<憑依空間5周年記念>憎しみの終着点~憑依に壊された僕の未来~④(完)

☆本日(30日)の通常の更新は既に終わっています!
 こちらは5周年記念作品デス!
 通常の更新はこの1個前にあります!

”憑依”を憎む男ー。

憎しみの果てに、彼を待つ未来はー…?

彼が生み出してしまった、新たな憎しみの終着点はー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーくくくっ…どうだ?彼女に踏みつけられている気分は?」
舞桜から暴力の嵐を受けて、
体育館の床に倒れてしまった圭哉ー。

舞桜は愉快そうに、圭哉の手を踏みにじるー

「ー今のわたしに、”圭哉”に対する愛情なんてー
 ま~~~ったく無いんだよ?」

舞桜が笑うー。

「ーーふふふふふふ…ほら、早くわたしのことなんて
 諦めちゃいなよーーー
 もう、わたし、変わっちゃったんだからぁ!」

舞桜に憑依した星宮が笑いながら、舞桜の口調を模して、そう叫ぶー。

圭哉はー
それでも、舞桜のほうをまっすぐ見つめたー

「僕はー…
 僕は、諦めないー
 僕は、絶対にー…
 舞桜のことを助けて見せる!

 舞桜に何をされたって、僕はー!」

圭哉が泣きながら叫ぶとー
舞桜が一瞬、瞳を震わせて、
「ーー圭哉ー…」と、そう呟いたー。

「ーー!?舞桜!?」
圭哉が叫ぶー。

だが、すぐに舞桜は圭哉の手を思いっきり踏みつけると、
「ーーいい加減しつこいんだよ!」と、叫びながら倒れたままの
圭哉に何度も何度も蹴りを食らわせたー。

悲鳴を上げる圭哉ー。

「ーーーーーー…!」
その様子を、体育館の舞台側から、芹沢先生と対峙している
愛染が見つめていたー

”今ー、一瞬ー…?”
愛染も、今の舞桜の反応が少しだけ引っかかっていたー。

「ーーーおらぁ!どこ見てやがるー!
 さっさと俺に憑依薬をよこしやがれ!」

芹沢先生が愛染に襲い掛かるー。

芹沢先生が再び愛染に殴る・蹴るの暴行を加え始めるー

愛染は、先ほどから芹沢先生の攻撃を回避したり、
受け流したりはしているものの、
愛染側から、芹沢先生に暴力を振るようなことはせず
”守り”に徹しているー

「ーーークククー…なんだ?どうした?
 お前も俺を殴れよ。かかって来いよ!」

芹沢先生が笑うー。

だが、愛染は動じることなく呟いたー

「神塚ー。僕はお前のような獣とは違うー」

愛染が芹沢先生の本名を口にして
芹沢先生を睨みつけるー。

「ーークククーいい子ぶってんじゃねぇよー。
 憑依薬を売ってるんだろ?
 それがたとえ、憑依薬をこの世から消し去るためだったとしてもー
 お前も”獣(けだもの)”であることには違いないんだよー」

