<入れ替わり>あれ~?おじさんどうしたの?③~通報~(完)

絵が好きな少女と入れ替わり、
人生を逆転させたおじさんー。

彼は、元自分のことを執拗に煽り続けるも…?

・・・・・・・・・・・・・・・・

”お願い!信じて!わたしなの!”

玄関の向こうから、
そう叫ぶ順太郎(天音)ー

中身は天音なのだが、
事情を知る人間以外は、
42歳のおっさんが”女言葉で泣き叫んでいる”ようにしか見えないー。

それも、”自分は女子中学生だと”主張しながらー。

完全にヤバい光景ー。
通報案件と言ってもいいー。

天音(順太郎)は
”うるさいおっさんだな”と、だんだんと苛立ちを感じてくるー

自分が大嫌いだった順太郎にとって
”喚いている自分”は、不愉快以外の何物でもないし、
天音の身体と人生を奪いたい順太郎にとって、
こうしてしつこく家にやってくることもまた、不愉快極まりないことだったー

「ーーーママー」
天音(順太郎)はわざと弱弱しく、怯えた表情を見せるー。

天音の母親も、そんな娘の不安を感じ取ってくれたのか、
インターホン越しに順太郎(天音)に対して
言葉を言い放つー

「あの…どういうご用件でしょうか?」
順太郎の中身が、自分の愛する娘であると気づかずに、
そう言い放つー。

”どういう…って…だから…わたしなんだってば!ママ!信じてよ!”
大声で叫ぶ順太郎(天音)ー

”クククー
 バカがー”

天音(順太郎)は、
小悪魔のように微笑むー。

ふと、扉の窓に反射した自分の顔は、
まるで、ツインテールの小悪魔のように悪い顔になっていたー。

”このまま騒ぎ続ければ、すぐ通報だぞ?
 おっさんなんて、そんなものさ”

天音(順太郎)がそう思っているとー

「ーーー…どういうことですか?
 あなたが、天音だって言うんですか?」
と、インターホンで母親が言い始めたー

「ーー!」
天音(順太郎)は”おいおい、どう考えても怪しいおっさんだろ?
早く追い払えよ”と、思いながら
「ーママ!天音はわたしだよ!何言ってんの!?」と、
少し苛立った様子で言うー。

「ー分かってるよー大丈夫」
母親は、天音(順太郎)を見て、そう優しく微笑むと、
再びインターホンで外に向かって話し始めるー

「ーー天音は中学生です。
 それに今、ちゃんと家にいますー。
 どういうつもりですか?」

母親が言うと、

”身体が入れ替わっちゃったの!信じて!”
と、順太郎(天音)が叫んだー

「ーーチッ…チッ…チッ」
イライラした様子で、握りこぶしを作って
それを口元に当てる天音(順太郎)ー

「ーーねぇママ!変なおじさん、早く追い払ってよ!」
天音(順太郎)は少しイラッとして、思わずそう叫んだー

だがー
それが逆効果だった可能性もあるー

「あ…天音ー」
と、天音(順太郎)のほうを見て、
天音の母親は、わずかに表情を歪めたー

それが、良くない反応であることは、
天音(順太郎)にもすぐに分かったー

「ー入れ替わったって、どういうことですか?」
天音の母親が、順太郎(天音)に対してそう言い放つー

”ーママ!あのね…
 家の中にいるわたしは、わたしじゃないのー…
 わたし、そのおじさんに、身体を取られちゃって
 わたしがおじさんになっちゃってー”

パニックになっているのか、
順太郎(天音)は、イマイチ要領を得ない発言をするー

「ーーーー入れ替わってー…?」
天音の母親が、家の中にいる天音(順太郎)のほうを見つめるー

天音(順太郎)は険しい表情で母親を見つめ返すも、
”おじさんに頭の回転で勝てると思うなよー”と、
表情を歪めるー

「ーーマ、ママ!あの人、そういえばさっき公園で絵を描いているときにも
 ”わたしの身体を返して”って言ってきた人と同じ人に見えるんだけどー」

天音(順太郎)は言うー。

「ーあの人、おかしいよー」
と、怖がる素振りを見せながらー

その声がインターホン越しに聞こえたのか
”おじさんは、そっちでしょ!わたしの身体、返してよ!”と、
順太郎(天音)が叫ぶー。

「ーーーーーど…どういうことなのー?」
天音の母親は混乱してしまった様子だったー

「ーママ!警察を呼ぼうよ!
 不審者をいつまでも放っておいたら危ないし、
 早く警察の人、呼んで助けてもらお!」

天音(順太郎)が言うー。
警察を呼んでしまえば勝ちだー。

42歳のおっさんが
”わたしは女子中学生”と叫びながら
少なくとも表面上”何の縁もないはずの家庭の玄関を叩いている”

この光景は”普通に考えれば”
明らかにおかしいー。

警察も野放しにはしておかないはずだー。

「ーー普通に考えて、知らないおじさんが
 ママ!わたしなの!なんておかしいでしょ?
 世の中、いろいろ物騒だし、
 早く通報して、警察の人に来てもらわないと!

