2XXX年ー。
憑依薬により崩壊した世界ー。
そんな世界を生き抜く人々の物語ー。
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”レジスタンス”が潜伏している
地下洞窟に逃げ込んだ啓介と文香は、
そこで生活している人々から、歓迎を受けていたー。
「っかし、よく生き延びて来れたな」
眼帯を付けている男が、笑うー。
「ーーーーーーー強運……」
人形のように生気のない少女がそう呟くー。
「ーーとにかく、文香を守らなくちゃって思ってー…
毎日毎日必死に生き延びてきただけですー」
啓介が言うと、
「はははっ!ま、ここに来たからにはもう安心さ」
と、気さくなおじさん風の男が言うー。
この”レジスタンス”のリーダー・リサが
ここでの暮らしを説明してくれたー。
ここは、リサの父親だった人物が、
地下を掘り進んで作り上げた秘密基地で、
特殊な装置による自家発電によって電気が通っているほか、
”憑依薬を飲んだ霊体”が侵入することができないように
特殊な電磁波により”結界”のようなものを
張っている状態なのだというー。
「ーー日の光を浴びることはできないがー
ここなら少なくとも、憑依に怯えることなく、
生きていくことができる」
リサはそう呟くー。
”レジスタンス”の中にも色々いるー。
”憑依薬”の恐怖から世界を開放しようと戦うタイプの集まりもいれば、
リサ率いるレジスタンスのように”身の安全を確保するタイプ”の集まりもいる。
今まで、啓介たちもいくつかのレジスタンスを見てきたー。
けれど、いずれも”長持ち”はしなかったー。
憑依で崩壊した世界を生き抜くのは、それほどまでに
難しいのだー。
だが、”ここ”は、かなり守りが固く、安心して生活していくことが
出来るように見えたー。
「ーーー文香…今まで苦労ばかりかけてごめんなー」
啓介が言うと、文香は少しだけ微笑みながら頷くー
逃げてー、
隠れてー、
逃げて、逃げて、逃げてー。
そんな人生だったー
この先、ずっと逃げ続けて、最後には死ぬー。
”永遠の悪あがき”を続けているような、
そんな人生だったー。
だが、ようやくここで、しばらくは安心して
生活することができるー。
リサは「ちょうど空いている区画がある。そこをお前たちの部屋にしようー」
と提案すると「ついてこい」と、松明の光で照らされた洞窟内の
通路を歩き始めたー。
「ー本当は、洞窟内全てを電気で照らせればよいのだがー…
発電できる量にも限界があるからなー」
リサは、通路を歩きながらそう呟くー。
「ーリサさんは…どのぐらいここにいるんですか?」
啓介がそう呟くと、
「ーわたしは、生まれた時から一度も外に出たことはないー」と、
寂しそうに呟いたー。
「ー”外に出れば憑依される”
父に、そう教わってきたからなー」
リサの言葉に、啓介は「そうですか…」と返事をするー
”外の世界”は確かに地獄だー。
美しい景色はあれど、それをゆっくり見ることもできないー。
”憑依された人間たち”が好き放題略奪したり、
”そこら中に飛び交う霊体”にいつ憑依されるかも分からないー
そんな、地獄のような世界ー。
「ーーお前たちは、海を見たことはあるかー?」
リサが歩きながら呟くー
「ーーえ…あ、はいー」
啓介は小さい頃に、両親が”この辺りは安全だから”と
海に連れて行ってくれた時のことを思い出すー。
「ーーーーーーそうかー」
リサはそれだけ言うと、「私も、いつか”生”の海を見てみたいものだなー」と
少しだけ笑うー。
リサは”本”でしか海を見たことがないのだと言うー。
「ーーーっと、話が逸れたな。
ここをお前たちの部屋にするといいー」
”洞窟の中のスペース”そんな感じで、
”昔の人間”が暮らしていたような家とは程遠いー。
しかし、寝台にできるような岩の台も存在するし、
外で野宿ばかりだった啓介たちにとっては
夢のような空間だったー。
「ーーー今日はもう疲れてるだろうー?
