<皮>わたしはただ、普通に過ごしたい②~自白~

同じ大学に通う女子大生の秘密を知ってしまった
男子大学生ー。

彼の運命はー…?

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”わたしはただ、普通に過ごしたいだけだからー”

人がほとんど訪れない大学の一角、
”旧研究棟”と呼ばれる建物の中で、
のんびりと昼休みを過ごそうとしていた直哉は、
とんでもないものを目撃してしまったー。

大学内の図書館でよく見かける同じ大学に通う女子・明美の
”恐ろしい秘密”をー。

「ーふ、ふ、普通にー…?」
直哉が言うと、明美は「そう…普通に」と頷くー。

「ー別に誰かを傷つけるつもりもないし、
 犯罪を犯すつもりもないしー
 わたしはただ、羽村明美として普通に過ごしていたいだけ」

明美はそれだけ言うと、言葉を続けたー。

「ーだから、さっき見たことを誰にも言わないでほしいの」
明美がそう言うと、直哉は戸惑った様子で、
「ーい、言わないけどー…」と、明美のほうを見つめるー

「ーーーは、羽村さんはー
 い、いや、羽村さんの中にいる君は、いったいー…?」

直哉が言うと、明美は、
「ーーあぁーーー”俺”のこと?」と、明美の声のまま呟いたー

”俺”と、明美の姿・声で言われると強い違和感があるー。

明美は「ーーーーー俺は…これだよ」と、
スマホを手に、何かを見せて来たー。

”数日前から行方不明ー”
5年前のニュースの記事だー。
ほとんどニュースにならなかったのか、非常に小さい記事で、
家族が捜索願を出した、ということだけが
ニュースになっていたようだー。

”飯森 治(いいもり おさむ)”
その画面には、そう表示されているー

「ーーー……い、飯森さんー…?」
戸惑いながら直哉が言うと、
「ーー俺はさ…小さいころから地元で悪いことばっかしててさー
 高校卒業後も、就職も進学もせずに
 毎日遊び歩いてたってわけー」
と、明美は言葉を続けたー。

「ーそれでさ、ある時、不良仲間から
 ”人を皮にする”って、注射器を貰ったんだー」

明美が笑いながら言うー。

「ー当時の俺はワルだったからさ、
 ”可愛い女になって遊びまくりてぇ”って思ってー
 それで、当時まだ高校に入学したばっかりのー
 JKだったこの女を皮にして、乗っ取ったってわけー」

明美の言葉に、直哉は「そ…それじゃー…本当の羽村さんはー…?」と
表情を歪めるー

「ーーーーーー川崎くんは、一度も本当の”わたし”と話したことはないねー」
と、明美のような口調に戻って笑みを浮かべたー

そんな”ワル”が、明美の中にいるー
そう思った直哉は青ざめるー

「あ、待って待ってー!
 わたしがワルだったのは5年前の話ー…
 あ、わたしって言うか、俺ねー」

明美はそれだけ言うと少し面倒臭そうにしながら
「ーー5年も生きてるとさー
 どうしても、”女”としての振る舞いが普通になっちゃうんだよねー」と、
苦笑いするー。

明美がさっきから”男口調”と”女口調”が混じったような
喋り方をしていることを、自ら弁明し始めたー

「ほら、普段は”普通の女子大生”として過ごしてるでしょ?
 まぁ、高校時代からだけど、普通に女子として何年も過ごしてると
 男のわたしも、ほら、こういう風に話すほうが自然になっちゃう