 わたし、ママにも危険な目に遭って欲しくないの!」

娘にそう言われればー
母親にとっても悪い気はしないだろうー

天音(順太郎)は、そう思いながら
言葉を言い放ったー

だがー

「ーー天音…?」
天音の母親の表情が、明らかに険しくなったー

「ーーな…なに?」
天音(順太郎)が言うと、天音の母親は、
外にいる順太郎(天音)に
”入れ替わってるって本当なの?”と
確認し始めるー

”な、なんだー?なぜだ?”

天音(順太郎)が表情を曇らせるー。

天音になった順太郎は気づかなかったがー
先程”通報を提案した天音の態度”が
普段の天音とあまりにも違いすぎてー
そして、中学生として、あまりにも振る舞いが
大人びていたためにー

”逆に不信感”を抱かれてしまったのだー。

「ーーーママ!わたしを疑ってるの!?
 娘を疑うの!?」
たまらず、そう叫ぶ天音(順太郎)

「あんなおっさんが、わたしなわけないでしょ!?
 ママ、何考えてるの!?」
天音(順太郎)が叫ぶと、
「ーーー今日の天音、天音じゃないみたいなんだもの」
と、母親が険しい表情で呟くー。

「ーーー…天音、自分の誕生日、言える?」
母親の言葉に、天音(順太郎)は
「な…何言ってるの…?ママ?」と、困惑の表情を浮かべるー。

”答えられるはずがない”

「(くそっ…誕生日ぐらいさっき部屋で確認しておけばよかった)」
生徒手帳に書かれていた気がするが、
そこまで気にしてなかったので、覚えていないー。

”くそっー”
心の中で何度も舌打ちをしていると、
やがて、天音の母親は、玄関を開けて、
順太郎(天音)を迎え入れようとしたー

「ーちょっと!そんな汚いおっさん入れるなよ!」
天音(順太郎)は焦りからか、乱暴な言葉を叫んでしまうー。

「ーーーーわたしの身体を返して!」
順太郎(天音)が叫ぶー。

天音(順太郎)は
「お…おじさん、何言ってるの~?頭おかしいんじゃないの~?」と
必死に煽り始めるー。

だが、その振る舞いも、態度も
逆効果になり、墓穴を掘っていくー。

「ーーー…っていうか、ママ!どう見ても、わたしが天音でしょ!?
 何考えてるの!?」

天音(順太郎)が、母親のほうを見るー

順太郎(天音)が「ママ!わたしが天音だよ!信じて!」と、
叫ぶー。

天音の母親は、”天音(順太郎)の振る舞いは明らかにおかしい”と、
そう感じながらも、
それでも、なかなか100パーセント”入れ替わり”を頭の中で
信じることも出来ていない状態だったー。

「ーーわたしが天音だよ!」
「ーおっさんは黙って!わたしが天音!」

叫ぶ二人に対してー
天音の母親は、ため息をついてから、
言葉を続けたー。

「ーじゃあ、絵を描いてー」

「ーーー…え?」
天音(順太郎)が表情を歪めるー

「ーーー絵を?」
順太郎(天音)が言うと、
天音の母親は頷くー

「あそこの机の上に乗ってるお花…
 あれを描いてみて。」

その言葉にー
順太郎(天音)は嬉しそうに”うん!”と即答したー

天音は絵が好きで、
入れ替わった時も公園で絵を描いていたー

天音(順太郎)は震えながら
何度も何度も歯ぎしりを繰り返したー

そしてー

「ーーーーーーー」
天音(順太郎)には、絵など描けなかったー。
出来上がったのは”悲惨な絵”ー

そして、順太郎(天音)は
”手”が違うために、いつも通りとはいかなかったが、
順太郎の中身が”天音”だと明確に分かるぐらいの
絵を描いてみせたー。

「ーーーーっっっ…」
天音(順太郎)は、順太郎(天音)を睨みつけるー。

「ーー”わたし”なのに、ずいぶん絵が下手ですね~~~?」
順太郎(天音)は、今まで散々煽られた仕返しと
言わんばかりにそう言い放つー

見た目は順太郎の天音に、煽られた
天音(順太郎)は、まるでメスガキに煽られたような気分に
なって、ギリギリと歯ぎしりを繰り返すー。

”くそっ…!この女…!”

