ある日ー、
女子大生が”虫”と入れ替わってしまったー…
虫に身体を奪われた彼女の運命はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うん、え~?うん…大丈夫だよ!
うん、じゃあ、また明日!」
大学に通う女子大生、
村木 望愛(むらき のあ)は、
彼氏との通話を終えて、そのまま歩き出したー。
小さい頃からしっかり者で、頼れる存在の望愛は、
大学生になった今でも、周囲から何かと頼られるそんな存在だったー。
先輩からは可愛がられているし、
後輩からは慕われるー。
そんな感じの女子大生ー。
本人は決して、それを気取ったりすることはなく、
あくまでも控えめであるために、
周囲にイヤな印象を与えてしまうこともなく、
男女問わず、望愛に対して好意的な印象を持つ人間は多かったー
彼氏の島岡 光雄(しまおか みつお)は
高校時代の同級生で、現在通う大学は別だが
学校は別になっても、今でも良好な関係が続いているー
「あ、そうだー…光雄が来るならー」
そう思いながら、望愛は帰宅前に近くのお店に入り、
”害虫対策グッズ”を少しだけ購入したー
光雄は高校時代から、虫が大の苦手で、
大きな虫を見かけた時には悲鳴を上げてしまうぐらいだったー。
今でもその感じは続いていて、
虫が出現したりすると、望愛が虫と戦って、光雄が望愛の影に
隠れるような、そんな感じになってしまっているー。
望愛自身はそんな光雄のことを
「虫が得意・苦手に男も女も関係ないもんねー」と、笑っていて、
特にそのことで、光雄のことを悪く思ったり
していることはないー。
「だんだん冷えて来たなぁ~」
だんだんと寒くなってくる季節ー。
寒さを感じながら、購入した軽い殺虫剤などが
入った袋を手に、そのまま歩く望愛ー。
その時だったー
「ーーーわっ!」
望愛が思わず、踏もうとしていた地面を見て、
元々足を置こうとしていた場所から、
足を逸らしたー
そこにはー、
カメムシのような形をした虫がいたのだー
「ーーー…危なかった~…踏んじゃうところだったー」
カメムシかどうかは分からないが、
望愛は害虫以外の昆虫を積極的に退治したりはしないタイプで、
出来る限り「無駄な虫殺し」は避けるタイプの子だったー。
流石に蚊とか、ゴキブリとか、ハチとか、
そういう危害を加えてくる虫はちゃんと退治するものの、
退治する必要がないものに対しては、何もしないー。
そんな考え方の持ち主だー。
「ーーここにいると、踏まれちゃうよ」
望愛は、しゃがみこんでそんなことを呟くと、
”気を付けてね”と、小声で呟いてからー
そのまま立ち上がろうとしたー。
しかしー
その時だったー
しゃがみこんだまま、自分が立ち上がれないことに
気が付いたー
”え…????”
望愛は少しだけ表情を歪めるー。
何が起こったのか、理解が出来ないー。
立ち上がろうとしたら、立ち上がることができないー。
いやー
それだけではない。
まるで、金縛りにあってしまったかのように、
自分の身体が動かない状態であることに気付いた望愛ー。
望愛は「なにこれー…?」と、言葉を口にしようとしたが、
言葉すら発することができなかったー。
焦る望愛ー
そんな時ー
”声”が聞こえたー
”きみは虫だよー”
とー。
”え…?”
望愛は、困惑しながらその言葉を聞くー。
全く意味が分からないー。
だが、その声はもう一度言葉を繰り返したー
今度は、先ほどよりもハッキリと、
より、明確にー
”今日からきみは、虫だよー”
とー。
ふと見ると、望愛がしゃがみこんで見つめていた
カメムシのような虫が、
望愛のほうをじっと見つめていたー
そしてー
次の瞬間、急にふらっと立ち眩みのような不気味な
感覚を覚えてからー、
再び目を開けると、自分の視線のすぐそばには、
土があることに気付いたー。
”あれ…!?”
