<入れ替わり>おじさん体験学習Ⅱ~後編~

”おじさん体験学習”で起きた
想定外のトラブル…。

”おっさんを差別から救う会”の運命は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーふふ…驚いちゃいますよねー」
女子大生の菜々香が笑いながらそう呟くと、
ジュースを飲むために、ストローを口にするー

恵麻(太郎)は、険しい表情で”それ”を見つめるー。

解散となってしまった”おっさんを差別から救う会”ー。

”おっさん”を執拗に攻撃する女性と入れ替わる役を
担当していた太郎は、
入れ替わった相手の恵麻が、太郎の身体のまま
自殺してしまったため、
恵麻として過ごすしかない状況を余儀なくされていたー。

”おっさんを差別から救う会”とかいう怪しい団体に、
わたしは身体を奪われましたー。”

”わたしはもう耐えられませんー
 皆さん、これがおっさんたちの暴力ですー”

”こいつらは、人殺しです”

太郎になった恵麻は、ネットでそう拡散してー
自殺したのだー。

だがー

「ーーーーーよく考えてますよ、その女ー」
菜々香はジュースを飲み終えると、そう呟くー。

菜々香は現役女子大生の
”おっさんを差別から救う会”に協力していた外部職員だー。
”バイト”として、おっさんを差別から救う会に所属していたー。

その菜々香が、おっさんを差別から救う会が解散したと聞き、
独自に調べた情報は、恵麻(太郎)を
絶句させるには、十分すぎる情報だったー。

「ーーーー…」
恵麻(太郎)の見つめていた画面にはーー

”自殺したはずの太郎(恵麻)”が、笑いながら女たちと
クラブのような場所に入って行く光景だったー。

「ーー彼女は…死んでないってことかー?」
恵麻(太郎)がその動画を見つめながら言うと、
菜々香にスマホを返しながら、菜々香のほうを見つめたー。

「ーそうですねー。
 多分、死んだふりをして、世間に”おっさんを差別から救う会”のことを
 叩くように仕向けて、こうなることを狙ったんでしょうね」

菜々香はそれだけ言うと、
「ーーー内堀さんもそうですけどー…
 ”男を憎む女”を甘く見ちゃだめですよー」と、
言葉を付け加えたー。

恵麻(太郎)が菜々香のほうを見ると、
「ーーわたしの友達にも、”男嫌い”とか”女嫌い”の男女、いますけどー
 そういう人たちって、異性を叩くのが生きがいですからー
 マジで、油断してると、ヤバいですからね?」
と、言葉を付け加えたー。

「ーーそれじゃ。ご馳走様でしたー
 飲み物代は、バイト代ということで」

クスッと笑う菜々香は、
そのまま「ーおっさんを差別から救う会ー、好きだったのにー」と呟くと
席から立ち上がって、そのまま立ち去ろうとするー

「ーーあ、時給がいいからって意味ですよ?」
菜々香は振り返ってそう微笑むと、
「まぁ、あとは頑張ってくださいー。健闘を祈りますー」と、
笑いながら敬礼をして、そのまま立ち去って行ったー

「ーーーー」
恵麻(太郎)は表情を歪めたー。

こうなった以上、既に”おっさんを差別から救う会”を
再生することはできないだろうー。

「男も女も、同じ人間じゃないかー。
 なのに、どうしてこんなに争うー?」

恵麻(太郎)はそう思いながらも、
いやー、と呟くー。

人間の歴史は、争いの歴史だー。
何があっても、人間は些細なことから、大きなことまで
争いを繰り返すー。

”人間は、愚かだなー”
と、自虐的に笑いながらも、恵麻(太郎)は
「それでもー」と、立ち上がったー。

”おっさんを差別から救う会”は、今や世間の大悪党と言ってもいいー。
仮に、太郎になった恵麻が生きていても、
世間はおっさんを差別から救う会を許さないだろうー

その存在が灰になるまで、会は燃やされるー。
再生など、もはやできるはずもないー。

それでも、恵麻(太郎)にはやるべきことがあったー。
自分の身体を取り戻すためー。
そして、おっさんを差別から救う会の、最後の仕事をー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーははははは、ホント、ちょろいですよねぇ~」
太郎(恵麻)が笑いながら、数名の女性と酒を口にしながら笑うー。

恵麻が代表を務める”社会を男から取り戻す会”の、
メンバーたちと、太郎になった恵麻は笑いながら”祝杯”を挙げていたー

「ーーでも、そんなキモイおっさんの身体で大丈夫?」
副会長の女性が笑いながら言うと、
「マジできもいですけど、おっさんのキモさを世の中に伝えるには
 ぴったりですしー、
 それに、この前みたいに”悲劇のヒロイン”みたいにもなれますからねー」
と、太郎(恵麻)は笑ったー。

