”おじさん”をネット上で集中攻撃していた
女子大生ー。
そんな彼女はある日、
”君はおじさんの苦労を何も知らない”と、
冴えないおじさんと身体を入れ替えられてしまう…。
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女子大生の村木 菜月(むらき なつき)は、
今日もネット上で、
中年のおじさんに対する暴言を繰り返していたー。
父親と仲が悪いー…
ことも原因の一つなのだろうかー。
菜月はネットでも、私生活でも、
中年男性を毛嫌いし、
”中年のおっさんとか、存在する価値ないでしょ”
だとか、
”世の中に迷惑かけてること、分からないのかな”
だとか、
攻撃的な発言を繰り返し、周囲の友達も
菜月の言動に時々引いてしまうぐらいに、中年男性を嫌う言葉を
日常的に吐いていたー。
この前も、友達とファミレスに足を運んだ際に、
ちょうど店内が混雑していて、中年のおじさんが
菜月の身体に触れてしまった際に、
菜月は「不潔!触らないで!」と突然鬼のような形相で
叫び出して、おじさんが謝ったあとも、お手洗いで
ブツブツ文句を言いながら、触れてしまった手を
何度も何度も洗い続けるぐらいに、
菜月は”おじさん”が嫌いだったー。
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「ーーちょっと!邪魔なんですけど!」
バイト先のコンビニー。
菜月は、40代の中年男性バイトに向かってそう言い放つー。
髪は既に薄くなりー
小太りで、顔も”いかにも冴えないおじさん”という感じの男性だー。
菜月は、彼のことが大嫌いだったー。
「ーーーいつもヘラヘラしてて、本当にキモイですよね~」
そのおじさんがいない日は、おじさんの悪口を
他のバイトに言うことも、日常的な光景だったー。
”キモすぎー。空間を汚染するな”
バイトから帰宅した菜月は、
自分のツイッターのアカウントにそう書き込むー。
不愉快そうに
イライラと、自分の髪を触りながら、
菜月はバイト先の中年男性のことを思い出すー。
「あ~~~~…マジでキモイー…目が腐る」
菜月はそんな言葉を口走りながら
ため息をつくー。
”おじさん”とは、どうしてあんなにも自分勝手で
不潔なのかー。
菜月はそんな”偏見まみれ”の考えを持ちながら
日々生活していたー。
そんな、ある日ー。
”それ”は起きたー。
今日は休日ということもあり、午後から
友達と遊ぶ約束をしているものの、
それ以外に特に予定のない菜月は
穏やかな寝息を立てながら眠っていたー。
普段は明るく、友達も多い性格でー、
学校での素行は、基本的には良好な菜月ー。
容姿にも恵まれていることからー、
基本的には周囲の評判も悪くはないー。
ただ、おじさんに対する憎しみにも思える
キツイ言動は、時々周囲の友達を
引かせてしまうこともあったー。
「ーーーーーーー」
穏やかに寝息を立てている菜月ー。
だがー
突然部屋の扉が開きー
中に数名の男性が入ってきたー。
入ってきたのはー
イケメンでもー
特殊部隊でもー、
犯罪組織でもないー
冴えないおっさんが、三人ー…
と、でも表現すれば良いのだろうかー。
「ー起きなさい」
真ん中に立っていた小太りでハゲ頭のおじさんが呟くー。
眼鏡をかけていて、優しそうなおじさんだが、
その口調だけは、鋭かったー
「ーーーう…う~ん…あと5分ー」
菜月がそんな風に呟いた直後ー
「って、誰!?」
と、叫んで起き上がったー。
「ーーおじさんです」
中年のおじさんは、そう答えたー。
「ーーは…はぁ!?って、何で勝手に人の家に入ってるの!?」
菜月は状況を理解できないまま叫ぶと、
ひょろひょろ…とでも言えば良いのだろうか。
不健康そうにやせたおじさんが、
「ーーちゃんと、大家さんの許可は頂いています」と、
ぼそぼそと呟いたー。
「ーーは…?いや、わけわかんないんだけど!
女子大生の部屋に勝手に侵入するとか、犯罪よ!」
菜月は叫ぶー。
「ーー君には、今日から”おじさん体験学習”に参加してもらうことになった」
無表情のおじさんが淡々とそう告げるー。
「ーーは…?え…??意味わかんない!