続きはまた、明日話そうー。
まずは、ゆっくりと疲れを癒せー」
リサの言葉に、
啓介と文香は「ありがとうございます」と頭を下げたー。
「ーーふっ、いいさー。
こんな地獄で生きようとする人間は、誰だって家族のようなものさ」
リサはそう言うと、そのまま立ち去って行ったー。
地下の洞窟ー
松明の音だけが聞こえる、地下特有の静かな空間ー。
「ーーおやすみ」
啓介と文香は、それぞれ別のスペースで休むー。
扉などないが、カーテンのようなものは
それぞれのスペースに取り付けられており、
啓介は久しぶりに”ゆっくりと”できたようなー
そんな感じがしたー。
「ーーーーー」
この世界では”女”のほうが、危険だー。
そう、教わっているー。
理由は簡単だったー。
”女”の方が、荒れくれものたちに憑依されている可能性が高いからだー。
身体は女でも、中身はヤバい奴である可能性が
男の身体よりも高いー。
そのため”外”で女を見つけたら、まずは警戒しろー…
と、いうのはこの世界での常識だったー。
もちろん、男も憑依されることはあるし、
ヤバいやつはそこら中にいるが、
”憑依薬”が蔓延したこの世界では、
”女”の方が”狙われやすい”かつ、”既に憑依されている可能性が高い”
状態だったー。
「ーーーー…」
啓介は”平和”を知らないー
生まれてからずっと、”憑依”の恐怖に怯えながら生き続けてきたー。
そして、これからもずっと、それは続くかもしれないー。
それかー
この暗い地下で、一生を過ごすことになるのかもしれないー。
”希望”
そんな文字は、この世界には、ないー。
”少しでも生きるための悪あがきをし続けて、最後には死ぬー”
憑依薬が蔓延した世界の摂理だー。
「ーーーー…とにかく…俺は、文香のことを守るー…
それだけだー」
啓介は改めて自分の決意を呟くと、
松明の音を聞きながら、静かに目を閉じたー
「ーーーークククククーーーー」
少し離れたスペースで休んでいる文香が、不気味な笑みを浮かべていたー。
「ーーーバカなやつだぜ」
文香は小声で呟くー。
文香は、セーラー服の女に襲われて、啓介に”逃げろ!”と言われて
逃げた際にー
別の霊体に憑依されてしまっていたー。
戻ってきて、セーラー服の女に岩を叩きつけて啓介を助けた時には
既に文香は憑依されていたのだー。
レジスタンスの洞窟の入口の”センサー”で感知されなかったのは
”文香に憑依した男”が、あえて文香に意識を返して、
文香の身体の中に潜み続けていたからー。
そのためー
”憑依して意思を完全に支配している状態”の、
脳波の変化を読み取るセンサーは、
文香が憑依されていることを察知できなかったのだー。
「ーーーここには”ナマ”の人間がたっぷりいるからなぁ…クククー」
文香は低い声で呟くー
”生の人間”とは、
この世界では”憑依されていない人間”のことを言うー。
今や”憑依されていない人間”は珍しいー。
殺戮や略奪により、そもそも人間の総数自体が減っている上に、
誰でも憑依することができるようなこの世界では、
”乗っ取られている人間”ばかりだからだー。
「ーークククー…
あのレジスタンスの女も、美人だったなぁ…」
文香はペロペロと舌を出しながら笑みを浮かべると、
ゆらりと自分の生活スペースから外に出たー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ぉぉぉぉぉぉぉお…”
「ーー!?!?」
久しぶりの”安心感”で熟睡していた啓介が
うめき声のようなものが聞こえて、目を覚ましたー。
「ーー…な、なんだー…?」
洞窟内の遠くから聞こえてきた声ー
啓介は不安そうに起き上がると、
すぐ近くの文香がいるスペースに声をかけたー
「文香ー…いるか?」
とー。
だが、返事はないー。
啓介は慌てて文香の部屋になっている場所の
カーテンを開けるー。
けれどー
そこに、文香の姿はなかったー
”ドォォォォォォォン”
少し離れた場所から音が聞こえるー。
地下洞窟内だからか、遠くからの音が
不気味に響き渡るー。
「なー…なんだ…?何が起きてるんだ…?」
啓介はそう呟きながら、洞窟の中を進むー。
だがー
先ほど、レジスタンスの面々と顔合わせをした場所でー
気さくな雰囲気のおじさんが倒れていたー。
「ーーなっ…」
啓介は驚いて「しっかりしてください!」と叫ぶー。
けれどー
その男は既に死んでいたー。
この世界で死体を見ることは珍しいことではないー。
啓介はすぐに、その男の脈が動いていないことを悟り、
その男の死を受け入れるー。
”ーーぐあああああああっ!”
