<憑依>欲望と自制心

”憑依薬”

そんな存在にたどり着いた彼は、
それを手にしてしまうー。

憑依薬を手にした男が、
己の欲望と戦う物語ー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

大学に通う、西谷 健司(にしたに けんじ)は
幼馴染の彼女、速水 凛(はやみ りん)のことがとても大好きだったー。

毎日毎日、凛のことを考えているー
そのぐらい、凛に夢中だー。

凛はとても穏やかな性格で、
見た目も中身も清楚な感じー。

そんな彼がー
大学の用事でネットで調べ事をしている最中に、
偶然、出会ってしまったのがー

”憑依薬”
だったー。

「ーー憑依…薬ー?」
健司は表情を歪めながら、興味本位でそれを見つめてしまうー。

健司自身ー、
特別下心の持ち主ではないし、
憑依に特別な興味があるわけではないー。

ただ、なんとなく、好奇心の強い健司は、
”憑依薬”という響きに興味を持ったー。
それだけだったー。

そんなものが現実にあるとも思えないし、
本当に、ただの好奇心から、憑依薬について書かれている
記述を見つめるー。

そこにはー
”他人に憑依して、その身体を乗っ取ることができる”
と、説明されていて、

憧れのあの子に憑依する利用例や、
嫌いな相手に憑依して人生を壊す利用例ー、
エッチなことに使う利用例など、
色々な利用例が記述されていたー。

”普段は見れないあの子の一面が見れるー”
そんな風にも書かれていたー。

”ーーわたしが、こんな風になっちゃったらーどうする?”

ふとー、
前に凛と一緒に映画を見に行った時のことを思い出すー。

その映画では、ヒロインが敵の超能力者に憑依されて、
悪女になってしまい、主人公と対立するシーンがあったー。

その時に、凛が言った言葉だー。

当時、健司は”俺は全力で、凛を助けるよ”などと
答えたのを覚えているー。

そんなことを、ふと思い出したー

もしもー、
凛が、悪女のような笑みを浮かべていたらー?

もしもー
凛がその口から、あの可愛い声で暴言を吐いたらー?

もしも、
凛が、いつもはしないような妖艶な格好をしたらー?

そんなことを一瞬考えてしまい、健司は首を横に振るー

「な、何を考えているんだ、俺はー。
 憑依薬なんて、あるわけないだろ!」
そんな風に叫ぶと、健司はそのページから目を背けるー。

そのタイミングで、偶然彼女の凛から
電話がかかってきて、凛と雑談を交わすー。

”もしも、この声でーー罵られたらー?”
健司は、別に変態的な趣味は持っていないが、
”憑依薬”などというあまりにも現実離れを
したものを見たからだろうかー。

凛と電話で話しながら、
そんなことを考えてしまったー。

”どうしたの…?なんか、元気ないような気がするけど…?”
電話の向こうで、凛がそんな健司を心配するー

「ーーえ…?あ、あぁ、いや、そんなことないよー」
健司はそう言うと、凛からの相談に、親身になって応じて、
いつも通り通話を終えたー。

ため息をつく健司ー。

”変なものを見たからって、変な想像をするなー”

自分で自分にそう言い聞かせて
今一度深呼吸をした健司は、自分の作業に戻るー。

大学のレポートを作っている最中だったー。

だがー

”憑依しても、バレないならー?”
”ちょっとの間ならー?”

そんなことを考えてしまい、
再び憑依薬について書かれたページを見てしまうー。

そこにはー
”憑依されている間の記憶は残らない”
”憑依補正アリ”
とも、書かれていたー。

憑依補正とは、
”ある程度の時間の憑依なら、本人が”憑依されている間の空白の時間”を
 疑問に思わないよう、記憶が調整される作用”とのことだったー。

流石に、1年間も憑依を続けたり、
憑依した状態で犯罪を犯すなどー
”あまりにも影響の強いこと”をすれば補正できないようだが、
憑依して数時間、誰にも見られない状態でエッチをしたー、などであれば、
記憶の補正が行われて、本人は疑問も不安も感じないのだというー。

”これなら凛を傷つけずにー…”
そんな風に思ってしまった健司ー。

人はー
誰もが、”欲望”を持っているー。
特に”力”を前にしたとき、人はその欲望を抑えきれるかどうかは、分からないー。

自分の目の前に、”力”があるー。
仮に、その力がー
”他の誰にも絶対に気付かれずに、1億円を手に入れることができる力”
だったとしたらー?

