<皮>わたしはただ、普通に過ごしたい①~目撃~

同じ大学に通う女子大生の”秘密”を知ってしまった
男子大学生ー。

彼女はなんと、”5年前”から皮にされて乗っ取られていたー

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物静かな性格の女子大生・羽村 明美(はむら あけみ)ー

同じ大学に通う男子・川崎 直哉(かわさき なおや)は、
そんな彼女のことが気になっていたー。

「ーーーーー」
今日も大学内の図書館で本を読んでいる明美の姿を見かけて
直哉は、そんな明美を見つめるー。

明美は物静かな性格で、
直哉自身も奥手な性格なため、ほとんど接点はないー。
学んでいる分野も恐らく違うために、
接点と言えば、読書好きな直哉が、大学内の図書館を利用する際に
”いつも見かける”

そんな程度だー。
正直、直哉自身が向こうから認識されているかどうかも、
怪しい感じだったー。

”まぁーー何もアクション起こさなきゃ、何も変わらないよなー”

直哉はそんな風に思いながらも
”僕から声を掛けるなんて、そんなことできるわけないけど”と
苦笑いしたー。

直哉は、小さいころから奥手な性格だったー。
だから、彼女がいたこともないー。

そして、直哉自身は”一人で何でも出来てしまうタイプ”なこともあり、
あまり”寂しい”とは感じない、どこか達観した考えの持ち主でもあったー。

「ーー今日は、これでも読もうかな」
難しそうな本を手に、空き時間にのんびり読書を始める直哉ー。

本を読み始めてからしばらくすると、
少し離れた場所で読書をしていた明美が立ち上がって、
本を本棚に戻すと、そのまま立ち去っていくー

穏やかな感じの服装が多く、
いつも黒いタイツに、明るい配色の服を着ていることが多い明美ー。

そんな明美の後ろ姿を少し見つめてから、
直哉は自分の読んでいる本の方に視線を落とすと、
”これからも、別に親しくなったりすることはないだろうな”と、
心の中で呟いたー。

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そんな、いつものような日常が流れていたある日ー。

直哉は、昼休みになると”ある場所”へと向かったー。

学生の数が昔よりも減ったことなどから、
”今はほとんど使われていない大学の一角”

手入れはされているものの、ほとんど人が訪れることもない
その場所に、直哉は足を運んでいたー。

昼休みに、直哉はのんびり読書したい時、
この場所を使うー。

大学内の図書館も十分静かだが、
ここは自然に囲まれて、
程よい寂れた感じの建物が、落ち着いた時間を演出してくれるーー

直哉にとって、ここは”大学内で見つけた隠れ家”とも
言える存在だったー。

今日もペットボトルのお茶とパンを持って、
使われていない建物に入ると、
”直哉のお気に入りの場所”に向かって足を運ぶー

だがー

ガタッー
カサカサー
バン!

「ーーーー?」
直哉は首を傾げたー。

このあたりに来る人は”ほぼ”いないー
本当に数えるほどしか人は来ないし、
だからこそ、直哉にとって”自分の隠れ家”のような場所だったー

”珍しいなー 誰かいるのかな?”
直哉はそんな風に思いながらも、
ほとんど人が訪れないとはいえ、
別にこの場所は立ち入り禁止になっているわけでもないし、
例え大学の職員がいるのだとしても、
直哉自身が怒られる心配もないー。

ここはー
”ほとんど誰も来ない”けど、”立ち入り禁止”になっているわけでは
ないのだからー。

「ーーー」
そんなことを思いながら、旧研究棟の一角にある
いつも使っている部屋に直哉が顔を出すとー

そこにいたのはー

「ーーーえっ」
直哉は思わず驚くー

そこにいたのはー
直哉が大学内の図書館でよく見かけるー
大人しい女子大生・明美だったからだー

明美は部屋の入口に背を向けて、
窓のほうを見つめているー。

”ーー羽村さんも、ここ使ってるのかなー?”

