<入れ替わり>おじさん体験学習③~最終日~(完)

おじさんを毛嫌いしていた女子大生が
1週間、おじさんと入れ替わった状態で過ごす
”おじさん体験学習”に参加することになってしまったー。

残り日数は、あと2日ー
入れ替わった二人の運命はー?

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6日目ー

「ーーちょっと!人の鞄、勝手に触らないでください!」
女子大生バイトが、怒りの形相で太郎(菜月)に向かって言い放つー

”中年のおじさん”として働くコンビニのバイトは
想像以上に大変なものだったー。

「きったないなぁ…もう!マジで最悪…」
女子大生は小声で呟きながら、太郎(菜月)が
移動させようと触った鞄をはたいているー。

いつも、休憩する机の上に鞄を置いていることが多い女子大生ー
荷物置き場でもあるため、それはそれで良いのだが、

昨日は”あの…鞄をずらしてもらえませんか?”と言いに行ったところ、
”そんなこといちいち言ってくるなんて、気持ち悪いんですけど!”と
文句をブツブツと言われながら、鞄を移動してもらう羽目になったー

そこで今日は、何も言わずに太郎(菜月)が鞄を移動させたのだがー
今度”触らないで!”と文句を言われたー

「ーーーじゃあ…どうすればいいの!?」
思わずカチンとして声を荒げる太郎(菜月)

「ーーーは…?…あの… え~っと……もう、キレていいですか」
女子大生が敬語を使うことも我慢ならなくなったのか
怒りの形相で髪を何度か掻きむしると、

「ーーあんたみたいなおっさんが、ここにいると迷惑なの!
 不愉快なの!わかる?
 大体さ、いい年して、何やってんの?
 ここは、あんたみたいなのが来るところじゃないの!」

女子大生の言葉に、太郎(菜月)は歯ぎしりをするー

「ーーそんなキモイ反応ばっかりしてるから、
 いつまで経ってもコンビニバイトなんじゃないの?」

見下すように笑う女子大生ー。

「ーーーーってーーーー思っちゃいますね」
女子大生は本音を吐き捨てたあとに、敬語に戻すと、
そのまま立ち去って行こうとするー。

「ーー…どうしてそんなに言われないといけないの?」
太郎(菜月)はそう言うと、
「ーーーちゃんと働いてるのに!何もキモイことしてないのに!」
と、怒りの形相で叫ぶー。

中年のおじさんになって働いてみて分かったー。

”ちゃんと働いていても”一部の人間は評価してくれないー
”なにもキモイことはしていないのに”キモイと言われるー。

あまりにも理不尽であるとー。
”菜月が、自分の身体で、同じように働いていればー”
たぶん、この女子大生は何も文句を言わないだろうー。

”見た目”は、
想像以上に、周囲の人々の反応を、変えるー。

「ーーーーー」
女子大生バイトは太郎(菜月)を睨むようにして見つめると、
そのまま「ふん」と店内に戻っていくー。

「ーーーーー」
太郎(菜月)は「許せないー…」と、呟くー

あの女子大生バイトに、”自分”を重ねてしまうー。
自分もー
菜月自身も、同じようにバイト先の別のコンビニで
”中年のおじさん”のバイトにきつく当たっているー

まるで、あの子は”自分自身”を見ているようだー。

本当に許せないのは、
そう、自分自身だー。

”相手の立場”になってみて、初めて分かったー。

わたしはー
”菜月”は、とてつもなく、嫌な女であるとー。

「ーーー………わたしも…”あんな風”に見えてるのかな…」

太郎(菜月)は昼食を食べながら呟くー。

他のスタッフが来ても、
まるで太郎を空気のように扱うー。

菜月であれば、”菜月ちゃん、今日は美味しそうなもの食べてるね”とか、
周囲のスタッフが声を掛けてきたりするー

けど、それもないー。

仮に、同じものを同じ仕草で食べていてもー
周囲の反応は、まるで違うー。

「ーーーーー………」
太郎(菜月)は、寂しそうに事務所の壁を見つめながら
昼食を一人、食べ続けたー。

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「お疲れ様でした~」
菜月(太郎)は
”周囲の反応、違いすぎだろ”と、
思いながら、自宅への道を歩くー

