おじさんに対する理不尽な攻撃を繰り返す人間に対し、
入れ替わりで「おじさん」を1週間体験させることで、
改心を促す「おじさん体験学習」…。
しかし、今回の相手は”かなり厄介”な相手だったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー内堀さん!」
恵麻(太郎)が叫ぶと、
太郎(恵麻)が、床に倒れた内堀の胸倉を掴んだー。
「ー早く…わたしの身体を元に戻しなさいよ!」
太郎(恵麻)の言葉に、内堀は「ダメですー」と、鼻血を流しながら即答するー。
自分が殴りつけたことで、内堀が鼻血を噴き出したことも
お構いなしに、太郎(恵麻)は叫ぶー
「元に…戻せ…って言ってるの!」
ギリギリと歯ぎしりしながら怒り狂った様子の
太郎(恵麻)ー
内堀は「ーーあなたは”体験学習”に参加するしかないー」と、
苦しそうに呟くー
今までにも”反抗的”な参加者はいたものの、
ここまで凶暴な人間はいなかったー。
予想以上の反抗に、内堀も、恵麻になった太郎も驚いているー。
通常ー
どんなに”おじさんが嫌い”な人間でも、
入れ替わって”自分の身体が奪われている状態”では、
あまり過剰な行動に出る人間はいないー。
この前”体験学習”を終えた菜月のように、
どんなに男を毛嫌いしていても、
渋々”おじさん体験学習”に参加することがほとんどだったー。
「ーーーふざけんな!元に!戻せ!」
太郎(恵麻)は、なおも内堀を殴りつけるー。
別に肉体自慢ではない内堀は、既にボロボロの様子で
苦しそうに太郎(恵麻)を見つめるー。
「ーーうあああああ!!!戻して!!!早く!!!」
太郎(恵麻)が再び叫ぶー。
「ーこんなおっさんの身体とか、無理…!無理…!無理!!!!!」
大声で叫ぶ太郎(恵麻)に対して、
内堀は「君のお父さんも、参加することを願ってるんだー!」と、
言い返すー。
しかしー
「あいつが?ふざけんな!あんなクソジジイ!絶対許さない!」と、
太郎(恵麻)は怒りの形相で叫ぶー。
「ーーいいから、早く元に戻して!」
太郎(恵麻)の言葉に、内堀が口を開こうとしたその時ー、
恵麻(太郎)が「そ、それ以上はやめろ!」と叫んだー。
恵麻と入れ替わっている太郎も
”おっさんを差別から救う会”の一員ではあるものの、
この前の菜月の時と同じように
”あくまでも一般人”を装っているー。
だから、ギリギリまで黙っていたがー、
これ以上続けば、代表の内堀が最悪、殴り殺されてしまうー。
そうならないためにと、恵麻の身体で太郎は声を上げたー。
「ーーーー……!」
太郎(恵麻)が怒りの形相で「あんた…なんのつもりー?」と
表情を歪めるー。
「ーーそ、そ、それ以上ー、僕の身体で暴力を振るわれたらー
僕の身体が犯罪者になってしまうー。」
そう言いながら、恵麻(太郎)は、ハサミを自分のー
恵麻の身体の首筋に向けているー。
「ーーーー…」
太郎(恵麻)は険しい表情を浮かべながら
内堀から離れるー。
「ーーーこの体験学習は1週間で元に戻るんだー。
僕だって、急に君の身体と入れ替えられて、困惑してるー」
恵麻(太郎)は、あくまでも
”おっさんを差別から救う会”とは関係のない一般人を
装いながらそう呟くと、
太郎(恵麻)は「そんなこと言ってー…わたしの身体を手に入れて
喜んでるんじゃないの?」と、不満そうに呟くー。
「ーこんな汚らしいおっさんだったら、誰だってわたしみたいな
綺麗な女の身体を手に入れたら、喜ぶもんね?」
恵麻(太郎)が見下すような口調で呟くとー、
「ー僕は、自分を嫌いだと思ったことはないー」と、
恵麻(太郎)の姿で断言したー
「ーわたしの声で勝手に”僕”って言うな!」
太郎(恵麻)が怒りの形相で叫ぶー。
”自分”の身体に睨まれながら
恵麻(太郎)は”この子は…おじさんの身体を1週間体験したところで変わるかどうかー”と、
険しい表情を浮かべるー。
”今回”はー、
”外部職員”たちの協力で、
”架空の家族”を用意してあるー。
妻役の女性職員と、娘役の外部職員、
息子役の外部職員がそれぞれスタンバイしているー
