”おじさんの立場を1週間体験させる”
おじさん体験学習ー。
そんな、奇妙な体験学習は今日も続いていたー。
※おじさん体験学習の続編デス!
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”おっさんを差別から救う会”ー
とある団体から入れ替わり装置の提供を受けて、
”おじさん体験学習”を実施しているNPO法人だー。
代表の内堀は、今日は”協力者”の元を訪れていたー。
「ー先日はどうもありがとうございましたー」
「ーーいえ」
内堀が訪れた場所はコンビニの事務所だったー。
「ー”体験学習”にご協力いただき、感謝していますー」
内堀がそう呟くと、
先週までおじさんを毛嫌いする女子大生・菜月と入れ替わっていた
おっさんを差別から救う会のメンバー・五郎の”バイト先”である
コンビニの店長に頭を下げたー。
「ーーははは、私だって一応”外部職員”ですからねー」
コンビニの店長はそう言うと、
「ー私も、理不尽に”キモイ”と言われたり、色々ありましたから」と呟くー。
このコンビニはー
菜月と入れ替わっていたおじさん・五郎の”バイト先”ではないー。
”バイト先の設定”になっていた場所であり、
実際にはバイト先ではなかったのだー。
コンビニで五郎にきつく当たっていた女子大生も”外部職員”のひとりー。
このコンビニの他にも
”外部職員”たちがスタンバイしている”協力先”がいくつかあり、
毎回、おじさん体験学習を実施した際に、協力先のいずれかに
協力をお願いしているー。
菜月の入れ替わりの時は、協力先の一つであるこのコンビニに
協力をお願いしたのだったー
”外部職員”はおっさんを差別から救う会の活動に直接的には
携わっていないものの、おっさん体験学習を実施する際にのみ、
このコンビニのように、手伝いをしてもらうことになっているー。
「ーあ、内堀さんー」
太郎になった菜月にきつく当たっていた女子大生バイトがやってくるー。
彼女が女子大生なのは本当だがー、
このコンビニのスタッフではなくー
菜月が太郎と入れ替わった直後から、このコンビニで
”太郎に攻撃的な言動を繰り返す役”として
やってきていた”偽のスタッフ”だったー。
「ーーーこの前、入れ替わってた子ー、
君の姿を見て、”わたしもこんな風なのかな”って思ったみたいだよー」
内堀が言うと、女子大生バイトは「わたしの演技力、激ヤバですからね~」と、微笑むー。
彼女は”おっさんを差別から救う会”の外部職員が本来のバイトだー。
今日は、コンビニから撤収するために、荷物をちょうど取りに来ている最中だったー。
「ーーまた、”次”の体験学習もあるなら、ぜひわたしに依頼してくださいね!
わたし”どんな役”でもこなしますから!」
女子大生バイトが笑いながら内堀に対して言うと、
「ーーははは、茜(あかね)ちゃんは本当に頼りになるよー」と、
笑いながら呟いたー
「ーあんなに日給貰えるなら、貰った金額分、全力で働きますよっと!」
ふざけて敬礼しながら、菜月にきつく当たる女子大生コンビニバイトを”演じて”いた
茜は「それじゃ、失礼しますー」と、コンビニの店長と内堀に頭を下げてー
そのまま立ち去って行ったー。
「もう”次”は決まっているのですか?」
コンビニの店長が言うと、
代表の内堀は「ええ」と頷いたー。
”おっさんを差別から守る会”は、
おじさん体験学習以外にも色々な活動をしているー
”理不尽な差別”に晒されるおっさんを守るために、
日々活動しているのだー。
その中の活動の一つが”おじさん体験学習”だが、
色々外部の協力や、管理も必要であるため、
”複数の体験学習”を同時に行うことは難しいー。
これまでにそれなりの人数、やってきたがー、
一度も同時にやったことはなく
”一人ひとり順番に”行っているー。
この前の菜月の体験学習が終わったためー、
そろそろ次を、と、おっさんを差別から守る会は
”次の体験学習”を準備している最中だったー。
「ーーー次は、これまでにない、強敵でしてね」
内堀がため息をつくー。
次の”依頼”は、
”本人の父親”からの依頼ー。
娘の暴走を見かねた父親が、
”おっさんを差別から守る会”の
おじさん体験学習の噂をどこからか聞き、
依頼してきたのだー。
「ーこれまでにない強敵ー?」