臭いんだけど!もう帰ってよ!」
菜月は大声でそう叫ぶと、
「ーー君に拒否権はない」
と、無表情のおじさんは呟いたー。
「ーーー…ちょっ!?えっ!?何するのー?」
菜月は表情を歪めるー。
三人のおじさんが、突然菜月の腕を掴み、無理やり連行しようとしたのだー。
「ーーえっ!?ちょっと!?何!?離してよ!?
触らないで!?
はっ!?ちょっと?」
菜月が、悲鳴を上げながら、アパートの部屋から引きずり出されていくー。
周囲の住人は、そんな様子を心配そうに見つめていたが
誰も助けてくれる様子はないー。
「ちょっと?!どういうこと!?誘拐…?誘拐!? 助けて!」
菜月は必死に叫ぶー。
けれど、おじさんたちの車に詰め込まれてしまいー、
そのまま菜月は連れ去られてしまったー
車の中で菜月は
「やっぱり…あんたたちみたいなおっさんは犯罪者予備軍なのよ!」と
怒りの形相で叫ぶー
「これは重症だな」
「あぁ」
おじさんたち二人がそう呟くー。
そしてー
後部座席に菜月と共に座っていた無表情のおじさんが、
菜月の口元にハンカチのようなものを当てて、
菜月を眠らせたー。
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「ーーーー…ぅ…」
目を覚ます菜月ー。
「ーーーーー!!!!」
菜月が、慌てて目を開くと
そこはーー
見知らぬ部屋だったー。
「ーーーー手荒な真似をしてすまないね」
小太りで眼鏡をかけたおじさんー…
菜月の部屋に突然入り込んできたおじさんのうちの一人が、
菜月の目の前に姿を現すー。
「ーー…こんなことしてー…
あんたたち、タダで済むとー… …!?」
菜月は、
”警察が絶対にあんたたちを捕まえるから!”と、
叫ぼうとしたのだが、
それよりも前に”異変”に気付いたー。
自分の口から、”おっさんの声”が出たのだー。
「ーーえ…??え…!?」
言葉を止めて戸惑う菜月ー。
「ー今日から君は、東 太郎(あずま たろう)です」
眼鏡をかけたおじさんが、そう呟いたー。
「ーは…!?何言ってんの!?え…
っていうか、この声ーー」
菜月が戸惑っていると、
おじさんは笑みを浮かべながら、
謎の装置がたくさんついた椅子に拘束されている状態の菜月の前に、
姿見を持ってきたー。
それを見て、菜月は悲鳴をあげたー。
ハゲかけている頭ー
疲れ果てている顔ー。
中年太りしているたるんだ身体ー。
そうー
姿見に映ったのは、菜月が毛嫌いする
”中年のおっさん”
そのものだったのだー
「いっ…いやあああああああああああっ!?!?!?」
思わず悲鳴を上げてしまう菜月(太郎)ー
「ー君は、東 太郎ー
40代の中年のおっさんです」
眼鏡をかけたおじさんがそう言うと、
太郎になってしまった菜月は、怒りの形相で
「な…何なのこれ!?元に戻して!」と叫ぶー。
それでも、おじさんはうすら笑みを浮かべたまま、
元に戻すつもりはない様子だったー
「戻してよ!こんな不潔な身体!嫌だ!!いや!!」
やがて、泣き出す太郎(菜月)ー
「ーおっさんの涙とか、キモすぎー」
目の前にいるおじさんがそう呟いたー。
「ーあなたが前に、ネット上でおじさんに対して言い放った言葉です」
眼鏡のおじさんの言葉に、
太郎(菜月)は「訳の分からないこと言ってないで、元に戻して!お願い!」と、
泣きわめきながら叫ぶー。
「こんな…こんなの…耐えられない…」
そのまま子供のように泣き出す太郎(菜月)を見て、
眼鏡のおじさんは言葉を続けるー。
「ー君には、今日から1週間”おじさん体験学習”に参加してもらいます」
眼鏡のおじさんはそう言うと、
名刺のようなものを取り出したー。
「ー申し遅れました。
私はNPO法人”おっさんを差別から守る会”の代表ー
内堀(うちぼり)と申しますー」
そう言いながら、眼鏡の中年の男・内堀は名刺を
拘束されたままの太郎(菜月)に渡すー
「お…おっさんを差別から守る…会…?」
太郎(菜月)が戸惑っていると、
「そうです」と内堀は答えるー。
「ーー我々は、あなたのような”おじさん”を一方的に攻撃する人間に