”娘役”をやるのは、
前回、菜月の”おじさん体験学習”の際には
コンビニの女子大生バイト役として活躍した女子大生だー。
今回は”太郎の娘役”として、”父親を毛嫌いする娘”を演じてくれるー。
だがー
この恵麻という子がー
おじさんの立場を体験して、
簡単に改心したりするだろうかー。
「ーーー1週間…耐えればいいんでしょ」
不満そうに呟く太郎(恵麻)がそう言葉を口にすると、
先ほど殴られた代表の内堀が頷くー。
だが、太郎(恵麻)は厳しい表情で内堀を見つめたー
そして、口を開くー。
「体験学習とか、クソみたいなことが終わったら
絶対ーあんた…
”おっさんを差別から救う会”を訴えるからー。
絶対に許さないー」
溢れ出る憎しみの言葉を口にすると、
太郎(恵麻)はそのまま施設の職員に案内されて、
外の方に向かっていくー
内堀は不安そうに、殴られた部分を押さえているー
「ーーあの子は想像以上にー手ごわそうだー。
”外部職員”たちにも事前に連絡しておいた方が
いいかもしれないー」
「ーーー」
恵麻(太郎)は頷くと、
そのまま”家族役”の外部職員たちに連絡するー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「え~?ホントですか~?
そんなにヤバい人なんですかぁ?」
現役女子大生で”おっさんを差別から救う会”の外部職員として
依頼を受ければどんな役でもこなす女子大生・菜々香(ななか)が
笑いながら言うー。
”あぁ、正直、何するか分からないレベルだからー…
その、菜々香ちゃんも気を付けて”
恵麻(太郎)が言うと、菜々香は
「ーそれにしても、可愛い声ですねー」と、笑いながら言うー
”な、なんだよ…茶化すなよ”
苦笑いする恵麻(太郎)ー
「ーーまぁ、分かりましたー。
今回は”お父さんを毛嫌いする娘”として頑張りますからー」
菜々香の言葉に、恵麻(太郎)は”ありがとうー。頑張って”と
返事をして、そのまま通話は終了したー。
「この前のコンビニの時の子も、
結構きつそうな感じだったけどー…」
菜々香はそう呟くと、
「ま、どうにかなるでしょ」と、微笑むー。
「ーーーあ、あのー…どうでしたか?」
息子役の”現役男子大学生”の外部職員が言うと、
菜々香は「すっごいヤバい人が来るって!」と、
笑いながら答えたー。
まるで楽しんでいるかの様子の菜々香に、
おっさんを差別から救う会にパートとして所属している
”妻役”の女性が不安そうな表情を浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかしー
”事件”が起きたー
「ーーな…なんだってー…?」
恵麻(太郎)が、電話を手にしながら唖然とした
表情を浮かべるー。
「ーどうした?」
代表の内堀が言うと、
恵麻(太郎)は、”僕らしき焼死体が発見されたと”と、
険しい表情で内堀のほうを見つめたー。
「え」
内堀は、困惑の表情を浮かべながら
ただちに”おっさんを差別から救う会”を裏から
サポートしてくれている警察幹部に連絡を入れると、
その現場に、恵麻(太郎)と共に駆け付けたー。
そこにはー
車と共に、焼死体になった太郎(恵麻)の姿があったー。
「ーーー…そ…そんな…」
恵麻(太郎)は唖然とするー。
しかもー
「ーー!」
内堀は、他の職員からの連絡を受けて、
表情を曇らせるー。
”おっさんを差別から救う会”とかいう怪しい団体に、
わたしは身体を奪われましたー。
そうー
恵麻のツイッターアカウントにツイートされていたのだー。
”わたしはもう耐えられませんー
皆さん、これがおっさんたちの暴力ですー”
その言葉と共に、太郎(恵麻)の自撮り写真が掲載されているー。
”こいつらは、人殺しです”
その言葉と共に、恵麻のアカウントには
”おっさんを差別から救う会”への憎しみが、
書き込まれていたー。
”おっさんを差別から救う会”の存在が
世間に広まり、
しかも、太郎と入れ替わった恵麻が、
泣きながら”無理やり身体を奪われた”と、訴えかける動画まで