どんなに真面目な人間でもー
どんなに正義感の強い人間でもー
一定数”欲望”に負ける人間はいるはずだー。

”他人の命を、絶対に誰にも気づかれずに奪う力を手に入れたのならー?”

この場合も同じー
どんなに優秀な人間でも、歪む人間は、歪むー

過ぎたる力は、人間を欲望に突き落とすー。
自制心よりも、欲望がより強く、増幅されて、人間はいとも簡単に”闇”に
支配されていくー。

”ノークレーム・ノーリターンでお願いします”

憑依薬を販売する裏オークション…
そこで、健司は笑みを浮かべながら、憑依薬を購入していたー。

出品者の愛染 亮(あいぜん りょう)という男の
連絡先も書かれていたため、健司はいくつか確認するー。

”えぇ、それで間違いありませんよー”
愛染は穏やかな口調で答えたー。

健司の疑問、ひとつひとつに丁寧に答えてくれた愛染ー。

健司は、笑みを浮かべながら憑依薬の到着を待ったー

そしてー
凛が悪い顔をしたりー
悪い言葉を口にしたりー
コスプレ姿を披露したりするのを”妄想”するー

普段穏やかな凛が
怒った顔をしたらどうなるのだろうかー

普段穏やかな口調の凛の口と声で
暴言を吐いたら、どんなふうに聞こえるのだろうかー。
男口調で喋ったり「俺」と言ったりしたら、どうなるのだろうかー。

さらには、凛のコスプレ姿を妄想してしまい、健司は
顔を真っ赤にしてしまうー。

「ーー…凛が、傷つかないならー…いいよなー?」

凛の声と、姿を妄想するー

”この身体は、俺のものだー”
そう、凛の低い声が響き渡る様子を妄想するー。

健司は、それだけで、ドキドキが止まらなくなってしまったー。

もしも、凛の身体で実際にこれをやったらー
凛の身体がはじけるぐらいに興奮してしまうかもしれないー。

”まさか、本当に憑依なんてことができるなんてー”
健司は”憑依薬”を販売している愛染の評価や、
説明ぶりから”本物”である可能性が高いと考えていたー

到着予定日を確認した健司は、静かに笑みを浮かべると、
ようやく深呼吸して、大学のレポート作成に戻るのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー…」
オークションで憑依薬を売る男・愛染は、
表情を曇らせたー

”人間は、愚かだー”
愛染はそう思ったー

人は、憑依薬で他人の身体を己の欲望のままに
我が物とするー。

憑依される人間のこともー
その、周辺の人間のこともー
憑依する人間は、考えもしないー。

只々、己の欲望を満たすことを優先するやつらー。

愛染は、憑依薬を落札した健司のプロフィールを確認しながら、
鼻で健司のことを笑い、冷たい目で、発送の準備を始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー

「ーーマ…マジで届いたー」
健司は、愛染 亮から届いた憑依薬を目の前に
笑みを浮かべるー。

健司は、あまりの興奮に、
口が渇くのを感じながら、
”普通の用事を装って”
凛に電話を入れるー。

”あ、うん!それならー…”
凛は、健司が”凛が家にいるのかどうか”を確認するために
電話をしていることに気付かず、いつものように
普通に話を続けるー。

「あ、そういえば、今日、このあと用事ある?」
健司が言うー

”ううん、特に今日はないよ!”

その言葉に健司は「あとでまた分からない場所があったら
確認してもいいかな?」と、穏やかに言うと、
凛は”うん!いいよ!”と、明るく答えてくれたー。

こんなに優しい凛がー、
このあと、悪い凛になるー。

それを考えただけで、ドキドキしてしまうー。

電話を終えると、
”凛を傷つけるわけじゃないー”
”凛を傷つけるわけじゃないー”
と、何度も何度も自分に言い聞かせるー。

憑依薬を使って、凛に憑依してー、
凛の身体で、犯罪をするわけじゃないし、
凛の身体を傷つけるわけでもないー。

部屋でちょっとしたお楽しみをするだけだし、
何もー、何も、問題はないはずー。

出品者の愛染の説明によれば、
記憶の補正も行われるみたいだし、
何も問題はないー。

今日はまず1回目だから、憑依のテストー、
そして、今日の憑依で、憑依薬がしっかり使えることを確認できたら、
後日、凛の家にこっそりと、凛に着てもらいたい服を送ってー