”おじさん”を体験してもらうことで、
理解してもらおう、と、そういう活動をしていますー。」
内堀の言葉に、
太郎(菜月)は「ーき…キモすぎるんだけど…」と、
震えながら呟くー。
「ーー何を言おうと、あなたは”おっさん体験学習”を
するしかないー」
内堀はそう言うと、太郎(菜月)は「警察に通報するから…!」と
怒りの形相で、内堀を睨みつけるー。
「ーーー残念ですがー。
”認可”を得ているので、無駄ですよ」
内堀の言葉に、太郎(菜月)は「ど…どういうこと…?」と困惑するー。
「ー”おじさん体験学習”は、実施前に組み合わせを申請して許可を
得ていますー。
つまり、あなたが通報しようと、意味がないー
そういうことですー」
眼鏡をかけた中年男性ー…
この内堀という男は、警察幹部に強いコネクションを持っており、
秘密裏に”おじさん体験学習”の許可を得ているー。
「ーーそ…そんなー…」
太郎(菜月)は、鏡に映る自分の姿を見て、
思わず目を逸らすー。
自分の姿がー
菜月自身が毛嫌いしてきた”おっさん”になってしまっているなんてー
菜月には、耐えがたい現実だったー。
その時だったー
扉が開くー
「ーーー…はじめましてー」
部屋に入ってきたのは”菜月”だったー
「ーーーわ…わたし…」
太郎(菜月)は唖然とするー。
菜月と入れ替わった中年男性・太郎が、
部屋に入ってきたのだー。
「ーーーま、まさか、僕が本当に女子大生になってるなんてーえへ…」
菜月(太郎)がイヤらしい笑みを浮かべると、
太郎(菜月)は、拘束された状態の身体を激しく動かしながら
「ーちょっと!わたしの身体を返して!変態!!変態!!!」と
大声で叫ぶー。
「ーーえへへへ…綺麗な手だなぁ…」
菜月(太郎)はニヤニヤしながら、菜月の手を見つめるー。
「ーーー東さんー。ほどほどにしておいてくださいよ」
内堀が言うと、菜月(太郎)は「へへへ」と笑いながら、
太郎(菜月)のほうを見るー。
散々拘束されたまま暴れた太郎(菜月)は、
疲れ果てて荒い息をしながら
「ーさっき…1週間って言ったー?」と、だけ呟くー
「えぇ。おじさん体験学習は1週間ー。
あなたのような、おじさんに対して間違った感情を抱いている人に
”おじさんの苦労”を体験してもらい、考えを改めてもらう…というものです。
ですので、体験学習が終わったら、あなたは元の身体に戻ることができますー」
その言葉に、太郎(菜月)は歯ぎしりをしながら「分かったー…」とだけ呟くー。
拘束が解除されるー。
”ルール”を説明する内堀ー。
ルールはお互いに”入れ替わった身体を傷つけてはならない”ということ、
”入れ替わった状態で相手の名誉を傷つけること(犯罪など)”をしてはならないということ
などが挙げられたー。
ルールを破った場合「元に戻る」ことができなくなり、責任を取ることになるー、と。
「ーーーーーー」
太郎(菜月)は、菜月(太郎)を睨みつけるー。
怒り狂って襲い掛かろうとも思ったがー、
”傷つくのは自分の身体”だということを理解して、
太郎(菜月)はグッとそれを我慢したー。
「ーーでは、1週間の”おじさん体験学習”ー
頑張ってくださいー。
必要な情報は、随時こちらから連絡しますー」
内堀の言葉に、太郎(菜月)は
「ー許さないー」と、内堀を睨みつけながら、
係員に案内されて、研究施設のような場所の外に向かって歩き出したー。
②へ続く
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コメント
1週間のおじさん体験学習(話数は3話完結デス~!7話やるわけではないデス)
が始まりました~!
続きはまた明日デス~!
コメント
7話やると思いました笑
おじさん体験学習、新しい発想ですね!
菜月と太郎の運命は…どんな結末になるか楽しみです!
自分も入れ替え装置で菜月みたいな女子大生と1週間、入れ替わって体験してみたいです笑
コメントありがとうございます~!☆
⑦までやったら、憑依空間内では
とても珍しい長めの作品になりますネ~笑
どのような展開になっていくのか、楽しみにしていてくださいネ~!