虫になった女子大生ー。
女子大生になった虫ー。
二人の日々は、終わりを迎えようとしていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ほら!しゅ~!ってやっちゃいなよ!」
望愛(虫)が、部屋にやってきた
”元”彼氏の光雄に対して言い放つー。
彼女の望愛と虫の身体が入れ替わったー…
なんてことは当然知らない光雄は、
”突然”望愛から別れを告げられて、困惑の日々を送っていたー。
今日、こうして望愛の家にやってきたのも、
”せめて、望愛から直接理由を聞きたい”
そういう、理由だったー。
光雄が、容器に入った虫(望愛)を見つめるー
虫になった望愛は、先ほどから
必死に容器の中で動き回り、
彼氏である光雄のことを必死に呼ぶー。
何とか”この状況”に気付いてもらうことが
出来ればー
「ーーで、でも…この虫ー…
ケースに入ってるってことは、飼ってるんだろ?」
光雄の言葉に、望愛(虫)はクスッと笑うと、
「ー冗談冗談ー」と、殺虫剤を光雄から取り上げたー。
「ーーーーー」
チラッと、虫(望愛)のほうを見つめて、
望愛(虫)が微笑むー。
望愛(虫)は本気で殺虫剤を光雄に使わせるつもりではなくー
虫になった望愛に対する”ちょっとした脅し”を仕掛けただけだったー。
「ーー…そ…そんなことより、理由ぐらい教えてくれよ」
叫ぶ光雄ー
望愛(虫)は「別に~」と、言いながら
「ーーでもほら、光雄、虫嫌いでしょ?」と、笑みを浮かべるー。
「ーむ…虫が嫌いなのは元々だしー…
お、俺が頼りないって言うなら、俺も頑張るからー」
光雄がそう言い放つー。
光雄は、虫が出るたびに、まるで望愛に隠れるような反応を
いつもしていたー。
そのことが、別れを告げられた原因だと、光雄は考えているらしいー。
”そんなこと、いいんだってばー…!
いつも、気にしないで、ってわたし、言ってたじゃんー…!”
虫(望愛)は、光雄がこの状況に気付いてくれないことに
寂しさを感じながらも、
何とか光雄に異変を伝えようと、容器の中でとにかくもがくようにして
動き続けたー。
「ーーわたし、隠してたけどー
虫が”だ~いすき”なのー。
だから、虫が嫌いな光雄とは、もうこれ以上は無理ー」
望愛(虫)の言葉に、落ち込んだ様子を見せる光雄ー。
”光雄ー…違う…違うんだってば…”
言葉が伝わらないー
それが、こんなに辛いことだとは思わなかったー
「ーーあ、そうだーねぇ…光雄ー
え~っと…ーー…私とヤらない?」
望愛(虫)が突然とんでもない言葉を口にするー
光雄は「えっ!?」と、顔を赤らめながら
困惑した表情を浮かべるー
「人間のー…あぁ、ごめんー
女の子のそういうの、わたし、体験してみたくってー
だってほら、一人でもメチャクチャ気持ちいいしー…
男の子も、好きなんでしょ?
女とヤルのー」
望愛(虫)の言葉に、光雄は困惑しながら
望愛(虫)のほうを見つめるー
虫(望愛)は”わたし!そんなこと言わない!”と、
光雄に向かって叫びながらー
”気づいて”と、ただひたすら祈るー。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら望愛(虫)は
甘えた声を出しながら
光雄を誘惑しているー。
だがー
「ーごめん」
光雄の表情には”失望”の色だけが浮かんでいたー。
「ーー急に俺と別れようって言ってきてー…
別れた俺と…そういうことしたいとか…
ごめん…俺には理解できないや」
光雄はそれだけ言うと、望愛(虫)のほうを見つめながら続けたー
「ごめんー。
俺はきっと、望愛の思ってるような男じゃなかったー…って、
そういうことなんだよなー。
でも…今日ここに来て、俺も分かったよー…
望愛も、俺の思ってるような子じゃなかったってー」
心底残念そうにそう言葉を口にすると、光雄は
「ー理由はよく分からないけどー…わかったー。
正式にお別れしようー」と、だけ言い放って
そのまま頭を下げると、望愛の家から出て行ってしまったー
虫になった望愛は悲痛な叫び声をあげるー。
けれど、それも、虫の身体になった望愛にはー
”伝えることのできない”思いだったー。
「ーな~んだ…つまんないの」
望愛(虫)は不機嫌そうにそう呟くー。
「ー人間の男の子って、今の僕みたいなー
こういうエッチなの、好きなんだよね?」
笑いながら虫(望愛)のほうを見てそう呟く望愛(虫)ー。
どうせ返事をしても聞こえないだろうし、
今は何よりもそれどころじゃなかったー。
虫(望愛)は、勝手に彼氏の光雄とお別れになってしまったことで、
絶望し、只々、誰にも伝わらないであろうこの身体で
泣き続けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからもー
二人は元に戻れない日々を続けていたー
望愛(虫)は、男遊びを始めてー
”人間の女としての快感”の虜になってしまっていたー。
少し前まで虫だったからだろうかー。
”人間の快感”が忘れられずに、
それに取り憑かれてしまったかのように、
望愛(虫)は男遊びを繰り返すー。
大学でもすっかり、望愛の男癖の悪さは、
噂になりつつあったー。
しかし、それでも”望愛としての記憶”を持っている虫は、
大学での普段の生活は”今までの望愛”から
大きく外れるものではなく、
周囲は、望愛のことを”変わったね”とは思いつつも、
それ以上の疑問を抱くことはなかったー。
「ーーふ~~…おしゃれして、褒められると、
ホントゾクゾクするよ!」
望愛(虫)は嬉しそうに近況報告をしながら
容器の中に「はい、餌」と、餌を入れるー。
餌に食らいつく虫(望愛)ー
人間とは味覚も違うし、
悔しいけれど、今の虫(望愛)には、望愛(虫)がくれる餌が
なければ、食事をとる手段もないー。
屈辱に耐えながら、望愛(虫)から貰った”餌”を食べるー
”自分はもう人間に戻ることはできないのかもしれないー”
そんな、絶望すら、虫になった望愛が感じ始めたある日のことだったー。
大学を終えて、生足と肩を晒しながら
夜道を歩いていた望愛(虫)はー
突然、背後から男に腕を掴まれたー
「ーーへへへ…いつも誘っちゃってー…
俺にもヤラせろよー」
ニヤニヤしながら、望愛(虫)の腕を掴んだ男はー
大学で素行不良を繰り返し、問題になっている男子大学生だったー。
その男は、
無理矢理望愛(虫)を押し倒すと、
望愛(虫)の足をベタベタと触り出すー
「えっ…!?や、やめろ!」
望愛(虫)が叫ぶー。
望愛は、今までに”乱暴”を受けたこともないし、
”痴漢”やそういった被害も受けたことがないー。
だから、そういう”記憶”はなくー
望愛自身、あまりそういったことは気にしていないタイプであったことから
”知識”としても、それほど強いシグナルを発しておらず、
望愛になった虫も”女性としての危険性”を理解していなかったー。
「ー誘ってんだろ?へへー ほら!」
”な…なんだこれ…”
望愛(虫)は困惑するー
必死に望愛の中の記憶を探り、
”これ”がどういう状況であるかを理解した望愛(虫)は
急に怖くなって悲鳴を上げたー
「ーなんだよ?いつも男を誘ってヤってるって聞いてるぞ?
このビッチがー…
へへへへへ…いいから、ほら、抵抗すんな!」
ニヤニヤしながら笑う男ー
望愛(虫)は、自分がまだ虫であったころにも
経験したことのないような恐怖を感じて悲鳴を上げるー。
その時だったー。
「望愛!!!!」
望愛(虫)と望愛(虫)を襲っている男の背後から
声がしたー
「ーーみ…光雄ー…?」
望愛(虫)が涙目になりながらそう呟くー。
「ーーおい!望愛から離れろ!」
勇気を振り絞ってそう叫ぶ光雄ー
望愛(虫)を襲っていた学生は、
「あ~~?」と呟くと、光雄のほうを睨んだがー、
自分がしていることが、問題行為だということは
理解していたのだろうー。
しばらく光雄を睨んで、舌打ちすると、
そのまま立ち去って行ったー。
「ー大丈夫か!」
光雄の言葉に、望愛(虫)は「なんで…?どうしてー?」と、
目に涙を浮かべながら呟くー。
光雄は少しだけ困惑した様子で、
望愛(虫)のほうを見ながらー、
「ー振られたのは分かってるし…もう、彼氏面するつもりもないけどー…
それでも…目の前で元々彼女だった子が襲われてたら…
助けて当然だろ?」
光雄はそう言いながらも、脚をガクガクと震わせているー。
偶然、望愛とは別の大学からの帰り道に、望愛を見かけたのだと言うー。
虫を見るだけで飛びあがってしまう光雄ー。
人間に対しても、どこか臆病な一面のある光雄ー。
けれど、そんな彼は”いきなり自分を振ってきて印象最悪”であるはずの
望愛(虫)のことを助けてくれたー。
「ーー…最近、望愛の良くない噂、そっちの大学に通ってる友達から
いっぱい聞くけどさー…
少しは、自分の身体ー…大事にしてくれよー」
光雄が悲しそうに言うー。
「ーーーーーーごめんな。嫌いな俺に助けられたくなって
なかったかもしれないけどー…
どうしても放っておけなくてー…」
光雄はそれだけ言うと、戸惑った様子の望愛(虫)を見て、
寂しそうに「それじゃ…気を付けて帰れよ」と、だけ呟いて
そのまま立ち去ろうとしたー。
「ーーーーありがとうー」
背を向けて立ち去ろうとしていた光雄の背後から、
望愛(虫)の声が聞こえたー
光雄は、もう振り返らなかったー。
「どういたしましてー」
それだけ呟いて、立ち去っていくー。
振り返ったらー