「ーけ、警察を呼ぶからー!」
天音の母親が電話を手に、既に警察を呼ぼうとしていたー

「ま…待って!ママ!わたしが本物なの!」
天音(順太郎)はなおも悪あがきをするー。

しかしー
天音の母親は”絵”を見て確信したのだろうー。
もう聞く耳を持たない状態だったー。

警察と話し始めた天音の母親を見て、
天音(順太郎)は鬼のような形相で
「クソババアがぁあああああああああ!」と叫ぶー。

華奢な手で、握りこぶしを作って、グーで
殴りかかろうとしたもののー
順太郎(天音)に、「ママになりするつもりなの!」と
阻止されて、取り押さえられてしまうー

「くそっ!離せ!俺は汚いおっさんになんか戻りたくない!」
子供が泣き叫ぶかのように喚く天音(順太郎)ー

だが、中学生の少女の身体では、
仮にも42歳の男である”元自分の身体”に敵うはずもなくー
そのまま力で抑え込まれてしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー……例の指輪を押収しましたー
 販売していた業者も摘発、既に確保してあります」

警察官の一人が言うと、その上司は「ご苦労様でした」と告げたー。

入れ替わりのことは、世間には出さないようにしたうえで、
追い詰められた天音(順太郎)の証言により、
入れ替わりに用いられた指輪を販売していた業者も、壊滅したー。

「ーーー…じゃあ、自分の身体と、握手して」
警察官が、順太郎になってしまった天音にそう言い放つー。

順太郎(天音)の指には、入れ替わりの際に用いられた指輪ー。

それを使ってー、
順太郎(天音)は、天音(順太郎)と、
握手してー
再び身体を入れ替え、
元の姿へと戻ったー。

「やったあああああああああああああ!」
天音が嬉しそうにツインテールを揺らしながら
警察官の前で飛び跳ねるー。

やっと、身体と中身が一致する振る舞いに
戻った天音ー

「くそっ…!くそっ…くそっ!」
歯ぎしりをする順太郎ー

そんな順太郎を見て、
散々な目にあわされた天音は、
”仕返し”をしたー

順太郎に対して煽るような口調で
「あれ~?おじさんどうしたの?」と、
天音は言い放ったのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

1週間後ー

順太郎は、警察の隙をついて、逃亡したー

手配されて包囲される中、
順太郎は街中を必死に走るー

「くそっ!せっかく!せっかく俺がー
 戸田天音になれると思ったのに!
 くそっ!!くそっ!!!くそっ!!!!!!!」

入れ替わりの指輪を購入した際の借金もあるー
犯罪歴までついてしまってー
もう、どうすることもできないー。

「ーーはぁ…はぁ」
山奥まで逃亡してきた順太郎は、
少しだけ自虐的に笑ってから呟いたー。

「42歳…
 死ぬかー」

やっぱり、42歳は
神様からの「死になさい」のメッセージなのだー。
順太郎は、そう思ったー

相変わらず”な”が、どこから出て来たのかは
自分でもよく分からなかったが、彼は
もう人生に疲れ果てた様子で、一人笑みを浮かべたー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

入れ替わって元自分を煽る入れ替わりのお話でした~!
もうちょっとうまく立ち回っていれば
順太郎側にとってのハッピーエンドに結末が変わっていたかも
しれませんネ~!

お読み下さりありがとうございました!

コメント

  1. 匿名 より:

    色々詰めが甘かったですね。狙った相手に絵が上手いという分かりやすい特徴があったのがまずかったとこもありますが、
    『奪われた宝物』の女子高生の身体をうまいこと奪った教師くらいの悪知恵があれば、相手を脅迫したりして、追い詰められることもなく、もっとうまく立ち回れたでしょうに。

    ところで本人だけじゃなく、入れ替わりアイテムを売っていた業者も巻き添えを食って一緒に破滅してるのは中々珍しいパターンですよね。

    • 無名 より:

      ありがとうございます~!☆

      奪われた宝物の教師は、頭が良かったので
      上手くいきましたネ~!

      今回は、欲望のままに動いている人物だったので、
      業者まで巻き込んでしまって
      大変なことになってしまいました★笑