コンビニの店長が首を傾げると、
「えぇ」と、内堀が頷くー。
「”男”という存在自体を憎んでいるような娘さんでしてねー。
おじさん体験学習を通して、改心させられるかどうかー」
内堀が言うには、
その本人は、男を憎むあまり、大学卒業直前に大学をやめて、
今はネット上で、男性に対する誹謗中傷のようなことを繰り返して
いるのだと言うー。
実際に依頼を受けた内堀が、その女性のアカウントを見てみたものの、
想像を絶する内容がそこには書き込まれていてー、
”おっさんを差別から守る会”の外部職員の一人である現役のOLにも
確認してもらったものの、
そのOLすら、引いてしまうぐらいだったー
”これはー…その…わたしから見てもヤバすぎですねー”
そのOLは、そんな風に言っていたー。
”社会を男から取り戻す会”を名乗っているその若き女性は
先日も”男に人権などない”などと投稿し、ネット上で炎上ー
最近は、実家にまで炎上が飛び火しており、そのことに
頭を悩ませた父親が、
”おっさんを差別から救う会”に相談してきたのだー。
「ーーそんな人が、1週間おっさんになっただけで変わりますかね?」
コンビニの店長が言うと、
内堀は「でも、それをやるのが我々の仕事ですから」と
笑みを浮かべたー。
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「ーーおはようございますー」
”おっさんを差別から救う会”の
内堀と、他の職員二人が、
今回の”おじさん体験学習”をすることになった女性の家を訪れるー。
先日の菜月の時と同じようにー
朝早くに、その女性の家に乗り込んだー
”事前に”関係各所には許可を取っているー。
「矢口 恵麻(やぐち えま)さんー」
内堀が笑みを浮かべながら言うー。
「ーーーは!?なに!?はっ!? 何なのあんたたちー!?」
恵麻が表情を歪めるー
”中年のおじさん三人”が家に入り込んできたー。
恵麻からすれば、信じられない暴挙だったー。
「ーーちょ!?あんたたち!何勝手に人に家にー」
恵麻が叫ぶと、内堀は答えたー
「今日から君には”おじさん体験学習”に参加してもらうー」
内堀がそう言うと、恵麻は「ーー意味わかんない」と、
すぐに枕元に置いてあったスマホに手を伸ばすー
”問答無用で通報”しようとしたのだー。
「ーーー!」
無表情のおじさんが、スマホを蹴り飛ばすー
「ーちょっと!!!何すんの!!!!!!!」
恵麻が怒りの形相で怒鳴り声を上げるー。
内堀と二人のおじさんは、
恵麻の手足を掴むと、菜月の時と同じように
強引に家の外に連れ出しー
そのまま車に乗せて移動を始めたー
怒鳴り声を上げながら暴れる恵麻ー
「ー犯罪者!!!
犯罪者!!!
犯罪者!!!」
内堀ら三人のおじさんたちを指さしながら叫ぶー。
車内で暴れて、
「やっぱ男なんてクズばっかり!」と大声で叫ぶー
「クズ!死ね!」
内堀の座る運転席を思いきり蹴り飛ばす恵麻ー。
「ーいったんー眠って貰いなさい」
内堀はそう言うと、
後部座席に乗っていた無表情のおじさんが
ハンカチを恵麻に当てて、そのまま恵麻を眠らせたー。
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「ーーーーーどうですか?」
内堀が尋ねると「ーー入れ替わりは問題なく終わりました」と
恵麻になった太郎が呟くー。
太郎の他にも入れ替わり専門の職員はいるが、
今回も、前回の菜月に続き、太郎が”おじさん体験学習”の
入れ替わり役を担当することになったー。
恵麻(太郎)は
「しかし…」と、呟きながら鏡のほうを見つめるー
「こんなに綺麗で優しそうな雰囲気なのにー
あんな過激なことをしてるって言うんだからー…
驚いちゃいますよね」
恵麻(太郎)が苦笑いしながら言うと、
代表の内堀は「確かにー」と頷くー
恵麻本人が、恵麻の身体を動かしている”本来の状態”よりも
太郎が恵麻の身体を動かしている”入れ替わった状態”のほうが、
知らない人が見たら”本人”だと思うかもしれないー。
それぐらいに、普段の恵麻は
男に対する過激すぎる攻撃を繰り返していて、
恵麻の父親も頭を悩ませているほどだったー
「ーーさて、いつものように彼女に説明しに行こうか」
内堀が言うと、恵麻(太郎)は「はい」と頷く。