「ーーーー……」

太郎になった恵麻は、
外部の協力を経て”太郎に似ていた元々死んでいた男”を、
自殺した遺体のように見せかけて
”死”を演出したー

全ては”おっさんを差別から救う会”を叩き潰すためー

太郎(恵麻)は笑いながら
”私は、利用できるものは何でも利用するので”と、
笑みを浮かべたー

だがーー

「ーーあ、そうだー恵麻ちゃんー」
恵麻よりも年上の”副会長”が紙を取り出して
太郎(恵麻)に見せつけるー。

「ーーーーえ?」
太郎(恵麻)は思わず表情を歪めたー。

そこにー

「ーまさか、生きていたとはー」
恵麻(太郎)がやってきたー

「ーーー!」
話の最中だった太郎(恵麻)と、”男から社会を取り戻す会”の
副会長たちが、恵麻(太郎)のほうを振り返ったー。

「ーーーー!!!」
太郎(恵麻)が表情を歪めるー。

「ーーー別の遺体を使って、自殺を装って
 おっさんを差別から救う会を叩き潰すー…
 よく考えたものだなー…
 感心するよ」

恵麻(太郎)の言葉に、
太郎(恵麻)と、社会から男を取り戻す会の副会長、会計主任の二人が
表情を歪めるー。

「ーーー自分がこれから先、ずっと君の大嫌いな
 おっさんの身体で生きていくことになってまでー…
 そこまでして、我々の会を叩き潰すほどに、おっさんが憎いのかー?」

恵麻(太郎)の言葉に、
太郎(恵麻)は狼狽えた表情を浮かべているー。

「ーバレてるじゃん!何やってんの!この無能!」
副会長が背後で、太郎(恵麻)に向かって言い放つー

「ーーく……な、なんでー」
太郎(恵麻)が険しい表情で、恵麻(太郎)を睨むー。

恵麻(太郎)は、協力してくれた女子大生・菜々香の名前は出さずに、
情報提供があったことを告げたー。

「ーーふ…ふふ…でも、もう遅いんじゃない?
 あんたたちの会は世間では、大悪党よー。
 それに、もう解散したんでしょ?
 今更騒いだってどうにもならないはずよ」

太郎(恵麻)が言うと、
恵麻(太郎)は「あぁ…そうだなー」と、頷くー。

「ーーーそれに、あんたもじきに捕まるんじゃない?
 わたしが自殺を装ったあの動画のおかげでー、
 アンタは”わたしから身体を奪った”大悪党なんだしー」

太郎(恵麻)の言葉に、恵麻(太郎)は
「それも、君の言う通りだなー」と、頷くー。

代表の内堀に見切りをつけた、内堀の友人でもあった
警察組織の幹部は、内堀を逮捕し、
さらには世間の混乱を収めるために、
恵麻(太郎)のことも、近いうちに参考人として
確保するつもりでいる、と聞いたー。

だからこそー
今日、ここに来たー。

自分も、逮捕される前に、
おっさんを差別から救う会の胸を晴らすためー

「ーーーー………」
”男から社会を取り戻す会”メンバーの二人が
戸惑った表情を浮かべる中、
太郎(恵麻)は「もう、今更どうすることもできないー」と
笑みを浮かべるー