 今じゃー
 ”俺”っていう方が違和感あるしー
 ”皮”を脱いでるときも、つい女っぽい仕草とか言葉遣いをしちゃうー」

明美は照れくさそうに少しだけ言うと、

「ーこの子を乗っ取ったあとにさー
 この子の家族とか、友達が
 ”様子のおかしくなったわたし”を心配してくれてー
 本当にいっぱい心配してくれてー

 わたし…この子を乗っ取ったことを後悔したのー」

明美の言葉に、直哉は真剣に耳を傾けるー

「ーそれで、この子を開放しようとしたー

 でもー
 できなかったー。」

明美はそこまで言うと、
いきなりピキッと、直哉の目の前で脱皮するようにして、
中から治が姿を現したー。

明美の身体が”脱ぎ捨てられた皮”のようになって
地面に横たわるー。

「ーーー……」
治と、直哉がその明美を見つめるー

「ーーーね、”本当のわたし”は、もう元には戻らないー」
治が、男の声でそう呟くー

少し違和感を感じて、直哉が治のほうを見ると、

「ーさっき言った通りー…”男言葉”で話す方が
 違和感感じちまってなー… 
 意識してないと、こうなっちゃう」

と、治は呟くー

意識的に”男”として話すことはできるが、
自然に話すと”5年間も明美”として生きて来た以上
”女としての話し方”が、無意識のうちに出てしまうー。

明美の皮を脱いでいるときも、そうー。
”男として話すように”はしているが、
無意識のうちに”女”がもう、染みついてしまっているー。

「ーーーー」
すぅ~、と治が深呼吸すると、
意識的に男口調で話し始めるー。

「ーー戻らないんだー
 何をしても」

とー。

直哉は戸惑いながら”明美の皮”を見つめたー。

治によれば、
治は、明美を乗っ取ったあとに、
周囲からたくさん心配されて、
明美の家族も、友達もいい人たちばかりだったことから、
心を痛めて改心したのだと言うー。

だがー、
明美に身体を返そうと、明美を開放してもー
もう、手遅れだったー

”皮になった明美は、もう元には戻らないー”

脱げば、ただの皮ー

相当色々試したが、明美は元に戻ることはなくー、
結局、治が”明美として生きていくこと”を決めたのだと言うー。

それからは、”ワルだった自分とは正反対の道”を歩むことを決意し、
今の”穏やかな明美”になったのだと言うー。

「ー読書とかもさ、元々は全くしたことなかったけどー
 今は本当に好きになっちゃってー」

治が微笑むー。

ずっと”明美”として過ごしてきたからだろうかー
治のこわもての顔に、穏やかな笑みー、という
不釣り合いな状態になっていたー。

明美の皮を再び着込む治ー

「ーこの子には、本当に申し訳ないって思ってるー
 でもねー…
 わたしが、羽村明美として生きるのをやめたらー
 家族や、友達を悲しませちゃうー。

 少なくとも、わたしがこうしていればー
 この子の家族や友達は、悲しむことはないからー」

明美がそう言うと、
直哉は複雑そうな表情を浮かべたー

明美は「ーーあ、ごめんね。長々とー」と、時計を見つめるとー
「だから、絶対に言わないでーお願いー」と、
直哉のほうを見つめるー

「ー川崎くんを傷つけるつもりも、
 誰かを傷つけるつもりも、本当に何もないからー。

 わたしただ、普通に過ごしたいだけだからー
 お願いー!」

明美の言葉に、直哉は困惑しながら、
明美を見つめるー。

「ーーわたしも正直ー、川崎君と同じで、
 ここ使ってるの、わたしだけだと思っててー
 油断しちゃったー」

明美は定期的にここに来て、
時々、皮を脱いだりしているらしいー。
ずっと着ていると「たまに」かゆくなるのだとかー。

「今日はたまたまいつもよりお昼が早くなっちゃったから
 かぶっちゃったみたいー」

”いつも”は、二人の昼休みの時間がずれているため、
今まで鉢合わせしなかったようだー

「ーーーーーーーーーーー」
直哉は戸惑いながらも「わかったー」と頷くと、
明美は微笑んで「ありがとう」と、笑みを浮かべるー。

そしてー
「これからも、”羽村明美”としてよろしくねー」と
言い残して、そのまま立ち去って行ったー

「ーーー…なんか…頭がバグりそうだー」
一人残された直哉は、そう呟きながらも、
まだ昼食も食べていないことを思い出し、
”あ、食べないと!”と、そのまま昼食を食べ始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