いつも通り、内堀が先に姿を現し、
説明を始めるー。
「ーはぁ!?ふざけないで!こんなキモイ身体にして…なんのつもり!?」
太郎(恵麻)が椅子に座ったまま怒りの形相で叫ぶー。
「ーーあなたにはこれから”おじさん体験学習”をー」
「ーキモイ!」
太郎(恵麻)が叫ぶー
言葉を遮られた内堀は、少し戸惑いながらも
説明を続けようとするー。
しかし、太郎(恵麻)はそんな内堀の言葉を
さらに遮り、「キモイ!」と叫んだー
「ーーあなたの父親からー
「キモイ!」
太郎(恵麻)は、内堀の言葉を聞くつもりもないのか、
内堀が何かを言うたびに「キモイ!」を連呼するー
「ーーはぁ…こりゃ重症だなー」
内堀は頭をボリボリ掻きながらそう呟くー。
今までにも当然、最初は反抗的な態度を繰り返す相手が
多かったが今回の恵麻は今まで以上に反抗的だー。
”掴まって、おじさんの身体に入れ替えられてしまった”という
状況では、大抵の相手は話を聞くー。
入れ替えられた女性からすれば
内堀たちが何者なのかー
今はどういう状況なのかー
内堀たちの目的は何なのかー
など、色々聞きたいことがあるはずだー。
だが、この太郎(恵麻)は、何も内堀らに
話をさせるつもりはないようだったー
”仕方ない”
内堀は部屋の扉を開けて
恵麻の身体になった太郎を登場させたー。
そうすることで、恵麻が大人しく話を聞くようになるー、と、
そう判断したからだー。
しかしー
「ちょっと!何してるの!?わたしの身体!!!」
太郎(恵麻)が大声で叫ぶー
「ー我々は”おっー
「ーー変態!キモイ!変態!!!変態!!!!!」
ヒステリックに叫び続ける太郎(恵麻)ー
内堀らが自己紹介する隙も与えず、
太郎(恵麻)が暴言を発し始めるー。
「ーーーーーーー」
恵麻になった太郎は”全く話を聞くつもりがない”
太郎(恵麻)を見て、
「ーーちょっとおじさん~話ぐらい聞いたらどう?」と、
恵麻っぽい口調を勝手に想像して”挑発”したー
「ーーー…ふ…ふ…ふざけ…!ふざけんな!」
太郎になった恵麻は怒りが爆発させながら
言葉を発することもやっとの様子で叫ぶー。
「ーーー今は、あんたがおっさんなんだからー!」
長髪を繰り返す恵麻(太郎)に対して
太郎(恵麻)は「絶対許さないー」と、叫びながらも、
あまりの怒りに、反抗する気力を失ったのか、
ヒステリックに叫ぶのをやめて、不貞腐れた表情を浮かべるー。
恵麻(太郎)と代表の内堀が顔を見合わせてから頷くと
「ー”社会を男から取り戻す会”というのを、一人でやっていると聞きましたが?」
と、内堀が言うー。
太郎(恵麻)が睨みつけるようにして内堀を見つめると、
内堀は「我々は”おっさんを差別から救う会”ですー」と、
淡々と呟いたー。
「ーーーぷっ!」
突然、太郎(恵麻)が内堀の顔面に唾を吐きつけたー
「ーマジキモイー」
太郎(恵麻)がそう言い放つも、内堀は笑顔を浮かべたままー
”おじさん体験学習”の内容を淡々と説明したー。
「ー1週間、あなたにはその身体で過ごしてもらいますー」
説明が終わると、内堀はいつものように、
太郎になった参加者の拘束を解除したー
「ーーーー」
太郎(恵麻)が不満そうに立ち上がるー。
「ーールールを破れば、”元に戻る”ことができなくなりますー。」
内堀が釘を刺すかのように言うと、
太郎(恵麻)は歯ぎしりをしながら頷いてー
施設の外に向かって歩き出したー
だがー
その時だったー
突然、太郎(恵麻)が「うあああああああああっ!」と
叫びながら、Uターンして、内堀の顔面に拳を叩きつけたー
「ーー!?!?」
恵麻(太郎)が驚いて、思わず「内堀さん!」と叫んでしまうー。
怒り狂った太郎(恵麻)は、急な暴力で床に押し倒された形になった
内堀に、何度も何度も拳を叩きつけたー
<中編>に続く
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コメント
「おじさん体験学習」の後日談デス~!
今度の相手は…
前の子よりも、とっても厄介そうですネ~!
毎週土曜日の作品のみ、予約投稿の都合上、
続きはまた来週になります!
少し間が開いてしまいますが、楽しみにしていてください~!
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