<憑依>この世は世紀末③~地獄~(完)

”自分は何のために生きるのか”

そんなことを見失いそうになりながらも、
憑依が蔓延して、崩壊した世界を、彼は走り抜けるー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーひひひひひひひ♡」

「ーーあぁぁぁ…たまんねぇ♡」

街中では、女同士が抱き合って
激しいキスをしている光景が広がっているー。

「ーーーー」
啓介は、そんな街中を歩くー。

この街も、既に憑依まみれの街になっていて、
”欲望の街”と化しているー。

今現在ー、
各地に残っている”街”は、
基本的に”欲望に染まっている街”か、
”荒れくれ者たちが支配する街”かー
そういう街がほとんどだー。

ここは前者ー。

各地で憑依された女たちが集まって
百合の花園とも言える空間になっているー。

啓介は、そんな街で買い物をするー

”買い物”と言っても、
スーパーやコンビニと言ったものは、既にこの世界では
崩壊していて、
露店のようなもので、買い物は済ませるー。

「ーーくくくー…あんたは、憑依しねぇのか?」
露店をやっていた可愛らしい少女が呟くー。

この街にいる女たちは”全員”憑依されている人間たちだー。

「ーーーお…俺はいいんでー」
啓介がそう言って立ち去ろうとすると、
「憑依薬なんざ、どこでも手に入るだろ?何で自分の身体に拘る?」
と、店をやっていた美少女が叫ぶー。