いつものように大学の図書館に行くと、
明美はいつも通り本を読んでいたー。

直哉と一瞬目が合ったものの、
明美は大人しそうな雰囲気で会釈しただけで、
他に話しかけてくることはなかったー。

”乗っ取った人の身体で普通に過ごしたい”
色々、理由は言っていたし、
確かに”明美の家族や友達を傷つけたくない”という理由も理解できるー

一方で、
5年前に乗っ取られたという明美本人からしてみれば、
とんでもないことだし、
明美の周囲の家族や友達を騙し続けていることにもなるー。

真面目な性格の直哉は、羽村明美という人間の現状に、
”何が起きているのか”理解はできても、
それを頭の中で整理することが出来ず、
混乱していたー。

「ーーーーー」
直哉は気まずくなって、それ以降、大学内の図書館には
足を運ばなくなり、大学と自宅の中間ぐらいの位置にある
市立図書館を利用するようになっていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー……はぁ」

時々ー
”自分が何者だったのか”を忘れてしまうようになるー。

”羽村明美”として”普通に”過ごすようになってからー
4年半ぐらいだろうかー。

最初、明美を乗っ取った直後は、舞い上がりー、
色々な悪さもしたり、
この身体で欲望の限りも尽くしたー

けど、今は違うー。
ただ、普通に過ごしたいー。

もう、自分の身体を見て”他人の身体を乗っ取った”と
興奮するようなこともほとんどなくなったし、
普通に行動していると、まるで自分自身が
最初から羽村明美だったかのようなー
そんな錯覚もしてしまうー。

だからこそー
時々、明美の”皮”を脱ぐようにしているー

自分は”羽村明美”という存在を盗んだ男なのだとー。
多くの悪さをしてきた、どうしようもないやつなのだと、
それを忘れないようにするためー

”やめてー…やめてってば!”
逃げ惑う明美を追い詰めてー
”皮”にしたあの日のことを思い出すー。

「ーーー……」
明美は、自分の顔を鏡で見つめながら
ため息をつくとー

”普通に過ごしたいっていうのも、わたしの
 自分勝手な夢なのかもー”

と、思いながら今日も大学に向かったー

だがー
大学に到着した直後ー
明美のスマホに連絡が入ったー。

「ーーー!?」
明美は思わず表情を歪めたー

”俺は秘密を知っているー
 いつまで、普通の女子大生のフリをしているつもりだ?”

そんなメッセージが表示されたー。

「ーー!?!?!?!?」
明美は思わず驚いて、手を震わせてしまうー。

”広まったら”
この生活は終わるー。

自分は羽村明美として生活することはできなくなるだろうし、
”明美”はたぶんもう元には戻らないー

そうなれば、
明美の家族や友達もー
全員”明美の本当の状態”を知ることになってしまうー。

「ーーー」
直後、電話がかかってきて、明美がそれに出ると、
明美は表情を歪めたー

”ーーいつまで、そうしているつもりだ?”
機械音声のような、加工された声ー

「ーーあなた…誰ですか?」
明美が不安そうに確認すると、
”羽村明美の、本当の姿を知る者”と、男っぽい雰囲気の
加工音声は答えたー。

「ーーー!!」
明美は険しい表情を浮かべながらー
「何がー目的なんですか?」と、低い声で答えたー。

そしてー
電話が終わると、明美は昼休みの時間を
この前のようにずらして
例の旧研究棟に走って向かったー。

「ーーーえ?」
そこには、直哉がいたー

「ーどういうこと!?」
明美が怒りの形相で直哉の方に向かってくるー。

普段の大人しいイメージが台無しの状態でー

「ーど、ど、ど、どういうことって!?何が!?」
直哉が叫ぶと、
明美は「このメッセージ!」と、スマホを見せつけたー。

明美は、直哉が誰かにバラしたのだと、そう思ったのだ。

「ちょ、ちょっと待って!落ち着いてー!」
直哉が慌てて言うと、明美は荒い息をしながら
直哉のほうを見つめるー

「な、なんのことだか、ちゃんと説明をー」
直哉のそんな様子に、明美は「え…何も知らないの?」と
不安そうな表情を浮かべながら、
何とか気持ちを落ち着けると、事情を説明したー

直哉は明美から事情を聞かされると
困惑した様子で「え…?じゃあ、正体をバラすって脅されてるってこと?」と、
言葉を口にしたー。

③へ続く

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このまま”普通”に過ごすことはできるのでしょうか~?
次回が最終回デス~!

皮<わたしはただ、普通に過ごしたい>
憑依空間NEO

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