半分廃墟のようになった建物で
昼休みのひと時を過ごすー、なんて
自分ぐらいだと思っていたー

直哉はそんな風に思いながら、明美に声を掛けようとした
その時だったー

明美が突然、自分の頭に手をやるとー
まるで”自分をめくる”かのような仕草を見せてー
次の瞬間、明美の身体がまるで…着ぐるみのように開いたー

着ぐるみのチャックの部分を下ろすかのようなー
そんな、光景ー

あっという間に明美は、床に崩れ落ちてー
中から、知らない男が姿を現したー

「ーーー!!!!」
明美を脱いだ男が、背後を振り返るー。

だがー
そこには、誰の姿もないー

「ーーーふぅ」
明美を”脱いだ”男はそう呟くと、
一人、ため息をついたー。

「ーーずっと着てると、かゆくなってくるんだよなー」

男は、そう呟いたー

「ーーーー…(な…な…な…なんだ…あれ…)」

直哉は、非現実的な恐ろしい光景を見て、
咄嗟に、明美がいる部屋の扉の影に隠れていたー

「ーーー(ど…ど、ど、ど、どうなってるんだー?)」
いつも穏やかで冷静な感じの直哉だったが、
今、見た光景にはさすがに驚かずにはいられなかったー。

「ーー……(は、羽村さんの中から、男の人がー?)」

そう思いながら、恐る恐る再び明美がいる部屋の中を見つめると
明美を脱いだ男が身体を動かしていたー

”明美”は、その部屋の中の机の上に
”脱いだ服”のようにしておかれているー

「(ひ、ひょっとして、羽村さんの偽物?)」

”人が皮にされて、着られて、乗っ取られているー”
そんな、あまりにも非現実的な出来事を
事情も知らない直哉が即座に理解できるはずはなくー
”羽村さんそっくりの着ぐるみを着た謎の男がいる”
と、そう解釈してしまったー。

「ーーはぁ~~あ さて、と」
男はそう呟くと、再び明美の”皮”を手にして、
それを身に着け始めたー。

「ーーーー!!!!」
直哉はその光景を見つめながら
恐怖したー。

まるで”着ぐるみ”とは思えないー。

”明美”を着終えた男は、明美の頬や、首筋のあたりを
何度か触って調整するようなそぶりを見せると、
「ーー午後もがんばろ」と、女子大生っぽく呟いたー

声もー
明美そのものの声になっているー

”こ、声までそっくりな着ぐるみー!?”
直哉は何が起きているのか理解できずに、
完全に混乱していたー。

「ーーーあ、、あ…あ…あ~ うん…よし!」
声の調整をしたのか、明美がそう呟くと、
振り返ろうとしたのを察知して、
直哉は咄嗟にしゃがんで、この建物から出るための
通路とは逆方向の通路の壁に身を隠すー

だがーーー

”やべ…こんな時に…くしゃみがーー”

「ーーくしゅん!!!!!」
盛大に、テンプレートのようなくしゃみをしてしまった直哉ー

「ーーーー!」
旧研究棟から外に出ようと、1階への階段が
ある方に向かっていた明美が立ち止まるー

”やべっ…やべっ…やべっ!”
直哉は咄嗟に隠れることのできる場所を
見つけようとしたー。

だがー
半分パニックになっていたせいかー
直哉は隠れ場所を見つけることが出来ずー
そのままくしゃみが聞こえた方向にやってきた
明美にー
見つかってしまったー。

「ーーあ」
直哉が困惑の表情を浮かべると、
明美は笑顔を浮かべたー

「こんにちは」
とー。

「ーーこ、こんにちはー…」
直哉は、青ざめながらそう呟くー

「ーいつも、図書館にいるよねー。
 え~っと…」

明美は穏やかな笑みを浮かべながら言うー
直哉は、”直接話したこともほぼないしー”と思いながら
自分の名前と学部を名乗り、自己紹介をするー

「ー図書館でよく一緒になるけど
 お話するのは初めてだったよねー。

 羽村 明美ー。よろしくね」

自分の名前を名乗る明美ー。

そしてーーー

「ーーー……」
明美は沈黙し始めたー。

直哉は気まずくなって
「あ、僕は用事があるから、これでー」と、
立ち去ろうとするー。

「ーーー…見たの?」
明美が低い声で言葉を発したー

「ーーえ…?」
逃げようとしていた直哉が立ち止まるー

「ーーーー…見たんでしょ?」
明美が微笑みながら直哉に近付いてくるー

直哉は直感的に”危機”を感じたー

”こ、こ、この展開ってー
 モブキャラの目撃者が、悪党に殺されるやつ!”

