<憑依>消せない傷跡③~後悔~(完)

親友の祖父が生み出した憑依薬で、
彼女の愛花に憑依…

欲望の時間を楽しんだ伸吾…
しかし、そんな伸吾の行動が、
取り返しのつかない事態を招いてしまうー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「は…話せばわかる…」
伸吾はやっとの思いで、そう言葉を振り絞ったー。

全身が震えているー。

喜んでいるわけではないー
怒っているわけでもないー。

”恐怖”を感じているのだー。
まさか、バレるとは思わなかったー。

こんなことになるなんて思わなかったー。

「ーーお…俺は…そのー…ただ…ちょっとだけ…その…
 き、好奇心っていうかー…そのー…」
伸吾が、詰め寄る順子のほうを見ながら言うー。

彼女のであり、幼馴染の愛花は、泣きじゃくっていて
まともに話ができる状況ではないー。

「ーーー好奇心?
 好奇心であんたは彼女をこんな目に遭わせるの!?」
順子の怒りの口調に、伸吾は後ずさりながら、
「ーあ…愛花を傷つけるつもりなんてなかったんだ!」と
半泣きで叫ぶー。

「ー憑依されている間の記憶は残らないって聞いてたし、
 意識を取り戻したあと、愛花が不安に思ったりしないかどうかも
 何度も確認した!
 
 ひ…憑依している間も、愛花の身体を傷つけるようなことも
 してないし、愛花の評判に泥を塗るようなこともしてないし…!

 俺はただ…ただ…」

伸吾が必死に叫ぶと、
順子は「身体目的だったってことー?」と、冷たく言い放つー

「違う!そんなことない!絶対にない!」
伸吾は必死になって否定するー。

今まで、愛花のことを身体目的で見たことなどなかったー。
本当に好きだったし、本当に大事にしているしー、
今もそれは変わりないー。

けどー
”憑依”なんて力が目の前に現れてー、
愛花を傷つけないならー、
愛花にバレないならー
1度ぐらいー…とー。

「ーーーい、一度だけしか憑依するつもりはなかったし、
 もうこれから絶対にしないから!」

伸吾が愛花のほうを見て言うー。

だが、伸吾が愛花に近付くだけで、愛花はビクッとして、
目から涙をこぼしながら
怯えた表情で伸吾を見つめたー。

”はぁ~~~…♡ たまんねぇな~”

机に置かれた愛花のスマホから、
”憑依されている時の愛花”の声が聞こえてくるー。

”あはっ…あははははっ あはははははははっ♡”

つい調子に乗って、胸を触りまくっている時の
憑依された愛花の映像だー。

先ほどから、再生が続けられている映像から、
ひときわ大きな声が響き渡るー。

「ーーーー……違う!違う!俺は…
 ホントに…身体目的なんかじゃ…!

 そ…それは、つい…!つい、物珍しくて
 楽しくなってきちゃってー」

伸吾は、別に暑くもないのに、制服を
びっしょりと汗で濡らしてしまうほどに
緊張しながら、順子たちのほうを見つめるー。

”んぁぁぁぁぁあ…わたしのぜんぶ…愛花のぜんぶ…♡”

とても愛花本人には見せたくないー、
いや、自分以外の誰にも聞かせたくない
様子が再生され続けるー。

愛花は耳をふさいだまま、蹲って
身体を震えさせているー。

「ーーわ…悪かったよ…!悪かったってば!」
愛花の前で土下座する伸吾ー。

「ーホントに、ホントに1回きりのつもりだったし
 もう2度とこんなことしない!だから…だからー」

伸吾は、頭を床に叩きつける勢いで土下座を
繰り返すー。

何度も、何度もー

「ーーーやめて… やめて…」
愛花はなおも怯えた様子で、伸吾から遠ざかっていくー。

青ざめて、ガクガクと震えている愛花ー。

「ーー…愛花ー」
順子は、精神的にも愛花はもう限界だと判断して、
心配そうに愛花を支えると、
「ー2度と愛花に近付かないで!」と、
伸吾に言い放つー。

伸吾は「ま、待って!愛花!」と、必死に叫びながら
再び謝罪の言葉を口にするー。

「ー本当に…本当に、軽い気持ちだったんだ!
 愛花を傷つけるなんて、思わなかった!
 憑依する前に何度も何度も何度も、愛花を傷つけないかどうか、
 心配をかけないかどうか、俺は確認したんだ!
 でも、こんな結果になってしまって、本当にー、本当にー」