「いやぁ~…ほんと、女子大生とか女子高生はいいよなぁ…
 まぁ…全員が全員そうじゃないし、生理とかはホント、きついけどな」

菜月(太郎)は、そんなことを呟きながらー
”誰にでも、楽な部分ときつい部分はあるからなー”
と、心の中で思うー。

その時だったー。

突然、スカートの中に不気味な感触を感じて振り返るとー
男が笑みを浮かべながら、菜月(太郎)の太ももに手を触れていたー

「ーーえっ!?なーなんだ!?」
菜月(太郎)が思わず叫ぶと、
男はニヤニヤしながら「ーー菜月ちゃん、だったよね」と、笑うー。

明らかに普通じゃないー
ヤバい感じの男だー。

「ーな…は…離して!」
菜月のフリをしながら、菜月(太郎)は男の手を振りほどくと、
男は、はぁはぁ言いながら菜月(太郎)にキスをしようとしてきたー。

「ーー君が悪いんだよ
 君がいつも俺を誘ってくるからさぁ…!
 君を見てたら、こう、ムラムラしちゃってさぁ!」

”この変態野郎!”
菜月(太郎)は、そう思ったー。

菜月になってから”女子大生ライフ”を楽しもうと
確かにおしゃれはしているが、
男を誘ってなどいないー。

胸に手を触れる変態男ー。

ここ数日、コンビニや大学から帰る途中の菜月(太郎)を付け回していた
危険人物の男は、
壁際に菜月(太郎)を追い込んでニヤニヤしながら
キスをしようとするー。

「ーーー……普通にしてるだけなのにー
 誘ってるとか言われてー
 女も大変だな」

菜月(太郎)が静かにそう呟くと、
「ーーは?」と、変態男が首を傾げるー

「ーーー離れろ変態!」
菜月(太郎)はそう言うと、変態男の股間に蹴りを食らわせたー

「ぐっはぁっ!?!?!?!?!?」
男がぴょんぴょん飛び跳ねながら路上に蹲るー。

「ーーーふ~~…女子大生で乱暴しちまった」
菜月(太郎)はそう言うと、そのまま足早に立ち去って行ったー

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7日目ー。

「ーーおじさん体験学習、お疲れ様でした」
細身の不健康そうなおじさんが、
昼間に、太郎(菜月)を迎えに来たー。

”身体を元に戻す”日がやってきたためー、
迎えに来たのだと言うー。

太郎(菜月)が、そのおじさんの車に乗せられて、
NPO法人・おっさんを差別から救う会の本部に到着すると、
既にやってきていた菜月(太郎)と顔を合わせるー。

「ーーあ…あのー」
太郎(菜月)は険しい表情をしながら
菜月(太郎)に頭を下げたー。

「ーい…色々…失礼なこと言って、ごめんなさいー」
菜月になった太郎や、
おっさんを差別から救う会のメンバーに頭を下げる太郎(菜月)ー

「ーー………皆さんが、どんなに嫌な気持ちをしているのか…
 よく分かりましたー
 その…ごめんなさいー…」

太郎(菜月)はそこまで言うと、
「急には…急には、全部、変らないかもしれないですけどー…
 少しでも…少しずつでも、酷いことを言ったりしないようにー
 わたし…頑張って見ます」と、
言葉を続けたー。

「ー少しでも、おじさんの苦労が分かって貰えたならー
 体験学習に参加してもらったかいがあったよ」

代表の内堀がそう言うと、

「ーーあ、でも!」
と、太郎(菜月)が言うー。

「ーわたしの身体で…変なこと…してないですよね…?」
菜月(太郎)のほうを見ながら、不安そうに太郎(菜月)が言うと、
「ーーははは」と、菜月(太郎)は笑ったー

「ーーすまないね。一般人のフリをしてたけどー」
と、菜月(太郎)が言うと、
NPO法人代表の内堀が言葉を続けたー。

「ー彼は、我々の団体の職員だー」

と、菜月と入れ替わった東 太郎の名刺を手渡してきたー

「ーーえ……あ、ここの職員さんー?」
太郎(菜月)が言うと、菜月(太郎)は頷いたー。

「ーそう。”入れ替わり”でおじさんを体験してもらうためには
 おじさんが入れ替わる必要があるんだけど…

 そこら辺のおじさんを入れ替わりに参加させたら、
 変なことされる可能性もあるし、身体を持ち逃げされたり、
 まぁ…その、エッチなことをされたりする可能性もある。

 だからー僕みたいな職員が入れ替わり相手になる必要があるんだ」

菜月(太郎)の言葉に、太郎(菜月)は「ただの変なおじさんかと思ってました」と
呟くー。

「はははっ!まぁ…こんな団体やってるぐらいだから、変なおじさんってのは
 あってるかもなぁ」

菜月(太郎)は笑ったー。

「ーー彼はプロだから、絶対に入れ替わった身体で変なことはしないし、
 体験学習に参加する相手に、外では徹底的になりきっているから、
 大学でもバイト先でも、特に変に思われたりもしていないし、
 心配しなくても大丈夫だよ」