芹沢先生の言葉に、愛染は
今まで、”憑依薬を売ること”で傷つけてきたであろう人間たちのことを
少しだけ思い出すー。

「ーーーーそうかもしれないなー」
愛染はそれだけ言うと、体育館の入口のほうを少しだけ見つけたー

「ーなるほど…助けを待ってるのか。
 でも、無駄だー」

芹沢先生は、愛染の胸倉を掴むー。

「ーーくくくくくく…無様だなー」
芹沢先生がニヤリと笑うー。

「ー”憑依薬の売人”だったかー?
 ご苦労なことだー。
 でも、お前には結局何もできやしないー。

 あの女の仇を取ることもー
 憑依薬とやらを根絶することも
 何も、できやしぇんだー」

それだけ言うと、芹沢先生は愛染を突き飛ばしたー。

「ーーあぁ、違ったー
 お前の彼女は、”自分で笑いながら”車に向かって
 走って行ったんだったなー」

挑発的な笑みを浮かべて
芹沢先生は、ニヤァ…と笑うー。

「ーー笑いながら自殺するとか、馬鹿な女だよなァ!」

芹沢先生の言葉に、愛染が怒りの形相で
芹沢先生の方に向かっていくー

「ーバカがぁ!
 元”銀狼”構成員の俺にー
 勝てると思ってんのかぁ!」

大声で叫びながら、芹沢先生が、愛染に暴力の嵐を叩きつけるー。

吹き飛ばされた愛染ー。
愛染が持っていた憑依薬の容器が体育館の舞台の方に転がっていくー。

「ーーククク…最初から、出せばいいんだよー」
芹沢先生が笑みを浮かべながら、憑依薬を拾うと、
それを手に、笑みを浮かべるー。

「ーーーー!」
体育館の入口側で倒れ込んでいた圭哉を痛めつけていた
憑依されている舞桜は表情を歪めて、
芹沢先生と愛染のほうを見るー。

愛染から憑依薬を奪い取った芹沢先生は、それを飲むと笑みを浮かべたー。

「ーーお前ら三人とも生かして返すことはできねぇ…
 お前らは俺の正体を知っちまったからなー…」

それだけ言うと、芹沢先生は、倒れている圭哉のほうを見つめるー。

「ーー奥田ー。もうちょっと”いい先生”やってたかったよー
 わりぃなー」

それだけ言うと、圭哉から目を逸らして芹沢先生は笑ったー。

「お前ら三人、”自殺”させちまえば、
 俺は何も問題なく、今まで通り教師をやってられるー

 愛染ー
 奥田ー
 そして、そこの憑依薬を使ってJKに憑依してる変態野郎ー

 三人とも、俺に憑依されて”順番に自殺”するんだー」

芹沢先生が勝ち誇った表情で笑みを浮かべるとー

「そうだなーまずはー」
と、圭哉のほうを見つめたー

「ーーお前は俺の教え子だー。
 せめてもの情けだー。
 順番待ちの間、怖い思いをさせることだけは、したくねぇ。

 一番最初に憑依して、真っ先に楽にしてやるよー」

芹沢先生がそう宣言すると、
圭哉は悲しそうに「先生…」と呟いたー。

だがー

「ーーーー!!!!!!」
芹沢先生が突然目を見開きー
肺のあたりを苦しそうに抑え始めたー。

「ー…がっ… ぐっ…」
あまりの苦しさにたまらず体育館に膝をついて、
苦しむ芹沢先生ー

「せ…先生ー?」
圭哉が唖然としているー

「ーな、なんだなんだ…?」
憑依されている舞桜も表情を歪めるー。

「ーーーぐっ…が… はぁ… う… うぐぁぁあああっ」
苦しんでいた芹沢先生が、真っ青な顔のまま立ち上がりー、
そのまま愛染を見つめたー。

「ーーー貴様………」
芹沢先生が愛染を睨みつけると、愛染は少しだけ笑みを浮かべたー。

「僕がここに持ってきてたのは、憑依薬じゃないー。毒薬だー」
愛染の言葉に、芹沢先生は瞳を震わせるー

「な…な…なんだと…」
再び苦しみ出して、激しく咳き込む芹沢先生ー。

「ーーー…ま、まさかわざとー」
芹沢先生の言葉に、愛染は冷たい目で芹沢先生を睨み返したー

芹沢先生こと、神塚の性格上、愛染は、毒薬を手に
これが憑依薬だと言えば、必ずそれを奪い取る、と
そう読んでいたー。

わざと抵抗する素振りを見せて、わざと大事にするような素振りを見せれば
中身が毒薬であろうと、何だろうと”色々な人間に本性を目撃されたこの状況”で
あれば、必ず”口封じ”のために疑いもせずにそれを使うー、と。