伸吾はー
”普段”素行に問題のある生徒ではないし、寧ろ真面目だ。
愛花ともトラブルになったことはないし、喧嘩もほとんどなかったー。
愛花を大事にする気持ちは本物だったし、
憑依も”愛花に少しでも負担がかかる可能性がある”と最初に
分かっていればしなかっただろうー。

けれどー
”力”を前に、伸吾は判断を誤ったー。
本当に”軽い気持ち”でやってしまったことが、取り返しのつかない”傷”を
生んでしまったー。

「ーーー俺…何でもするからー」
伸吾は、もはや、泣いていたー。

「ーーー何でもするー?」
順子が怒りの形相で伸吾を見つめるー。

順子が口を開こうとしたその時だったー。

泣いていた愛花が順子を押しのけて伸吾のほうを見るー

「ーだったら…二度とわたしに話しかけないで!」
愛花がそう叫ぶー

伸吾は泣きながら「それだけは…!それだけはー!」と、叫ぶー。

愛花は彼女であると同時に、幼馴染でもあり、
昔からずっと、知り合いだー。

「ーーあ、愛花と話ができないなんてー俺…耐えられないー…」
伸吾が泣きながら顔を上げると、愛花は「大っ嫌い!」と、叫んで
そのまま立ち去って行ってしまったー。

伸吾は、その場で一人、土下座したまま、
悲鳴に似た泣き声を上げたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5時間目と6時間目は放心状態のまま授業を受けたー。
伸吾は、もはや授業の内容も、
自分がどうやって授業を受けていたのかも
覚えていなかったー。

「ーーーいこっ…愛花ー」
順子が、愛花を守るようにして、落ち込んだ様子の
愛花を連れて下校していくー。

もはやー
愛花に近付くこともできないー。

伸吾は”違うんだ…俺は”と、思いながらも
”憑依”してしまったことは、事実ーであり、
それ以上、何も言うことはできなくなってしまったー

「おいっ!!!!!!!!!」
呆然としたまま下校していると、伸吾は背後から
胸倉を掴まれたー。

「ーー!?!?!?」
驚く伸吾ー。

そこにいたのは、親友の拓斗だったー。

「ーーお前っ!ふざけんなよ!なんてことしやがったんだ!」
憑依薬をくれた拓斗の言葉に、伸吾は「え…えっ?!」と唖然とするー。

”ーははははっ!拓斗がくれた憑依薬、最高だぜ!”

愛花の身体で、伸吾はそう叫んでしまったー。
その映像がきっちり記録されていたー。

「ーー俺も終わりだ!いや、俺だけじゃない…じいちゃんも!
 どうしてくれるんだ!このマヌケが!」

拓斗が顔を真っ赤にして叫ぶー。

「ー動画を録画するボタンに触れて、そのままスマホを
 放り投げて気づかないとか、マジでありえねぇ!
 しかも、俺の名前まで出しやがって!
 ふざけやがって!お前のせいで、俺までー」

拓斗の言葉に、伸吾はムッとして、

「ーお前が大丈夫って言ったんだろ!」と、拓斗に八つ当たりするー。

拓斗は、その言葉にさらに怒りをあらわにして、

「お前が普通に憑依してりゃ平気だったんだよ!
 こんなクソみてぇなミスしやがって!
 ふざけんなよテメェ!」と、拓斗は伸吾を乱暴に掴んで、突き飛ばすー。

拓斗も、愛花たちから”問い詰められた”のだというー。
”憑依された愛花”が”拓斗がくれた憑依薬”と叫んでいたので
当然と言えば当然のことだー。

「ーくそっ!!くそっ!!!くそっ!!!
 全部…全部お前のせいだ!この…マヌケ野郎!」

拓斗はそう叫ぶと、怒り狂ったまま、立ち去って行ってしまったー。

伸吾はその場で身体をガクガク震わせながらー
「俺…俺…どうすればー」と、頭を抱えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した伸吾は、部屋に引きこもっていたー。

LINEで愛花に何とか許してもらおうとするも、
愛花にブロックされてしまい、謝罪もできなくなってしまうー。

家の電話が鳴り響いたのが部屋から聞こえたー。

少しすると、母親が泣きながら伸吾の部屋にやってきたー

「ーー伸吾……あなた……いったい、何をしたのー?」

両親にも伝わってしまったー

伸吾は、真っ青に青ざめたまま、
泣きながらその場に土下座をして、
謝り続けたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー…っ…」
愛花は、近くに男子が通るだけでビクッとするように
なってしまい、常に怯えたような様子を見せるようになってしまったー