だが、そんな美少女の言葉を無視して、
啓介はその場から立ち去るー。

”こういう街”では、基本的に
狙われる可能性は、低めだー。

”街”で暮らしているような女たちは
”己の欲望が満たされている状態”で、
基本的に、身体を奪われる心配は少ないー。

例えば、今のお店の少女もそうだが、
少女の身体から、啓介の身体に乗り換えようとする男は
あまりいないだろうー。

だからー
啓介のような、別にイケメンでもない男なら、
こういう街を利用しても、それほど危険はないー。

荒れ果てた場所を徘徊している荒れくれものたちとは違って
無意味に襲ってくることも少ないー。

啓介は、街から出て、
”目指す場所もなく”
ただ、歩き続けるー。

「俺は…どこに向かってるんだー」
啓介は、そんな風に呟くー。

永延と続くようにすら感じられる道路を歩くー。
道端には、”処分”されたと思われる身体が転がっているー。

”身体を乗り換える”際に、今まで憑依していた人間を
処分してから乗り換えるような人間も多いー。

道端に、こういう死体が転がっているのは、
決して珍しいことではなかったー。

もはや、”社会”は崩壊したー。
人間の数も激減しているー。
当たり前だー。
誰もが好き放題して、他人の身体を奪いー、
そして、破壊の限りを尽くすー。

人間の数が、減るに決まっているー。

一部の人間は”新しく憑依する身体を作る”などと、
子作りを繰り返しているようだが、
それでも、人間の数が減るスピードには
追いつかないだろうー。

啓介は歩き疲れて、岩場の影に座るー。

「ーーーーー」
小さい頃からずっと一緒だった文香のことを思い出すー。

自分は、何のために生きて来たんだろうー。

そんな風にも、思ってしまうー。
どんなに耐えて、耐えて、逃げて、逃げてーを
繰り返しても、今のこの世界の状況が変わることはないー。

一度”憑依薬”が蔓延してしまったら、
人間はもう、滅ぶしかないのだー。

自制も効かず、それぞれが好き放題をし、
文明はあっという間に崩壊ー、
人間の数も、急激に減少しているものの、
それでも人々は好き放題をやめないー。

もちろん、最初は”憑依薬の規制”などに動く動きや、
”このままでは、社会全体が壊れてしまう”と
憑依薬の危険性を訴える人間もいたのだというー。

でもー
憑依薬が広まってから、それをしても遅いのだー。

憑依薬を使う人間は、いつ、どこでも、誰にでも憑依できるのだからー、
そういった人間は、すぐに憑依されて殺されてしまうー。

憑依薬など、作るべきではなかったー。
憑依薬など、流出させるべきではなかったー。

人間が作り出した薬により、
人間は自滅の道を歩むー。

もう、元通りになることはないー。

憑依という力がこの世にある限り、
好き放題やる人間たちを止めることはできないー。

このまま、必死に生き続けても、
啓介の未来に待っているのはー

「ーーーーもう…疲れたー」
啓介は、そんな風に呟きながら
憑依薬のことを思い浮かべるー。

自分も、可愛い美少女の身体でも奪えばー
こんな絶望的な世界で、楽しく生きることが
できるのだろうかー。

けれどー、
もう”憑依する身体”もそんなに存在しないー。

大勢が好き放題やった挙句ー、
この世界では人間自体が減っているー。

だからー
今では”憑依された美少女”の上から、”さらに別の人間が憑依する”
といった、”奪い合い”まで起きているー。

もう、世界は手遅れなところまで、腐敗しているのだー。

「ーー!」
啓介は岩場の影に隠れるー。

少し離れた場所を歩く人間には見覚えがあったー。

前に啓介が避難したレジスタンスのリーダー・リサと、
そのレジスタンスに避難していた大人しそうな少女の姿ー。

だが、リサはラバースーツを着て、
少女のほうは、巫女服を着ているー。

たぶん、もう、
二人は啓介の知る二人じゃないー。

誰かに憑依されて”欲望の入れ物”に
されてしまっているー。

啓介が今まで必死に生きてきたのは
”文香を守りたい”その一心からだったー。

その文香が憑依されて、
もはや全てを失ってしまった気持ちの啓介は
生きる気力すら失っていたー。

”どうせ、最後には死ぬ”のだー。

そして、その死ぬまでの過程に、
啓介に何があるのかー。
と、言われれば
今のままなら、何もないー

逃亡ー
潜伏ー
逃亡ー
潜伏ー
恐怖ー
逃亡ー
そして、死亡ー。

そんな、クソみたいな人生を送ることになるのは
目に見えているー。

逃げて、怯えて、逃げて、怯えて、
そして最後には結局死ぬのだー。

楽しいことなんてー何もー。

「ーーーーー」
啓介は、生きる気力を失ってしまったー。

荒野のような場所で、雨に打たれながら、
廃人のような生活を送るー。

もう、どうでもよくなってしまったー。

啓介は、この世界がこんな風になる前の世界を知らないー。

人間とは、何のために存在するのだろうかー。
自分は、何のために生きているのだろうかー。

憑依薬を上手く利用し、
大量の金を稼いだ”新世代の富裕層”が支配し、
他の人々は、憑依薬で欲望のままに生きるかー、
憑依に怯えながら生きるかー、
そんな、時代ー。