「ーーーぐっ…あ… あぁぁあああっ……」
芹沢先生が苦しそうに再び倒れ込むー

泡のようなものを口から吐き出しながら、
愛染のほうを睨むー。

「ーーせ、先生ー…!」
圭哉は、芹沢先生が悪人だったと知っても、
急に気持ちを切り替えることが出来ず、
戸惑いの表情を浮かべるー。

「ーーーーー無様なおっさんだな」
舞桜は鼻で笑うように、倒れ込んだ芹沢先生を見つめると、
そのまま体育館の出口に向かうー

「ー待って!」
圭哉が叫ぶー

だが、舞桜は「ーーもう、お前の彼女はいないー。俺が舞桜だー」と、
冷たく言い放つと、そのまま立ち去ってしまうー

「ーーーま、舞桜!」
圭哉は舞桜を追いかけて体育館の外に飛び出そうとしたー。

だがー

「ぐっ…がぁあああああああああっ… あっ…あぁっぅ」
鬼のような声が聞こえて圭哉が振り返るー。

泡を口から噴き出しながら
顔を真っ赤にして、愛染のほうを睨む芹沢先生が
立ち上がっていたー。

「ーーあい…ぜぇぇぇん…!」
愛染のほうを見て、ゆっくりと歩き出す芹沢先生ー。

だがー
芹沢先生は、力尽きたのか、その場に崩れ落ちるようにして
倒れ込んでうめき声をあげて、もがき始めたー

「ーー神塚ー
 お前は、自分で”毒”を飲んだー。」

愛染は、芹沢先生の本名を口にしながら
冷たい声で呟くー。

「ー自殺だなー」
とー。

「ーーぐ…ぐ… ぐぅぅぅぅ」
苦しむばかりの芹沢先生に愛染の言葉が届いているかは分からないー。

だが、愛染は続けたー。

「ー莉奈をー、僕の彼女を”自殺”させた
 お前にふさわしい最後だー」

とー。

莉奈に憑依して、”死なせた”のに、莉奈のことを”自殺”だとあざ笑った
芹沢先生に対するー
最大限の怒りを込めた復讐だったー

「ーお前は自分で毒を飲んだんだー
 だから じ・さ・つ・だ」

愛染は芹沢先生の胸倉を掴んでそう呟くとー
悲鳴のような声を上げる芹沢先生から手を放しー
そのまま動かなくなるのを確認したー。

「ーーーせ…先生…」
圭哉が戸惑いの表情を浮かべると、
愛染は「ーーーーー警察を呼ぶかい?」と呟くー。

「ーーー…」
圭哉は身動きできず、愛染のほうを見つめるー。

そんな圭哉を見てから、愛染は体育館の天井を見上げるようにして
「莉奈ーーーー」と、静かに呟いたー。

彼女の莉奈に対して”仇を取ったよー”ということを報告する愛染ー。
莉奈が喜んでくれるかは分からないー。

もしかしたら、”わたしのために、そんなことしないで”と
怒られるかもしれないー。

けれどー

「ーーーー…僕は憑依薬をこの世界から消し去るまで、止まらないー
 どんなに僕が腐ろうとも、どんなに恨まれようともー
 どんな犠牲が生まれようともー
 この先の未来の犠牲を無くすため、僕は止まれないー」

愛染はそう呟いて歩き出すー。

圭哉は咄嗟に「舞桜を元に戻す方法を教えろ!」と、叫ぶー

「ー愛染…!お前が憑依薬の根絶を諦めないように、
 僕だって、舞桜を元に戻すことを諦めない!」
と、圭哉は怒りの形相で愛染を見つめるー。

「ーーーー言ったはずだよー。
 一度、憑依された人間をもう、元に戻すことはできないー、と。
 僕の売る憑依薬は、そういう憑依薬だー。

 中には”憑依したあと”に後悔する人間もいるー。
 けど、僕は、そういう人間も許さないー。
 ”憑依”は一度すれば、取り返しのつかないことだと、
 そいつらに知らしめるためー、
 僕は、”後戻りできない憑依薬”しか売らないー」

愛染の言葉に、圭哉はそれでも食い下がるー。

「ーーお前は用意してるはずだー
 ”もしもの時”のために、”憑依を解く”方法をー」

圭哉が愛染を睨むー。

「ーーー…」
愛染はそんな圭哉を見て、少しだけ笑うー。

「ーーーー……僕が憎いか?」
愛染の言葉に、圭哉は「憎いに決まってるだろー…!僕はお前を許さない!」と
叫ぶー。

「憑依薬も、舞桜に憑依した星宮ってやつも、
 それにー愛染、お前も!みんな許さない!」

圭哉の叫びを聞いて、
愛染は「君はー僕に似ているー ちょっと、僕より感情的だけれどもー」と、
続けて何かを口にしようとしたー。

だが、愛染が発しようとした言葉を、
鬼のような怒鳴り声が遮ったー

「ーおのれぇぁぁああああああああ!」
死んだはずの芹沢先生が、真っ青な顔で、
ふらふらしながらも、愛染に向かって真っすぐ走ってきたのだー。

愛染にそのまま突進する芹沢先生ー。

芹沢先生が自ら飲んでしまった毒薬ー。
もう、とうに人間が生きてられる限界を超えている時間だったがー、
芹沢先生の悪意と執念は、愛染の計算や、毒の力をも上回ったー。

「ーーークズがー…
 さっさと……この世から消えろ!」

愛染はそう言い放つと、芹沢先生を突き飛ばすー。

最後の力も尽きたのか、もはや何も言わず、
その場に音を立てて倒れ込むと、芹沢先生は完全に動かなくなったー。

「ーーーーーー奥田 圭哉ー。
 君が、僕を怨むなら、それでいいー。
 恨めばいいー。
 でもーー僕はこの生き方を後悔していないー。
 憑依薬を消し去ることだけが、今の僕の目的なのだからー」