一瞬意識が飛んだ気がする望愛は、
最初、自分が気を失って、そのまま地面に
倒れ込んでしまったのかと思ったー
倒れ込んだままの視点で、周囲を見渡す望愛ー。
だが、ここで望愛はある異変に気付くー。
”周囲の人たちが、倒れている望愛のことなど、
全く関心がない”と、言わんばかりの反応で、
何の反応も示していないのだー。
そこそこ人通りの多いこの道ー、
望愛に限らず、誰かが倒れていれば、
普通は誰かしら反応するはずー。
しかしー、
誰も、望愛に見向きもしないー。
”え……?”
少し疑問に思いながらも、望愛は立ち上がろうとするー。
しかし、身体は動くがー、
立ち上がることはできずー
地面すれすれの視界のまま、望愛は困惑の表情を浮かべていたー。
その時だったー
ようやく、人が近づいてくるー。
近付いてきた女性らしき人物は、
すぐそばで立ち止まると、しゃがみこんだー
「ーー!?」
望愛は、その女性が自分と同じ服装をしていることに気付くー。
そして、その女性は望愛のことをまるで
”虫”でもつまむかのような仕草で、
掴むと、笑みを浮かべたー
「きみは今日から、虫だよー」
そう呟いているのはー
”え…わ、わたしー!?”
紛れもなく、望愛本人だったー。
”な、なんでわたしがー…もう一人ー!?”
望愛がそう思うとー、
目の前にいるもう一人の望愛が、笑みを浮かべたー。
そのまま身動きが取れず、掴まれて、
何が起きているのか分からないまま、
自分の家へと到着してしまう望愛ー。
望愛の姿をした何かが、堂々と、望愛の家に入り込むと、
「ーここが”わたし”の家なんだね~」と、嬉しそうに微笑んだー。
”ちょ、ちょっと…どういうことー?”
戸惑いながら、周囲をキョロキョロと見渡すー
さっきから、世界が大きくなったように見えるー
身体が思うように動かないし、立ち上がることもできないー。
そんなことを思いながら半分パニックになっていると、
”望愛の姿をした何か”が、鏡を持ってきてー
それを望愛の目の前に置いたー
”え…”
目の前に置かれた鏡に映ったのは、
望愛の姿ではなくー、
先ほど、大学の帰り道で見かけて
踏みそうになった”虫”だったー
「ーだから言ったでしょ?きみは虫だってー」
鏡に映っているのは、虫ー。
望愛は、虫になってしまったのだー
”え…ど…どういうことー?これってー?”
虫になった望愛は、戸惑いの声を上げるー。
しかしー
その声が実際に言葉として発されることはないー。
さっきから、ずっと地面に倒れ込んでいる視線に
なっているのは、自分の身体が虫になっていたからー。
さっき、周囲の人々が誰も反応してくれなかったのは
”望愛が倒れている”のではなく、
そこには”虫がいた”だけだったからー。
”な、なにが起きてるのー?”
虫(望愛)は困惑の声を上げるー。
いや、声は出ないー。
心の中で、叫んでいるだけー。
「ーーははは…僕が何を言ってるか、本当に分かんないなぁ」
望愛になった虫は、笑みを浮かべながら言うー。
「僕も、人間に向かって色々言ったりしてたけどー
何も反応なかったのも、これじゃ、当たり前だね」
望愛(虫)はそう言うと、
「でも、人間ってすごいや!」と、笑みを浮かべるー
「頭の中にい~っぱい、知識が入ってるんだね」
望愛(虫)はにこにこしながら自分の頭を
つついているー
「人間の身体になった途端、
すっごい知識が色々入ってきて…
なんかもう、たまんないよー。
人間の言葉の意味も分かったしー。
どうだい?僕、ちゃんと喋れてる?」
望愛(虫)は笑うー。
望愛になった虫は、望愛の脳の記憶を得たことで、
人間としての振る舞いができるようになりつつも、
人間の世界の新鮮味に感動していたー。
「ーーって、きみは虫だから、僕とコミュニケーションは取れないねー。
ーーまぁ…たぶん、君は”どうなってるの!?”とか言ってるのかな?」
望愛(虫)は笑みを浮かべながら
横目で虫(望愛)を見つめると
「あ、そうだー」と、笑いながら、部屋の棚の中に入れていた
小さな容器のようなものを取り出したー
「人間は、僕たちを”虫カゴ”に入れるんだったねー
きみの頭の中にそういう記憶があったー。
だからー
僕も、君を”虫カゴ”に入れるよー」
”え…ちょ…やめて!!”