「ーーー…もう、いいー」
啓介は、そう呟いたー。

「ーーもう、俺は疲れたー」
座り込む啓介ー。

何日が経過しただろうかー。
ずっとー、
ずっと同じ場所で座り込んでいた啓介ー

自分が確実に”死”に近付いていることを理解するー。

そこにー…

「ーーーあれ…お前は確かー」
憑依されて支配された文香が姿を現したー。

髪は金色に染まり、派手なメイクで、
露出度の高い服を身に着けている文香は、
啓介の知る文香とは、まるで別人だったー。

「ーーなんだよ、その顔はー」
不愉快そうに”今の文香”を睨みつける啓介に対して、
文香は笑みを浮かべるー。

「ー今の世の中”奪ったもん勝ち”だぜ」
文香が笑いながら言うー。

「ー欲しいものは”力”で手に入れるー。
 昔はどうだったか知らねぇけど、
 今は、そういう時代さー。

 俺だって、必死に、必死に必死に生きてー
 その結果、この身体を手に入れたんだー」

”レジスタンス狩り”を名乗っていた男は、
そう呟くと、笑みを浮かべるー。

「ー俺も、お前と同じだったよー。
 憑依に怯えて、逃げて逃げて逃げまくったー。

 でもなー
 ある時、気づいたんだー。

 ”こんな世界でいい子ぶって何になる?”ってなー」

文香が言うー。

生足を晒した状態の文香は、啓介の横に座ると
「なぁー」と、静かに囁くー。

「ーーーー」
啓介は、もう”文香の身体から出ていけ”と言う
気力も失いながら、虚ろな目で遠くを見つめているー。

「ーーーこの世で正義ぶってたって何もなりゃしねぇ。
 弱ければ奪われるー。
 そう、お前が大事にしてたこの女のようになー」

文香はニヤニヤしながら自分の足を触るー。

「ーーでもなー
 強ければ奪えるー。
 こんなクソみたいな世界だって、
 強ければ好き放題できる

 お前みたいに、そんな風に”絶望”しなくたって済むー。

 どうせ、いつかは死ぬんだー。
 お前みたいにいい子ぶってたって、この世界じゃ
 誰にも感謝されねぇ。

 俺みたいなやつにあざ笑われるか、
 その辺をウロついてるヤベェ奴らに殺されるかー。
 それとも、誰かに憑依されるかー。
 食うこともできず、朽ち果てていくか。

 ロクな最後はねぇ。

 分かってんだろお前だって。
 どんなに逃げても逃げても逃げてもー、
 最後に待っているのは、くだらねぇ死だって」

文香のそんな言葉に、啓介は返事をしないー。

「まぁいいさー。
 お前にも、これを恵んでやるよー」

文香が啓介の横に置いたのは、憑依薬ー。

憑依薬はこの世界ではいくらでも手に入るし、
そこら中に転がっているー。

この世界で蔓延している憑依薬は、
”1度飲みさえすれば、いつでも憑依できるようになる”
タイプのため、争奪戦にもならず、寧ろ余っているのだー。

「ーーーー……」
啓介が虚ろな目で文香を見つめるー。

「ーこういう可愛い子をさ、乗っ取って
 エロいことしてるとさ、
 こんな世界でも、生きててよかったって思えるぜ?

 この女の喘ぎ声、マジでやべぇしなぁ!
 へへへへへ」

文香はそれだけ言うと、
「ーお前も、好き放題しろよ。
 それが、この世界での賢い生き方だぜ」
と、そのまま立ち去っていくー。

”ーーーーーー”
文香に憑依した男は、不思議そうに表情を歪めるー。

文香に憑依した男にとって、啓介のことなどどうでもいいはずー
それなのにー
啓介に、わざわざ憑依薬を渡して、立ち直らせようとするなんてー

”ーーーーー”
文香を現在、支配している男は気づかなかったが、
文香の身体に染みついていた強い想いー、
啓介への強い想いに、引っ張られて、
想いの形は変わってしまったけれど、啓介のことが
どうしても気になってしまっていたのだったー。

「ーーまぁ、いいー」
文香はそう呟くと、そのまま立ち去っていくー。

残された啓介は、憑依薬を手に、
静かに呟くー

「俺はー……」

こんな世界、大嫌いだー…

啓介は、そう思ったー。
極限まで追い詰められた啓介は、憑依薬を握りしめるー。

そしてー

「ーーーー……もういい…どうにでもなれー」
啓介はそう呟くと、憑依薬を飲み干してー、
既にだいぶ離れた場所まで歩いていた文香のほうを見つめたー。

「ーーーさて、今夜もーー… うっ!?」
立ち去ろうとしていた文香がうめき声を上げるー。

「ーーーーき…きさ……ま」
文香に憑依していた男の”その上”から、文香に憑依した啓介ー。

”この世は弱肉強食の世界”
同じ人間に二人以上が憑依した場合、強い者が、その身体を支配するー。

啓介と、文香に憑依していた男の意識が
文香の中で激闘を繰り広げるー。

文香は膝をついて、うめき声をあげながら、
苦しそうに泡を吹き始めるー。

やがてー
文香の中での戦いは終わったー

そして、静かに文香は立ち上がるとー

「ーーこんな世界…大嫌いだー」
と、文香の身体を支配した啓介は、文香の身体で
不気味な笑みを浮かべながら、ゆらゆらと歩き始めたー。

憑依が蔓延したこの世界に希望など、ないー。

夢も、希望も、何もかもー
あるのは、欲望と、恐怖ー

人類が”滅亡”に向かうのは、
もはや時間の問題だったー。

おわり

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コメント

憑依薬で崩壊した世界を舞台としたお話でした~!
ここまで憑依が広がってしまうと、
もう、どうにもならないですネ~!

お読みくださり、ありがとうございました!

憑依<この世は世紀末>
憑依空間NEO

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