愛染はそれだけ言うと、そのまま立ち去っていくー

「ーー待て!僕の話はまだ」
圭哉はそう叫んだが、”あるもの”を見て、表情を歪めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーお帰りなさいー」
紳士風の男が孤児院に帰ってきた愛染に頭を下げるー。

愛染が、憑依薬根絶を願い、
行動する最中で出会った愛染の協力者だー。

「ーーー僕に力を貸してくれて、いつもありがとうー」
愛染はそう言うと、「少し話がある」と、その男に呟くー。

「ーーーあ、帰ってきた!!」
愛染の孤児院にいる子供たちが駆け寄ってくるー。

「ーーははは、僕はこれから大事なお話があるから、
 みんなは向こうで仲良く遊んでてー」

愛染が言うと、孤児院にいる子供の一人・蘭子は
「え~!」っと表情を歪めるー。

愛染は「ははは、ごめんごめん」とだけ言うと、
そのまま孤児院の自分の部屋へと向かうー。

そこで、紳士風の男と対面した愛染は、
険しい表情で「これをー」と、呟くー。

何やら机から紙を取り出すと、愛染は
それを紳士風の男に預けたー。

紙を広げて、その内容を確認する男ー。

「ーーーこれはー!」
紳士風の男が驚くのを見て、愛染は微笑むー。

「”憑依薬を憎むモノ同士”
 出会えたことを、感謝しますー」

愛染はそれだけ言うと、
「ようやく、莉奈の仇を取れました」と、穏やかな口調で呟いたー

愛染の彼女・莉奈に憑依した男、神塚ー
今は芹沢と名乗っていたその男を、ようやく仕留めることができたー

「ーーーーー」
愛染は、紳士風の男のほうを見つめるー

”憑依薬の根絶”
果てしなく、困難であることは、愛染も当然理解していたー。

だからこそ、自ら”憑依薬”の売買の世界に足を踏み入れて
憑依薬の販売網や関係する組織、団体、製造ルート、
全てを突き止め、全てを手に入れて、抹殺しようと目論んだー。

外部から憑依薬の全貌を調べるよりも、
自分自身がその中枢となった方が”全貌”を知るには手っ取り早く、
確実だし、憑依薬を欲するような人間への復讐ー、
そして、莉奈の仇を探す目的もあったー。

だがー
全部の目的は、果たすことはできなかったー

元々、”修羅のような道”であることは理解していたー。

一度世の中に出回った”悪意”を、一人の人間が
根絶するー
そんなことが、簡単にできるとは思っていないー。

この世界において、愛染がやろうとしていたことは、
”銃をこの世から消し去る”と、同じように、困難なことだったのだからー。

「ーーーー…子供たちを、頼みましたよー」
愛染が微笑むー。

「ーーーーー」
紳士風の男は「分かりましたー」と、静かに頭を下げると
「ー憑依薬の根絶も、必ずー」と、力強く答えるー。

「ーーーーーありがとう」
愛染がそう言うと、
紳士風の男は心配そうに愛染を見つめるー。

「ー構いませんー。」
愛染がそう言うと、紳士風の男は、愛染が一人になりたいことを悟り、
全ての言葉を飲み込み、そのままその部屋の外へと出たー。

「ーーーーはぁぁぁぁぁ…」
愛染が深く息を吐き出すー。

愛染の上着の下には、べっとりと
大量の血が付着していたー。

その血が、床に零れ落ちるー。

愛染は、毒薬で死にゆく芹沢先生が、
最後の怨念とも思える執念で突進してきた際に、
芹沢先生が隠し持っていたナイフで刺されていたー。

愛染ですら予測できなかったほどの
”強い執念と憎しみ”
それが、本来とっくに毒で死んでいるはずだった
芹沢が、最後に身体を突き動かした原動力だったのかもしれないー。

