では、憑依薬の購入は1本が限界だったー。
故に、やり直しは効かないー。
そんな彼が考えたのが”記憶喪失になること”だったー。
厳密に言えば、”記憶喪失になったフリー”
街中で”乗っ取る身体”を物色し、澪にターゲットを定めた守は、
”澪が、交通事故に巻き込まれて記憶喪失になった”という状況を
創り出すためー
車で自ら、澪と秀雄の方に向かって突進したー。
車を澪たちの方に走らせてアクセルを踏みー
そのタイミングで口に含んでいた憑依薬を飲み込みー、
身体から抜けるー
抜け殻になった守の身体ー
だが、車はもう止まらないー
あの時ー
車に追突される直前の澪に、憑依した守ー
「ーーー澪!」
と、澪を庇おうとした秀雄ー
「ーーえっ!? あっ」
その直後ー、このタイミングで守は澪に憑依したー。
そしてー
”余計なことすんじゃねぇよー”
と、思いながら、澪を突き飛ばして助けようとした秀雄を
逆に突き飛ばしてー
自ら車に追突されたー。
”賭け”でもあったー。
”死なない程度”に、追突ー
車のアクセルの加減や、
澪に憑依した直後の態勢などで
”あとは、澪が死なないこと”を祈ったー
もしも澪に憑依した直後、事故で澪が死んでしまったとしたらー
自分も恐らく死ぬのだろうー。
だが、それならそれでどうせもう、思い残すことはないー。
けれどー
結果ー、守は、”賭け”に勝利したー。
澪は頭を打ち付けてしまったものの、
命に別状はなく、後遺症もなくー、
”記憶喪失にになったこと”を演出するのに最高の結果となったー。
守自身の身体は死亡ー
”運転中に急病で死亡していた”と判断され
世間的に”元自分”の印象も、最悪のものにはならなかったー。
実際には急病ではなく、憑依薬を飲んで抜け殻に
なっていたのだがー。
ちゃんと、憑依薬の容器が車内に残ったりしないように、
守は車に乗る前に憑依薬を口に含み、
ずっとぶくぶくしながら、運転していたー
だから、車内に憑依薬の容器もないー。
「ーーククク」
澪は一人、病室で笑みを浮かべるー
「ーこれで俺は記憶喪失の女子高生だー…
ククク…はははははははっ!」
嬉しそうに笑う澪ー。
澪が巻き込まれた”最悪の事態”に、
彼氏の秀雄も、家族も、全く気付くことができていなかったー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依後の私生活のために、
記憶喪失を演出した男…!
続きはまた明日デス~!
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