おっさんを差別から救う会のしていた
”おじさん体験学習”も、世間に公にできるようなものではなく、
法律的にも何らかの問題が生じるはずー。

それが明るみに出た今、
仮に太郎(恵麻)が生きていたのだとしても、
もはやどうすることもできないー。

「ーーーどうして”おっさん”をそんなに憎むー?」
恵麻(太郎)はそう呟くと、さらに続けたー。

「誰の遺体を使ったのか知らないがー、
 もしも君たちが殺したなら、君たちは犯罪者だぞー!」

恵麻(太郎)の言葉に、太郎(恵麻)以外の二人は
目に見えて動揺していたー。

「ふふっ…あぁ、自殺した風を装うためのあの遺体のこと?
 あれは、わたしの”友達”に用意してもらったものよー。
 わたしが殺したわけじゃないー。

 死んでた遺体を、ちょ~っと、わたしの死を偽装するために
 使っただけー。

 わかる?」

太郎(恵麻)の笑みー。
恵麻(太郎)は、太郎(恵麻)を睨みつけるー

「どうして、そんなに男を憎むー?」
恵麻(太郎)が歯ぎしりをしながら言うー。

”おじさん体験学習”が嫌だったからー…
と、言うよりかは、
”おっさんを差別から救う会”を完全に叩き潰すためだけの行動に思えるー

「ー自分が一生、元の身体に戻れなくなるかもしれないのにー
 自分は表向きは死亡扱いにされてしまうのにー」

恵麻(太郎)には理解できなかったー。

その言葉に、太郎(恵麻)は歯ぎしりをしながら言うー。

「ーーーー憎いモノは、憎いのー」

怒りの感情が、瞳に浮かび上がるー。

「ーーーーー」
恵麻(太郎)は”この子にいったい何があったんだー”と、
思いつつも、”恵麻の言葉”を待ったー

太郎(恵麻)は言うー。

「ー世間なんてね、簡単に騙せるの。
 わたしが泣きながら悲劇のヒロインになって自殺したらー
 その真偽を確かめもせずに、世間はあんたたちを叩き始めたー。

 特に、わたしみたいな可愛い女の場合はー
 尚更、同情を買いやすいー」

”何てこと言ってるんだー”と、
恵麻(太郎)は呆れながらも、太郎(恵麻)の言葉を聞くー

あり得ないほどの酷いセリフがポンポン口から出てくるー

「ー男は、女のためだけに働くしもべになるべきよ。
 わたしはそれを実現するためならー
 どんな手でもー」

何があったのかは知らないー
男をここまで憎むだけの何かが、この子にはきっとあったのだろうー。

世の中には、こういう子もいれば、そうじゃない子もいるし、
反対に、女を憎む男もいるー。

どうして人は性別という枠組みだけで、必要以上に争い、
傷つけ合うのかー。

恵麻(太郎)は”こんなことをしても、何になるのかー”と、
思いつつもー
”おっさんを差別から救う会”の仲間たちのことや、
自分自身の”こんな風にされたままでは気が済まない”という感情ー

そして、何よりもー
この”敵を叩くこと”に取り憑かれてしまったこの子を、
止めなくてはー、

と、そう思ったー

「ーーーーー」
笑みを浮かべながら暴言を連発していた太郎(恵麻)が
表情を歪めたー

「ーーーーーー」
顔から笑顔が消えて、みるみるうちに青ざめていくー。

恵麻の仲間二人は「やばいよ!」と言いながら、
そのまま逃亡していくー。

「ーーーー……………」
恵麻(太郎)は今の会話を録音していたー
こっそり隠し持っていたスマホでー。

「ーーー君は、全部自白したも同然だー。」
恵麻(太郎)が悲しそうに言うと、太郎(恵麻)は鬼のような形相で
何かを叫ぶー。

「ーー卑怯者…!卑怯者…!
 そんなことしたって、あんたたちの会はもう、元通りにはならないー!
 大体、わたしと入れ替わるとか発想がもうキモイ!!」

怒り狂って、太郎(恵麻)の罵倒はその後も何分も続いたー。

だが、恵麻(太郎)は反論はしなかったー

「ー我々も、君たちも、終わりだー」

”おっさんを差別から救う会”も、
”社会を男から取り戻す会”も、
もう、終わりだー。

恵麻(太郎)は、今録音した音声を、
そのままネットへと流したー

こんな争いの先に、何があるのだろうかー。
そう、思いながらー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日ー、

”社会を男から取り戻す会”は、
警察の立ち入りを受けたー

”他人の遺体”を裏社会組織に所属する知り合いから
譲ってもらい、”死を偽装した”太郎になった恵麻は
そのまま逮捕されて、
会の乗っ取りを目論んでいた副会長も失脚し、
会は壊滅したー。

”おっさんを差別から救う会”も、
”おじさん体験学習”という強引な入れ替わり体験に
対する世間の風当たりは変わらず、
そのまま復活することはないままー、
代表の内堀は全ての罪を被り、そのまま警察のお世話になっているー。

「ーーーーーーーー」
恵麻(太郎)は、今日もネットを見つめて、ため息をつくー。

”ごく一部”だー。
”一部”に過ぎないー。

男を叩く女がいるー
女を叩く男がいるー。

男にも、女にも
良い人間も悪い人間もいるのに、
性別と言う枠組みでしか人を見ることができない
男女が、今日もネットで戦いを繰り広げているー。

恵麻(太郎)はため息をついてー、
「何をしても変わらないなーこの世界はー」
と、苦笑いしながら、そう呟いたー。

おわり

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コメント

「おじさん体験学習」の後日談でした~!
前回は上手くいったので、今回は「失敗ルート」のほうを
描いてみました!~

最後まで何だか救いのないお話になってしまいましたが、
どさくさに紛れて、太郎は恵麻の身体のままですネ…笑

お読み下さりありがとうございました~!

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