「ーーーー…莉奈ー」
愛染は、死んだ彼女・莉奈の写真を見つめるー。

自分はもう、成人してしまったけれどー
莉奈はまだ女子高生の姿のままー。

”莉奈のその先の姿”はー、
もう二度と、見ることはできないー。

「ーーこんな僕じゃー……
 たぶん、嫌われちゃうよなー」

愛染は、少しだけ微笑むと、
写真の中で微笑む莉奈を見つめて、目に涙を浮かべたー。

「ーーー莉奈ー…
 君があの時、憑依されなかったらー
 僕と莉奈には、どんな未来が待ち受けていたんだろうなー…?」

愛染はそれだけ言うと、
莉奈との幸せな家庭を思い浮かべたー

もちろんー
あのまま莉奈が生きていても、
莉奈と結婚までたどり着いていたかどうかは分からないー

けれどーーーー

「ーー君のところには、僕は多分、いけないなー」
愛染はため息をつくと、椅子に寄りかかって、莉奈の写真を手にしたまま、
静かに呟いたー

「だって、僕はー
 憑依薬をこの世から消すためにー
 たくさんの人を、傷つけてきたからー」

憑依薬を消すためー
莉奈の仇を取るためとは言え、
愛染は大量の憑依薬を売ったー

”憑依された被害者たち”
”憑依したことを後悔して苦しんだものたち”
”憑依された人の周囲にいる人々”ーー

「ーーーここが、僕の”憎しみの終着点”」

”憑依”なんてなければー
僕のー
僕たちの人生はーー…

「ーーーーーー莉奈ーーー」

愛染は、そう呟くと、
どこか満足そうにー、どこか悔しそうにー
そして、どこか申し訳なさそうにー

色々な感情を含んだ表情を浮かべたままー
静かに目を閉じたー

莉奈と愛染が笑顔で写る写真が
音を立てて、床に転がり落ちたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」

翌日ー
圭哉は、愛染が経営している孤児院の側まで来ていたー。

「ーーーーーー……」

今日は、学校は臨時休校になっていたー。
昨日、芹沢先生が死亡した件だー。

芹沢先生が、”悪党という裏の顔”を持っていたとしても、
学校においては”表向きの顔”しか知られていないー

圭哉自身も未だに信じられないー。

けれど、芹沢先生に裏の顔があってー、
”憑依”を悪用していた人間であったことは
もう、疑いようのない事実だったー。

「ーーーーーー愛染ー…お前は
 舞桜を元に戻せないって言ったけどー…」

圭哉は入口の前でそう呟くー

「僕は、諦めないー
 お前だって、憑依薬の根絶を最後まで諦めなかったはずだー。

 だからー
 僕は、諦めないー
 どんなに希望がないと言われたって、絶対に諦めないー」

圭哉は悔しそうに歯ぎしりすると、
愛染の孤児院のほうを見つめて呟いたー

「ーーーいつの日か、舞桜が元に戻ったらー
 絶対、舞桜に謝って貰うからー」

圭哉はそれだけ言うと、
ほんの少しだけ怒りの中に寂しそうな表情を浮かべたー

”愛染 亮”はもういないー。
昨日ー
体育館の血痕を見てー
芹沢先生に握られていたナイフを見てー
圭哉は、愛染がどうなったかー
直接見なくても、何となく、察してしまったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー舞桜…」
舞桜の友人・絵麻にも、
圭哉は”全てのこと”を話したー

絵麻は驚きながらも、
圭哉の話を”そんなことあり得ない!”と遮ったりすることなく、
最後まで聞いてくれたー。

寂しそうな表情で俯く絵麻ー

「ーーー大丈夫…僕は絶対に諦めないからー」
圭哉はそう言いながら、廊下で不良生徒の仁藤と会話をしている
舞桜のほうを見つめたー。

「ー今の舞桜にどんなことを言われたってー
 僕は、絶対に舞桜を助けて見せるー」

圭哉の言葉に、絵麻は少しだけ微笑むと
「ーなんだか、奥田くん、前より頼りがいが出て来た気がするー」
と、呟くー

「ーえぇっ…!?今までは頼りがいなかった??」
圭哉が言うと、絵麻は「だって、舞桜の方が頼れる感じだったし」と
笑ったー

圭哉は「ーーそんな」と苦笑いしながらも、
舞桜のほうを今一度見つめて、真剣な表情で呟いたー

「ーだったら尚更ー、
 たまには彼氏らしいところ、舞桜に見せてあげないとー」

とー

「ーー…そうだね」
絵麻はそう頷くと、
「わたしも親友らしいところ、舞桜に見せてあげないとねー」と、
二人で、舞桜を助けることを誓ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー話って何よー?」
舞桜がガムを噛みながら面倒臭そうに
呼び出された場所にやってくるー