虫(望愛)は必死にもがこうとしたが
抵抗できるわけもなくー、
そのまま手で捕まれて、虫カゴ代わりにしようとしている
容器の方に持っていかれるー。
虫(望愛)は必死にもがくー。
だが、”虫の身体”では”人間”に抵抗できないことを
この身で味わうことになってしまうー。
「ーーはははっ…無駄だよ。
知ってるだろー?
虫の力じゃ、人間には抵抗できないー」
望愛と入れ替わって”人間の身体”を手に入れた虫は
ご機嫌そうにそう笑うー。
そして、虫になった望愛の目のあたりを見つめながら
冷たい笑みを浮かべながら囁くー。
「ー今のきみは”人間様”には逆らえないんだよ?」
とー。
ゾワッとするほど、
”怖い自分”の姿を見て、虫になった望愛は
震え上がるー。
「ーあまり、抵抗しちゃだめだよ。
間違って潰しちゃったら大変だー。
君なら分かるだろ?
ちょっと力加減を間違えると
”虫”なんかすぐに潰れちゃうって」
望愛(虫)はそう言うと、虫カゴの中に
虫になった望愛を入れたー。
虫になった望愛は必死に容器の中を
動き回るー。
だがー
どうやっても、外に出ることはできないー。
まるで、刑務所に入れられたかのような、
そんな、感覚ー
どんなにどんなに動いてもー
外に出ることはできないー
「ーはははははっ!
君たち人間は残酷だなー
僕たちをそんなー
ーーーそう、君たちで言う「牢屋」みたいな
ところに入れて、
かわいい~~!とか言ってるんだからさ~」
望愛(虫)はそう言うと、
容器の中で必死に動き回る虫(望愛)を見つめながら
「ーーか~わ~い~い~♡」
と、馬鹿にした声で囁いたー。
「ーー安心して… う~んと、そう、”餌”ー
君たち人間が僕たちを馬鹿にして
”餌”をくれるけど、
僕もちゃんと、君に”餌”をあげるからね」
望愛(虫)はそれだけ言うと、
「人間の脳ってすごいなぁ~」と、笑いながら
イスに座ると、
そのまま”望愛の脳”の記憶をさらに読み取り始めたのか、
目を閉じて、時々ニヤニヤしながら、
何かをブツブツと呟き始めたー
”ど…どうしよう…”
虫になった望愛は、容器の中から
そんな望愛(虫)のほうを見つめながら
困惑していたー。
”わたしになったあの子ー…
人間のことを憎んでるみたいだったけどー…”
虫になった望愛は、強い焦りを感じながらも、
冷静な部分もあったー。
必死に状況を考えながら、
なんとか元に戻る方法を考えていくー。
けれどー
虫の身体になってから”人間との意思疎通”が出来ないー。
望愛(虫)の言動から、
こっちの考えていることー、
伝えようとしていることが、伝わっているようには見えないー。
”なんとかー…
なんとか、こっちの言い分を聞いてもらわないとー…”
虫(望愛)は、そんな風に考えながら、
現状を打開する方法を、頭をフル回転させて、
考えていくー。
その時だったー
「ーへ~~~…君にも好きなオスがいるんだね」
望愛(虫)はそう言いながら立ち上がったー
「あ、違うー、人間は”男”って言うのかー」
望愛(虫)はそう言うと、
「へ~~~~~」と、突然冷たい声を出したー
「ーー光雄…”僕たち虫のこと”が嫌いなのかー
ふ~ん…
そんな男、いらないやー。
別れよっと」
望愛(虫)はそう呟くと、突然スマホを手にして、
彼氏の光雄に勝手に電話をかけ始めたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
”虫”との入れ替わり…!
大変なことになっていきそうデス…!
明日以降もぜひ楽しんでくださいネ~!
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