投稿されており、
一躍、恵麻は”おっさんに無理やり身体を奪われた、悲劇の象徴”に
なってしまったー。
おっさんを差別から救う会は大炎上したー。
「ーーーー」
代表の内堀が頭を抱えるー。
「ーーーーーいつかは、こうなるとは思っていたー」
内堀はそう呟きながらも、
「でも、それでもーー私は、苦しむおじさんたちを救いたかったー」
と、頭を抱えながら呟くー。
NPO法人”おっさんを差別から救う会”は、
内堀の長年の友人でもある警察上層部の人間と、政治関係者の
バックアップがあってこそ、作られた存在だったー。
内堀も、残る二人も
”見た目が冴えないおっさん”だった故に、
”相当な苦労”や”差別”、”偏見”まで受けて来たー。
内堀の協力者である警察上層部の人間の友人は、過去に
”痴漢冤罪”により、最終的に自殺しており、
それが”おっさんを差別から救う会”の結成の強い動機にもなっていたー。
内堀自身も、その自殺した人間のことを知っているー。
その男を陥れた当時女子大生だった子はー
後に”嘘だった”と言っており、
”でも、どうせ犯罪者予備軍みたいなおっさんだった”と
開き直っていたことに、彼らは怒りを感じ、
今の活動に至っているー。
恵麻(太郎)は「内堀さんー」と、頭を抱える内堀に近付くー。
「ーーー…すまんー…
お前の身体までー…」
内堀が申し訳なさそうに言うー。
太郎と入れ替わった恵麻が自殺してしまったー、ということは、
太郎の身体は死んでしまったことを意味しているー
それはつまりー
もう、太郎は、元の自分には戻れない、ということだー。
「ーおっさんを理解するぐらいなら、死ぬー…
そんな女性もいるんだなー」
内堀は悲しそうに呟くー。
「もちろん、犯罪を犯すおっさんもいるのは分かってるー。
でもーそれを言ったら、美人だって、イケメンだって、
爺さんだって、ばあさんだって、子供だってー
犯罪を犯す人間はいるじゃないかー。
どうして、我々のようなおっさんだけー」
内堀は頭を抱えながら首を横に振っているー。
”おっさんを差別から救う会”への世間の攻撃は、
鬼のように続いてー
ついに、法人として解散となったー
内堀は”外部職員”の存在も明かさず、
影の協力者の存在も明かさずー、
自分一人が全ての罪を背負って、
世間から、”極悪非道のおっさん”として、
目を逸らしてしまいそうなほどに叩かれる日々を送っているー。
内堀の知り合いでもある警察関係者の男と、
政治家の男も、内堀のことを切り捨てることにしたのだろうー。
近日中に内堀は逮捕される見込みになっていたー。
「ーーーーー」
恵麻(太郎)は、困惑の表情で、とあるカフェにやってきていたー。
「ーーお待たせしましたー。大学が忙しくてー」
そこにやってきたのは、おっさんを差別する会に
協力している外部職員ー、
現役女子大生の菜々香だったー。
「ーーいやー。」
恵麻(太郎)が言うと、
「ーそれにしてもー…本当に真面目ですよねー」と、菜々香は笑うー。
「ーーえ?」
恵麻(太郎)が言うと、
菜々香は「いえー、だって、そんな可愛い身体になったら普通ー
男の人って色々しそうですし」と苦笑いするー。
「ーーはは、僕はこれでも何回も入れ替わりしてきたプロだからね」
恵麻(太郎)が言うと、
すぐに真面目な表情に戻って「それで、話ってー?」と
菜々香に確認するー
「ーーえぇ。わたしが独自に色々調べてみたんですけどー…
これー」
菜々香から示されたものにー、
恵麻(太郎)は、表情を歪めたー。
<後編>へ続く
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コメント
おじさん体験学習の崩壊…!
どうなってしまうのかは、
また次回のお楽しみデス~!
(※いつも通り、土曜日の作品のみ、1週間に1回or1話完結になりますので
来週まで少しお待たせしてしまいますが、楽しみにしていてください~!)
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