「ーーー…」
今日はー
”思い出”の品を家からできる限りかき集めて来たー。

舞桜の心は、まだ消えてないー
あの日、体育館で、舞桜は”ほんのわずか”だったけれど、
少しだけ反応を示していたー。

絶対に、舞桜を取り戻して見せるー。

「ーー僕は、諦めないよ、舞桜ー」
圭哉の言葉に、舞桜は不愉快そうに舌打ちすると、
「いい加減にしろよテメェー」と、表情を歪めるー。

「ーーー何を言われたってー
 僕は舞桜が大好きだー
 今までも、これからも、ずっとー」

圭哉の言葉に、舞桜の瞳が一瞬、揺れた気がしたー

僕は諦めないー
何が、あろうともー
絶対にー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

5周年記念作品第2弾の最終回でした~!☆

第1弾は、1話完結の短編のお話だったので、
第2弾は、長めのお話を用意してみました~!☆

5周年ということもあり、
憑依薬の売人としていくつかの憑依空間作品に登場していた
愛染というキャラクターの終着点も描いてみました!

これまで見たことがない人でも、
分からない…とならないようにしつつ、
読んだことがある人には物語の終着点が分かるように、
バランス配分をするのに少し苦労しましたが、
こんな形で描きました~!

当初、愛染視点の話だけの予定だったのですが、
圭哉と舞桜のお話を入れたのも、
初めて見る人向けに考えた部分ですネ…!

憑依された舞桜の部分は
物語に彩を添えるための部分なので、
「圭哉の戦いはまだまだ続く★」スタイルでの完結(これは当初からこの予定でした)に
してあります!

今後も6周年、7周年、10周年、身体を乗り換えて100周年(!?)と
続けられるように頑張ります~!☆

ここまでお読み下さり、ありがとうございました!!

PR
憑依<憎しみの終着点>

コメント

  1. 匿名 より:

    今までの作品でも、憑依で恋人や妻の身体を奪われて、なんとか救おうとするキャラはいましたが、元に戻す方法はないと言われても諦めないなんて、圭哉の舞桜に対する執着とか執念はものすごいものがありますね。

    仮に舞桜が憑依とかではなく、自分の意思で作中みたいに変わったのだとしても、受け入れられずに圭哉は舞桜に付きまとったのではないでしょうか?

    ところで一瞬、本物の舞桜らしき反応があったのが気になりますが、愛染の憑依薬って、憑依相手の魂を殺して乗っ取るという物ではなかったでしたっけ? 過去作でそういう描写があった気がするのですが。

    ということは、仮に星宮を舞桜の身体から追い出すことが出来たとしても、抜け殻状態になるだけだと思うのですが、本物の舞桜らしき反応があるということは魂は殺されてないんでしょうか?

    同じ愛染の憑依薬でも結構効果の違いでもあるんですかね?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      圭哉は、”舞桜が乗っ取られている”と知ってるからこそ
      諦めずに救おうとしている設定で、
      舞桜本人が変わってしまったのなら、受け入れるタイプの子ですネ~!

      愛染の憑依薬は、これまでにも複数のタイプが存在しているので、
      必ずしも相手の精神自体を殺してしまうわけではないですネ~!
      ただ、今回舞桜に使われた憑依薬がどのタイプだったのかは、
      愛染本人にしか分からず、愛染がもういない以上、
      それを知ることはできません…☆!

  2. 匿名 より:

    そうなんですかね? 圭哉は憑依されてる状態とはいえ、舞桜本人から色々言われても、仁藤に脅されてるとか、なんの根拠もなく決めつけて、舞桜の変化を受け入れられない感じだったので、仮に憑依の事実を知らないままだったとしても、圭哉は舞桜の変化を受け入れられるようには思えない気がしますけど。

    ところで愛染が死んでしまったということは、これまで度々あった、愛染が販売してる憑依薬が出てくる話は今後は当然なくなっちゃうって事になるんですかね?

    そう考えると少し寂しいですね。まあ、この話より前の時間軸の話とすれば、今後も愛染の憑依薬の話も変わらず作れそうでもありますが。

    • 無名 より:

      ”舞桜本人の意思で変わった”と確定する証拠を手に入れたら
      引き下がる、ということですネ~!
      あの時点では、まだ”どうして”という部分が不明の状態だったので、
      必死に調べていました~!
      (急に豹変したら、最初はやっぱり原因を調べようとすると思いますし…☆)

      憑依空間のお話は
      必ずしも全て”時系列順”になっているわけではないので、
      愛染が今後出て来ることも、あるかもしれませんネ~!