「ーーー…」
憑依薬を机の上に置く健司ー

”凛の身体で、自分の名前を呟くだけでもドキドキしちゃいそうだなぁ…”と
健司は妄想を始めるー

”わたしは速水 凛”と、呟くだけで、ドキドキしそうだー。
何のことはない、ただ自分の名前を呟いているだけなのだがー、
それでも、”他人の身体で名前を呟く”という行為にドキドキしてしまうー。

健司はようやく、憑依薬を手に、それを口にしようとするー

だがー
寸前のところで、健司は憑依薬を飲もうとする手を止めたー。

「ーーーー…」

凛との思い出を思い出すー。
凛を大事にしている自分の気持ちを改めて思い出すー。

憑依されている間の記憶がなければいいのかー?
本人が不安に思わなければいいのかー?

バレなきゃ、何をしたっていいのかー?

そんな風に、急に妙に冷静になった健司は、
そのまま手を止めるー。

凛に憑依して、欲望の限りを尽くすイメージを頭の中で浮かべるー。
いつものように、凛と穏やかに話をしているイメージを頭の中で浮かべるー。

”ーー俺は、今、自分がやろうとしていることを、凛の前で
 堂々と言うことはできるのかー?”

健司は、ふと頭の中でイメージを浮かべるー。

「凛ー…お願いがあるんだ…凛に、憑依したいんだー。
 今から凛の身体で、ちょっと悪い顔をしたり、してみたいんだー」

などと、凛に直接伝えるイメージをー。

”いや、いやいやいや、絶対、絶対凛は嫌がるに決まってるー”

バレやしないー。
バレないなら、別にー…

そういう気持ちと、

バレなきゃ何をしてもいいのかー?という気持ちー

けどー
こんな夢のような機会、もう二度とないかもしれないー。

「ーーー……」

健司は、憑依薬を手にすると、今一度深呼吸してー
それをーーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”ノークレームノーリターンとお願いしたはずですがー”

出品者の愛染に連絡を入れると、愛染はそう言い放ったー

「ーあ、いえ…別にクレームとか、リターンではなくー」
健司はそう言うと、言葉を続けたー

「ーーちょっと、心配なことがあってー」

”ーー心配?何でしょうー?”
愛染が少し疑問を抱きながら言葉を口にするー

「ーー俺…、憑依薬ー…飲むのやめちゃったんですー
 直前で、彼女の顔が浮かんできてー
 バレなきゃ、何をしてもいいのか、ってー

 それでー…
 その、憑依薬、トイレに流しちゃったんですけどー
 その…なんて言うか…環境汚染的なやつ、平気かなぁって」

健司が言うと、
愛染は笑ったー

”なるほどー…それなら心配はいりませんー
 自然の中に溶けてなくなりますよー。
 水質を汚染したりすることはないでしょうー”

愛染の言葉に、健司は「よかった!ありがとうございますー」と答えたー。

少し話をしてー、電話を終える愛染ー。

愛染は電話を切ると、少しだけ笑みを浮かべたー。

”欲望を自制したー”

”得た力”を捨てることには、勇気がいるー。
だが、この健司という子は、それを成し遂げたー。

「ーーあなたの判断は、正解でしたねー」
愛染は一人呟くー。

健司が購入した憑依薬は
”憑依先の魂を殺してしまう”タイプのものー。

もしー、
もしも、健司が欲望に負けて、凛に憑依していたらー
例え、凛から抜け出しても、凛の心は既に死んでしまってー、
”俺が凛を殺してしまったようなものだー”と凛の身体で永遠に後悔する
人生を送ることになっていたー。

かつてー
そんな人間もいたー。

健司と同じような気持ちで、彼女に憑依してしまいー、
今も、永遠に後悔しているー、そんな、人間がー。

自制心が勝った健司とは、真逆のー
欲望に負けた人間が、いたー。

「ーーー」
愛染はどんなことを思いながら、
少しだけため息をついて、再び憑依薬を買い求める客たちからの
入札が表示されている画面を見つめたー

おわり

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コメント

スケジュールを組み立てる際に、
「この日は1話完結のお話」という日が(今日のことですネ~)できてしまったので、
「憑依薬を手に入れたけど、なんとか自制する」という
前から考えていたネタを書いてみました~!
わざわざ書くほどではない気がしてずっと、書いてなかったのですが
今回は私の中でのタイミング的にちょうどよかったので…!

ちなみに、今回のお話の健司と”真逆”の選択をしてしまった、というのは
過去作品の夕暮れ時の涙のことですネ~!

ちょっとした小ネタでした~!

小説
憑依空間NEO

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