代表の内堀の言葉に、太郎(菜月)は、
「あれ?でも、ここの職員さんなら、コンビニのバイトはー?」と
首を傾げるー。

太郎はコンビニのバイトととして働いていて、
入れ替わった菜月は、太郎の身体で、実際にコンビニで
バイトをしたー。

「ーーあぁ、あれはー
 僕の副業だよー。
 あのコンビニ自体は体験学習とは関係ないー」

菜月(太郎)の言葉に、
太郎(菜月)は「あそこの女子大生の子…なんだかとてもわたし…
というか、おじさんに厳しくて」と苦笑いするー

「ーーあぁ、あの子かー…
 君も、体験学習するまではあの子と似たような感じだったけどね」
菜月(太郎)が言うと、太郎(菜月)は
「ーー正直、すっごくイラッとしたんでーわたしも気を付けますー」を
恥ずかしそうに笑うー

「ーーははは…まぁ、分かって貰えてよかったよー。
 おじさんだって必死に生きてるんだー。
 確かに、見た目とか加齢臭とか、どうにもできない部分もあるけどー
 だからってバイ菌みたいに扱われちゃうと、なー」

菜月(太郎)の言葉に、
太郎(菜月)は恥ずかしそうに頭を下げると、
「さぁ、そろそろ元に戻してあげよう」と、代表の内堀が会話に割り込んできたー。

最初の入れ替わりの際に使われた装置で、
再び二人は元の身体に戻るー。

「ーー帰りは、君の家の近くまで送っていこうー」
太郎がそう言うと、菜月は「ありがとうございます」と言いながら
頭を下げるー。

「ーーもちろん、世の中には悪いおじさんもいるから、
 そういうおじさんには気を付けるんだぞ」

施設から出る直前、内堀にそう言われた菜月は
「それはもちろんです」と、笑いながら、そのまま施設から
立ち去って行ったー。

「ーーそういえばー」
太郎の運転する車の中で菜月が呟くー。

「ーどうしてわたしが体験学習に参加することになったんですかー?」
菜月が首を傾げるー。

菜月自身が依頼したわけでもないし、
菜月自身、おっさんを差別から救う会のメンバーたちと
会った記憶はないー。

「君の友達の一人から、
 おじさんに対して君がいつも凄い攻撃的だって相談を受けてねー」

「ーーそうなんですねー」
菜月は”誰なんだろう”だとか、”どうしてその子は、おっさんを差別から
守る会に相談できたんだろう”とか、色々思ったものの、
それ以上は聞かなかったー。

「ーーじゃあ、ここでー」

「ーありがとうございましたー」

菜月の”おじさん体験学習”は、こうして
1週間の期間を終えたのだったー。

後日ー
菜月はバイト先でいつもきつく当たっていたおじさんのバイトに
謝罪の言葉を口にし、無事に和解したのだったー。

おわり

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コメント

体験学習を描いた入れ替わりモノでした~!

最後にあるシーンをつけようか、
投稿直前まで迷っていましたが、
それはやめておきました(笑)

お読みくださりありがとうございました~!

コメント

  1. TSマニア より:

    あるシーン気になります笑

    気が向いたら完2でお願いします笑

    結果的にいい話でしたね!

    この団体の職員になりたいです笑

    もちろん女の子と入れ替わり担当の職員です笑

    いろんな女の子のカラダと1週間、入れ替わってみたい笑

    その娘にあったオシャレやギャルになったり、風呂入ってカラダの感触を…笑

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      普通にあっさりと平和的に終わりました~!☆

      入れ替わり中に、お風呂は当然入っているので、
      そこは職員さんの特権ですネ~笑
      (1週間お風呂に入らず大学に行くわけにはいきませんし~!)

  2. TSマニア より:

    機会があればこのシリーズまたお願いします♪

    最後の結末が違うパターンも見たいです\(^o^)/

    • 無名 より:

      別の子の体験学習を描くのも
      確かに面白そうですネ…!

      機会があれば考えてみます~!!

      • TSマニア より:

        別の娘のもお願いします♪

        あるシーンのオチや

        最後にまさかの展開や…

        楽しみにしてます(人´エ`*)♪

  3. 匿名 より:

    良かったです。逆バージョン、女性を見下したり差別する男性を女性にする体験も作って欲しいです。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      それも確かに物語として面白くなりそうですネ~!
      検討してみます~!
      (※おじさん体験学習の後日談も別途予定していますが
        それとは別に考えてみます~!)