直哉はそんな風に思いながら身体を震わせるー

「ーーみ…み…見た…な、な、な、なんのこと?」
直哉は旧研究棟から出る道を塞がれて、廊下の奥の方に
後ずさっていくー。

「ーーー…ぼ、僕は…何も見てないよ…ははっ!」
思わず不自然な笑い声が出てしまうー。

そんな明美に壁際まで追い込まれると、
明美は満面の笑みで

「見たよね?」と、言い放ったー。

いつも通り優しい口調だが、
何をされるか分からない恐怖のあまり、
直哉は思わず土下座して、
「ー見てしまいましたーーーごめんなさい!!!」
と、大声で叫んだー

「別に…別に羽村さんのこと、見たくてここに来たわけじゃなくて
 僕もいつも、お昼にここに来ることが多くて!
 本当に、偶然なんだ!」

直哉はそう叫ぶー。

明美も、この場所に定期的に来ていたのだとしても、
今まで遭遇したこともなかったし、
そんなこと知らなかったー

「ーぼ、僕がいつもここに来てるのは、
 僕の友達も知ってることだから、
 嘘だと思うなら、僕の友達に聞けばいいし…!

 だ、だからー」

直哉は”お願いだから見逃してくれ”と、
そう叫ぼうとしたー。

”明美の中に、よく分からない男がいるー”
そんな狂気の光景を見つめてしまった直哉は
”殺される”とすら、そう思っていたー。

「ーーー」
明美は無言で直哉を見下ろすと、突然ーー

「ーーー今、見たこと、誰にも言わないで!お願いします!」
と、今度は明美が土下座をして、
直哉に頼み込んだー

「ーーへ…?」
お互いに土下座のような状態で、直哉が顔を上げると
明美は「ーーー……わたしはー……わたしは、羽村明美であって、羽村明美じゃないの」
と、目を潤ませながら言い放ったー

「ーー……そ、それは…どういう…こと?」
直哉はそう聞き返すー

さっき見た光景が”何”を意味しているのかー、
直哉にはまだハッキリと理解できていなかったー。

「ーーーー…」
明美は少し不満そうな表情を浮かべるー

直哉は「ひっ!?ご、ごめんなさいー余計な詮索はせずに、忘れますー」と
だけ、慌てて言うと、明美はため息をついて
「見られちゃったなら、仕方ないねー」と、
直哉のほうを見つめながら、
「ーーお話するからーー…廊下じゃなくて、そっちの部屋でお話しよ」と、
明美が近くの部屋を指さしたー。

直哉は”この部屋の中で僕は消されるのか?”と、
不安を感じながらも、頷くー。

部屋に入ると、明美は
口を開いたー

「ーー5年前ー…わたしは、羽村明美になったー」
とー。

「ーーへ?」
直哉は混乱するー。
全く意味が分からないー。

「ーー…だ、大学生に見えるけど、実は5歳ってこと?」
直哉が表情を歪めながらそう尋ねると、
明美は「はぁ?」と、急に声を荒げたー。

「ーーひっ!?」
思わずびっくりしてしまう直哉ー

明美はすぐにハッとした様子で
「ーあ、ごめんー…ちょっと癖でー」と、申し訳なさそうに
直哉のほうを見つめたー。

「ー…ど、どういうことなの…?」
直哉が言うと、明美は少し考えてから口を開いたー

「ーわたしは…5年前に”この女”を”皮”にして
 乗っ取ったのー。
 だから、身体は羽村明美でも、中身は羽村明美じゃないーってこと」

明美の言葉に、直哉は意味が分からな過ぎて青ざめるー。

言っていることは分かるのだが、
そんなこと、現実にー

「ーーーー…そんなに怖がらなくてもいいよ」
明美は、直哉が明らかに怯えているのに気づいて、
少しだけ笑うー

「別にわたし、何もしないしー
 わたしはただ、普通に過ごしたいだけだからー」

明美のそんな言葉に、
直哉はなおも不安そうにしながら、明美のほうを見つめたー。

②へ続く

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コメント

同じ大学に通う女子大生の秘密を知ってしまった彼の運命は…?
続きはまた明日デス~!

今日もありがとうございました~!

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