また、望愛と一緒に、この先も歩みたいー
そう、思ってしまうからー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ガチャー…
虫(望愛)は、望愛(虫)が帰ってきたことに気付くー。
今日も、生足を晒した望愛(虫)は、
虫になった望愛がいる容器の近くに座ると、
ため息をついたー
「ーー人間ってー
色々楽しくてー
色々大変でー
色々面倒臭くてー…
なんだか…なんとも言えないなー」
望愛(虫)はそう言うと、
今日あった出来事を話し始めたー
男に襲われたことー
彼氏だった光雄に助けられたことー
それも、含めてー
「ーー…僕…あの人に、悪いことしちゃったなー…」
目に涙を浮かべながら望愛(虫)は言うー
「ーあの人ー…光雄は、本当にいい人なのにー
君の記憶を全部手に入れた僕にはー
そんなこと、分かってたはずなのにー」
望愛(虫)が涙をこぼしながらそう呟くとー
「ーやっぱり、虫は僕だー。
人間の身体を手に入れても、記憶を手に入れてもー
僕はー
虫だったー」
望愛(虫)はそこまで言うと、ふっ、と笑ってから、
虫(望愛)の方を見つめるー。
「ーーーこの身体はー
君が使った方が、やっぱり良さそうだー。
僕ーーー
”人間になりたい”ってずっとずっと願ってたら
こんな奇跡が起きたんだー
だから、今度はーー」
そう呟くと、望愛(虫)は静かに目をつぶるー
”え……あ、あなたはどうなるのー?”
虫(望愛)はそう呟くー。
けれどー
その言葉は、やっぱり”人間”には届かなかったー。
「ーーーー短い間だったけど、
僕は人間になれたー…
人間を体験することができたー。
ありがとうー
僕はー
僕の身体はもう、多分長くないけどー
あとはーーー
虫として、最後まで楽しく過ごすよー」
その言葉と共にー
虫(望愛)の意識が遠のきーー
気付いた時には、
部屋で横たわっていたー
望愛が慌てて起き上がって
「も…元に戻ってる!」と、叫ぶとー
容器の中に入っている虫が、容器越しに、
望愛のほうを見つめていたー
「ーーーーー…」
望愛は、少しだけ悲しそうに虫のほうを見つめるとー
「ーわたしの身体を…散々好き放題使ってくれたねー…」と、
少し怒った口調で呟くー。
そしてー
以前、望愛になった虫に”向けられた”殺虫剤を
容器の方に向けるとー
にこっ、と笑ってー
「この前の、お返しー。
びっくりしたでしょ?」と、呟くー
殺虫剤を使わず、少し離れた場所に置くと、
望愛は微笑みながら言うー。
「ーあなたの言葉は、わたしにはもう聞こえないけどー
わたしがあなたの…虫の身体になってるとき、
人間の言葉はちゃんと聞こえてたからー
たぶん、今のあなたにも聞こえてるよね?」
望愛はそれだけ言うと、
「ーーわたしの身体を、返してくれて、ありがとうー」と、
優しく言葉を口にしたー
”光雄とお別れさせられちゃったりー”
色々、大変だけどー…
それは、これからなんとかするつもりだし、
光雄にはしっかり謝って、なんとか、分かってもらおうと思うー。
「ーーーー」
望愛は、虫の入っている容器のほうを見つめると、
「ーーー……狭いでしょ?そこ?」と、笑ってから、
容器から虫を外に出して、玄関の方まで持っていくー
玄関の扉を開けて、虫が逃げられるようにしてあげる望愛ー。
だがー
虫はなかなか外にはいかず、望愛のほうを振り返るようにして
見つめていたー。
「ーーー……ここにいたいの?」
望愛が苦笑いするー。
虫は、”うん”と返事するかのように、玄関の中の方に向かって
ゆっくりと歩いてきたー
「ーーー仕方ないなぁ…
光雄がもし来るときがあれば、また、ケースの中に入ってもらうからねー」
望愛は、そう言いながら虫を家の中に再び招き入れたー。
それから1週間後ー
既に、寒くなりつつあった季節で、寿命を迎えたのであろう虫はー
リビングの机の側で、静かにその生涯を終えていたー。
「ーーー」
寂しそうにその虫を見つめる望愛ー。
「ーーーーーーお疲れ様ー」
望愛は、動かなくなった虫のほうを見て、
そう囁くと、静かに両手を合わせたー。
”ーーーー入れ替わったのが、君で本当によかったー…
ありがとうー”
そんな言葉が、最後に聞こえた気がしたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
私が書く人間以外との入れ替わりは
いつもバッドエンドになっていることが多かったので
今回はバッドじゃない方向で物語を考えました~!☆
ちなみに、ちゃんと彼氏の光雄とも復縁できている設定デス~!
お読み下さりありがとうございました~!
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