あれ以降ー、
伸吾は愛花に全く口を聞いてもらえず、
愛花に心の傷を負わせてしまったことを
深く後悔するー。

しかしー
”憑依”などという話は、警察に言うこともできず、
愛花も、それ以上のことはできない様子だったー。

仮にー
”憑依された愛花の映像”を警察に提出しても、
愛花自身が傷つく結果になるだけだろうー。

愛花が自分の意思で、伸吾の名前を名乗って
一人興奮しているようにしかー
事情を知らない人間には、見えないー。

だが、伸吾は、両親からも冷たい目で見られ、
学校でも居心地が悪くー、
親友の拓斗との関係も悪化しー、
ついには、自ら警察に自首しようと考え始めたー。

もちろん、伸吾が”愛花に憑依しました”と言っても
警察は相手にしてくれない可能性が高い。

それでもー
伸吾は警察に足を運んだー。

案の定ー
相手にはされなかったー。

”憑依”なんてことはー…
世間一般からすれば”ありえない非現実的な話題”でしかないのだー。

「ーーーお前…」

翌日ー
拓斗から呼び出されるー。

「ー昨日、警察に行ったらしいなー?
 何をしに行ったんだ?」

拓斗に問い詰められた伸吾は、目を逸らすー。

「ーふざけんなよテメェ!俺とじいちゃんを売る気か!?
 このまま黙ってりゃ、これ以上問題にはならない!
 第1、お前が愛花ちゃんに憑依したときに、
 あんな下らねぇミスをするから!」

拓斗の怒りの言葉に、伸吾は

「お…お前が!お前が憑依薬なんて渡すから!」
と、反論して口論が始まってしまうー

そんな中ー
二人が話していた空き教室の外から、悲鳴が聞こえたー

「ーな、なんだ!?」
拓斗が飛び出すー。

後から伸吾も飛び出すー。

「ーーーーーー!」

教室に駆け付けた伸吾たちが見たのはー
教室で手首を切って自殺未遂をして、
運び出される愛花の姿だったー。

愛花と、その友達たちが慌てて保健室に
愛花を運んでいこうとするー。

呆然とする伸吾ー。
そんな伸吾の前をすれ違う際に、
愛花の友人の順子は、伸吾を睨みながら言い放ったー

「ーーこんなことになったのも、全部、あんたのせいー。
 あんたが、愛花を壊したのー」

とー。

伸吾はその場で蹲って
「うああああああああああ!」と悲鳴に似た叫び声を上げるー。

「ーーくそっ!お前のせいで全部滅茶苦茶だ!」
拓斗は吐き捨てるようにそう言いながら立ち去っていくー。

”憑依された愛花”は、
やがて学校に登校できなくなるほどに病み、
ついには伸吾の近所からも引っ越してしまい、音信不通になったー。

”憑依した伸吾”は、
自分の憑依によって、愛花を追い詰めてしまったことを悔やみ、
さらには家庭内でも孤立、
今までとは別人のように暗くなり、学校でも孤立してしまったー

”憑依薬を提供した拓斗”は、
俺は関係ない。伸吾がミスをしたのが悪いんだ、という態度を
貫き続けたものの、常に不機嫌そうな態度をとるようになり、
さらには”じいちゃん”は、拓斗から憑依薬でトラブルが起きたことを
聞かされてから、精神的にも参ってしまい、
体調を崩して、入院生活が続いているー。

「ーーーーーー……」
伸吾は、今日も悔やんでいるー

どうして、こんなことになってしまったのかー。

軽い気持ちで憑依してしまったあの日を、
いつまでも、いつまでも悔やみ続ける人生を送るのだろうかー。

もう二度と、愛花につけてしまった心の傷が消えることはないー。

そして、自分の人生に自らつけてしまった傷も消えることはないー。

深く刻み込まれた傷はー
傷は癒えても消えることないー。

”傷跡”は、永遠に残り続けるー。

消すことのできない、傷跡としてー。

おわり

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コメント

憑依したことで、日常が壊れてしまって
後悔するお話でした~!

憑依するときは慎重に…(?)ですネ~!

お読みくださりありがとうございました!!

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憑依<消せない傷跡>

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