洞窟内の近くから悲鳴が聞こえたー。
啓介が慌てて駆け寄るとー、
そこでは、眼帯をしていた男が倒れていたー。
「ーーふ…文香ー?」
倒れている眼帯の男の前に立っていたのは、
背中を向けた文香だったー
「ークックックックッ」
文香が背を向けたまま笑うー。
文香は、そんな笑い方をしないー。
啓介は「ま…まさか…」と、
背筋が凍るような思いをしながら、
ようやく言葉を口にするー。
そしてー。
その最悪の予感はー
的中していたー
文香が邪悪な笑みを浮かべながら
血のついたナイフを手に、振り返ったのだー。
「ーわたしぃ~乗っ取られちゃった♡」
文香が嬉しそうに笑うー。
「な……な…なんでー…?」
啓介は震えるー。
リサ率いるレジスタンスが潜伏して生活していた
この地下空間に入る前、レジスタンスが
”憑依されていないかどうか”を確認するために
スキャンを行っていたはずだー。
それなのにー
どうしてー?
「ーークククー…マヌケどもめー。
お前がこの女を逃がしたあと、この女は不運にも
俺様に憑依されちまったんだー。
でー
俺はこの女のフリをして、お前を助けに戻ったー。
近くにレジスタンスの隠れ家があることは知ってたからなぁ」
”いつもの”文香の声ー。
しかし、その話している内容は、全く”いつもの文香”とは異なっていたー。
「ーーーでもよぉ、俺はそのあと、この女に意識も、
身体の主導権も返して、ここに入れるまで
この女の奥深くに隠れてたんだー。
だから、ここのレジスタンスのスキャンにも引っかからなかったー」
文香はそう言うと笑うー。
「ー俺様はこうやって、各地に潜伏してる憑依されてない人間共を
血祭りにあげてるのさ!へへへへ」
文香に憑依した男は、自身を
”レジスタンス狩り”だと名乗ったー
「ーこの世界はつぇぇやつが、身体を支配するんだ!
自分の身体も、他人の身体もなー!」
文香が啓介にナイフを向けるー
「ーや…やめてくれ文香…目を覚ましてくれ!」
後ずさりしながらも、啓介は必死に文香に呼びかけるー
「ークククー無駄だ!
憑依された人間は、完全の憑依した側に従うー
テメェも分かってんだろ?」
文香の言葉に、啓介は「くっそおお!」と叫びながら逃げ出すー。
この世界で10年以上も生きていれば分かるー。
”憑依された人間に、どんなに呼びかけても、奇跡は起こらないー”と。
啓介はレジスタンスの洞窟の外に飛び出すと、
そのまま必死に走ったー。
人の気配のない荒野を走りー
荒れ果てた繁華街を走りー、
気が付けば太陽が頭上まで昇っていたー。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
いつの間にか、木々の生い茂る場所までやってきていた啓介は
流れる川で水を少しだけの飲むと、
文香のことを思い出しながら悔しそうに涙をこぼす。
この世界に、安息の土地なんてないー。
大切な人間は、10秒後にも大切な人で居続けてくれる保証もないー。
いやー
啓介だって、10秒後には、誰かに憑依されている可能性もあるー。
この世界ではー
今この瞬間、乗っ取られるかもしれないー
そんな、極限の状態が永遠に続くのだー。
「ーーはぁ…はぁ…はぁ」
啓介は川の水で顔を洗うと、なんとか持ち出してきた地図を確認して
ここから一番近い街に行こうと、決意するのだったー
③へ続く
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次回が最終回デス~!
こんな世界で生きるのは、大変そうですネ~!
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